第八章
1 清坂美里は楽屋にたどりつけるのか
異様な熱気は学校祭の直前、全校集会、体育祭に似ている。美里が楽屋の中を覗き込もうとしたとたん、紫色の布で頭を坊主に巻いた人がぞろぞろ出てきた。一人は紫の矢絣に振袖、また浴衣姿でくっついていく人もあり。
──なんか可愛いけど、頭が変。
顔を白く塗り、口紅が赤い。目の周りを縁取りしている。
舞台の席から観るとそれほどでもないけど、近づいて見るもんじゃないと美里はつくづく感じた。
手元のお菓子をぶら下げたまま、美里は立ち尽くしていた。すぐに詩子ちゃんのところに行くつもりでいたのだが、どうもそれどころではなさそうだ。みな同じ浴衣に着替えていて誰が誰だかわからないし、怒鳴っている人いるし、とにかく美里が入り込む隙間なんてない。と思ったら、後ろで、
「すいません、ちょっとどいてください」
と、誰かが花束を抱えて美里を押しのけた。失礼な、とにらもうとしたら、無地の深い青の着物姿の女性がつかつかと楽屋内に入っていって別の誰かに花束を渡していた。かなり強引だった。
──どうかなあ、行った方いいかなあ。
見えないように廊下の壁に背中をつけた。真上にはきれいな文字で「出演者控え室」と習字の文字で書かれていた。女性らしい文字だった。中にはちゃんと「藤野詩子」が入っていた。たぶんここだろう。
詩子ちゃんに会うのも目的だが、美里にはもうひとつ確認したいことがあった。
──立村くん、いるよね。いるに決まってるよね。
何気なく目配りしてきたつもりだったけれども、見慣れた痩せ型の少年は見かけなかった。どこにいるのだろう。やはり体調がよくなくて今日は来なかったのだろうか。四日間熱を出していたということならば、考えられないことではないけれど、でも。
──立村くん、いるよね。
会ってどうするというのだろう。自分でもわからない。美里も、立村くんに会った後何をすればいいのだろう。後味悪い火曜のこと。こずえも、「口にしたことはしょうがないじゃない」と笑ってくれたけれども。簡単に許してくれる人ではないような気がする。いつもおだやかで、何を言われても「俺が悪かった、ごめんな」と許してくれるかもしれないけれど、それ以上にもっと重たいものを突きつけてしまった美里を、果たして許してくれるだろうか。
いや、許してなんて思ってはいない。確かに美里や貴史が立村くんにつきつけた事実は、嘘がひとつもないのだから。立村くんが素直に宿泊研修のこととかを話してくれれば丸く収まるのだ。どうしてだろう。いつも本当のことを言わないで逃げる理由がわからない。
──許さないなんて言ってないんだよ。私、立村くんのことわかろうとしてるんだよ。どうして。
顔を合わせたらまた罵ってしまうんだろうか。ひとつひとつ、立村くんがかくしてきたであろうことを並べ立てた時、不思議に感じた優越感が気持ちよかった。こずえに止められなかったら永遠にしゃべりつづけていたかもしれない。押さえていたってことはめちゃくちゃ苦しかったのだと、あらためて美里は感じた。
──会ったら、どうしよう。
目の前を通り過ぎていく派手な衣装の女性たち。みな華やかだ。「いってらっしゃい」と声をかける人々、拍手で迎える人々。さまざまだ。鬘をつけて一気に、お人形らしく仕上がった人々が背を向けていく。どうやら舞台に向かうらしい。詩子ちゃんの出番をプログラムで確認した。
──最初が「北州」で、次が「屋敷娘」、次がええっと「お染久松」、次ね、「玉兎」って。どんなきれいな着物着るんだろう。見たいなあ。
きれいなものが大好きな美里にとってはひとりひとりの衣装を見ているだけで飽きなかった。すうっと桃色の着物に桃太郎の装束めいたものを来た人が通り過ぎていったのに気付くのが遅れ、思わず声を上げた。
「詩子ちゃん?」
ちらっと、白塗りの顔が美里を射た。
表情は隠されているけれども、笑顔ではなかった。
足首より短いピンクの着物に、ちゃんちゃんこのようなものを羽織っている。さっき通り過ぎたお嬢様たちにくらべて軽そうな衣装だった。いや、それ以前にこれって衣装なのだろうか。鬘にかんざしがひとつもない。代わりに猫の耳に見える鉢巻を締めている。
──「玉兎」か。ってことは、あの鉢巻、って、兎の耳?
