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第15話「裕太のいない日」【Eパート エリィ、出撃!】

 【7】


「こらぁ! 待ちなさい!」

「待てと言われて待つかよ! こうなったら!」


 コンビニを飛び出して強盗が逃げた先には、一台の大型トラックが停まっていた。

 トラックの荷台に被せられた布の中へと強盗が入り込み、載せられていた巨大な物体が布ごと持ち上がっていく。


「キャ、キャリーフレーム!?」

「このガキ! 面倒になったら警察を蹴散らすために用意した、この〈エレファン〉で踏み潰してやる!!」


 地響きをあげながらトラックから現れたキャリーフレーム〈エレファン〉に周囲は騒然となった。

 片腕が鉄球となった、黄色と黒の縞模様が入った外観の〈エレファン〉は重厚な駆動音を辺りに響かせ、威圧するかのように道路に降り立つ。

 周りの人々が逃げ惑う中〈エレファン〉が一歩、また一歩とエリィに近づいていく。

 しかし、エリィは一歩も引かずにじっとその巨体を見据えていた。


「な、なぜ逃げん!?」

「……だってぇ、メインセンサーが布かぶったままだもん」

「し、しまった! 前が見えんと思ったら!!」


 強盗の〈エレファン〉が布を取ろうともがいているうちに、コンビニの中から進次郎が飛び出した。

 エリィが店内に目をやると、中でサツキが綾香を慰めている。


「銀川さん、警察が来るまで避難をしないと!」

『何を言っているのだ進次郎どの! ここは戦うべきところだ! さあ、エリィどの!』

「ったって、銀川さんは免許が……」

「来なさい! ジェイカイザー!」


 憂う進次郎をよそに、エリィが裕太の携帯電話を天高く掲げた。

 すると、もはや見慣れた魔法陣が道路の真ん中に描かれ、光の中にジェイカイザーを出現させる。


 そのままエリィは、いつも裕太がやっているようにタラップとなったコックピットハッチを登……ろうとして、服の裾を進次郎に掴まれ止められた。

 裾を引っ張ったまま「民間防衛許可証がないと戦っちゃダメなんじゃないのか!?」と大声で尋ねる進次郎に、エリィは懐から許可証を取り出し、ベーっと舌を出しながら進次郎の手を振り払う。


「あたしだって、頑張って許可証取ったんだからぁ!」


 修学旅行から帰ってからというもの、エリィはこっそり警察署に通い、許可証を得るための試験をこなしていたのだった。

 とはいえ既に何度か操縦経験があり、キャリーフレームに関する知識なら人一倍あるエリィにとっては小学校のテストよりも簡単な試験だったのであるが。


「ジェイカイザー、起動よぉ!」

『おふっ! 現役JKの尻の柔らかさがパイロットシート一杯に……!』

「くだらないこと言ってないで早く立ちなさいよぉ! このこの!」

『痛っ! た、叩くのは止めてくれ~!』


 エリィにベシベシとコンソールを叩かれ、渋々とコックピットハッチを閉じるジェイカイザー。

 コックピットの内側を包むように敷き詰められたモニターに光が灯ると、正面にようやく布を取り払った〈エレファン〉の姿が映った。


「ようやく取れたぜ……って、何だこのキャリーフレームは!?」

「正義のマシーン、ジェイカイザー参上よぉ!」

『おおっ! 銀川どの、それっぽいことを!』

「ふざけやがって~~!!」


 憤りドスの効いた強盗の声をスピーカー越しに響かせながら、〈エレファン〉が手先が鉄球となっている左腕を振りかぶった。

 エリィはジェイカイザーの操縦レバーを握り、ペダルを踏んで攻撃を回避しようとして……できなかった。


「きゃああっ!?」

『ぐおっ!?』


 衝撃を少し逃がしたとはいえ、鉄球で殴られたジェイカイザーが後ろに倒れてしまった。

 よろめきながらジェイカイザーを立ち上がらせようと操縦レバーを動かしながら、エリィはとてつもない違和感を感じていた。


(何、なんなのぉ!? なんで入力してから動き出すまで、秒単位でズレがあるのぉ!? もしかして……)


 今までのジェイカイザーに関する情報を思い返し、この違和感の原因を考えるエリィ。

 そして、思い当たるフシがひとつだけあった。


「ねえ、ジェイカイザー……あなたってたしか、古い部品を使っていたわよねぇ?」

『古いとは失礼な! 私が建造された25年ほど前の当時の最新パーツを結集しているのだぞ! ……民間機のパーツだが』

「25年前のハイエンドパーツ……って、今だと骨董品じゃないのよぉ! そんな時代の民間機のパーツの反応速度なんてたかが知れてるわよぉ!」


 この鈍いというレベルを超越した操作のしづらさのなか、裕太はあれだけの活躍をしていたのか。

 そう考えると、やっぱり裕太はすごいんだなぁとエリィは再認識し、思わず頬を赤らめた。

 などとぼーっとしている間に、起き上がりかけていたジェイカイザーは〈エレファン〉の張り手を受けて再び倒されていた。


『ぐあああっ!! 銀川どの何をやっているのだー!?』

「いやぁんっ! そういえば戦闘中だったぁ~!」


 仰向けに倒れた状態から、なんとか起き上がろうともがくジェイカイザー。

 しかし〈エレファン〉の巨大な足に胴体を踏まれ、動きを封じられてしまった。

 そのままコックピット部分めがけ、鉄球を振り上げる〈エレファン〉。


「脅かしやがってガキが! とどめを刺してや──」


 その時、空からひとすじの細い光が斜めに落ち、〈エレファン〉の左腕の付け根を貫いた。

 熱で赤く融解した肩はそのまま胴体から離れて道路の上に転がり落ちる。

 エリィがビームの飛んできた方向に視線を動かすと、上空に一機の黄色いキャリーフレームがビームライフルを構えたまま浮いていた。


 エリィがその機体が〈ウィングネオ〉であることに気づいたときには、〈ウィングネオ〉は飛行機形態へと変形して何処かへと飛び去っていった。


「助けてくれた……?」

『エリィどの、ぼーっとしている場合ではないぞ! チャンスだ!』

「え、ええ!」


 ジェイカイザーに促され、エリィは操縦レバーをガチャガチャと動かした。

 腰部に装備されていたショックライフルを握らせ、すぐさま照準を合わせるとそのまま引き金を引く。

 バシュゥ、という音とともに放たれた光弾は吸い込まれるように〈エレファン〉の胴体へと直撃し、その機能を停止させた。



 ※ ※ ※



「あかーん! データ取りの仕事やったのに、つい手ぇ出してもうた~~!」


 飛行機形態の〈ウィングネオ〉の中で、内宮は自分の髪をガシガシ掻きながら取り乱していた。

 例のロボット、ジェイカイザーが出現したという反応があったため、訓馬に〈ウィングネオ〉で戦闘データの収集を言いつけられた内宮。

 しかし、裕太が今日は寝込んでいることを知っていた上、上空から眺めていたジェイカイザーの動きがあまりにも素人同然で危なっかしかったので、つい身体が動いて援護してしまったのだった。


「……でもなぁ、あれ動かしてたんは銀川はんやろ? 銀川はんがケガしてもうたら笠本はん悲しむやろうからなあ……って、なんでうちが笠本はんの心配せなあかんのや! そやそや、女の子がケガするんはイカンからな! 助けんとアカンかったんや!」


 そう無理やりに自己完結した内宮は、操縦レバーをグッと倒してメビウス電子の隠れドックへと〈ウィングネオ〉の飛ぶ方向を向けた。




    ───Fパートへ続く

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