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第二章

第二章


1 立村上総は直感で判断する


 夜、母から再確認の電話が入った。十月五日、志遠流のおさらい会にて肉体労働がほとんどの手伝いをさせられることに関して、「絶対にいやだなんて言わせない」と気迫のこもった口のききかただった。

 ──次の日から中間試験だってのに。

 父がまだ帰っていなかったこともあり、通話時間は二分くらいだった。一人暮らしだと電話代もばかにならないからだとか。コレクトコールでかけてこなかっただけでもまだよしとしよう。

「わかった? それじゃあ、近くなったらもう一度電話するわ。忘れてたわ、上総、四日の土曜日にリハーサル、あと九月の最後の日曜に衣装あわせとつぼ合わせがあるのよ。そのあたりも明けておいてよ。一応あんたも舞台がどんなものか見ておかないとわけわからないでしょう」

「当日だけって約束だろ!」

「舞台は裏方さんががんばってくれてはじめて成り立つものなのよ。あんたも子どもじゃないんだからその辺、学習しなさい」

 一方的に切れた。日本伝統芸能というのは「礼」を大切にすると習った。母の電話の切り方は、どう考えたって礼儀に叶っているとは思えない。鼓膜破けそうだった。

 居間にかかっているカレンダーに、ちゃんと赤マジックでしるしをつけた後、上総は自分の部屋に戻った。風呂から上がって髪は生乾き状態。夜は秋一杯の匂いに満たされ、鈴虫の声が聞こえる。そのままベットに転がり込んだ。


 ──明日、羽飛しゃべってくれるかな。

 後味悪かった。帰り道、後悔したけれどもどうしようもなかった。

 素直に電話を入れて、「さっきはごめん、あれうちの母さんなんだ」と言えば済むんだろう。でも

「たかがそんくらいのことでなんでかけてくるんだよ」

と返されそうでためらった。

「お前の母さんって、すっげえ怖いよなあ。お前のこと名前で呼び捨てにしてたっけさ」

 そのくらいのことは言われそうだ。決して悪意を持っているわけではないけれど、でも上総は聞きたくない言葉ばかりだった。

 ──やっぱり、明日謝ったほうがいいよな。

 青大附中に入学してから一年半、どうやってD組でうまく学校生活を過ごしていくか、どうやってむかつく先生たちをやり過ごしていくか、どうやって冷たい視線の女子たちから逃れるか、そればかり考えてきた。貴史や美里のように、人気者であっさりさらりと流してくれるいい友だちもいる。たくさんいる。

 ──でも、いつどうなるか、わからない。

 男子で鏡をちょこちょこ見るのはナルシストの証。学校ではめったにしない。人前で自分の顔をまじまじと見つめるのは、せいぜい顔を洗う時くらいだ。

 不安で息苦しくなった夜なんかは、顔の凹凸にどのくらい黒い影が漂っているかを探した。涙の洪水状態で目がはれぼったくなっていないか、口がぽっかり開いてないか、唇を無意識のうちに尖らせていないか。

 全部確認して、自分の理想とする顔に整え、やっと背を向ける。

 いつもの儀式を上総は寝る前にしていた。枕もとの鏡を胸の上で広げ、じっくり身だしなみを確かめた。見慣れた落ち着かない瞳や細い唇が映っていた。色がなまっちょろくて、周りからは、

「そうか、やっぱり立村は本条先輩とホモの関係か。でお前が女役?」

と頭痛いことをささやかれたりする。父に似て痩せ型なところと、母と同じ人を吸い込むような瞳が備わっているのは、まあそんなもんかとも思う。

 だが、ひとつだけ物足りないものがあるとすれば。

 ──どんどん追い抜かれてるよな。

 つま先で布団を軽く蹴り上げてみた。入学式の時は羽飛貴史よりもたっぱがあったから後ろに並んでいたのにだ。二年に上がってから、屈辱にも二人間を置いて前に並ぶ羽目におちいっている。クラスの男子十五人中九番目の背丈というのは、中くらいなんだろうが、それでも低い。

 ──何もかも、みんな抜かれてるよな。

 上総はしばらく鏡を眺めた後、伏せて枕もとに置いた。

 ──とにかく、明日、羽飛に謝ってしまえばいいんだ。昨日は悪かったって言えばそれですむ。

 ──あいつは、俺があれだけひどいことをしたにも関わらず、いまだにふつうの友だちでいてくれてるんだから。

 

 二週間前、クラスの宿泊研修二泊三日、黄葉山に泊りに出かけた時のことだった。

 もともと上総は担任の菱本先生と相性が合わず、長時間のバス移動で体調も崩していたりして、かなりみっともない姿をさらけ出していた。真夜中に廊下をふらふらして担任にとっつかまり、その後高熱だしてぶっ倒れ二日目はホテルで寝込んでしまった。美里とも言葉の行き違いで大喧嘩してしまうわ、羽飛にもあきれはてられるわ、さんざんだった。

 このくらいのことなら、まだ二学期に入ってから「ごめん、あの時は」と頭を掻くだけですみそうなことだろう。美里にもすぐあやまったし、貴史も土産をもってきてくれたりした。上総の方が自分を改めればすべて片付くことだらけだった。

 ──三日目のあのことは、いくら仏の羽飛でも許せないだろうな。

 上総ひとりで策を練り実行した、宿泊研修三日目、「明星美術館に向かうバスからの逃亡劇」。

 計画遂行には全く悔いなどない。。

 ことが終り菱本先生に美術館内で殴られた時も、次の日学校で説教された時も、上総は全く何も感じなかった。わかってくれない相手には自分なりの冴えたやり方で勝負するだけだ。あの日以来上総は、菱本先生に対してフィルターをかけて接することに決めていた。どうしようもない相手には、自分の方で合わせていって求めるものを奪い取るそれしかないと感じたからだった。反抗する気もない。「菱本先生はこういう人なのだ」と割り切って、受け流そうと決めていた。

 シャッターを下ろして付き合うと決めてしまえば楽なのだ。

 ──羽飛にも、そうできれば楽なんだけどな。

 

 でも貴史、美里にはそれができなかった。

 もちろん自分でそうしたいと思えばそうできただろう。あの日に狩野先生が教えてくれた、

「君はこれから、鋭すぎる自分の感覚を、飼いならすすべを覚えていけばいいんです」

 何度も繰り返しつぶやいた言葉だった。なんとか自分の大切な友だちふたりが訴えてくるものを、さらっと受け止めて、「そういう奴なんだ」と割り切ろう、必死にそうしてきた。上総にとってふたりは、青大附属で初めて出会い、ずっと一年半友だちでいてくれた相手だ。いやな気持ちにさせないで、ずっといい友だちでいられるように、自分を変えていきたかった。