詩子らしいその人は、無言で楽屋に入って行った。お母さんらしい人が慌てて風呂敷を抱えて、詩子を追いかけていった。美里には一切気付いていないようすだった。歓迎されていない客、あらためてそう思った。手元のお菓子包が重かった。
──私、来るべきじゃなかったのかな。来たらいやがられるって、わかってたのにね。
おしろいのにおいが漂う中、美里はそっと楽屋の中を覗いた。詩子らしき兎の耳をつけた人は、パイプ椅子に座ってストローでジュースを飲んでいた。背が高いし、このくらいだったらたぶん間違いはないだろうと思う。しかし、あの格好はいったい。
──詩子ちゃん、もっときれいな格好するんだって思ってた。もっと振袖のひらひらしたの着て、かんざし一杯つけて、可愛い格好するんだって。今のだって似合ってないとは思わないけど、でも。
ずっと美里の頭に浮かんでいた羽子板のイメージが消えていた。白塗りできれいだったけれども、美里の美学からすると、今ひとつものたりなかった。
挨拶だけして、帰ろう。
入ろうとした時だった。
──何?
左手の手首を誰かが押さえるけはいがした。
「え?」
振り向いた。黒いスーツ姿の、見慣れた人がそこにいた。か細い折れそうな姿でいた。
「立村くん?」
手首を握られていた。軽く引っぱられ、美里は楽屋から自分が離れていくのを感じた。違う人だったら手を振り放すだろう、怒鳴るだろう。失礼なとわめくだろう。でも、いえなかった。美里は立村くんの背を見たまま、黙って廊下の奥に引きずられていくだけだった。すれ違う人がけげんそうにふたりを見ているのがわかる。体が火照った。手首からカフスの布を通して感じるのは、確かに立村くんの温もりのはずだった。一度だけふれたことのある、指先の温かさのはずだった。
「りつ、りつむらくん、あの」
この前怒鳴りつけた時の勢いなんてどこかに飛んでしまった。腕のゆるやかな温もりが怖くて、従うしかない。やがて立村くんは美里を舞台脇に連れて行った。真横には三味線の音が鳴り響き、マイクでさらに膨らんでいる風に聞こえた。黒いカーテンが三枚、上には紫色の花のれんみたいなものがぶらさがっていた。マイクを持って指示をしている人がいた。舞台の真ん中でしゃがみこんだり立ち上がったりしながら鞠つきの真似をしている、矢絣の着物を着た人が見えた。
美里が立ち止まると、立村くんも少し手を緩めた。慌てて振り払った。
「なにするのよいきなり」
「悪かった」
短く答え、立村くんはもう少し近くに来るよう目で指図した。ふうっと通路口の扉を視線で追うように。
「藤野さんに会いに来たのか」
「やはり知ってるんだ」
ずっととぼけていたくせに、ここになって認めてくれたのか。もう遅すぎる。でもなんで。心に言葉が飛び交う。唄が長く伸びておなかに届きそうだった。
「今は客席で見たほうがいい。直前はみんな緊張しているからそっとしてあげた方がいいよ」
「わかってる、けど」
「終わったら、ここで待ってるから」
立村くんは表情を荒立てずに、でもうむを言わせぬ口調で美里を見つめた。
「待ってるって、ここで」
「ここの入り口まで、羽飛に連れてきてもらえよ」
動かないと今度は無理やり腕をひっぱられるかもしれない。温みが蘇った。美里は射すくめられたまま頷き、唇を噛んだまま出口まで走っていった。立村くんは背を向けたままだった。靴を履きかえる時振り返った時も、そのままだった。
──立村くん。
扉を閉め、観客たちのざわめきに包まれて美里は我に返った。
また入れ違いで着物姿の女性たちが戸口に吸い込まれていく。拍手が客席の扉から聞こえた。たぶん矢絣の人が踊っていたものが終わったのだろう。立村くんが言うとおり、次は詩子ちゃんの出番のはずだ。
──貴史、どこにいるんだろう。
着物軍団の人々と違って、貴史の格好は青大附属の制服姿で目立っているはずだ。明るくなった客席に戻り、ひとり、またひとりと顔を覗いていった。ちょうど後ろの席に、くわっと口をあけて寝ている奴がひとりいた。ネクタイがまがっている。制服姿、ひとりしかいない。たぶん奴だろう。美里は後ろから近寄り思いっきり両肩をマッサージしてやった。飛び上がるのが面白い。
「おい、お前、何するんだっつうの!」
「こんなとこでいびきかいててどうするのさ。次だよ、次。詩子ちゃんの番だよ」
「しっかし日本舞踊ってさあ、死ぬほど眠いよなあ。今も気が付いたら寝てたもんなあ」
幸い、周囲に座っている人はほとんどいなかった。みな、前の席に固まっているらしい。しかも、演目が終わったとたん、みな手提げやら花束をぶら下げて出口に急いでいる。みな、一曲終わるたびに人が入れ替わっている。
