第16話「ライバル登場 鮮血の埠頭!」【Bパート 黒き悪夢の襲撃】
【3】
「はーるばーる来たぞーっと、代多埠頭~♪」
「何歌ってるのよぉ」
「こんな辛気臭い所、歌いもしなきゃやってられんよ」
予定通り、学校が終わった後にバスを乗り継ぎ、果たし状に書いてあった代多埠頭にやってきた裕太とエリィ。
いつでもジェイカイザーを呼べるように携帯電話をいれたポケットに手を突っ込みながら、裕太は辺りを見回した。
この埠頭は、休日ならばそこそこ人で賑わう場所である。
しかし、今日は曇り空も相まって不気味なほど静まり返っており、聞こえるのは波音と遠くの船の汽笛だけだった。
動くものなんて空を飛び交う黒いカラスと、無数のコンテナの上でくつろぐ野生のネコドルフィンの姿くらいしかいない。
やがてコンテナに乗っていた何匹かのネコドルフィンが一箇所に集まり、まるで共鳴するかのように「ニュイニュイニュイニュイ……」と一斉に鳴き始めた。
「……何やってるんだ、あれ?」
「あれはネコドルフィン同士で仲間意識を高める、円陣みたいなものよぉ。かわいい~♥」
「お、おう。……それより、やっぱいたずらだったのか? 誰も居ないぞ」
「そうねぇ。じゃあ早いところ帰りま──」
「待っていたぞ、(グゥ~)笠本裕太!」
どでかい腹の虫とともに人陰がひとつ、コンテナの上に現れた。
その男は高所から見下すかのように裕太を睨み、裕太をびしっと指差す。
「ほんっっっっとに(グゥ~)待ったんだからな!! 34時間と16分と23秒も(グゥ~)ずっとここで(グゥ~)待っていたんだぞ!」
「すぐ行かなかったのは謝るが、一日たった時点で帰れよ!! っていうか秒単位で数えんな!」
「やはり貴様は(グゥ~)生かしておけん! 勝負だ、笠本裕太!」
男は腹を鳴らしながらそう叫ぶと、立っていたコンテナの天井に開いていた穴に飛び込むように、その中へと入っていった。
直後、そのコンテナを突き破るようにして中から黒く巨大な腕が現れ、やがてコンテナを破壊しながら一機のキャリーフレームが立ち上がった。
「こ、こいつは……!?」
そのキャリーフレームは、裕太にとって見覚えのある……いや、いっときも忘れたことのない姿をしていた。
──母親を昏睡状態に至らしめた元凶、〈ナイトメア〉。
裕太の脳裏に蘇る、意識不明のままベッドに繋がれた母の姿。
映像で見た、〈ナイトメア〉が母の乗る〈クロドーベル〉のコックピットを鋭い腕で貫く瞬間。
自分の無力を感じ、フレームバトルの場を去ったあの時の虚無感。
なぜこの男が〈ナイトメア〉に乗っているのかは知らない。
しかし、裕太は無意識のうちに携帯電話を取り出して、天高く掲げていた。
「来い! ジェイカイザァァァ!!」
裕太の叫びとともに、暗い曇天の空を照らすように出現する輝く魔法陣。
その中心を突き破るようにして、ジェイカイザーがその巨体を現した。
「ハッハハハ!(グゥ~)姿を表したかジェイカイザー!」
『ええい、いちいち腹の音がうるさい男だな!』
「ジェイカイザー、あいつは……あの機体だけはなんとしても破壊してやる!」『ゆ、裕太……!?』
コックピットに乗り込みながら声を荒げる裕太に、ジェイカイザーが困惑の声を上げた。
普段は戦闘のときも冷静な裕太が、珍しく怒りを露わにしている。
それほどの手強い相手なのかとジェイカイザーは思っているのであろうが、裕太にとって〈ナイトメア〉は怨敵。
今の裕太は理性ではなく、感情で動いていた。
ジェイカイザーが戦闘態勢に入ると同時に、〈ナイトメア〉が足を踏み出し、一瞬でその姿を消した。
目にも留まらぬ速さでコンテナの上を飛び移り、くつろいでいたネコドルフィンを蹴飛ばしながら〈ナイトメア〉は裕太を翻弄するように動き回る。
「いたいニュイ~!」
「ひどいニュイ~!」
『裕太! いくらネコドルフィンが弾力が強すぎてどんな事でも無傷とはいえ、ネコドルフィンがすごくかわいそうだぞ!』
「知るか!! 今、集中してんだよ! 黙ってろ!」
『裕太、落ち着け!』
「ああ!? 俺は落ち着いてるよ!!」
ジェイカイザーの周囲を素早く動き回る〈ナイトメア〉の位置を、研ぎ澄ました聴覚でその位置を図ろうとする裕太。
目を閉じ、〈ナイトメア〉の足音から攻撃タイミングを割り出す。
(グゥ~)
「そこか!!」
背後から聞こえてきた腹の虫を頼りに、後方へと放たれたジェイカイザーの肘鉄が〈ナイトメア〉の胴体にヒットした。
「ぐぼっ!?」
スピーカー越しに聞こえるグレイの呻き声とともに吹っ飛ぶ〈ナイトメア〉。
その巨体は後方にあったコンテナを押し潰すように倒れ、その周囲にいたネコドルフィンが慌ただしく跳ね回り逃げていく。
「くっ! さすがは(グゥ~)笠本裕太だ! だが(グゥ~)貴様への恨みはこの程度の空腹など何の苦しみにもならん!」
「俺への恨み……?」
裕太がそう疑問を投げかけると、〈ナイトメア〉は足を止めた。
───Cパートへ続く