 でも、うまくいかなかった。菱本先生を始めとする、ずかずか心に入り込んでくる大人にはいくらでも冷たく見返すことができるのに、あのふたりにだけは無理だった。

 貴史が上総に対して冷たい態度を取ったのも、もしかしたら思い過ごしなのかもしれない。

 美里がやはり、腫れ物に触るように宿泊研修の話をしないのもそこにあるのかもしれない。

 ふたりにはいやってほど感謝しているはずなのに、どうしても最後のハードルが越えられない。

 ──いい奴なんだ。なのに、どうしても、「そういう奴なんだ」って割り切れない。

 ──こんな奴のどこがよくて清坂氏は俺なんかと付き合いたいって思ったんだろう。

 言葉の裏に見え隠れする、

「なんでそこで受け入れようとしないんだよ、お前」

と責める響きが耳鳴りのようにものをいう。

 ──フィルターで、そんなのを気にしないようにろ過して、ふたりともいい奴なんだって思えれば。

 ふたりが思いっきり傷ついていることを、上総は感じている。事情が事情とはいえ大嘘ついて脱出してしまったことがどれだけ許しがたいことか、重々承知だ。だからなんとか、伝わってくる感情に、頭を下げたかった。なんとか、なんとかしなければ。


 夜が明けた。朝五時半。いつものように間違いのない格好に着替えた。上総の言う「間違いのない」とは、決して校則違反か否かということではない。あぶらっぽい顔してないか、ふけが肩に落ちてないか、ボタンが取れていないか。などなど。服の乱れは心の乱れではない、不潔感により自分の居場所がなくなる危険信号の点滅だ。いつどうなるかわからない、そういう場所が学校なのだから。

 ──危機感はいつも、持ってないとまずいよな。

 父は深夜に戻ってきたらしく、全く起きる気配なしだった。もうテーブルの上にパンやオレンジジュースを置いたままにしていても腐らない季節だった。自分の分だけさっさとこしらえて平らげた。もちろん、料理した後、スクランブルエッグの匂いが服に移っていないかを確認するのも忘れなかった。

 外の天気を台所の窓からうかがうと、だいぶ木の葉が赤茶けてきているのが見て取れた。やはり僻地の我が家なのだろう。天気が違う、気候も温度も全く異なっていた。うちだけは、秋だった。


 自転車で四十分弱。遠回りして通う分早く家を発てばよい。必死にペダルをこぐ必要もなく、とろとろと進んだ。自分の住んでいる町から離れるとだんだん、知り合いの連中とすれ違う率が高くなる。同じ遠距離自転車通学をしている奴とか、汽車を使用して通っている奴とか、実家に用があって帰った下宿生とか。

「はよっ!」

「おおっす」

「おっさきー」

 みんないろいろな挨拶言葉を発して去っていく。笑みと頷きで上総は返した。商店街もまだ静まっている中、すいすいと進んだ。学校に到着した。すでに自転車置き場には、羽飛の、サドルのやたら高い自転車がつけられていた。白い塗料でサインまでしてあるところが奴らしかった。

 ──羽飛がいるってことは、清坂氏もいるのかな。

 ──うちが近いからあまり早くくるなんてことないんだけどな。

 謝るんだったら、お互い早いうちにけりをつけたほうがいい。誰もいないうちに。本当は重たい足取りを、無理して軽くするために上総は走った。街路樹の、手のひらほどある葉が青いまま、道端に数枚、落ちていた。


 二年D組に向かう階段の途中、降りてくる南雲秋世、奈良岡彰子とすれ違った。この二人もずいぶん早いものだった。いろいろあったとはいえ二年D組の公認カップルになってしまっている。見た目からすると南雲の方が「いわゆるアイドル系の顔立ち」ゆえに、「肝っ玉母さん」的明るさの奈良岡さんとは不釣合いに見えた。しかも惚れぬいているのは南雲であり、今では毎日家に迎えに行くという騎士ぶりを発揮している。

「立村くん、早いね」

「それよりうちのクラス、もう誰か来てたか」

 南雲に尋ねた。奈良岡さんが笑顔で答えた。南雲は一瞬だけつまらなさそうな顔をしたが、すぐに何も考えてない風に戻った。

「羽飛くんと美里ちゃんがね、なんか話で盛り上がってたよ」

「なーんかさ、いづらかったんで、俺たちは鐘鳴るまで、中庭にいようかなあってさ」

「ははあ、早朝の語り合いか」

 茶化しても南雲は怒らなかった。当然、とばかりに大きく頷いた。否定するのは奈良岡さんだった。

「ううん、私は保健室に寄ってくるの。立村くん、秋になってだいぶ、倒れなくなったでしょう。今の時期結構、季節の変わり目で風邪ひく人多いんだって。立村くんも体弱いんだから、気をつけなくちゃだめだよ」

「どうもありがとう。ほんっと、俺もそう思う」

 じゃあ、と片手を挙げて教室に向かった。まだ朝の八時になるかならないかだった。踊り場の外を覗くと、運動部の朝連のために走り回っている連中がうろついていた。通学ラッシュはこれからだ。

 二年D組の扉を握り締め、ゆっくりと開けた。

 覗きこんでから声をかけるつもりだった。すぐに気付かれ、呼ばれた。

「立村くん、おはよ!」

 美里の、少し作り加減の明るい声だった。なんで「作った」と思ってしまうのか、自分でもわからなくて、もごもごと答えるだけだった。

「おはよう、ふたりとも、早いなあ」

 羽飛の顔をまず覗き込んだ。

「立村か。ちょっと来いよ」 

 やっぱり恐れていた通り笑顔での手招きではなかった。少しにらみが入っていた。ブレザーとネクタイを外して椅子の背中にかけ、自分の席で片足外して座っていた。

「ああ、あのさ、羽飛」

「いや、なあ美里、さっき話していたんだよなあ」

 上総の言葉を遮るように、貴史の手は美里を指差した。

「美里、ほら、再来週さ、藤野の踊りの発表会行くって言っただろ?」

「うん、言ったよ」

 ──なんか、羽飛も作った言葉使っているような気がする。

 背中に窓枠が影をこしらえていた。貴史の背中、白いシャツの上に十字架を背負わせたかのように見えた。

「立村知らないだろうなあ。あのな、俺と美里と小学校の時同じクラスだった奴で、藤野って子がいるんだけど、今度の踊り発表会があって日曜日、お前から美里を借りなくちゃなんないんだ。ジェラシー燃やされる前にあらかじめ報告しといたほう、いいだろ?」

 立ちすくんだまま、上総は貴史の前髪を見つめていた。若干くせがあるのはドライヤーでえせリーゼント風にこしらえたからかもしれない。眉とひたいが丸見えだが、顔はさほど大きく見えなかった。目線が鋭いせいだろう。やっぱり、口調が親しげなのに反して、まなざしがきつい。

「別に。いいよ。そんなの」

「そっか。じゃあ、美里。立村の許可が出たからここで予定立てるか」

「いいよ、でねでね」

 貴史の前にいる奴はまだ来ていなかった。さっそく美里は上総を素通りして椅子に横座りした。ちゃんと足をそろえて流した。ニュースキャスターのお姉さん風座り方だった。貴史も今度は美里のみに顔を向け、目は穏やかに話し出した。目が穏やかだった。

 ──踊り発表会って、再来週の日曜?