「ところでなあ、美里」
「なによ」
「お前、藤野に会ってきたのか」
手にもったままのお菓子包みに目を留めたらしい。
「楽屋で見たけど、口利いてくれなかった。衣装着てたけどね」
「衣装って、あんな袖の長い着物きてか」
「ううん、桃太郎みたいな格好してた」
噴き出した貴史を軽く叩いた。
「失礼だよ。笑いたくてもわらっちゃだめだよ。でもさあ、詩子ちゃん背が高いし美人だから、白塗りしててもすっごくかっこよかったよ」
「兎のぬいぐるみでも着て、ライダーショーみたいなことやるのかと思ったぜ」
「かもね」
まだ、貴史には言わないでおこうと思った。だんだん上の方のライトが薄暗くなってきて、お互いの表情が読めなくなってきた。だんだん真っ暗になり、扉の端にある非常口用のライトだけが緑に光っていた。美里はそっと、さっき立村くんが握り締めてくれた部分を同じようにふれてみた。
──あんな時に、あんなこと、しなくたって。
美里が振り払った時も、立村くんの表情は変わらなかった。ちっともおどおどしていなかった。ずっと静かに、何を言われても平気のへいざって顔をしていた。いつもああだったらいいのに。
──ほんとに、いるのかな。
黒いスーツに身を纏った立村くんの姿は、黒子のように周りに溶け込んでいた。自分だけが浮き上がっていた。美里は幕が開くのを待ちながら、見えるはずもない立村くんの姿を左手の方に探していた。
目の前に広がる舞台は青い背景に、大きな月。
さっき見た、耳つき鉢巻をしめた桃色の着物姿の少女が、白い顔のままぽんと跳ね上がった。
隣りで思いっきり笑いをこらえてうずくまっている貴史をつねりながら、美里も下を向いた。
──立村くんも、あの場所で見ているのかな。
──本当に、待っててくれてるんだろうか。
笑えるのは舞台を見ている時だけだった。美里は指でわっかを作り、立村くんのふれたカフスのあたりを握った。そうすると、切なくなれるから。
幕が下りるまで、笑えばいいのか感動した振りをすればいいのかわからず、美里は貴史とふたり、ひそひそささめきあっていた。拍手はもちろんしたけれども、雰囲気からしてあまり長くぱちぱちしててもよくないみたいだった。
「日本舞踊って、なんか想像してたのと違うよね」
貴史も顔を瞬間、しかめて答えてきた。
「なんってか、テレビのバラエティ見てるみたいだったよなあ。寝ないですんだのはいいけどなあ」
華やかといえば華やかだ。顔を白く塗って桃色の短い丈の着物、袖が短くて桃太郎のようなベストっぽいものを着ていた詩子ちゃん。決して似合わないとは思わなかった。顔が凛々しくて、かっこいいと思う。でも踊りの内容はやはり、足を広げたり、かちかち山の真似をしたり、「これあいあいさあ」とか意味不明の台詞を叫んだり。美里の知っている詩子ちゃんのイメージではまったく、なかった。もちろんこれが「新しい詩子ちゃんの一面よね」と心ときめけばよかったのだが、日本伝統文化にもともと向いていない自分の感覚だ。
──なんか、変。
これしか感じられなかった。
「ねえ、これから楽屋行くけど、あんた、どうする?」
「ひとりで行けよ。どうせ俺は藤野に嫌われてるしな」
「まあね、じゃあ貴史、ロビーでうろうろしててよ。どうせすぐ戻るもん」
「ちなみになんって感想言うんだよ。お前まさか、大爆笑で死にそうでしたとか言うんでないだろな。俺だったら」
「あんたにだったら言うかもしれないけど、私だってそこまで馬鹿じゃないわよ」
呆れ顔の貴史。手元に銀色の小さい紙箱を取り出している。何か食べ物らしい。中から同じく銀色に包まれたお菓子のようなものを取り出していた。あとで分けてもらおう。おなかすいた。
「じゃあ、行ってくる」
何か言いたそうに貴史は銀紙包を広げていたが、
「別に、遅くてもかまわねえよ。俺も食い物食ってるしな」
食い意地の張った奴である。
2 清坂美里が立村上総に告げられた言葉
ふたりでロビーに出た後、美里ひとりでさっき通った楽屋への扉を探した。やはり分かりづらいところにある。着物姿の中年女性らしき人々が手に花束とか、紙包を持って行く道を辿れば簡単だった。もぐりこみ、隣りの人の着物の袖で顔をすられながら靴を脱いだ。やっぱり「靴を脱いで」と張り紙がされている以上きちんとしなくては。スリッパを探した時、ひょいと目の前に緑のビニールものが並べられた。
足も同じだった。
「立村くん」
黒い服に、深緑の目立たないネクタイをした立村くんが立っていた。襟元に目を留めた。うっすらとチェックが入っていた。
