第2話「教習! クロドーベル!」【Fパート 免許をかけた戦い】
『裕太! 格闘戦なら私の必殺剣・ジェイブレードを使え!』
「そりゃこんなカッコだし剣の武器くらいはあるよな!」
裕太がジェイカイザーに言われたとおりに正面モニターを操作すると、ジェイカイザーの左足の外側が少し開き、その隙間から棒状のものが飛び上がった。
その棒状のものを左手に握り、かっこよくポーズを構えるジェイカイザー。
『ジェイブレー……ド……ん?』
しかし、手に持たれた棒状のものは剣というには細長い、本当に白く長い棒だった。
「……ずいぶん斬新な剣だな?」
『ち、違う! これは別の武器だ!』
裕太の皮肉を聞いて慌てるジェイカイザーに、大田原が拡声器で声をかける。
「おー、言い忘れてたが、そこにあった危なそうな剣は取り外しといたぞ。代わりに警察用の電磁警棒を入れておいた、気が利いてるだろ?」
「そりゃ、親切なことで……!」
「……本当に大丈夫なのぉ?」
大田原の横でその様子を見ているエリィは、不安そうに呟いた。
【6】
「観念するであります!」
富永がそう叫ぶと、再び〈クロドーベル〉がジェイカイザーに向かって接近してきた。
『来るぞ、裕太! どうする!?』
「さっき銀川が言ってたろ! クロドーベルは手の器用さはピカイチだが……足回りが弱い!」
裕太はこれから起こす動きをイメージしながら右手に掴んだ操縦レバーを引き、左足で思いっきりペダルを踏み込む。
すると、ジェイカイザーは接近してくる〈クロドーベル〉の脇をすり抜けるように突進を躱し、同時に〈クロドーベル〉に足払いをかけた。
足払いをかけられた〈クロドーベル〉は大きくバランスを崩し、地響きを立てながら仰向けに倒れ込む。
「け、けたぐりなどと!?」
富永は慌てて〈クロドーベル〉を起こそうとするが、ジェイカイザーが馬乗りになるように押さえ込み、そのまま〈クロドーベル〉の喉元の隙間へと警棒を突き刺す。
警棒から放たれる電撃によって〈クロドーベル〉の内部がスパークを起こし、やがて全身が機能を停止し動かなくなった。
「……よし!」
『さすがだ、裕太!』
無傷で1機目を撃破し、裕太は得意げに声を上げた。
その様子を見たエリィは、まるで自分のことのように裕太の勝利を飛び跳ねながら喜ぶ。
「すごいすごぉい!」
「な、言ったとおりだろ?」
裕太の華麗な操縦を見て感嘆の声を上げるエリィに、大田原はどこか得意気な顔でそう言った。
『裕太、次が来るぞ! 後ろだ!』
ジェイカイザーの言葉を聞き、裕太がペダルをぐっと踏み込みジェイカイザーの向いている方向を反転させる。
そこには先程の〈クロドーベル〉と同じ機体が、警棒を構えて立っていた。
「富永はいい準備運動だっただろう。“ラスボス”は、この俺だ!」
その機体から聞こえてくる照瀬の声に、裕太はレバーを握る手に力を入れる。
「っぐ……間髪入れずにか!」
「こいつは実戦を想定した試験なんだ! 実戦で敵が礼儀を守ると思うな!」
そう言って、照瀬が搭乗した機体が警棒を振り上げて接近してきたので、裕太はジェイカイザーを身構えさせた。
しかし、その瞬間に照瀬の背後に巨大な影が、塀を飛び越えるようにして姿を現した。
跳躍の際に噴射したであろう背部のバーニアの残光をモニター越しに受け、裕太の目が少し眩む。
巨大な影は陽の光を受けてその輪郭をはっきりさせながら手に持った銃火器状の武器を構え、照瀬の操縦するクロドーベルへと狙いを定めてゆっくりとトリガーを引き、何かを発射した。
武器から放たれた棒状の物体が、クロドーベルの背中に突き刺さり目に見えるほどのスパークを引き起こす。
「ぐあっ! な、何だあっ!?」
背後からの突然の攻撃に、姿勢制御を行う暇もなく照瀬が声を上げながら〈クロドーベル〉ごとうつ伏せに倒れ、周辺に小さくない振動を与えた。
『裕太、気をつけろ! あの機体からかなりの敵意を感じる!』
「少なくとも今の攻撃で、愉快な仲間じゃないってことだけはわかったよ……!」
裕太が相手の出方を伺うようにジェイカイザーの警棒を構え直させると、敵のキャリーフレームからザザザとノイズ混じりの音声が鳴り始めた。
「フハハハ、警察諸君ごきげんよう! 我々は反ヘルヴァニア組織『愛国社』である! このクロドーベルとかいうキャリーフレームは我々がいただく!」
※ ※ ※
「ほう、誰かと思ったら『愛国社』の連中か」
「ちょっとぉ、なに落ち着き払ってるのよぉ!」
呑気に特濃トマトジュースを飲みながら傍観している大田原に、隣に立っていたエリィが思わずツッコミを入れた。
「……そもそもアイコクシャってなぁに?」
「ああ? そんなことも知らねえのか。地球にヘルヴァニア人が住むようになってから現れた犯罪集団だよ。数年前に壊滅したはずなんだが、最近ぽつぽつまた現れるようになってなぁ」
「そんな、夏場のコバエじゃないんだからぁ……。っと、そんなこと言ってる場合じゃないわ!」
エリィはハッとしたように『愛国社』を名乗ったキャリーフレームを観察し、自分の記憶の中を探って外見から該当する機体を導き出した。
標準的な人型のシルエット、グレーを基調とした飾り気のない塗装の装甲。そして人体に忠実な精巧な作りのマニピュレーター。
一つ一つの特徴をはっきりと認識し、エリィは以前読んだことのあるキャリーフレーム図鑑に描かれていたひとつの機体を思い出す。
「あれ、江草重工製の汎用キャリーフレーム〈アストロ〉ね! 手に持っているのは杭を打ち出すパイルシューター……こうしちゃいられない!」
エリィは急いで制服の上着についているポケットから携帯電話を取り出し、その画面をつつくように素早く操作し裕太の電話番号に発信をかけた。
───Gパートへ続く