第17話「アメリカから来た男」【Aパート 祝いの算段】
【1】
突き刺すような暑い日差しが照りつける真っ昼間。
まだケガが治りきっておらず額に包帯を巻いたままの裕太は、炎天下の中で頬から汗をにじませながら、私服姿のジュンナと一緒にある場所に向かっていた。
『暑いな……地球温暖化ってのは本当の話なのかもしれん』
「ジェイカイザー、お前携帯電話の中にいて暑さがわかるのかよ」
「ご主人様。ジェイカイザーの熱センサーは、携帯端末とは繋がっていなかったと思うのですが」
『おっと、そういえば私の本体は涼しい格納庫の中で修理中だった! マシーンジョークだと思ってくれ! ハッハッハ!』
「提言、ジョークとして成り立っていません。只々《ただただ》ご主人様の怒りを買っただけと予想します」
『ガーン!』
「元気なのは良いけど、少しは黙ってろジェイカイザー。……おっ」
ジェイカイザーのつまらない冗談を流しながら歩いていると、遠くで手を振るエリィの姿が目に入る。
涼し気な白いノースリーブのタンクトップの上に、薄手な水色のカーディガンを羽織ったおしゃれな格好のエリィは、綺麗な長い銀髪と合わせて良い意味で周囲から浮いていた。
その隣には、とても金持ちの御曹司とは思えないラフな格好の進次郎が。
「裕太、遅かったじゃないか」
「すまん。包帯の巻き直しに手間取ってたんだよ」
「ジュンナはメイド服じゃないのねぇ」
「はいマスター。さすがにあの格好で外を出歩くほど私は愚かではありませんので」
「風邪ひいた主人を無視して修行に行った口が言うことかこのやろう」
今日4人で集まった目的のひとつは〈ナイトメア〉との再戦を目指して、警察署で日々リハビリトレーニングに励む裕太の労い。
そしてもうひとつの目的、それは──。
「そろそろ、サツキちゃんの誕生日プレゼントを買いに向かうとするか」
『それにしても、サツキどのに誕生日の概念があったとは』
「綾香さんが金海さんから聞いたんだってぇ。なんでも、母なる存在から産み落とされた日……らしいわよ?」
「それで、俺たちで誕生日プレゼントを買うってわけだな。待てよ、金海さんって何を受け取ったら喜ぶんだ……?」
思えば、サツキが何かを欲しがったりしている姿は見たことがなかった。
誘われて服屋に行けば試着してはしゃいだりはするが、擬態でどうにでもなる性質上、実際に衣服を購入するわけではない。
そもそも体の一部を切り離しで何でも生み出せるため、人間的な欲と言うものが無いのではなかろうか。
裕太が答えの見えない謎に首を傾げていると、ジュンナがポツリと疑問をこぼした。
「サツキとは、以前私がガトリングで撃ち抜いた子ですよね。あの子は水金族であり、人間ではないということですが、いったい何歳なのでしょうか」
「今年で5歳らしい。……おい裕太、人をロリコン扱いするような視線を向けるんじゃない」『大丈夫だ進次郎どの! いわゆる合法ロリというものであろう! 私はわかっているぞ!』「おいクソロボット、何のフォローにもなっていないぞ」
冷静にツッコミを入れる進次郎に苦笑しつつ、裕太たちはショッピング街を目指して足を踏み出した。
実は誕生日パーティを開くことは、まだサツキに教えていない。
なぜかというと、サプライズパーティにすれば驚きと喜びが相乗効果で思い出深くなるだろう……という進次郎の天才的発想が生まれたからだ。
実際にそれで功を奏するかはさておき、現在サツキは綾香とともに学校に新設したオカルト部の部室で雑談という名の時間稼ぎを行っている。
その間に、裏でプレゼントの購入や会場の設営などを行って、パーティの準備が完了したら綾香経由でサツキを会場に呼び込む、という流れだ。
その肝心のプレゼントに悩んでいた裕太であったが、特に凝ったプレゼントは用意せず、値段高めのケーキでも買ってロウソクを5本立てておけば一番喜ぶのではなかろうか。と考えた。
プレゼントの算段が決まった裕太は、財布の中身をチェックしながら進次郎たちとともにショッピング街へと足を踏み入れた。
───Bパートへ続く