──立村くん、ネクタイ、チェックだったんだ。
宿泊研修の時、お土産に買った黄色いタータンチェックのキーホルダーを思い出した。
──あれ、まだ持ってくれてるのかな。
「行こう」
一言だけつぶやき、すぐに背を向けた。今度は手首を取ってくれなかった。
「うん」
──よかった。ひとりで来て。もし貴史がいたら、修羅場よね、今ごろ。
幕の下りた中、舞台ではトンカチの音、怒号、照明器具の取り付け、降りてきた藤の花、などなどが入り乱れていた。次の舞台の準備をしているのだろう。こういうのを見るのは初めてだった。立ち止まり眺めると、立村くんも歩を留めた。振り向いて、斜に美里の方に向いた。
「清坂氏、あのさ」
だいたいふたまたくらい間があっただろうか。
「なによ」
距離を取ったまま、美里は答えた。立村くんは目を廊下側奥の、白い背景のある場所に向けた。
そこでは桃色の着物姿で桃太郎っぽい格好をした人が写真撮影をしていた。周りには花束を持った人たちがうろうろしている。たぶん詩子ちゃんの記念撮影だろう。立村くんの背中に近づいて、廊下の方を覗き込んだ。茶色の杵を振り上げて、先生たちに「ほら、もっと腕を張って」とか言われながらポーズを取っている。
「写真撮ってるんだ」
踊る前の緊張した面持ちとは違い、ときたまえくぼが浮かんでいた。ほっとしたのだろう。一生懸命やっていたんだったらそりゃ気持ちいいはずだ。
「ああやって、衣装着た後、みんな記念撮影するんだ。その後ですぐに衣装を着替える。だいたい二十分くらいかかると思う」
美里に話し掛けるのに、目線をあわせなかった。そのまま詩子ちゃんがフラッシュを浴びているのを眺めていた。
「でも、詩子ちゃんはもっときれいな振袖とか、そういうの着た方が似合うのにな。どうしてだろう。あんながにまたになったり、変な掛け声かけたりする踊りにしたんだろう」
立村くんは美里を射た。
いつもの「ごめん、俺が悪かった」と様子を伺うようなそぶりではない。
どこか突き放したような、冷たい光だった。今までその瞳は、菱本先生を始めとする連中にのみ向けられていたはずだった。なのに、今立村くんが見つめているのは、美里ひとりだった。
「清坂氏、これから藤野さんに会うんだろう」
「そのつもり。だってお土産渡してないもん」
「着替えが終わるまで、少しだけいいか」
「いいかって、何をよ。私と、話したいってこと?」
記念撮影を眺めている集団から立村くんはひとり抜け出し、また斜に美里を待っていた。追いつくとまっすぐ背を向けたまま歩きつづけ、時たま頭を下げていた。一番奥の、水のみ場のようなところまで来ると、もう一度振り返り、立ち止まるよう目で指示した。
──「時辻」って書いてる。
廊下で待っている間、その文字が教室の模造紙に機会あるたび書かれた文字であることに気付いてはっとした。読みが当たっていたのだと、美里は確信した。男子の文字とは思えない楚々とした筆跡。立村くんが書いたものだと、すぐに気付いた。
その部屋に入っていき、ふすまを開け、誰もいないのを確認した後、
「入ってほしいんだ」
いやとは言えない雰囲気だった。
「いいよ。誰もいないんでしょ」
靴をそろえて上がった。先に上がっていた立村くんは、美里が上がるのを待って、戸を開いたままにした。きちんと閉めたのに、すぐに開けた。膝を整えて座った。
「いったいなに、話って」
開いているとかえって落ち着かない。美里は正座して立村くんに対した。立村くんも軽く手を握ったまま、膝に置いていた。正座するのは茶道の時いつもしていることだけど、今日は外のざわめきや三味線の音が響いて少し気が散った。
「立村くんが時辻さんの親戚だってことは、もうわかってるから」
「そういうことじゃないよ」
立村くんはゆっくりと美里を見つめた。冷たい視線は代わらなかった。居心地が悪くてつい、戸口に寄った。身動きしない立村くんがしばらく言葉を選んでいる間、美里は後ろの蘭の花に目を向けた。「時辻沙名子さん江」とカードが入っていた。
──こういう花、もらえるお母さんなんだ。
見た事のない、立村くんのお母さんを想像した。
「ずっと、これは話すべきだったんだと思う。六月から」
「六月? なによいきなり話飛ぶの?」
「でも、やはり言えなかった」
話がとびとびになっている。違うのは、立村くんがめずらしく真っ正面から話をしていること。
目をそらさないこと。
「あ、この前のこと……」
「いや、違う」
ゆっくりと立村くんの視線が下から上へと競りあがっていくのを感じた。笑いのない、冷たい視線。
