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第14話「メイド・イン・パニック」【Iパート ジュンナの覚悟】

 【9】


「……段々音が近づいているな」


 自分の家で事の次第を待っていた進次郎も、流石に冷静さを欠き始めた。

 じっと椅子に座っているエリィや岡野も、不安が顔に浮き出ている。


「仕方ない。岡野さん、貴重品をまとめて来てくれ。避難するぞ」

「お坊ちゃま……」

「家を守るのも大事だが、皆の命も大事だ。なあに、裕太がサッと解決してまた戻ってこれるさ」

「……はい」


 観念したように、岡野は部屋の奥へと向かっていった。

 進次郎がエリィ達にも荷物をまとめるよう伝えると、それぞれ立ち上がって各々のカバンへと荷物を詰め始める。

 しかし、ジュンナだけは一歩も動かず、椅子に座ったままじっとしていた。


「……ジュンナさん。何をして──」

「進次郎さまは、それで本当によろしいんですか?」


 不意に投げかけられた問いかけに、進次郎は呆気にとられる。

 顔つきこそ無表情だったが、カメラのレンズのように輝く瞳を進次郎に向けながら、真剣な口調でジュンナが言う。


「岡野さまが言ってました。家とは、そこに住む者の体の一部だと。今、私は一時的にこの家に居を移しています。つまり私にとっても、他の皆様にとっても、この家は皆さんの身体ではありませんか?」


