第16話「ライバル登場 鮮血の埠頭!」【Dパート リザルト】
【4】
メビウス電子の秘密ドックに、海水を滴らせた〈ナイトメア〉が降り立った。
グレイがコックピットから飛び降りると、すぐにメビウスの整備員が雨に濡れるのも厭わず〈ナイトメア〉を取り囲み、地下へと続くエレベーターへと運んでいく。
「み、見事な戦いぶりだったな、グレイくん」
少々引きつった顔で、キーザが傘を持った手で音の鳴らない拍手をしながらグレイへと歩み寄る。
どうやったのかは定かではないが、この男は先程の戦いを見ていたのだろう。
ジェイカイザーを半壊させ、警察のキャリーフレームを一機大破させた戦果は、この平和な日本で見るにはショッキングが過ぎる。
特に、戦闘を記録するために埠頭上空を飛んでいた〈ウィングネオ〉から降り、キーザの隣で拳を震わせる糸目の女には、大きな衝撃を与えただろう。
「殺したんか……?」
「む?」
「……笠本はんと、あのキャリーフレームの警官。殺したんかって聞いとんのや!」
震える声で問いかける内宮を、グレイは鼻でフッと笑った。
「笠本裕太は仕留め損なったが、警官は知らんな。……ただ、お前にひとつ言っておこう。俺達がいる世界は、ひとつの油断が命取りになる戦場だ。競技というぬるい世界の中で、戦いゴッコをするのとは訳が違う。その覚悟がないお前は、この仕事を抜けるべきだ」
「なんやて……!」
「あの程度の男に何度も敗れるような貴様には、何も言う権利はない」
グレイが冷たく言い放つと、内宮は「笠本はん……!」とだけ呟いて、そのまま俯き黙り込んだ。
※ ※ ※
ドックに併設された休憩室の中で、グレイはひとり椅子に座って雨で塗れた髪をタオルで拭いた。
唐突に、ポケットに入れていた携帯電話がブルブルと震えだす。
乱暴にタオルを投げ捨てたグレイは、湿った手で携帯電話を掴み、耳に当てた。
「……俺だ」
「やぁグレイくん。君の働きは見せてもらったよ、実に良い戦いだったね」
電話の主、メビウス電子の三輪社長が弾んだ声でそう言った。
三輪とは対称的に、不機嫌な声を電話にぶつけるグレイ。
「あれが良い戦いだった、か。貴様の目は節穴か?」
「なっ……!?」
「確かに最後は奴を……笠本裕太の機体を半壊まで追い込んだ。だが最初は奴の手玉に取られていたうえ、邪魔が入って仕留め損なった」
「ふっふっふ、まあいいだろう。君に不満があるのだったら〈ナイトメア〉の整備が済んだら、またあのジェイカイザーと戦えばいい。まあ、向こうが再起不能になっている可能性もあるかもしれんがね」
「次に……奴が万全の状態で出てきたら、その時にやる。しばらくは警察の目もかいくぐらなきゃならんだろうしな」
「好きにすればいい。我々の目的は、君のお陰で達成されつつあるのだから」
言うだけ言って、一方的に電話を切る三輪。
ツーツーと通話が切れたことを知らせる音にグレイは軽く舌打ちをし、先程投げ捨てたタオルの上に携帯電話を放り投げた。
「笠本裕太、次こそ必ず……!」
───Eパートへ続く