 昨夜、カレンダーに赤丸をつけた日だった。

 いきなり背を向けるのもなんなので、もう少し机に近づいて立った。片手を広げたままぶら下げて、耳を傾けた。ふたりは完全に上総のことを無視してしゃべりまくっている。


「ほら知ってるでしょ。一学期にこずえが日舞教室のチラシ持ってきたことあったでしょ。あの写真の子なんだ。立村くん」

 申しわけ程度に美里が説明してくれた。その「藤野」という苗字の元同級生は美里ととりわけ仲がいいらしい。話の内容からだいたい把握した。

「でね、今度初舞台を踏むから来てねってチケットをもらったのよ。やっぱり同じ学校の奴同士で行くのが一番だよね。貴史と花束持っていこうって思ったの。立村くん日本舞踊とかそういうのに詳しいでしょ。どういう花持っていった方がいいと思う?」

「んだよな。俺もそれ知りたいよな。俺だったら花束もらったって母ちゃん姉ちゃんに分捕られるだけだから、ありがた迷惑だと思うぞ」

 ふたり、四つの眼が上総を見据えた。さらっとだが重たい。

「いや、たぶん、花束は、喜ばれるんじゃ、ないかな」

 語尾をどもらせながら上総は答えた。花束よりもむしろ、一万円を包んでもらった方がいいとは母の言い分だがその辺は誤解を招くので言わないでおいた。

「ふうん、あっそ。でね」

 しらけた口調で美里がつぶやき、ふたたび貴史と話を弾ませた。

「場所がね青潟市民会館なんだけど、どうなのかなあ。日本舞踊の会って、私たちがいきなり楽屋に入っていっていいようなもん? お高い人たちばかりって感じで追い出されたりなんか、しないかなあ?」

「やっぱし制服で行かねばなんねえのかよ」

「私は卒業式に来たようなグレーのロングワンピースで行こうって決めてるの。でも貴史はねえ、まさかねえ。トレーナーとジーンズはよくないよ」

 ──いや、別にいいんじゃないか? そんなあらたまらなくても。

 会話を振ってくれるならば、ちゃんと答えてやったのに。

「立村くんなら絶対スーツで行くよね。ちゃんとネクタイ締めて」

 もう一度顔を上げてふたりがねめっちくみる。

「いや、細いのは締めるかもしれないけど、そんな大げさでなくても」

 言いかけたところで、

「あっそ、わかった。でさあ貴史」

 切り方が冷たいのなんのったらなかった。少しむっとしたけれど、割り込む気もなかったので黙って聞き役に徹することにした。うっかり口走って後悔しないとも限らない。

「たぶん、詩子ちゃんが踊るのってすっごく可愛い着物きると思うんだ。女の子が踊るものって袖が長くて髪の毛にかんざしたくさんつけたので。詩子ちゃん背が高いからきっと、似合うと思うんだ」

「さあな、俺はその辺全然わからねえよ。母ちゃんも何がなんだかって言ってたぜ。金持ちだなあってさ」

「ふうん。十月五日、日曜日よね。こずえが持ってきてくれたチラシにも、ええっと」

 胸ポケットの生徒手帳に挟み込んだチケットらしきものを取り出し、上総の方にちらつかせ、後、貴史に一枚手渡した。

「ほら、志遠流、って書いてる。知ってる? 立村くん? この前は知らないとか言ってたけど」

「そうだよな、なんか裏がありそうな言い方してたよな、お前」

 ふたり、もう一度呼吸を合わせて上総を射た。

 射られた拍子に窓の照り返しがまぶしくて、瞬きを数回。目の前には綿を細く引きのばしたような雲が広がっていた。理科の授業で習ったうろこ雲だった。

 ──まさか、このふたり。俺にあてつけてるのか。

 虫に食われてしまいそうだった。言葉が出てこないのは、あの雲の子のような虫たちに全部食べられてしまったからかもしれない。ぼこぼこ孔が開いていきそうだった。すうすう気持ちが冷えていきそうだった。上総はひたすらこらえた。美里、貴史から飛び出す言葉の虫たちが食い破ってきそうだった。

 ──なんでそんなこと言うんだよ。

 かばんの柄を握り締めた。美里と貴史、交互にじっと見返した。

 

 ──でもやっぱり、本当のことは言えない。

 二人が話す内容から考えて、上総が母の下僕としてこき使われる「志遠流日本舞踊おさらい会」に出かけるらしいことは確実だと思った。青潟市民会館の大ホールで日曜日、十月五日。これ以上何も言うことはない。

 また、美里の友だちという「藤野」という子にも聞き覚えがあった。

 一学期の段階では、日舞教室の写真に載っているというところまで記憶してはいなかった。断じて、あの段階では藤野という美里の友だちについての記憶は残っていなかった。彼女と知り合いだから動揺しているのでは、とかんぐられるのはお門違いだ。

 ただし、八月十五日に行われた「ゆかたざらい」にて、上総はひょんなことから「藤野詩子」という中学生が志遠流のお弟子さんにいることを知った。会話らしいものはほとんど交わしていない。ただ、向こうは上総のことを覚えているかもしれない。ちょっとだけ楽しくない出来事が起こったので、思い出したくない対象の可能性が高い。自分の身に置き換えてみても、かっこ悪いところやうそがばれた場面なんかを、貴史や美里に見られるのは、避けたい。

 ──まさか、清坂氏の友だちが、あの藤野さんだとはな。

 彼女だってそうだろう。上総の母と多少なりともやりあったちょっとした出来事……ひそかに上総は「玉兎事件」と呼んでいる……は、決して自分の名誉になる話ではない。そういうところを見られた相手が、仲良しの友だちの「彼氏」だったとしたら。 

