第13話「旅の終わりに」【Dパート 内宮のエルフィス】
【4】
「ほんで訓馬はん。うちに見せたい言うんは何や?」
訓馬に連れられ、明かりがなく真っ暗な格納庫へと足を運んだ内宮は、期待半分に彼に問いかける。
しかし訓馬は口で返事をせず、代わりに格納庫の電気をつけることでその質問への返答をした。
古びた蛍光灯に照らされ、古めかしい格納庫に姿を表した巨大な影。
特徴的な一対の長いブレードアンテナを持つ白いキャリーフレーム。
見覚えのあり過ぎるその機体に、内宮は驚愕した。
「な……なんで〈エルフィス〉がここにあんねん!?」
「スペースコロニー『アトランタ』において、君はこの機体で、未知の怪獣を相手に戦ったそうじゃないか。その勇姿が宇宙放送で流された結果、〈エルフィス〉の製造元であるクレッセント社のエルフィスシリーズの良い宣伝になったそうだ。これはその礼として、君にと送られてきたものらしい。まったく、どこで君がここでバイトしているという情報を握ったのか」
「ほーん……クレッセント社いうんは随分と気前がいい会社なんやなぁ! そうかぁ、この〈エルフィス〉がうちのもんか……!」
かつては憧れ、実際に乗って戦った白い勇姿を見上げながら、伝説的な機体が自分のものになったという嬉しさを抑えようとして、できなかった。
口元をにやけさせ、旗から見てもウズウズしているとわかる動きをさすがに察せられたのか、訓馬がゴホンと咳払いをして場の空気を正そうとする。
「そんなに嬉しいのだったら、試運転してみればいい」
「ホンマに? ええのんか!?」
「この格納庫も元々はキャリーフレームの実験場だ。それに……」
「それに?」
「……いいや、何でもない」
何かを言おうとして口をつぐむのは、訓馬が何か隠し事をしている時の癖であった。
彼は、普段の言動とは裏腹に人が良すぎる面があり、嘘をつこうとしたり隠し事をする時に、無意識に表情や態度に出てしまう。
今までも何度か彼の言葉に悩まされた覚えのある内宮は、そうかそうかと表面上は流しつつも、何かが仕組まれているかもしれないという考えを持ちながらコックピットから垂れるワイヤーの足掛けに足を載せる。
そのまま体重を足掛けに乗せて身体を床から離し、ワイヤーの少し上らへんにある巻取りスイッチを押すと4メートルほど上方にあるコックピットに向けて彼女の身体ごとワイヤーが上へと上昇した。
飛び移るように〈エルフィス〉のコックピットへと乗り込んだ内宮はそのままパイロットシートに腰掛け、刺さったままの真新しい起動キーを右手でひねり、動力炉を稼働させる。
ブルン、と動力炉が動き出し、コックピットの内側を覆うように張り巡らされた、外の風景を映すモニターに光が灯り、暗く古ぼけた格納庫の中を映し出した。
まずは一歩動いてみるか、と操縦レバーを握り神経接続を果たした内宮は、暗闇の中に光る一点の赤い灯りに気がつく。
指をすべらせるように素早くコンソールを操作し、光量増幅効果をモニターに与えた内宮の目に、その灯りの源が目に入ってきた。
それは、まるでワインのような赤紫の装甲に覆われた、刺々しい鋭角状のパーツが目立つ1機のキャリーフレームだった。
謎の機体はファイティングポーズを取っており、妖しく赤い光を放つカメラアイを真っ直ぐ〈エルフィス〉へと向けながら、ゆったりとした動きで腰を僅かにおろし身構える。
その機体は刃物のように鋭く尖った指をまっすぐに伸ばしながら、〈エルフィス〉のコックピットめがけてまっすぐに腕を突き出してきた。
そして素早く足を踏み出した赤紫の巨体の頭部パーツの異質さが、咄嗟に対応の動作を入力する内宮の目に、スローモーションがかかったかのように焼き付く。
──その頭部には、右目をえぐったような、深い溝が刻まれていた。
───Eパートへ続く