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第14話「メイド・イン・パニック」【Gパート お風呂でパニック!】

 【7】


「ふへぇーいい湯だぜぇ」


 エリィに言われて風呂に入ることにした裕太は、やや広めではあるが変哲のない浴槽の中でオヤジ臭い感想を述べた。


『金持ちの風呂だから温泉を引いているのではないのか?』

「よくわからんけど、普通にお湯だろお湯」

『ううむ、なんだか疲れが取れるような気がしたのだが』

「密閉袋の中で浮いてるだけのくせによく言うぜ」


 そう言って、水面に浮く袋に入った携帯電話を指で突っつく裕太。

 そうしている内に身体がのぼせ始めたので、「よっこいしょ」と言いながら湯船から出て風呂椅子に腰掛ける。

 そして壁にかかっているタオルを手に取ろうとしたタイミングで──


  ガラッ


 ──浴室の扉が突然開いた。


 そこに立っていたのは、バスタオルを身体に巻いただけの姿のジュンナ。

 なぜかぴったり張り付いたタオルは、彼女の大きな胸の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている。


「なっ………!!?」

「お背中お流ししますよ、ご主人様」


 そう言いながら浴室に足を踏み入れようとするジュンナの肩を掴み、押し出すように裕太は力を込めて抵抗した。


「待て待て待て!! なんで、じゃなくて要らないから! 一人で風呂入れるから! 大人だから!」

「はて? ご主人様はまだ高校生の身。世間一般からすれば子供にあたる年齢のはずですが?」

「そうじゃなくてだなぁーっ!!」

『おい裕太! 美少女メイドロボに背中を流してもらえるなんて羨まけしからんぞ! 代わってくれ!』

「言ってる場合かジェイカイザー!! だからジュンナ俺は一人で風呂をだな──」

「笠本くん、どうしたのぉー?」

「銀川! 助けてくれー!」


 更衣室から聞こえたエリィの声に救いを求める裕太。

 しかし、その判断が間違いであったと数秒後に判断するのだった。


 裕太の目に飛び込んでくる、バスタオル1丁のエリィ。

 ジュンナと全く同じ格好となった彼女は、ジュンナと裕太の二人を見てムッと眉を釣り上げた。


「ちょっとぉ! 笠本くんの背中を流してあげるのはあたしよぉ!」

「いえ、マスター。ご主人様の体を洗うのは私の役目」

「あたしが!」

「私が」

「あたしが!!」

「私が」


「でぇーーい!! ふたりとも出てけーっ! 一人で風呂に入らせろーーっ!!」


 渾身の力でふたりを押し出した裕太は、そのまま浴室の扉を閉め鍵を施錠した。


「ご主人様のあの拒否反応。もしやご主人様は同性愛者なのでは?」

「……多分、照れてるだけよぉ。笠本くんってウブなんだから」


 扉一面のザラザラとしたガラスの向こうから、勝手なことを言い始める追い出されたふたり。

 裕太は扉を平手でバンバンと叩いて、さっさと脱衣所から離れるように促すと、服を着る布擦れの音が何度か聞こえた後、ようやく磨りガラスの向こうから人影が消えた。


「ふぃー……やっと静かになった」

『裕太裕太!』

「今度はなんだよジェイカイザー」

『大田原どのから電話がかかっているぞ』


 言われて着信に気づいた裕太は、袋越しに細かい波紋を湯に伝える携帯電話を手に取った。

 袋に入ったままのそれに指を這わせ、受話器のマークを濡れた指でそっと触れる。


「よぉ、坊主。お前の読みは当たったぞ」

「読みって……まさか、あの愛国社が?」

「確認したら届け出の無いデモだったんで取り締まりに行ったら、連中キャリーフレームに乗ったまま逃げ出しやがった。いま照瀬と富永に追わせているが、住宅街に逃げ込まれてな……」


 警察の機体〈クロドーベル〉に乗ったふたりが、愛国社の追跡に苦労しているのは想像に難くなかった。

 住宅街は道が狭く、幅がキャリーフレームの片足分しかないところも多い。

 そんな中、破壊をいとわず突き進む愛国社と住人の財産を守るために慎重にならざるをえない。


「それで、俺にヘルプコールってことですか?」

「いや、その愛国社の連中が逃げている方向がな……今、お前がいるところの方なんだ」

「な……!?」


 裕太は急いで浴室を飛び出し、脱衣所を出て居間の窓から身を乗り出すように外を見た。

 遠くに影のように目に映る、キャリーフレーム〈バルバロ〉の巨体。

 静かだった住宅街は悲鳴と破壊音で騒然としていた。


「だからさっさと避難したほうが……」

「俺、いま友達の家にいるんですよ。そいつの家を潰されるわけにもいかないので、助太刀します」

「わかった。急げよ」


 裕太は電話を切り、背後にいた進次郎たちに真剣な表情を向けた。


「進次郎、あのキャリーフレームを止めてくる。だから銀川たちを……って銀川、なんで目を隠してるんだ?」


 赤くなった顔を手で覆うエリィの姿に首を傾げる裕太。

 岡野とジュンナの視線に至っては、裕太の下半身に向いている。


「……あのな、裕太。カッコつける前に格好をどうにかした方がいいと、天才として助言するぞ」

「格好……? ギャーッ!?」


 進次郎に指摘されて自分が全裸であることに気づいた裕太は、叫び声を上げながら脱衣所へと駆け込んだ。



    ───Hパートへ続く

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