 ──小学校時代の俺の暗い過去を、清坂氏に全部知られたらどうする、ってのと同じことだよな。

 上総の判断としては、

 ──その子、知らないよ。

 と答える方が自然のように思えた。もちろん嘘をつくことにはなってしまうし、ばれた時にはまた「藤野とやましいことしてたのか」とかんぐられる恐れはある。でも、「どうして知ってるの?」と聞かれて「ただゆかたざらいで名前知ってたから」と言い訳するだけではまずいような気もした。言うならばすべて、きっかけ、「玉兎事件」、ついでに上総の恐ろしい母上沙名子さんとの顛末も語り尽くさねばならない。巧くごまかせればいい。でも、貴史と美里にそんな小細工は通用しないだろう。嘘をつくなら徹底しなければ。一年間付き合ってきた経験そのもので、そう思う。

 ──嘘もこれ以上つきたくない。やっぱり黙るか。

 約五秒。そのままだった。


 だいぶクラスの連中も教室に集まってきていたけれども、まだまだ空席だらけ。南雲と奈良岡さんがそろそろと入ってきたが、二人の世界を心地よく教室の隅でこしらえているらしい。気が付いているとは思えなかった。

「立村くん」

 口を切ったのは、やはり美里だった。

 貴史がじっと見据えたままでいる。

「もういいかげんにしてよ! 黙ってたらわからないよね!」

 声は響かなかった。様子をうかがう奴もいない。ただ上総の方には怖いくらいはっきりと響く声だった。

「美里、おいおい」

「全然白状してくれないんだよね。立村くん、あんたって人は!」

「何やってるんだよお前」

 貴史が机を軽く叩いた。上総にも視線を投げながら、

「でもまあ美里の言いたいことも俺は分かる。立村。お前さあ、知ってるんだろ、藤野のこととかさ。お前の母ちゃん、日本伝統芸能のなんとかかんとかしてるって言ってたからさ、知ってるんでないかって俺も思ってたんだ。お前がストレートに言わねえから」

「貴史ももういいよ。こんなに私だって立村くんに、隠し事しないように言いやすく持って行ってあげたのにさ、なんでいつも黙ってるのよ! 別に知られたって困ることじゃないじゃない。もっと私たちの話に割り込んでくればいいじゃない。なんでそう様子見して黙ってるの? いつもいつも、いっつも!」

「ごめん、俺もそれは」

 言いかけたとたん、美里はぴしゃっと貴史の机を平手打ちした。本当は上総を一発張り倒したかったに違いない。

「あんた口癖だよね、『俺が悪かった』っていつも言うよね。本当にそう思ってるわけ? 口癖だからつい出てしまう、ただそれだけじゃないの? 本当に頭を下げたいんだったら、ちゃんと土下座するなりなんなりしてよ。いつもそうなのよ、立村くんってば口先ばっかりで」

「おい美里、それは言いすぎだぞ」

 思いがけず貴史が割って入ってきた。上総はただ視線を逸らさずに言葉を受けるのがやっとだった。静かに美里の罵詈暴言を受け止めていると思われたのだろう。だんだん気付いたらしく周りの連中たちが様子をうかがう気配がした。声を低くしてほしい。周りの「また立村やらかしたのかよ、またまた」という雰囲気が苦しい。

「美里よくわかった。落ち着けよ」

「私、貴史に言ってるんじゃないの! もうがまんできないのよ。なんで立村くんいつも隠し事ばっかりするのよ。宿泊研修の時だって」

「これ以上言うな!」

 上総が言葉を虫食われている間、貴史は数回止めるしぐさをしていた。手で何度も机を叩いていた。其の手がついに美里の腕を引っつかみ、ぶるんと揺らした。

「美里止めろ」

「もう知らないから!」

 美里は音を立てて椅子を机の下に押し込み、上総を一秒しっかとにらみつけると、かばんを持ったまま教室から出て行った。貴史が難しい顔をして机に向かいうつむいているのが意外だった。

 上総はとうとう意味ある言葉を投げられなかった。当然、あやまることもできなかった。


「あのさ、羽飛」

「お前追っかけねえのかよ!」

 今度は貴史が上総を怒鳴りつけた。一歩うしろずさりして周囲を見渡すと、D組教室内が興味深々といった空気に満たされている。完全、舞台、主役だった。

「いや、俺が追っかけていったら、たぶん逆上するんじゃないかな。俺だったらたぶん放っておいてほしいと思うはずだから」

「お前本当にバカか? お前本当に美里の彼氏やってるのかよ」

「それとこれとは別だってさ。なんか俺も今顔合わせたら、ひどいこと言って傷つけてしまいそうな」

「だからお前は救いようのないあほんだらだっていうんだよ! どけよ」

 美里に対しては腕だけだったが、上総に対しては肩を突き飛ばした。男女の差だ。貴史は一点に集まった視線をひとつひとつつぶすように見据え、舌を鳴らした。

「勝手にしろ、ったく」

 扉を開けて出て行った。ちょうど締まるのと同時にチャイムが鳴った。みなばたばたと席に付き始める。朝自習の用紙を箱から取り出し始めた。数学の問題だった。具合が悪くなりそうで上総はほとんど見ずに裏返しした。

 ──じゃあどうすればいいんだよ。

 

 結局、その日は帰りの会が終わるまで美里、貴史ともに姿を現さなかった。いわゆる「さぼり」だった。南雲も何か言いたそうな顔をしていたけれども、あえて先週の全英ヒットチャート100についての話でごまかしてくれた。隣席の古川こずえからも、

「なんで羽飛まで行くわけ? あんたほんっとに、ガキよねえ。ま、あんたが追っかけていかない理由も私にはわかんないことないけどね。ふう」

 と、バカにしてるんだか思いやってくれてるんだかわからないお言葉を賜った。

「おい、どうした、羽飛、清坂いきなりエスケープだあ? いったいあの幼なじみコンビ、珍しくもなあ。あとでたっぷり絞り上げるとするか。さ、授業始めるぞ」

 菱本先生も、よりによってなぜこの二人がいないのか、納得のいかない表情を浮かべていたけれど、取り立てて上総に「どうした、あいつらは?」と尋ねはしなかった。一学期までだったら、おそらく上総に対していろいろ

「清坂とやりあったんだってなあ。お前も全く、清坂の思いやりを全然受け止めようとしなかったんだろ? 少しは大人になれ」

と説教されていたに違いない。宿泊研修三日目バス脱出事件以来、菱本先生も上総に対しては距離を置くよう心している。上総にとっては非常に好ましい状態だった

 もっとも、菱本先生と相性のいい生徒たちから仔細を聞き出したらしい。

 大して心配するようなことでもないさ、と笑顔で明日以降、説教することを考えているらしかった。

「じゃあな、明日、おさぼりのお二人さんにはたっぷり油を絞ってやるからな」

 笑顔で職員室に戻っていってしまった。たぶん上総に事情聴取したところで、ろくなことにはならないと割り切っているらしい。

 