「俺は、一年の頃から羽飛と清坂氏、どちらも同じように大切な友だちだと思ってた。けど」
かすかに痙攣したように唇が震えていた。
「六月過ぎても、俺の中ではそれが全く、変わってない。だから」
──六月、そうなんだ。
水無月の雨、茶室の中、ふたりっきり。
廊下でしゃべりまくる通りすがりの人々。ざわめきが今は雨の代わり。
「俺はもう、清坂氏とは付き合うことができない。清坂氏がしてほしい付き合いは、できない」
四フレーズに切り取って、間違えないようにはっきりと、立村くんは美里に伝えてきていた。
嘘ではない証拠に、視線を一切そらさなかった。
──何言ってるのよ、立村くん。
──振るんだったら私の方じゃない! 変よ。そんなの。
──貴史と同じくらい大切な友だちだったらいいじゃない。立村くん。
美里もじっと見つめ返した。ふたりで今くらい見つめあったのは、出会ってから初めてだろう。
立村くんの眼はいつも伏せ目がちだったけれども、覗き込むと思ったより大きい。目が潤みがちだった。黒くぬめったような瞳の怖さを、美里は初めて受け取った。
「それって、つきあい、やめるってこと?」
「友だちはやめたくない。でも、つきあいやめることでそうなるなら、仕方ないと思っている」
「友だちとつきあいって、別に、私、なんも」
「清坂氏、ひとつ聞いていいか」
立村くんは美里の返事を待たずに畳み掛けた。
「もし羽飛と清坂氏が付き合っていたとしても、別の奴と清坂氏とそういう付き合いをしていたとしても、俺はどっちにしても友だちでいられる。そう思う。そういう奴とあえて付き合いたいと思うか」
──立村くん、今になって気付いたの?
マシンガンで一気にまくし立てられたら楽だろう。学校でだったらきっとそうするだろう。でもここは、立村くんのホームタウン。目の前の蘭が凛々しくにらみつけている。
「だって、そういう相手がいないから私立村くんと付き合って」
「今のが俺の本心だ。どんなにやっても、俺はそういう感じ方しかできなかったんだ」
「私を、友だちとしか、思えないって?」
立村くんは口を閉ざした。ただじっと、美里の方を見つめつづけた。いつもの「ごめん、俺が悪かった」とかその他の言い訳をしようとはしなかった。四日間熱を出して苦しんだ後なのだろう、少し顔がやつれたように見えた。何でもいいから言い訳してほしかった。
「立村くん、私が火曜に言ったこと、気にしてるの」
「あれはみんな本当のことだから、当然だと思う。でも、俺は清坂氏のしてほしい形での付き合いはできない。それだけなんだ」
自分の言葉が言葉でないように飛び出してくる。
「私、そんな難しいこと言ってる? 私、立村くんのこと、嫌ってないって言ってるだけ。だから何あってもいいって言ってるだけじゃない」
「わかっている。でも、言えないことを無理に言うことはできない」
「言えないことってなによ。時辻って苗字がお母さんのことだってこと? 詩子ちゃんのこと知ってたってこと? 宿泊研修で菱本先生に頭に来たってこと? 小学校時代が暗かったってこと? そんなこと知ったって私、あんたを差別なんてしなかったよ。わかってるでしょ。私も、貴史もずっと」
「うん、わかってる。だから、感謝してる。羽飛と、清坂氏には。でも、羽飛と清坂氏と同じもんだと思って付き合っちゃ、いけなかったんだって今やっと、気付いた」
「じゃあ、どうすればいいのよ。私、私だって、いきなりそんなこと言われたって」
「俺なんかとつきあうよりも、もっと清坂氏にはいっぱいいい奴がいるはずだ」
どんなに美里が言葉を投げかけても、立村くんの答えはひとつだった。
──俺はもう、清坂氏のしてほしい付き合いはできない。
ここは一度、作戦を練らなくてはならない。
素直にうなだれて涙するほど美里は単純な女じゃない。
「わかった。これ以上話しても立村くん、どうしようもないよね」
想像以上にかたくなな人だったのだと、あらためて思った
「立村くんはここの方が話しやすいかもしれないけど、私は学校でないとだめ。だから、明日。貴史も待ってるし」
立ち上がり、スリッパに履き替えた。黙って立村くんがふすまを閉め、後ろに続いた。
「いいよ、ひとりで行けるから」
「いや、もうひとつだけ、頼みがあるんだ」
「付き合っている間に?」
「違う、藤野さんに」
廊下に立ち、「時辻」の張り紙を横目に見ながら、美里は立村くんをしっかと見据えた。
「今日は、十五夜だって知ってたか?」
「十五夜お月さん? あ、今思い出した」
あまり暦に詳しいほうではない美里である。首をかしげた。
