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第13話「旅の終わりに」【Hパート ヘルヴァニアの人たち】

 エリィの言うとおり、〈ナイトメア〉はその性能があまりに高すぎる。

 運動性・反応速度・バーニアの出力・パワー……すべてのスペックが20年前のパーツで構成されたジェイカイザーとは比べ物にならないほど高いのだ。


 今までの戦いは、ジェイカイザーの低性能さを裕太の操縦技能でカバーして戦っていた。

 流石に軍用キャリーフレームとの交戦の際はだいぶ無理があったものの、それも恵まれた武器や環境でなんとか凌げている。

 しかし、もしも〈ナイトメア〉と真正面からやりあうような状況となれば、とてもじゃないが為す術もなくやられてしまうだろう。


 自らの母親と同じ様になる……いや、それ以上に命を落とす危険性のある状況を裕太は危惧していた。


「でも、大丈夫よぉ。大田原さんたち警察の人たちがいっぱい捜査してるって言うし、すぐに〈ナイトメア〉も、それを盗んだ犯人も捕まるわぁ」


 そう言いながらぱくり、とパフェのフルーツを口に運ぶエリィを見ながら、裕太は窓の外に顔を向け、「……そうだといいんだけどな」と言いながら頬杖をついた。


 不意に、裕太は背後に大きな気配を感じ、ハッと振り返る。

 裕太たちの机の脇に、エプロンを身に着けた身長が2メートルはあろうかという大男が立っており、丸太のように太い腕でサンドイッチの乗った皿をテーブルに置いた。


「お待たせしました、当店自慢のサンドイッチでごぜぇます」


 野太い声で大男はそう言うと、もう片方の手に持っていたヤカンに入っていた水を、裕太たちのからのコップに注ぎ入れていく。

 その様子を見ていた美崎が「あっ」と小さい声を出して、男からヤカンを取り上げた。


「もう、お父さん。私を呼んでくれればよかったのに」

「ガハハハ! まあそう言うな美崎。俺様もエリィお嬢の意中の相手の顔が見たくてな」


 美崎とは似ても似つかない風貌の大男にそう言われ、裕太は少し気恥ずかしくなる。

 目をそらしてエリィの方を見ると、彼女もまた頬を赤らめて照れた顔で大男に声を張り上げる。


「もう、アトーハおじさんからかわないでよぉ!」

「ガッハッハ! エリィお嬢もそういう歳になったと思うと、感慨深いのう!」

 大男──アトーハはそう言うと、豪快な笑い声を出しながら厨房の方へと去っていった。


「……あれが旧ヘルヴァニアの三軍将のひとり、アトーハ・ノトナーレさんだっけ?」

「そう、今はすっかり退役して喫茶店のコックさんだけどねぇ。今日はいないけど、奥さんのスーグーニおばさんも三軍将の一角で、美崎さんのお母さんだし」

「ってことは……その血を引く美崎さんって、もしかしてすごく強かったり?」

 急に裕太に話を振られた美崎は「えっ」と驚いた顔をし、手を顔の前でブンブン振って否定の意を示した。


「そんな、血筋だけで親の能力が子供にそっくり遺伝するんだったらエリィちゃんはエースパイロットになっちゃうわ」

「え? 銀川の母親って女帝様だろ? 前線で戦ってたりしたのか?」

「あれ? エリィちゃんから聞いてないの? エリィちゃんのお父さんはあの〈エルフィス〉乗りのエースパイロット、銀川スグルさんよ」

「……えええーっ!!??」


 思わず絶叫する裕太。

 なぜなら、スグルという人物はキャリーフレーム乗りなら知らないものはいないほどの超有名人、いや偉人の域に達するほどの存在であるからだ。


 彼は、地球とヘルヴァニア帝国の戦いである『半年戦争』において、地球軍の勝利に多大な貢献をしたキャリーフレーム〈エルフィス〉のパイロットである。

 元々は軍人ではなかったそうだが、木星圏にある故郷のコロニーがヘルヴァニア軍の襲撃を受けた際に偶然近くにあった〈エルフィス〉に乗り込み、初陣でヘルヴァニアの重機動ロボを4機撃墜。

 そのまま宇宙においてヘルヴァニアのエースと交戦し撃退し、その後は反抗部隊『カウンター・バンガード』の中核として終戦までの半年間で、重機動ロボ130機を撃墜したという記録の残っているグレートエースパイロットである。


「お、おま……銀川、お前とんでもねえサラブレッドだったんだな!?」

「えっと、でもほらぁ。あたしって操縦へたっぴだし、才能は受け継いで無いみたいよぉ」

「……それもそうだな」


 冷静になった裕太は一息ついてアトーハが持ってきたサンドイッチを口に運んだ。

 柔らかなパンの感触とシャキシャキのレタス、芳醇な香りのハムが口の中で混ぜ合い、言葉にならないほどの旨味が舌いっぱいに広がっていく。


「……ヤバい美味しさだな、これ」

「でしょでしょ? 笠本くんなら絶対気にいると思ったのよ!」

「美崎さん、コールタールおかわりお願いします」

「おいジュンナ、おまえちったあ遠慮しろよ持ち合わせないんだから」

「大丈夫でしょう。足りない分はマスターが出してくれるでしょうから」

「ちょっとぉ! あなた、あたしのことお財布と思ってない!?」

「思ってますよ」

「あのねぇ!!」

「アハハハ……」


 喫茶店の中で、裕太たちのバカらしい会話はそのご一時間は続いたという。


─────────────────────────────────────────────────

登場マシン紹介No.13

【ナイトメア】

全高:8.5メートル

重量:9.6トン


 クレッセント社が5年前に採算度外視のプロジェクトで建造した、現存するキャリーフレームの中では最高クラスのスペックを持つ機体。

 丸腰でも多大な戦果を出せるようにと、マニピュレーターが鋭利な刃物のように鋭くなっており、素早い動きから繰り出される貫手ぬきてはいかなる分厚い装甲も貫くほどの威力を持つ。

 また、腕には小型機関砲が内蔵されており、遠距離への対応も可能となっている。

 5年前、寺沢埠頭にてナイトメアに搭乗した愛国社の構成員が現場にいた作業用キャリーフレームを無差別に襲撃するという事件が発生した。

 その取り押さえに向かった裕太の母、笠本由美江の搭乗するクロドーベルのコックピットをナイトメアの腕が貫き、そのことがきっかけで由美江は昏睡状態となった。

 なおその際、当時由美江の同僚だった大田原の搭乗したクロドーベルにより右目にあたる部分を警棒で貫かれ、機能停止した。

 ワンオフ機の都合上、外装パーツの換えが効かないため、この傷は現在もそのまま残っており左目のセンサーはモノアイタイプに交換されている。

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