 一日、ふたりが出席していない授業中、上総は真剣にノートを取った。文系授業ならいつも通りだが、数学の解き方をすべて写し取るのは骨だった。しかも数学担当の狩野先生は、上総のために小学生レベルの問題を補習教材として渡してくれる。自分にとってはありがたい内容だが、美里、貴史にとっては「けっ」の一言だろう。黒板の数字やアルファベットを、いわゆる「写生」している気がした。丸写しは骨が折れた。

 ──たぶん、見落としはないよな。

 六時間目終了まで、とうとうふたりの席はつるんと光ったままだった。

 うろこ雲が消えた後、空には金色の太陽を隠し持った綿雲がベールを張っていた。クラスの連中と「じゃあな」「お先」、言葉を交し合う間、上総も空と同じベールを被り続けていた。どうかミスがないように、どうか虫食いで破れていませんように。祈りながら。 


 美里に怒鳴り返すことは簡単だっただろう。いくらなんでもあそこまで嫌味ったらしいことを言われ、あてつけがましくも「立村くんいいかげん白状しなさいよ」という態度をされたら、文句のひとつふたつ言いたくなる。貴史も昨日の意趣返しなのかどうかわからないが、そうとう根に持っていたことは確かだった。

 謝ろうと思っていたのだ。ちゃんと切り出そうとしたのだ。

 なのに。

 ──俺はほんっとに、救いようないことしてるんだよな。

 ──あのふたりが、あいつらに似合わないようなことしてしまいたくなるくらい、許せないことしてるんだよな。

 ──あんなことされて俺も当然だよな。傷つく権利なんてないよ。

 ──謝っても口先だけだと思われるのなら、何も言わないほうがましなのかな。

 ──どうすればいいんだろう。

 手元の大学ノートを五冊、取り出した。

 国語、数学、英語、社会の歴史、あとは茶道。

 文字はたぶんコピーしても読み取れるだけ、濃く書いている。


 印刷室へと向かった。ここだと青大附中生の特権で無料コピーを取らせてもらえる。個人コピーは禁止のはずだけれども、その辺は大目に見てもらっている。評議委員の用事がある振りをして、図書館から借りた本を重ねて持っていった。大きなコピー機の蓋を開け、ガラス張りのセット部分にノートを開き載せた。二枚ずつ刷るよう「2」のボタンを押し、作動させた。

 なんどか繰り返し、残りの茶道、英語、数学、国語、すべての複製を完成させた。摩擦熱でかなり高温な用紙をテーブルに載せ、いち、にと分け、半分に折りたたんだ。印刷室を出る頃には、廊下側から見える空もだいぶ黒味を帯びてきていた。風が揺らす音は夏と変わらなかったけれど。


 ふたたび二年D組の教室へ向かった。やはり二人は戻っていなかった。

 持ってきたコピーの束をもう一度数え直し、端と端をきちんとあわせて折り目をつけ、それぞれ机に突っ込んだ。

 誰もいない。両手を合わせて双方の机に頭を下げた。

 ──どうか明日こそ、元に戻れますように。


2 羽飛貴史は経験で判断する


 ──だから言っただろっての。できねえことするからだっての。

 美里の足は速い。駆け出していったのだろう。でも貴史には十年以上つちかってきた、「美里を追いかけるための触角」が備わっていた。まずは玄関に向かうことにした。生徒玄関のたたきで靴を脱いでいるところを発見した。幸い、鍵は内側だ。出ていく分にはかまわない。遅刻者をチェックするために先生たちはみな、来客用玄関に移動している。

「美里、待てよ」

「今日は学校休むから」

「休むって、お前ここに来てるじゃねえか」

「だから帰るの」 

 口を尖らせて、貴史の目をじっとにらんだ。

「だからなあ、お前、なんで途中で暴露しちまうんだよ。こういうとこがお前、女だよなあ」

「女、女、って言わないでよ!」

 まずい、火に油を注いでしまっている。しかたなく貴史もかばんをあごでささえながら外靴に履き替えた。

「どこ行くんだ? 反省会やるんだったらつきあうぜ」

「別にあんたに来てほしいわけじゃないもん」

「ばあか、このまま俺が教室に戻ったらどうするんだよ。まず立村にはにらまれるし、他の女子連中には文句言われるし、菱本さんにはお前がいない理由を問い詰められるし、と三重苦もいいとこだ」

「要するに貴史、自分のエスケープ理由を私にかこつけてるでしょ」

 吐き捨てるようにつぶやき、美里がかぎを外した。掛け金式だ。すぐに開いた。

「悪いか、第一お前が持ちかけたんだからな、これからどうするかは考えないとまずいだろ」

 しばらく掛け金をひとさし指でもてあそんでいた美里。もう一度貴史に向かい、

「あんた、出席日数足りてるの」

「二年になってから休んでねえもん」

「あっそう。大学の中庭でどう」

 昼間から午前中、制服姿でうろついても補導員に声かけられないですむ、先生に見つかっても言い訳ができる場所。となったら附属高校をすっとばして、大学構内にもぐりこむのが一番だ。


 青潟大学附属の場合、附属高校、大学の授業でも学校側からの許可があれば出席することができるシステムを取っている。立村がたまに公認でドイツ語と英語の授業にもぐりこんでいるのもその辺に理由がある。貴史と美里はあまり関心がないのでどうでもいいのだが、大学のキャンバスをうろついても怪訝な顔をされない環境というのは嬉しいものがあった。高校の授業でも、美術や音楽などで同じ扱いをされている奴は結構いるらしい。

 天気はくずれそうでくずれない。傘が必要なのかいらないのか、よくわからない。はっきりしないのに、風だけは強くぶつかってくる。ごわっとひらいた手の平程度の落ち葉がころがっていた。

 美里はなれたもので、すぐに大学中庭のベンチを見つけて座り込んだ。女子大生たちが生協で買い込んだチョコレートを分け合ってはしゃいでいる。煙草を吸っている野郎連中、みなそろいにそろってジーンズ姿だ。中に一部、濃いグレーの薄いチェックを着ている連中もいないことはないが、たぶん高校生連中だろう。目をつけられるんでないかと最初ひやひやしていたけれども、どうやら中学生をいじめて喜ぶような連中はあまりいないようだった。

「貴史、最近けんかしてないんじゃないの? 青大附中に来てから、あんたおっとなしくなったね」

「別に殴るような相手いねえもん」

 靴の紐がほどけていた。結び直しながら汗をぬぐった。

「小学校の頃はすごかったのにね。何があんたをそうさせたわけ?」

「なんてっか、なあ」

 考えてみるとわからなかった。むかつく奴や気に入らない連中がいないことはない。クラスの中には弱いものいじめをするような奴がいないから手を出さないだけであって、個人的にはむしゃくしゃするものがたしかにある。

