第2話「教習! クロドーベル!」【Dパート 罰金は50万円】
【4】
……その後パトカーに乗せられ、裕太とエリィは町外れの警察署まで連行されて今に至る。
「ったく、強情なやつだ!」
いつまでも素直にならない裕太の態度に腹を立てたのか、照瀬は不機嫌そうな顔で机を軽く蹴りつける。
エリィが最後のカツ丼の器をドンブリの山に重ねたタイミングで、大田原が咳き込みながら取調室へと入ってきた。
「ゲホゲホッ……照瀬くん、熱くなりすぎちゃいけないぞ?」
「大田原隊長! 非行少年を甘やかしては駄目です! 若い時こそ善悪の判断をきっちりと……」
「最近は取り調べの透明化も叫ばれてるし……ま、これでも飲んで頭冷やしな」
腹立たしい様子で大声を出す照瀬に対し、大田原は特濃トマトジュースとラベルに描かれたの紙パックを手渡そうと差し出す。
「そんなの飲むの隊長だけでしょうが!」
照瀬はそんな大田原の手を払い除けると、興奮した自分の感情を抑えるように自分の額を2,3度軽く叩いた。
「……失礼、熱くなりすぎました。外の空気でも吸ってきます」
そう言って、照瀬は取調室を後にした。
「すまねえな。あいつ真面目なんだが頭が固いんだ。あ、カツ丼1個もらうぜ」
先程まで照瀬が座っていた椅子に大田原が腰掛け、裕太と挟んだ机の上あったカツ丼を食べ始めた。
舌鼓を打つ大田原を見ながら、エリィが首を傾げる。
「気になったんだけどぉ、どうして大田原さんと笠元くんって知り合いっぽいのぉ?」
大田原と裕太の親しそうな雰囲気を感じたのだろうか。
そして、勝手にハッと気づいたような表情をして。
「……まさか笠元くんは昔荒れた不良で、何度も警察のお世話に!? そして過去の記憶が疼いてあたしに乱暴を……! ああっ、ダメよ笠本くん♥」
「するか! そもそもそういう意味でお世話になったことはねぇよ!」
大声でエリィに怒鳴りつける裕太の様子を見て微笑ましいとでも思ったのか、大田原はハハハと乾いた笑いを浮かべた。
「ボウズの彼女さん。こいつとは親の繋がりで見知ってるだけさ」
「まさか笠元くんの親御さんはが反社会的な活動家とか……! あれ? どうしたの?」
「……あ? どこからツッコむか考えていたんだよ」
エリィのしつこい妄想茶番に、裕太はほとほと呆れ果てていた。
※ ※ ※
「……とりあえず、ボウズのやらかした事について結論が出た」
そう言いいながら、大田原は机の上にいくつか書類を広げ、その内の一枚を手に取る。
「まず、未登録フレームの所持に関してはよくある話だし……発砲もやり過ぎだがケガ人、死人が出たわけじゃない。聞く限りだと正当防衛が適用されるっぽいしあわせて……厳重注意ってとこだ。ゲホゲホッ……」
咳き込みながらの説明を聞き、裕太はほっと胸をなでおろす。
しかし、大田原は渋い顔をしながら「ただなぁ」と言い、カツ丼のカツを一つ口に咥えながらもう一枚の書類を指差した。
「ボウズの免許……小型機動だろ? あのジェイカイザーとかいう機体、大型に値するサイズだから……簡単に言うと無免許運転扱いになっちまう」
「む、無免許……!?」
「警察見解でそうなった。はふっ、この卵が絶品……!」
美味しそうにカツ丼の卵を口に運び幸せそうな大田原と対称的に、裕太は顔を青くする。
「ば、ば、ば……罰金はどれくらいになる!?」
「んーとだな、50万円以下の罰金。または3年以下の懲役」
「ご、ごじゅうまん……」
言葉を失うのも無理はなかった。
裕太は人一倍、貯金に熱心である。
過去にお金で苦労した事があり、その為いつ何があっても良いようにとコツコツとお金を溜めてきていたのだ。
時折ケチと罵られようと長年溜めてきた貯金。
50万という金額は、裕太の数年分の貯金を吹き飛ばすには十分な額である。
「俺の、貯金が……」
手をワナワナさせて机に突っ伏す裕太に、大田原が優しく肩を叩きながら声をかける。
「……まあ慌てなさんな。ここは治外法権が認められた天下の特殊交通機動隊。ボウズがちゃんと大型を運転できるか、試験を突破したら特別免許を出して、無免許問題を遡ってチャラにできるぞ?」
「そんなこと、許されるんです?」
「特殊交通機動隊じゃあ俺が法律だ! ガハハゴホッ……ゴホッ……」
誇らしげな顔で咳き込む大田原の論法に、裕太は心のなかで(無茶苦茶だ……)とそっと呟いた。
一連の話を聞いたエリィは、箸を置いて立ち上がり裕太に駆け寄り。
「それじゃあ、早くその試験を受けちゃいなさいよぉ。あたしを助けるために笠本くんが犯罪者になったらあたしも気分が悪いわぁ」
「と言ったって土曜日は免許センターとか開いてないだろ? どうやって試験を受けるんです?」
裕太が質問すると、大田原は任せなと言うかのように胸をドンと叩きながら、威張るようにして声を張り上げる。
「さっき言っただろ? ここじゃあ俺が法律だ!」
───Eパートへ続く