第14話「メイド・イン・パニック」【Eパート 射撃場の友】
【5】
「進次郎。お前がやけに拳銃の扱いうまいなとは思っていたが、その理由はこれか」
岡野とジュンナが庭に消えてから数十分後、退屈だろうからと進次郎に誘われた裕太は、地下室に降りてそう零した。
階段を下りた先に広がっていたのは、遠くに黒塗りの人型ターゲットの板が立っている射撃訓練場。
端の倉庫のようになっている場所には本物だろうか、拳銃や突撃銃が映画に出てくる武器庫のように飾られている。
「金持ちらしくない家だと思ったが、らしい部屋があるじゃないか」
「僕の趣味ではない。海外で親父に叩き込まれた……というわけでもないが、身が身ゆえに自衛手段はひとつでも多く持っておいたほうがいいと、いって聞かなくてな」
そう言って進次郎は壁にかかっていた黒光りする拳銃を手に取り、両手で構えてターゲットに向けて引き金を引いた。
乾いた発砲音が響くと同時に、人型の板の中心に小さな穴が開く。
「キャリーフレームの操縦はパイロットの生身での経験がものをいうらしいな。少しはやってみたらどうだ?」
「……確かに、射撃はジェイカイザーの照準補正に頼り切りだけどよ」
進次郎から拳銃を受け取り、ターゲットに向けて構える裕太。
震える手を抑えながら、慎重に引き金を引いて拳銃を唸らせると、ターゲットから少し離れた壁に弾痕が浮かび上がった。
続けてもう3発発射したものの、そのうちターゲットに当たったのはひとつ。
しかも端にかするようにしか当たっていなかった。
「すげぇ下手だな、才能が無い」
「うるせー、今に見ていろよ! すぐにモノにしてやる!」
進次郎にバカにされて悔しくなった裕太は、そう叫びながら再び拳銃をターゲットに向けて構えた。
パンッ、と乾いた発砲音が射撃場に何度もこだまをする。
「……だいたいさ、俺はみんなが羨ましいんだよ」
「何が羨ましいというのだ、裕太?」
「お前は金持ちの御曹司、銀川はヘルヴァニアのお姫様だろ? おまけに金海さんは宇宙人ときたもんだ。俺だけ血とか家とか、誇れるものがないんだよ」
裕太が引き金を引く音と、弾丸が発射される音が交互に鳴り響く。
「そんなことを気にしていたのか」
「そんなことって……俺は真剣に悩んでいるんだぞ。家柄の良いお前や銀川と、凡人の俺が釣り会える存在なのかっ……てな」
「まあ聞け、そして考えみろ。サツキちゃんはともかく、僕と銀川さんは親、あるいは祖先が凄いわけだ。では、その最初に凄い立場になった人物の生まれや血筋は?」
拳銃の弾倉を交換しながら、裕太は数秒、進次郎の質問の回答を考えた。
「えーと…………普通の家?」
「そうだ、普通の家だ。凄い血筋とか家とかは、長い歴史の中のどこかで、凄いことをやった奴がいるから凄いと言われる。そのせいで、僕らのような血だけ引いたような連中は、意味もなく期待をされるし、失敗すれば期待はずれ、成功すれば親の七光りだと針のむしろだ。僕からしてみれば、初代になれる可能性があるお前のほうが、よっぽど羨ましいよ」
「初代……?」
「ジェイカイザーで平和を守る偉人か、はたまたスーパーパイロットか。何にせよ、お前はお前ができることを誇っていい。僕らと釣り合いがどうこう言うなら、この世で最強クラスのキャリーフレーム乗りだということを理由に釣り合っていると思え」
「スーパーパイロットだなんて、買いかぶりすぎだよ進次郎。俺は射撃が大の苦手だ」
「買いかぶっているのは貴様だ、裕太。僕は君ほど運動できるわけでもないし、度胸もなければ他人を助けるために命を張る覚悟だってない。天才の僕だって苦手分野がある。お前が完全無欠なら、僕の立場がないではないか」
「……お前らしい励まし方だよ、っと!」
裕太が放った何十発目かの弾が、ターゲットの中央に風穴を開けた。
その結果を見た進次郎が、パチパチパチ、とゆったりした拍手を送る。
「人間、回数を重ねれば成長をする。家柄や血に頼らずに伸びてゆくお前は、輝いてるよ」
「似合わないクサイセリフ言いやがって。……だけど、ありがとよ」
「女子たちがいないから貴様の愚痴を聞いたんだからな。銀川たちの前で弱音を吐くなよ」
そう言って、進次郎は足音を立てながら階段を登っていった。
親友の言葉で少し気持ちが軽くなった裕太は、もう少しだけ射撃練習に励むことにした。
───Fパートへ続く