 ──たとえば、南雲あたりだなあ。

 会った時から虫の好かない相手というのはいるわけで、貴史にとっては規律委員の南雲がどうもその対象らしかった。一言二言交わす時に、妙に気取っている態度が気に入らない。小学校時代だったら。

「立村が押さえてるだろ、しゃあねえよ」

 ようやくこれだけ答えた。美里相手だ、そのくらい本音言ったっていいだろう。

「そうなんだ。まさに隠し事得意な人だからね」

「しゃあねえだろ。こっちだって一発ぶんなぐってやろうかと思ってたら、あっという間に立村が話をつけてなんもなくなってしまうんだ。俺だってまあ、片付いていれば意味なくバカやる必要もねえから、そのままなあなあになっちまうっていうか、さ」

 欲求不満がたまっているのは否めない。貴史は美里の顔を覗き込んだ。納得顔で頷いていた。

「だけどね、貴史」

「なんよ」

「いい時はいいけど、あのままじゃあまずいよね。私、今ほんっとにそう思ったよ」

「今って、ああ今な」

 貴史ももし、他に誰もいない場所だったら、ためらうことなく二発くらいぶんなぐっているだろうと思う。朝っぱらからアザ作るようなこともしたくない。向こうだって、やり返すだろう。本気出したら怖い奴だ、立村は。


 朝、美里が学校帰りに持ちかけたときはさすがにおどろいた。

「立村くん絶対、詩子ちゃんの出る舞台のこと知ってると思うんだ。詩子ちゃんのことは知らなかったとしても、志遠流とかいう日舞の流派については知らないわけ絶対ないし、お母さんが日舞やお茶の関係の人詳しいってのも聞いてるはずよ。貴史、昨日立村くんがお母さんらしい人と一緒にいたけど、違うって言われてどうのこうのって言ってたじゃない? だったらさ、とぼけるのもいいかげんにしろって、言ってやりたくならない? 向こうの性格考えると絶対に、素直に口を割るなんて思えないから、私と貴史とふたりで」

 ──一芝居、かよ。

 当然貴史としては止めたかった。あたりまえだ。仮にも貴史にとっては親友で、美里にとっては彼氏の立村をだ。騙すなんてやり方が汚すぎる。

「やめろよ。こけたらお前立村から三行半突きつけられるぜ」

「だってさ、私も貴史も、そのくらいのことたんまりされてるんだよ! 昨日から言ってるじゃない。私だって何度も、言いたいことあるなら言ってよね、って口すっぱくして言ってるのに、全然聞いてくれないんだよ! だったら、荒療治するしかないじゃない!」

「お前なあ、難しいこと言ってるんじゃねえよ。それだったら、えさでつりあげりゃいいじゃねえか」

「えさってなによ」

「ほんとのこと言ってくれたら、ちゅーのひとつでもしてやるって」

「変態!」

 すねを蹴られて逃げられた。捕まえるのに一苦労した。ブレザーの襟を掴んで思いっきり突き飛ばしてやった。通りすがりの高校生たちに、

「やだねえ中学生、女子いじめてるよね」

 と、非常に勘違いしたネタを飛ばされた。

 結局校門で説得されてしまった。

 だから話をあわせた。

 ──でもな、やっぱりやだよなあ。尾を引くぜ。

 別れ際の立村が、唇をかみ締めてうつむいていた姿が、二週間前のあのことをいやおうなしに思い出させる。

 宿泊研修三日目帰り際も、貴史はぎりぎりのところでがまんして家にかえった。襟ぐり掴んで追い詰めたけれども必死にこらえた。


 ──やったことが悪いとか、そんな先公みたいなことは言わねえよ。ただ。

 バスの中から脱走したことに関して立村は一切言い訳しなかった。次の日、菱本先生により、ある程度かいつまんだ形で事件の真相を知らされたけれども、立村は一言も言い返さなかった。冷たい目で二言三言尋ねただけだった。

 いつかは話してくれるだろう。そういう気持ちでどうしようもないということを打ち明けてくれるだろう。これでも仲良くやってきたんだから。美里だって彼女だし、貴史だって親友だ。

 ずっと待ちつづけてきた二週間。しかし、立村の口は堅かった。

 何事もなく、何も起こらず、当り障りのない言葉だけが続いていた。


「わかった。美里。どうするこれから」

「これからって?」

「教室にもどっちまうか、それとも大学の中で遊ぶか」

 答えはだいたいわかっていた。

「戻ってまたあの不景気な面見て、何が楽しいっていうのよ。向こうが頭にきてるのはわかってるから、こっちだってなにするかわかんないもん」

「わからねえなんて、言うなよ。しゃあねえなあ。美里、今日金どのくらい持ってるんだ?」

「ええっと、千円くらい」

 そのくらいあれば十分だ。自転車もある。

「大学の図書館行ってみっか。あそこまで補導員も来ねえだろうし。そこでさ、バンでもかじりながらひとつ、考えるとするか」


 美里もようやく笑顔を取り戻した。こいつだって二週間というもの、ひたすら悩んでいたはずだ。自分の彼氏だというのに、何も教えてもらえなかったときたらプライドもずたずただろう。立村は美里がどれだけあの宿泊研修中神経を痛めていたのか想像すらしてないに違いない。どのくらい泣いていたのか、どのくらい心配していたのか、たぶん。

「あとな、確認するが、美里」

「なによ」

 大切なことを、もう一度、きちんと確かめておきたかった。

「お前、立村と別れる気はねえんだな」

「あたりまえでしょ!」

 ──これが本音だよこいつ。


 五時間同じ顔をつき合わせていると飽きるんでは、とよく親からも言われるが、なぜか美里相手だとそんなことがなかった。会話が続く続く。切れない。合同家族旅行でも、いつもふたりが車の中で繰り広げる会話のおかげで誰も酔わないという、副産物つきだ。

 図書館ではみな必死に、分厚い本を積み上げて勉強していた。閲覧室ではさすがに熱く語るのもためらわれるので、ロビーの長いすを占領し、チョコロールパンだけ一袋買い込み、ふたりで分け合って食べた。


