第14話「メイド・イン・パニック」【Bパート 進次郎とメイドさん】
「……ちょっと、岡野さん。弁当を届けに来ただけだろう? 知り合いに見つからない内に早く家に戻って欲しいのだが」
不意に、裏門の方から進次郎の声が聞こえてきた。
気になった裕太は弁当のフタを閉じ、エリィと一緒に校舎の陰に隠れながら進次郎のいる場所を覗き込む。
そこには進次郎と、スカートの長いメイド服を来た20代くらいの女性が口論していた。
「ですが進次郎お坊ちゃま。私とて岸辺家に長年仕える身。お坊ちゃまの通う学校というものを少し拝見したいのです」
「いやいやいや、友人に見つかると厄介だから、早く帰って──」
「見~~た~~ぞ~~!」
「うひゃぁっ!?」
背後から裕太におどろおどろしい低い声で話しかけられ、裏返った声を出しながら飛び上がる進次郎。
そんなお坊ちゃんの姿など意に介さず、メイドさんは裕太たちに対して「こんにちは」と言いながら丁寧なお辞儀をした。
「えっとぉ、あなたはどなた?」
「進次郎お坊ちゃまのご友人様でございますね? 私は岡野、岸辺家の使用人でございます」
「これはどうもご丁寧に……って、進次郎お坊ちゃま? もしかしてこいつ、偉い家の生まれだったりするのか?」
「お坊ちゃまから聞いていないのですか? 進次郎お坊ちゃまのお父様……つまり旦那様はコズミック社の社長様ですよ?」
「……なんだって?」
「だから、進次郎お坊ちゃまはコズミック社の御曹司ですってば」
その時、裕太の時が止まった。
コズミック社──それはスペースコロニーの建造を一手に担う日本有数の巨大企業。
20年前の半年戦争後、あまたのヘルヴァニア人を住まわせるためのコロニーを大量に建造し、今となっては宇宙の大地主とも呼ばれている。
あの進次郎が、その大会社の御曹司。
確かに、進次郎は自分の家族について話したがらなかったので妙だなとは思っていた。
しかしそれは、家族仲が悪いだとか、親戚に問題のある人間がいるとか、そういう複雑な事情があるんだろうなと勝手に思っていたので、あまり触れようとはしなかった。
まさか実家が超金持ちだと隠すためだとは、露とも思ってなかった。
確かに、なぜか高級なホバーボードを持ってたり、維持費のかかる二脚バイクを所有してたり、宇宙海賊にサッと料金を支払ったりとそれらしい
「おい進次郎。おまえ何で金持ちだってこよ黙ってたんだよ」
「そりゃあ裕太。お前がそんなことを知れば、僕に金をせびりかねないと思ってな」
「……おまえなあ、俺を何だと思ってるんだ」
「ハッハッハ、冗談だよ。真に受けるな」
笑ってごまかす進次郎に対し、本音だろうと察する裕太。
そんな中、エリィがクイクイっと裕太の服の袖を指で引っ張ってきた。
「ねえ笠本くん。あたし良いこと思いついたんだけど……笠本くん?」
「あ、ああ? ああ。何だ銀川?」
「ほら、笠本くんはジュンナをメイドさんにしたいのよね?」
「そうしたいのはジェイカイザーだけどな」
「だったら本物のメイドさんに訓練してもらえればいいのよぉ!」
なるほど確かに、と裕太は一瞬思ってしまった。
実際はその本物のメイドさんもとい岡野さんが了承してくれるかとか、進次郎がどう思うかとか、なによりジュンナの意志がどうなのか、必要な手順はいっぱいあった。
しかし──
「メイドのお勉強? いいですよ」
「僕の家で? まぁ、バレてしまったしいいか」
「わかりましたご主人様。私はご主人様の所有物なので、反対はいたしませんよ」
──関係各者の二つ返事により、トントン拍子にメイド特訓の計画は進んでいくのだった。
───Cパートへ続く