「たぶん、藤野さんは自分の演目がどういう理由にせよ、気に入ってないと思うんだ。さっき清坂氏が言っていたようにもっときれいな着物を着てみたかったんだと思う。でも、『玉兎』という踊りには、今日の日のイメージを絡めて、初舞台にかけて、一生の思い出にしてあげたいっていう先生たちの気持ちがこもっていたと思うんだ。俺はあまりそういうことわからないし、口出ししたくないから言わないけど、でも、もし気付いていないようだったら、なにかの折に、藤野さんに教えてあげてほしいんだ」
「あんたが言えばいいじゃないの」
「俺は一度も、藤野さんと口を利いたことなんてないよ。これからもたぶんそうだと思う」
さっきまでずっと風の吹き抜けているような瞳だったのに。
美里に話している時、ふといつもの立村くんに戻っているようだった。やわらかな視線。穏やかな表情。さっきまでの力をこめて威圧しようとする部分は一切感じられなかった。
きっと、無理していたのだろう。美里は確信した。
「仲のいい友だちでしかそういう話はできないと、俺は思うからさ」
──ああ、やっぱり、こういうとこが立村くんなんだ。
──私、つきあいやめるなんて、あっさり飲むことなんてないからね。
3 清坂美里が藤野詩子につたえること
そりゃあ、いきなり立村くんにあんなこと言われたらショックでないわけがない。
──俺はもう、清坂氏のしてほしい付き合いはできない。
なのに不思議なくらい、美里の気持ちはすっきりしていた。
火曜日にあれだけ罵るだけ罵った相手だ。振られるのは当然だ。
お前のことが嫌いだと言い切ってつば吐きかれるのもしかたない。最悪の場合、ひっぱたかれることも覚悟していた。立村くんのプライドをずたずたに傷つけたことは自覚しているのだから。
なのに、やっぱり会うと立村くんは、美里の知っている立村くんのままだった。
立村くんはずっと美里のことを待っていてくれたではないか。しかも、ちゃんとひっぱっていってくれ、結局「別れ話」……美里は素直にそう受け止めていないが……が出た後も、詩子ちゃんが着替え終わる頃まで側にいてくれた。
心臓がどくんどくん言いつづけていた。「時辻」と書かれた和室の中で、思わず自分の嫌いな、
「お願い、付き合いやめるなんていわないでよ」
と縋りつくパターンになるところを間一髪回避できたのはなぜだろう。
ちょこっと指をくわえて考えてみた。楽屋の前で帯を締めてもらっている詩子ちゃんをずっと眺めながら、美里はふと思った。
──そんなに私の望む付き合いが出来ないっていうんだったら、あんたの望むつきあいってのがなんなのか教えてもらえばいいことじゃない。なんだ。私、聞けばよかった。
──貴史と同じくらい私のことを好きだってことじゃない。あの人がとうとう、私に告白したようなもんよね。立村くん、きっとあんたは気付いてないと思うよ。私のことを振らなくちゃって思っていたんだと思うよ。きっと、私をめいっぱい傷つけたと思って落ち込んでると思うよ。けどね。
切り札が見つかった。美里はもう一度、微笑んだ。
──だから、安心して言いたいことを、こう言う風に言ってくれればいいんだよ。立村くん。
可愛い着物だと美里は素直に思った。化粧しないでこのまんま、舞台に立ってくれればよかったのに。詩子ちゃん、なんで桃太郎ルックなんかしたんだろう。聞きたいけれど立村くんの助言もあったので飲み込んだ。たぶん今の中学の友だちが何かものを持ってきておしゃべりしていった。その子たちがいなくなった後、もう一度覗き込み呼んだ。
「詩子ちゃん」
髪の毛をお母さんらしき人に結ってもらっていた詩子ちゃんがようやくこちらを向いた。
「美里、来てくれたの」
「うん。初めて日本舞踊って観たけど、面白かったよ」
まずい、と気付くのが遅かった。「面白い」はちょっと禁句だ。
「あら、美里ちゃん、本当にお久しぶりね。ほらこちらの椅子に座ってどうぞ」
詩子ちゃんだけがどういう顔をすればいいのかわからないようすで戸惑っている。化粧を落とした後、妙に頬がてかてか光っていた。お土産を詩子ちゃんのお母さんに渡し、美里はそっと座った」
「あれ、変だったよね」
「変って、踊りが?」
「やっぱりそうなんだ」
踊り終わった直後はほっとしていたのか笑顔も見えたのに、今はすぐに表情が暗くなる。立村くんの言った言葉もまんざらはずれてはいないのかもしれない。
「ううん、すごく可愛いって思った。桃太郎さんみたいで」
「もも、たろう?」
完全に逆効果だった。貴史の助言をもっと聞いておくべきだった。美里は出された和菓子の包を手にとり、時間稼ぎに食いついた。
「だから、本当は誰も呼びたくなかったのよ。美里」