「要するにさ、立村にいいかげん隠し事するのを止めろって言いたいだけだろ」

「そうよ。それだけよ」

「でも直接言っても無駄だって思うんだな」

「思うよ。何度も口で言ったけど、だめだったんだもん」

「そりゃそうだわな。だったら」

 ひとつの案を授けることにした。正直、貴史もやり方が汚いと思うのだが、男としては本音でもあるわけで。

「美里、しばらくあいつと口を利くのをやめろ。一緒に帰るのもやめろよ」

「え?」

 両手を口に重ねて、咳き込む美里。食いすぎたんだろう。

「つまりだな、男としては、自分の付き合っている女が相手にしてくれなくなったらまず焦るだろ。俺も鈴蘭優ちゃんが……」

「あんた生で会ったこともないくせに、ばあか」

「うるせえ。立村もお前の知ってるとおり、お前に、まあ、その、あれだってことは男の立場からしてよおくわかる」

「うそばっかり」

 口ではそういうものの、ソファーのクッションを指先でもみもみしているところみると、まんざらでもなさそうだ。おもしろい。

「そういう相手がだ、いきなり相手にしてくれないとなったらどうする?」

「でも男子だよ。やきもち妬くなんてこと立村くんにかぎって」

「いや、世の中わからねえぞ。まあ代わりに俺と帰ったっていつものことだからあいつも何も言わないだろうよ。他の奴と帰るとか、あとはそうだな、大学にもぐりこむか小学校時代の連中と遊んでるか、言い訳してとにかくあいつから距離を取れ。そうしたら」

「うそだあ」

 美里は目を真ん丸く見開いた。

「そんなことしたら、立村くん、あっさり」

「わかってねえなあ、美里。お前、男の心理を全然理解してねえよ。ったく、だから女は神経逆なでするようなこと平気で言うんだよなあ」

「なによ、あんただってその倍言うくせに!」

 一瞬、後ろの方から、ちっと舌打ちする音が聞こえた。カウンターに座っている、白いトレーナー姿の若い男性だった。

「もっと小さい声で言えよ。ばあか。美里いいか、よっく聞け」

 仕方ない。貴史の経験的男性心理のレクチャーをするしかない。聞きたくてならないのが見え見えの美里が、ずいっと貴史の方に顔を向ける。肩と肩が触れ合わんくらいくっついてしまう。相手が鈴蘭優だったら話は別だろうが、なにせ一緒の布団に寝てもトークで盛り上がるのが関の山の自分らだった。勝手に想像する連中にはばーか、と言ってやろう。

「あのな、男はしつこい女が好きじゃねえんだ。別にしな作って迫るのも気持ち悪いが、こっちの方からべたっとやられると、やる気がだんだんなくなってくるもんなんだ」

「ははん、だから一年のあの子を振ったわけなんだ」

「関係ねえだろ! とにかくだ、うるさくされると気に入っていた相手ともしゃべる気なくなるし、かえってうざったくなるってわけだ」

 妙に納得顔で頷く美里がいる。素直にしてりゃいくらでも教えてやるのにだ。反省しろ、とつぶやいた。

「ふうん、そうなんだ。でも相手によるんじゃない? それか貴史の趣味か」

「大抵の男はそういうもんなんだ。立村が本条先輩とホモの関係でない限り、奴にも通用するはずだ」

「難しいところね」

 おいおい、お前の彼氏だろ、とつっこみたくなるが、ここは落ち着けと自分に言い聞かせた。

「けど、一学期の奈良岡と南雲の一件みただろ? 全然奈良岡のねーさんがその気なかったのに、あの女ったらしがすべてをかなぐり捨てて追い掛け回したっていうあれだ。俺からしたらどうも、きな臭い匂いがするんだが、結局くっついちまったんだからしゃあねえな。あれがいい例だろ」

「彰子ちゃんの場合は特別だよ。男子は性格のいい子が好きだっていうただそれだけでしょ」

 いちいち言い返す美里を説得するのは面倒だ。貴史はひとこと、じゃがっしいとつぶやいた。

「黙れ。要するに俺が伝授したいことってのはだ」

 声を低めて、両手に息を吹きかけて。

「立村に追いかけさせろ。美里がもう自分のことを好きでないんでないかって不安にさせてみろ。そうしたらあいつだって男だ。必死になんとかしようとするに決まってる。無視されたらその時は、お前もあきらめろ」

「あきらめろって?」

「ま、そういうことはねえと思うがな、あれだけお前のことを清坂氏とか言ってるくらいなんだからなあ。別に好きな奴がいるような顔して、しばらく奴のことを無視してやれば少しは、反省するだろうな。男はな、美里」

 最後の秘策を授けた。

「アイドルの追っかけとおんなじだ。手が届かないと思うほど、燃えるんだ」

「あんたと鈴蘭優のようにね」

 今度は貴史が美里をかばんでぶん殴る番だった。きゃあ、っと小さな悲鳴をあげつつ、尻でパンをつぶしそうになりながら、ソファーに倒れこんだ。

 羽飛家と清坂家を知る人にはごくふつうの日常なのだが、どうもこの図書館では違うらしい。斜め前のコピー機前に並んでいた五人の男女が、申し合わせたようにじろっとにらみつけてきた。

「どうする? 場所移動する?」

「そうだな、次は生協のカフェテリアだな」

 そそくさと図書館を後にした。まだ一時間目は終わっていないだろう。

 やはり空は雨が降りそうで降らない、しけった風が吹いていた。


3 清坂美里は見たもので判断する


 小遣いはかなり減ったけれども、久々のおさぼりはなかなか楽しかった。連れの相手が貴史だったから、気兼ねなかったっていうのもあるだろう。別の授業でたまたまビデオ映画が放映されていたのでこっそりもぐりこんだり、カフェテリアで贅沢してアイスクリーム付き珈琲ゼリーを頼んだり。

 四時過ぎになるまでずっと遊びほうけていたかった。

「明日は、どうする?」

「学校に戻るしかねえだろ!」

「そうだよねえ、でもさ、念のため教室に戻ってみない?」

 美里は時計の針が四時十分をさすのを確認してから中学の方角を指差した。

「だな、なんかプリント渡されてたらしゃれにならねえし」

 見事なくらいのさぼりだったから、たぶん明日、先生には呼び出しを食うだろう。それは仕方ない。あとでこずえにクラスがどんな状態だったかを確認すべく電話をかけようと決めた。


 空はまだ雨が降らなかった。途中、

「やっぱりあんたらさぼってたんだあ」

 と、他のクラスの子から声をかけられたりもした。でも貴史と一緒に行動することは、すでに当たり前のことになっていた。そう思うように仕向けたのだ。一年間、クラス、教師、その他もろもろよく教育したと、美里は思う。

 いつもだと教室に誰かかしらいるのだが、今日はひとりもいなかった。いつも残っている相手の代表格、立村上総の姿もなかった。

 ──しかたないよね、帰ってるか。今日は委員会もないから、本条先輩のところに行ってるのかな。

 「本条先輩」と名前が浮かんだとたん、ちりりと心に紙の破れる音がした。

 ──きっと、立村くんは本条先輩にだけ、本当のこと話してるんだろうな。

 ──私には絶対話せないこと。

「おいどうした美里」

 うつむいてしまったのに気付かれたらしい。貴史がちょっとだけどすの利いた声で尋ねてきた。だんだんぎこぎこ声に変わってきている。

「なんでもないよ」

 掃除の終わったぴかぴかの机と床。美里は自分の机にしゃがみこんだ。まずかばんから筆記用具とノートを用意した。一枚引きちぎってメモを残した。

「何書いてるんだよ」

「菱本先生に、今日はごめんなさいって」

 

 ──菱本先生、今日はさぼってしまいごめんなさい。明日はちゃんと学校に来ますからよろしく!


