表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/398

第15話「裕太のいない日」【Aパート 倒れた裕太】

 【1】


「それでですね、ネコドルちゃんったらお向かいさんのお家の屋根までひとっ飛びしちゃったんですよ。でも、たかいニュイこわいニュイって言って降りられなくなっちゃって……」

「ふむ、ネコドルフィンの身体能力はなかなか高いが、知能はあまり高くないのだな」


 7月を目前に控えたある朝。

 普段より早めに教室に着いた進次郎は、サツキとともに他愛のない世間話に花を咲かせていた。


 最近のサツキの話題はペットとして飼い始めたというネコドルフィンなる生き物の話で持ちきりだった。

 ヘルヴァニア生まれの生き物らしいが、詳しくその生態は知らないので話自体には興味深い。

 しかし溶岩の中でも泳げるとか、宇宙に漂っている仲間がいるらしいとか、とても生き物とは思えない特徴ばかりサツキが話すので、進次郎は半信半疑になっていた。


 ガラッ、と音を立てて教室の扉が開く。

 進次郎が無意識に音のした方に視線を動かすと、「おはよう」と手を振るエリィの姿があった。


「銀川さん、おはようございます!」

「おはよぉ金海さん」

「……む? 裕太はどうした?」


 いつもならばエリィと一緒に仲良さそうに登校してくる親友の姿が無いことに気づいた進次郎。

 何気なく尋ねると、エリィは回答代わりに一つの携帯電話を取り出した。


「……これ、裕太のか?」

『そうだぞ! 進次郎どの!』

「うわっ、ビックリした」

「笠本くんったら、夏風邪ひいちゃったんだってぇ。お熱をはかったら38度も熱があったのよぉ」

『私は裕太に代わり授業の様子を映像に残すべくエリィどのに運んでもらったのだ!』


 ウザったらしいドヤ顔アイコンになったジェイカイザーを見ながら、進次郎は気が利くやつじゃないかと感心した。

 しかし、容量が足りるかとか、電池が持つかとかの問題が浮かんだが、あえて黙っておくことにする。


「だからぁ、学校が終わったらあたしが看病しにいかないと」

「む? 裕太の家にはジュンナがいるだろう?」

『ジュンナちゃんは進次郎どのの家へ修行の予定があるからと早々に出ていったのだ。裕太のことも気がかりではあるが、岡野さんとの修行の約束のほうが先だからと』

「融通きかせろよそこは……」


 主人を置いて予定を優先するメイドロボに、進次郎は呆れてため息をついた。



 【2】


「なんや、笠本はんおらへんのかいな」


 昼休み。

 エリィがいつものように進次郎たちと皆で中庭のベンチで昼食をとっていると、駆け寄ってきた内宮が残念そうにそう言った。


「あいにくだが、奴は病欠だ」

「お熱出して寝込み中なのよぉ」

「笠本はんに聞きたいことあったんやけど、おらへんのやったらしかたあらへんな」

「なになに? あたしが笠本くんに聞いてきてあげよっか? 笠本くんが内宮さんのことをどう思っているか……とか?」


 エリィがイタズラな笑みを浮かべそう尋ねると、内宮は「なっ!?」と短く叫んでから首と手をブンブンと横に振って否定の意を表した。


「なななな!? んなわけあるかい! な、なんでうちがあんな奴と!」

「お顔が真っ赤になってますよ? 内宮さんも風邪ですか?」

「アホ! 銀川はんが変なこと言うからや! 本人に直接きくさかい、余計なお世話はいらへんで! ほ、ほなな!」


 そのまま慌てた様子でパタパタと走り去る内宮を、視線で追うエリィ。

 あの態度は少なからず裕太に気があるということは察することができる。

 しかし、既に予約を確定してるも同然な気分のエリィは余裕の表情で彼女の背中を見送った。


「ふむ、裕太のやつ意外とモテるものだな。なかなか羨ましいものだ」

「なに言ってるのよお。岸辺くんだって宇宙海賊にレーナちゃんがいるじゃないのぉ。この百点満点くん!」

「そういえばそうだな……っと、サツキちゃんが怖い顔になる前に話題を変えようか。え~と……」


 露骨に陰の入ったサツキの顔を見て、すぐさま話題を変えようと目線をそらす進次郎。

 ふたりの態度が面白くて、エリィは思わずクスりと笑ってしまった。

 しどろもどろしている進次郎の傍ら、さっきまで嫉妬の感情をむき出しにしていたサツキに、不意に声がかけられた。


「お姉ちゃん……?」


 声のした方に視線を移すと、そこにあったのは弁当箱を抱えたひとりの女の子の姿。

 サツキに似た顔立ちの、眼鏡をかけた三つ編みの黒い髪という地味な風貌の女の子。

 その子にサツキが振り向くと「ご、ごめんなさい!」と謝りながら、持っていた弁当箱で顔を隠し校舎の中へと走り去っていった。


『あの反応……今の娘、もしかしてサツキどのに気があるのでは?』

「そんなわけないでしょお。でも、お姉ちゃんって言ってたわよねぇ」

「む? サツキちゃん、どうした?」


「あの子……もしかして……」


 サツキはひとこと、意味深に呟いた。



    ───Bパートへ続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