 そう言うとジュンナはすっと椅子から立ち上がり、サツキの方へと歩み寄った。


「サツキさん、軽機関銃の8ミリの弾丸を出してもらえませんか? できれば徹甲弾を」

「ええ? できますけど……」


 そう言うとサツキは手の平をあわせてお皿を作り、その上に浮き上がらせるようにして弾丸を生成する。

 ジュンナはできたての弾丸を掴み、ガトリング砲へと変形させた右腕へと丁寧に装填していった。

 進次郎もさすがにジュンナが何をしているのかを察し、慌てて止めに入る。


「ちょっと待った! その機関銃で戦うつもりなのか!?」

「いえ。あくまでもご主人様のサポートです。この私の腕で、守れるものがあるのだったら」


 そう言って、ジュンナはガトリングの腕のまま玄関から外へと飛び出た。

 その姿を見た進次郎は逃げるわけにもいかなくなり、どっしりと椅子に座り込む。


「お坊ちゃま、避難なさらないんですか?」

「ジュンナさんが身を挺して守ると言ってくれたんだ。信じてやらなきゃ、な」

「そうですね。お坊ちゃま秘蔵のフィギュアとかいやらしいゲームとかが喪われてしまいますものね」


 進次郎は岡野の言葉に思わず椅子から転げ落ちた。



 【10】


「おいコラ待てぇ! 逃げるんじゃねーボルボロ!」

「〈バルバロ〉でありますよ! 抵抗を止めて止まるであります!」

「そこのバラバラ、止まれー!」

「〈バルバロ〉だって言ってんだろ! それに話して止まるクチかよ!」


 〈クロドーベル〉に乗った照瀬、富永と合流した裕太は、そのまま進次郎の家の方向へと逃げ続ける〈バルバロ〉を追いかけ続けていた。

 しかし、戦況は決して良いとはいえない。


 まず、場所が密集した住宅街であるためショックライフル等の銃火器の使用は厳禁。

 さらに道が狭く入り組んだ街路だけなため、家屋を蹴り壊さないように慎重に操縦しないといけないという二重苦であった。


 一方の〈バルバロ〉は6本の細い足をガシャガシャと巧みに動かし、開けたルートを的確に進んで徐々に裕太たちを突き放していく。

 進次郎の家までの距離がだいぶ近くなっていることに、裕太は焦っていた。


「このままじゃダメだ。えーい、こうなったら!」

『ジェイ警棒!』


 裕太はジェイカイザーに警棒を握らせ、その場で一時的に足を止めた。

 そして警棒を持った方の腕を振りかぶらせ、慎重に狙いを定める。


『照準、距離補正!』

「今だ、行けぇっ!」


 勢い良く投げられた警棒はまっすぐに〈バルバロ〉のコックピットへと向かい飛んでいく。

 そして見事に命中……することなく、〈バルバロ〉はその場で軽快にジャンプし警棒を見事に回避した。


「……うん、半分そうなると思ってた。素早いなあボロブロ」

『射撃と投げは違うからな、裕太!』

「何を誇らしげに立ち尽くしてるでありますか! 早く追うでありますよ! あと〈バルバロ〉でありますからね!」

「はーい」


 富永に叱咤された裕太は、道路に刺さった警棒を引き抜きながら再び〈バルバロ〉を追いかけ始めた。



 ※ ※ ※



「……来ましたね」


 進次郎の家の前でじっと待っていたジュンナは、ゆっくりとガトリング方となった右腕を持ち上げた。

 正面には徐々に近づいてくる〈バルバロ〉の姿。

 それの目のようなメインセンサーに銃口を向け、ジュンナは砲身を回転させ始めた。


 家の中には裕太とジュンナを信じる皆が、固唾を呑んで見守っている。

 人間ならば緊張する場面であるが、機械であるジュンナは冷静だった。


「……そこ!」


 ジュンナは、〈バルバロ〉のコックピット部が有効射程に入ると同時にガトリング砲を唸らせた。

 放たれた弾丸は街灯の光を反射して、一瞬光の線を宙に描き、そして〈バルバロ〉に無数の火花をあげる。


 不意に前方からメインセンサーをやられたことで姿勢制御バランサーが故障したのか、〈バルバロ〉は足をもつらせるようにして周囲の塀を崩しながら前のめりに転倒した。

 そのまま滑り込むようにして近づいてくるコックピット部が、ジュンナのすぐ目の前で停止した。



 ※ ※ ※



「あれ、ジュンナだよな?」


 突如〈バルバロ〉が転倒するという事態に戸惑いながらも、鼻先にジュンナの姿を確認した裕太。

 倒れた先に立っていたジュンナの姿を見て、彼女が手助けをしてくれたんだということは容易に察することができた。

 ジュンナの目の前に倒れていた〈バルバロ〉の、細い脚がガシャンと音を立てながら動き始める。


『裕太、ベロベロが立ち上がろうとしているぞ!』

「させるかよ! 照瀬さん、富永さん!」

「「おう!」であります!」


 その場でもがきながら立ち上がろうとする〈バルバロ〉に、裕太たちは三方向から一斉に飛びかかった。

 そのまま落下の勢いを乗せ、次々と突き刺さる警棒。

 三本の電磁警棒を一斉に受けた〈バルバロ〉は激しくスパークをおこし、装甲の隙間から黒煙をあげながらその場に崩れ落ちた。


「……よし、ボラブラ討ち取ったり!」

「だから〈バルバロ〉でありますってば!」



 ※ ※ ※



「……どうや? 笠本はんの腕前は」

「あれだけの状況下で塀のひとつも壊さずに追いすがるとは、さすがだな笠本裕太」


 とあるビルの屋上で、双眼鏡を片手にグレイが内宮へと返答する。

 ふたりは愛国社が暴れれば裕太が出てくると踏み、キーザに連れられ現場がよく見える建物に昇っていた。


「だが、肝心の戦闘が見られなかったのは残念だ」

「なんや、グレイはんって意外と慎重派なんやな」

「敵を知り己を知れば百戦危うからず、と言うじゃないか。奴はしばらくフレームファイトから身を引いていて能力は未知数だ。慎重になりすぎても足りないことはないだろう」


 グレイはそう言って、グゥゥと腹の虫を盛大に鳴らしながら階段を降りていった。


(腹ペコなんやったら、コンビニのおにぎりでも食えばええのに……)


 内宮はグレイの背中を見ながらそう言いたかったが、心に留めるだけにしておいた。




    ───Jパートへ続く

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