「どうして? いいじゃない」
「よくなんかないって。私だって本当は、もっときれいな衣装着たかったもの、でも」
お母さんが間に入って肩をすくめた。
「詩子ちゃんまだ言ってるの。やめなさい。もう終わったことなんだから」
「だって、もう」
ふくれっつらで詩子ちゃんもお菓子をつまみ始めた。お菓子入れの中身がどんどん減っていく。会話はないけれども、食べることにだけは集中してしまう。お茶をいただきながら、美里は立村くんに言われたことをいつ切り出そうか、迷った。
──相当、詩子ちゃん、むくれてるね。まあわからないでもないけどね。
お母さんが周囲の人たちをうかがいながら、小さい声で詩子ちゃんにささやいた。美里にはかろうじて聞こえる声だった。
「わかってるでしょ。詩子。女踊りなんて選んだら家がどうなると思うのよ」
「だって、最初は私、『手習子』だったんでしょ。なのに、なんで」
「いいじゃないの、上手に踊ったってみんな先生たち誉めてくれてたわよ」
「そんなんじゃなくて」
突然、詩子がうつむいた。お母さんにきつく言い返していた様子が崩れて落ちた。
「詩子、ちゃん」
「美里に観られたくなかったのに、なんでよりによって来たのよ。美里、どうして」
顔を覆い、頬を抑えた。目からはにじみ出るような涙がぽつりと落ちた。
「ほらほら、何泣いてるのよ、詩子。感動してしまったのかしらねえ、もう。感極まったって感じですよねえ」
後の言葉は他のお弟子さんたちに向けての言葉らしかった。怪しまれないように。みな浴衣姿でお茶を飲んだり伸びて寝ていたりとさまざまだった。
「私、来ない方がよかった?」
「いてほしい時にいなくて、来なくていい時になんで来るのよ。それも羽飛と一緒に」
「貴史も気を遣って、楽屋には行かないって言ってたんだよ」
「いつもそうよね、美里。いつも、美里は羽飛といつもくっついてたよね。どうして」
「どうしてもこうしてもないよ。だって親友なんだよ、あいつとは」
「私といるよりよかったってわけ」
後は涙で聞こえなかった。なぜ、貴史の話にまで飛ぶのかわからなかった。踊った後の感動を味わっているのではないということはわかる。でも、いったい詩子ちゃんは美里に何をしてほしいのだろう。
そうだ、この感じは前にも味わったことがある。
詩子ちゃんが青大附属を受験すると言い出した時。
受験に失敗して落ちたと聞かされた時。
──詩子ちゃん受けたってしょうがないってみんなわかってたのに、なぜ。
お世辞にも詩子の成績は、青大附属に受かるようなものではなかった。なのに、べったりと、
「美里が受けるから私も」
と言い出したことが美里はうざったかった。それが本音だった。
なんで小さい頃から一緒だった貴史とは、一日中一緒にいてもそんな気持ちにならないのに、詩子ちゃんにだけそんな気持ちになってしまったのだろう。
──だから、なんで私にばっかりくっつきたがるのよ。
美里はつぶやきながら、なにげなく詩子ちゃんを避けていたような気がする。わざと貴史と家に帰ったり、児童館に通ったり。トイレに行くのも、帰りもいつも一緒。そういうべたっとした付き合いが美里は耐えられなかった。
──詩子ちゃんが私と大の仲良しでいたいってのはわかるよ。でもね、程度ってものがあるよ。
──私も詩子ちゃん傷つけたくなかったから言わなかったけどね。
──もしかしたらもう一度友だちになれるかも、て思ってたけど。やっぱりだめだよ。
「詩子ちゃん、いい。貴史待ってるからそろそろ帰るけど、ひとつだけ伝言があるんだ」
切なげに涙をこすっている詩子を美里はじっと見つめていた。
「なに」
「詩子ちゃんの踊り、『玉兎』っていうんでしょ。今日は『十五夜お月さん』の日なんだって。で、詩子ちゃん今日初舞台なんでしょ。一生の思い出に残るように、十五夜お月さんの舞台として、兎になればいいんだよって、きっと先生たちがそう決めたんじゃないかって、ある人が言ってた」
隣りで様子をうかがっていた詩子ちゃんのお母さんが、驚き眼で近づいてきた。
「あら、美里ちゃん、いいこと言うのね」
「いいえ、私の友だち、というか、あの」
彼氏、とは使えなかった。
「とにかく、私の知ってる人が、そう教えてくれたのよ。詩子ちゃんがずっとこの踊り好きじゃないんじゃないかって気にしてて。心配してくれたのよ。でもその人、自分からは絶対に言わないって決めてたみたいで、私を通して教えてあげてくれって言ってたの」
「誰、その人って」
「立村くん。私が今付き合っている人」
ゆっくり、この部分に力を入れた。
