第17話「アメリカから来た男」【Bパート 変形するキャリーフレーム】
【2】
「でぇーい! ちくしょうめ!」
プレゼントを購入するショッピングモールに向かう道の途中、道端で電柱に蹴りを入れている怪しい男が目に留まった。
サツキのものとは違う感じの金髪をオールバックの髪型にし、レンズの大きい怪しげなサングラスとヨレヨレのジャケット身に着け、外見だけで周囲に威圧感を撒き散らしている。
「……何だ、あのオッサン?」
「状況から判断するに、向こうのパチンコ店でお金を浪費したと予想します」
「これだからギャンブルはするものではないな、全く」
「岸辺くんはギャンブルしなくてもお金持ちじゃないのよぉ。ねえ、怖いし早く通り過ぎましょうよぉ」
「それもそうだな。こっそりこっそり……」
電柱に八つ当たりをする男の視界に入らないよう、裕太たちは足音を立てないようにそーっと彼の背後を進むことにした。
ああいった荒れた大人に絡まれれば、ロクなことにならないのは目に見えている。
見れば、周囲の通行人がこの金髪オールバックを見ながらヒソヒソ話していたり、電話をしていた。
あの電話が通報だとすれば、今にパトカーが来てこの男をしょっぴいてくれるだろう。
──そう思っていた矢先だった。
※ ※ ※
立ち上がるキャリーフレーム、揺れる道路、立ち上る煙、通りの向こうの銀行から続々と出て来る覆面の男たち。
覆面たちはアタッシュケースを抱えて大型トラックの荷台に飛び乗り、別のトラックの荷台から降りてきた2機のキャリーフレームがその車両を守るようにして陣形を固める。
……どう見ても銀行強盗が奪った金を持って逃げ出すところだった。
「な、何が起こっている!?」
「あのキャリーフレーム、クレッセント社製の〈ガブリン〉よ! 旧型だけども汎用性の高い陸戦用の機体で……」
「銀川、冷静に説明している場合か! 来い、ジェイカイザー!」
いつものように天高く携帯電話を掲げ、叫ぶ裕太。
しかし声が虚しく響き渡るだけで、なにもおこらない。
「……って、しまったぁぁぁ! ジェイカイザー修理中だった!!」
『ハッハッハ! 裕太もドジな一面があるのだな!』
「笑ってる場合じゃないだろう!」
「ご主人様、ここは危険です。直ちに退避することをオススメします」
「──どうやらオレ様の出番のようだな」
先程まで電柱に蹴りを入れていたオールバックが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら裕太たちの前に躍り出た。
と、同時に空の方からババババと耳障りな音が鳴り響きはじめる。
音につられて上に目を向けると、緑色に輝く物体が大きなプロペラを回転させて浮いていた。
「何だありゃ、ヘリコプターか?」
「ご主人様、ヘリコプターの割には大きいように感じられますが」
「違うわ、あれはキャリーフレームよ!」
裕太たちが空に浮かぶヘリコプターもどきを見上げている間に、その物体から降りてきたロープにオールバックが掴まり、巻き取られているのか男が上昇していく。
オールバック男の姿が完全にヘリコプターの中へ入り見えなくなると、ヘリコプターが空中で形を変えながら高度を落とし、そして裕太たちの眼前に着地して道路を大きく揺らした。
緑と白のカラーリングをし、右腕が巨大な砲身となっており、背部にはヘリコプター形態の時に回転していたプロペラが装備されているキャリーフレーム。
「間違いないわ。アメリカ陸軍の制式採用可変機〈ヘリオン〉よぉ! ヘリコプター形態とキャリーフレーム形態を瞬時に切り替えられて、右腕のレールガンが強力な機体なの! ……でもペインティングからして、あれは個人所有のものっぽいわねぇ」
「銀川、いつもの解説どうも。……ってか、あのオッサンも民間防衛許可証持ってるのか」
突然、上空から現れた〈ヘリオン〉に対し、強盗の〈ガブリン〉が手に持った巨大なナイフ状の武器を振りかぶりながら接近する。
しかしオールバックの男が乗った〈ヘリオン〉は一歩も動かず、その場で素早く右腕の巨大な砲身を〈ガブリン〉に向け、ドンと何かを叩くような重低音を響かせた。
砲身から飛び出した、空気の塊のようなものが飛びかかってきていた〈ガブリン〉の胴体で弾ける。
透明な弾丸の直撃を受けた〈ガブリン〉は跳ねるように宙に浮かび、そのまま後方へと道路を削りながら倒れ、動かなくなった。
───Cパートへ続く