第16話「ライバル登場 鮮血の埠頭!」【Eパート 知らない天井】
【5】
(ここは……?)
裕太が目を覚ますと、真っ白な天井がぼんやりと視界に映った。
(知らない天井……?)
ズキズキと痛む額を押さえながら、水色の患者衣に包まれた身体をゆっくりと持ち上げる。
白い壁と床に包まれた部屋の中で、白いベッドに寝かされていたらしい。
硬い寝心地のベッドから降り、扉を押し開けて廊下に出る。
先程までいた部屋には自分の名前が印字されたプレートがかけられ、遠目にはナースセンターと書かれた案内板が見えた。
「ここは、病院か……」
「笠本くん!」
ふいに背後から聞こえてきた声に振り返ると、今にも泣きそうな顔のエリィが廊下に立っていた。
そのまぶたは腫れており、長い時間泣いていたことがひと目でわかる。
裕太がエリィのもとへ歩み寄ると、両手でギュッと抱きつかれた。
「痛ででで!! お前ちょっと加減しろ、俺は怪我人だろ!?」
「あ、ごめん。笠本くんが無事だったと思うとつい嬉しくって……。大丈夫? 痛くない?」
「今お前に締められたところ意外はあんまり……そうだ、照瀬さんは!?」
裕太がそう尋ねられ、暗くなるエリィの表情。
嫌な予感を感じた裕太は壁にかかっている名前プレートを頼りに照瀬の部屋を探し当て、その扉を開けた。
裕太の目に映ったベッドに横たわったまま、顔を白い布で覆った照瀬と、椅子に座った大田原と富永。
「坊主……!」
「照瀬さん、まさか……!」
止めようとする大田原を振り切り、裕太がベッドに走り寄る。
──その時、照瀬の顔を覆っていた布がふわっと浮き上がった。
「よし、今のは10センチ行っただろ? おっ、小僧じゃねえか」
「だあっ!?」
包帯で固定された手を持ち上げながらひょうきんな声を上げる照瀬を見て、思わずその場でずっこける裕太。
「照瀬さん!! 何やってるんですか!」
「いやなに、寝たままだと暇だからティッシュペーパーを息で浮かせる遊びをだな……腕も折れちまったし」
「ティッシュって……じゃなくて、腕だけ? 〈ナイトメア〉にやられたときに血が滴ってたような……? まさか」
思い当たるフシがあった裕太は、伏し目で大田原を睨みつける。
しかし大田原は視線を受けても意に介さず、懐からいつものように特濃トマトジュースの紙パックを取り出した。
「いやなに、トマトジュースは成分的に警察の仕事にぴったりだってわかってからな、〈クロドーベル〉のコックピットに常備させてたんだ。いやあ、まさかその貯蔵庫を貫かれるとは思わなかったぜ」
「この数分のシリアスを返してくださいよ!!」
「まあ、ケガはしましたが命に別状なしでめでたしであります!」
「そうだけど! そうなんだけど、納得がいかねぇ~~!!」
場を勝手にシメようとした富永に悲痛なツッコミの声を上げる裕太。
そうこうしているうちに傷を負った額が痛み出し、思わず手で押さえつける。
「ちょっと笠本くん、無理しちゃダメよ!」
「おい銀川、お前なんでさっき照瀬さんのこと聞いたら意味深な暗い顔したんだよ!」
裕太を心配して部屋に入ってきたエリィに問い詰めると、露骨に視線を逸らされた。
「だ、だってぇ……大怪我を負ったと思ったのに腕の骨折だけで済んじゃって。しかも変な遊びに熱中してるんだもん。言いたくない気持ち、わかって♥」
「あのなぁ~~~!」
すがりつくようにエリィにしがみつく裕太の背中を、大田原が「どうどう」と言いながらポンポンと叩く。
「俺は馬ですか!? 同情はいりませんよ!!」
「何をバカなことを言っている。ひとりだけ無事じゃないやつがいるんだよ。そいつについての話をしようと思ってな。歩けるか?」
「えっ? 歩くくらいなら……」
裕太はそのまま、大田原に連れられて部屋の外に出た。
───Fパートへ続く