「詩子ちゃん。私、今日の踊りがいいのか悪いのか全然わかんない。でも、その前の踊りを見ていて寝ていた貴史が、詩子ちゃんの踊りは面白がってみていたよ。面白いものを面白いって言って、そんなに悪い? 私、詩子ちゃんがもっと堂々とすればいいのにって思うよ。悪いけど、今日詩子ちゃんと話をしてもとの友だちに戻れるかな、って思ってたけど、やっぱり今の詩子ちゃんとは楽しくないよ。私、もっとべたべたしたとこのない詩子ちゃんと話したかった。なんかわかんないけどずっとむくれてて、口尖らせて、きれいな衣装着れなかったってふくれてる詩子ちゃんを慰めるために来たんじゃないもん。これからどうなるかわかんないけど、今のところは」
美里は立ち上がった。詩子ちゃんのお母さんに聞こえないようにそっとささやいた。
「もし、また何か踊る時あったら、連絡ちょうだいね。私、今の詩子ちゃんとは付き合えないけれど、いつかは前みたいな友だちになりたいって思うから。その時まで毎回観にいくから」
詩子ちゃんは目をこすって美里をにらみつけた。動揺の色が隠せなかった。
「美里、どうしてそんなこと言うの。私、あんなに仲良しだったのに」
「今の私が仲良くしたいのは、いいことはいい、悪いことは悪い、って自分の考えを持っている人なの。青大附属ってそういう奴ばかりだよ。立村くんだって、人見知り激しいし言いたいことなかなか言ってくれないけれど、すごく私や貴史のことを大切にしようって思ってくれてる。だから、私、付き合うって決めたんだ。もしかしたら振られるかもしれないけど、今、詩子ちゃんの『玉兎』の由来教えてもらって初めて分かったよ。口を利いたことのない女子に対して、ここまで心配してくれて、思いやってくれるところがわかるから、かなって」
「ねえ、美里、どういうこと。立村くん、ってまさか」
「そうよ。時辻くんと同一人物。詩子ちゃんの想像した通りだよ。詩子ちゃん、立村くんのことを背の低い冴えない奴だと思ってたみたいだし、たぶんそう思う人がほとんどだと思う。でも、私はそんなのをとっぱらっても、やっぱり立村くんと付き合いたいって思うもん。そう思わせてよ。詩子ちゃん。めそめそ泣いてないで、私が詩子ちゃんとしゃべりたいって思うようなとこ、見せてよ」
美里は立ち上がり、ゆっくりと椅子を畳んだ。
「じゃあ、またね」
詩子ちゃんがまだうつぶして泣いている。お母さんがまた背中をさすって慰めの言葉をかけている。でも美里は振り返らなかった。戸口で一礼したのは、詩子ちゃんの姿が隠れるから。
──今の詩子ちゃんとはしゃべりたくない、か。
──ひどいこと言っちゃったって思うけど、でもそれが、今の私の本音。
急いでもと来た舞台脇の通路を通りロビーに戻った。一気に明るくなる照明器具。目が暗さになれていたせいかふらついた。
「貴史、貴史」
つぶやきながら青大附属の清風を探すと、貴史がぼけらっとした顔をして座り込んでいた。一時間近く待たせたことになる。
「ごめん、長すぎたね。許して」
「あとでおごれよ。『竜宮上』のソフトクリーム」
「やあ、あれって350円もするんだよ!」
「そのくらいしたっていいだろ。ばあか」
大あくびをしたところみると、相当眠かったのだろう。
「じゃあ行くか。ところで美里」
「なによ。詩子ちゃんとは会ってものを渡した。それだけ」
ガラス張りの玄関から出て、美里は貴史が口篭もっているのに気が付いた。
「会ったか」
「だから詩子ちゃんに」
貴史は答えず、ネクタイを緩めてポケットにつっこんだ。
「あんた、何が言いたいのよ」
「言いたいわけじゃねえよ」
──あんたの言いたいことわかってるよ。どうせ。
外に出ると、幅広い雲がたっぷり浮かんでいるのが見えた。空いたところに光る青空の色がちらついていた。明日からはまたお天気が崩れるという。歩いていると暑いくらいなのに。
「貴史、あのね」
美里は空に向かって言葉を発した。
「私、さっき立村くんに振られたんだ」
案に反して貴史は答えを返さなかった。黙って口笛吹いて歩いている。
「けどね、明日、『告白』って形にひっくり返してやるんだ」
「はあ?」
つかつか寄ってきて、顔をまじまじ見るのはやめてほしい。
「お前、何考えてるんだ?」
「立村くんにね、ちゃんと教えてあげなくちゃだめだよ。一生懸命本当のことを言ってくれたんだったら、いいことにちゃんとなるんだって、証明してあげるんだ。私と貴史がやってきたこと、無駄じゃなかったのかもって、ねえ、思わない? 思うよね、きっと」
「美里言ってること、俺にはアイドントノー状態」
もう一度貴史は、アップテンポの軽い口笛を吹き始めた。