第2話「教習! クロドーベル!」【Gパート 愛国社】
「笠本くん、笠本くん!」
「うおっ! 何だ銀川かよ、こんな時に電話してる場合か!」
突然コックピット内に響いたエリィの声に驚きながら、裕太は電話に向かって応答した。
その直後、敵の〈アストロ〉がジェイカイザーに向けてパイルシューターを向ける。
撃たれると察した裕太は瞬間的にペダルを踏み込み、放たれた鋼鉄の杭を流れるように回避した。
『凄いじゃないか、裕太!』
「動きに注意すればこのくらい……。それで、何だよ銀川」
「あのキャリーフレーム、江草重工の〈アストロ〉に間違いないわ! 手先の器用さが優秀な機体だけど、戦闘用じゃないからそこまで頑丈じゃないはず!」
「……つまり、警棒だけでも一撃入れられれば勝てるってことだな!」
エリィの説明を聞き終えた裕太は操縦レバーを力いっぱい押し込むと同時にペダルを強く踏み、一気に接近を仕掛けようと試みる。
しかしジェイカイザーの接近と同時に〈アストロ〉は距離を保つようにバーニアを噴射しながら横へと移動し、後方へ下がりながらジェイカイザーに向けてパイルシューターを発射した。
咄嗟に、警棒を持っていないジェイカイザーの右腕で放たれた杭をガードする裕太。
しかし、腕に突き刺さった杭が激しく放電を起こし、右腕は糸を失った操り人形の手のように力なく落ちていった。
『ぐああっ! 片腕が動かん!』
「……しまった!」
「フハハ! 妙な外見のキャリーフレームだと思ったが、動きはとんだロートルじゃないか!」
そうジェイカイザーを嘲笑する声が〈アストロ〉から響き渡る。
ジェイカイザーのコックピットの中に、右腕の機能停止を示す表示とアラートが響き、裕太の感情に焦りを生じさせた。
「くっ……他にも武器があれば……そうだ!」
裕太はメインコンソールを指で素早く操作し、ジェイカイザーの固定兵装を起動させた。
そしてそのまま照準を大雑把に〈アストロ〉に合わせ、操縦レバーのスイッチを力いっぱい押し込む。
すると、ジェイカイザーの頭部に開いた小さな穴から駆動音が響き、裕太が初めてジェイカイザーと出会った時に見た武器『ジェイバルカン』が発射……されなかった。
「っておい! 何で発射されないんだよ!」
『そうだ思い出したぞ! 警察の人たちに検査を受けた時に弾丸を全て抜かれてしまったのだ!』
「このドアホーーー! どわっ!」
裕太が揉めている間に発射されたパイルシューターが、ジェイカイザーの脇を通り過ぎ、背後で見ていたエリィたちのいる場所に突き刺さった。
「のわぁっ!?」
「キャアアア!」
携帯電話越しに響くエリィの悲鳴と大田原の叫び声を聞き、裕太は咄嗟に彼女たちのいる場所へと視線を移す。
そこには地面に小さなクレーターを開けながら突き刺さった鋼鉄の杭と、その傍らに倒れたエリィと大田原の姿があった。
「銀川! 大田原さん!」
「うう……あ、あたしは大丈夫よ。ちょっとコケちゃっただけだから……」
エリィの無事を確認した裕太はホッと胸をなでおろし、〈アストロ〉へと視線を戻し目をキリキリと吊り上げた。
「こいつ、よくも……!」
「ヒャハハハ! よく見ればヘルヴァニア人のガキがいるじゃねーか! この場で撃ち殺してやるぜぇ!」
「させるかぁぁっ!」
倒れるエリィに向けられて発射されたパイルシューターの杭。
その射線に裕太はジェイカイザーを素早く飛び込ませ、飛んでくる杭を警棒で弾き軌道を逸らした。
軌道の逸れた杭は敷地の外れに置いてある古めのコンテナに突き刺さり、鉄板を捻じ曲げるような音を辺りに響かせる。
咄嗟に周囲を見渡し、何か攻め手になるようなものがないかを探す裕太。
そこで、先程撃たれて倒れたままの照瀬の〈クロドーベル〉の腕が、脚部の格納部分から拳銃のような武器を抜いていることに気がついた。
照瀬も裕太が動きに気づいたことを察したのか、〈クロドーベル〉の首を僅かに上下させ、裕太も同意をするようにジェイカイザーの首を頷かせる。
「へへへ、地球人のくせにヘルヴァニア人を庇うとはいい度胸だ。てめえから先にコックピットごと潰してやるぜぇ!」
裕太たちの狙いにも気づかず、距離を取ったままパイルシューターを構える『愛国社』の〈アストロ〉。
その照準が真っ直ぐジェイカイザーのコックピットに向いていることを確認した裕太は、ジェイカイザーの上半身を軽く左右に揺らし、狙いを定めさせないように動かす。
コックピットを正確に狙いたいであろう〈アストロ〉はパイルシューターを構えたまま腰を下ろし、膝立ちの状態で狙い始めた。
「今です、照瀬さん!」
「よっしゃあっ!!」
裕太の合図と同時に、照瀬のクロドーベルが握る拳銃が火を吹き〈アストロ〉が持つパイルシューターに向けて弾丸を放った。
対キャリーフレーム用の鉛玉を受けたパイルシューターは跳ねるように〈アストロ〉の手から離れ、その衝撃でアストロがバランスを崩し、地面に手をつく。
その隙を付いて裕太はペダルを力いっぱい踏み込みジェイカイザーを跳躍させ、そのまま落下の勢いを乗せるように、立ち上がろうともがく〈アストロ〉の喉元に杭を突き立てるが如く警棒を突き刺した。
警棒の放つ電撃を受けた〈アストロ〉は、コックピットから搭乗者の悲鳴を外へと漏らしながら、全身をスパークさせて動かなくなった。
───Hパートへ続く