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第13話「旅の終わりに」【Fパート 黒い機体を駆る少年】

 【6】


 横方向に薙ぐように、片目に傷のある赤紫の機体から伸びる、鋭いマニピュレーターが、内宮の乗る〈エルフィス〉の眼前を掠めるように通り過ぎる。

 壁から飛び出ていた古びたパイプが、そのマニピュレータによって切断され、鋭利な刃物で切り裂いたような切り口を見せながら落下した。


「……速すぎやろ!?」


 続けざまに放たれた蹴り上げに対し、内宮はペダルを強く踏むことで〈エルフィス〉を後方に飛び退かせ回避する。

 しかし、驚くべき瞬発力により傷を持つ機体は〈エルフィス〉へと肉薄し、コックピットハッチへと鋭利な指を突きつけた。


「っ……?」


 急所であるコックピットへの寸止めをされ、身動きできない内宮。

 そんな彼女を見下すかのように、傷を持つ機体のコックピットが開き、中からひとりの少年が顔を出した。


「あの〈エルフィス〉に乗ってこの程度か、内宮千秋」

「なんやと……なんでうちの名前を知っとるねん! だいたいあんた何モ……ン……や……!?」


 突き刺すような冷たい視線を向ける男に、内宮もコックピットを開き啖呵を切る。

 しかし、モニター越しでハッキリ見えなかった男の顔を肉眼で視認し、内宮は言葉を失った。

 学生フレームファイト大会の優勝常連、かつては最年少でプロ入りとも目されていた、内宮自信も何度となく交戦したものの、ただの一度も勝利したことのない人物……。


氷室ひむろグレイ……!?」

「名前は覚えていたようだな、内宮千秋」

「ちょ待てや、なんであんたがここに……それも、そんなケッタイなキャリーフレームに乗っとんねん!?」


「それは、私が説明しよう」


 おもむろに姿を表した訓馬が、拡声器を構えて静かに話し始めた。

 と同時に拡声器からはキーーーンというハウリングの音が響き渡り、この場にいる全員が一斉に耳を手で塞ぐ。


「だーっ! 誰もおらへん静かな場所なんやから拡声器使わへんでもええやろが!」

「失礼失礼……。コホン、先の会議において三輪社長から直々に任されたのだよ。彼と、笠本裕太。およびジェイカイザーとの戦いをセットアップしてくれとな」

「笠本はんと……? なんでや? それに社長とあんた、どういう関わりがあるんや?」


 本人に答えてもらおうと、内宮は眉間にシワを寄せながらグレイの方に顔を向け、少し強い口調でそう問いかける。

 しかしグレイは顔色ひとつ変えず、自らの顔の前でこぶしを強く握った。


「社長についての繋がりは黙秘する。だが、奴は……笠本裕太は俺の人生を壊し、俺の親父を死なせた男なんだよ」

「……なんやて?」


 内宮はグレイの言葉に思わず眉を吊り上げた。

 確かに、裕太はカッコつけしいで間抜けなこともあるが、目の前の人間の危機には命を投げ出して助けに向かい、困った友人を見捨てられない根のいい男である。

 そんな彼が、ひとりの人間の人生を狂わせ、またその親を死に追いやったなどとは到底思えなかった。

 内宮の表情から内面を察したのか、あるいはそんなことなどお構いなしといった感じでグレイはコックピットハッチから床へと飛び降り、靴音を立てながら廊下の方へとあるき始めた。


「待てや! どこ行くつもりや!」

「フン、これ以上無駄口を叩くほどヒマじゃないんでな」


 いけ好かない風にそういったグレイは、懐からお椀のような物を取り出して訓馬へと差し出した。


「訓馬専務だったか、ひとつ頼みがある」

「……何だ?」

「……素麺そうめんを分けてくれないか。もう3日も何も食っていない」


 クールな顔つきのままそう言って腹を盛大に鳴らすグレイに、内宮は思わずズッコケてコックピットから落ちそうになった。



    ───Gパートへ続く

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