「なんだよ、これ」

「ほらあんたも書いときなよ」

 貴史にマジックペンを渡した。書くまで見張るつもりでいた。

「どつぼにはまりそうな気、するけどな」


 ──先生ごめん。いろいろと事情があるんだ。人生いろいろあるってことだよな。


 お互いの名前を最後に記した。教師用の靴箱に入れておくことにした。

「じゃあさてと、万が一うちに連絡が入っていた場合の言い訳を考えるか」

「そうね、でもまあいろいろあったとごまかすしかないよね。たぶん菱本さんのことだから、すぐに連絡が行ってるとは思わないけどね。大学の図書館で調べたいものがあって貴史をひっぱっていったら、あっという間に時間が経ってしまってたってことにしようか」

 美里なりに考えた案である。学校がどれほどのものかと割り切っている両親に言い訳するのはそれほど辛くないけれど、やはりさぼりはまずいだろう。特に原因が立村くんのことだとしたらなおさらだ。

 ──なんかわかんないけど、うちの親嫌がってるらしいもんね。あの人のこと。

「わかった。口裏あわせとく」

「お願いよ。さてと、なんかプリントかなにか入ってるかな」

 机の中を覗き込んだ。学校を休んだ次の日、必ずなにかかしら入っているものだった。たぶん誰かが入れてくれたのだろう。左手でかき回してみると、しゃかしゃかと音がした。かなりたくさん入っている。ノートかもしれない。引っ張り出してみると、「学年だより」「保健委員会だより」に混じって分厚いコピーが十枚くらい、二つ折りで押し込まれていた。

「なんだろうね、これ」 

 言いながら開いた。

 ──立村くんの字だ。

 書道の楷書に似た細い文字だった。和歌でも短冊に書いて飾っておきたい、そんな細々とした文字だった。見忘れるはずがない。名前がなくてもわかる。

「おい、美里、これってさあなんだよ」

 窓際で背中のシャツを橙色に染めてかがみこんでいた貴史も叫んでいた。

「わかってるってば」

「わかってるっておい。お前のとこにも入ってたのか?」

 窓から差し込んでくるいきなりの夕焼け色。うす曇の雲が突然裂け、溢れている輝きがまぶしかった。さっきまであんなに暗かったのに。貴史の全身を染めていた。どう思っているのかは光に溶けて見えないけれど。

「これ、立村くんのノートまるまるコピーだよ。英語も、国語も入ってる」

「あいつコピーしたのかよ」

「今日の数学、立村くん空間図形のこんな難しい問題、自分で解けるわけないじゃない。いつだって狩野先生に小学生レベルの易しい問題渡されてるんだよ。絶対に難しい問題写すわけないじゃない。それに英語だって」

 あせってめくり取り落とした。しゃがみこみ、広げた。

「私だったら絶対こんな難しい訳つけないよ。引用文まで写したりしないよ。全部立村くん、明日の分の予習分、全部作ってくれてる」

「あいつがか」

 拾い集めてもう一度たたんだ。手がコピーのインクでうっすら艶のある黒味を帯びた。ハンカチでこすろうとしたとたん、鼻のところがつんとして息が詰まった。目を閉じたとたん、まぶたが熱くなった。

「おい、どうした美里」

「違うよこんなの」

 貴史が橙色の光から飛び出してきた。背負った影が長く伸びた。近寄られると体温からか、じわっと首筋が熱くなった。たぶんさっきまで浴びていた夕日の余熱なのだろう。かえって泣ける。美里はコピー用紙を机に叩きつけた。他の関係ないプリント用紙が滑り落ちた。

「私、こんなことしてほしかったからじゃないって、どうしてわかんないのよ! どうしてよどうしてよどうしてよ!」

「おいおい何いきなりわめいてるんだよ」

「わかってないのよ全然! 立村くん、これで罪滅ぼししたつもりなんだよきっと。立村くん、これで私にあやまったつもりでいるんだよ。ばかみたい。そんなことしてほしいからじゃないんだよ。どうして立村くんには言葉が通じないのよ。もういやだよ」

 言葉は返ってこなかった。いつもなら貴史も立村くんについてかばう言葉を口にするはずなのに、窓の方を向いて顔を見せないようにした。美里の机に尻を押し付け、身体を折り曲げていた

「貴史、わかってるよね、あの日のこと。なんで立村くんが宿泊研修三日目の日、大嘘ついてバスから飛び降りて美術館に逃げ出したのか。理由わかってるよね」

「ああ」

 首を振りたくてならなかった。わかってるなら言ってほしかった。

「A組の人たちと合流するのをやめさせたかったんでしょ。ただそれだけでしょ。そりゃわかるよ。前の日だって立村くんずっと菱本先生に食って掛かってたもん。A組の人が退学するから集まっているだけだから、ほっといてあげてほしいって思うのが立村くん流だよね。わからないわけじゃないけどでも」

「まあな」

 貴史の返事は短い。

「でもどうして、私に言ってくれなかったのかわかんないよ。ううん、貴史にだって一言も、ぎりぎりまで言ってくれなかったんでしょ。わざとこずえの隣に座って、わざとものを外に落とした振りして、わざと菱本先生に泣きついて下ろしてくれって嘘いって、あんな情けないことしてまでして、なんでそこまでしなくちゃいけなかったのか、私にはわかんないよ」

「俺たちだったら、もっとうまくやったよな、美里」

 こらえきれない、身体を顔を焼き尽くすのは、きっとあの夕日だ。沸騰してしまいそうだった。

「だいっきらい、あんな奴、だいっきらい」

 涙曇の眼に、テレホンクラブの電話番号がプリントされた深紅のポケットティッシュが見えた。貴史がポケットから出したものだった。まだ手付かずだ。コピーの上にぽんと置いてくれた。


 家に戻ったのはかなろ遅かった。親の顔を覗き込んだが何も知らされていないらしくいつものように洗濯の手伝いをさせられた。やっぱり菱本先生、その辺はわかってくれている。怒られたくないのは当然だ。明日言い訳しておこうと決めた。優等生っぽく、「図書館で本読んでいてはまった」が一番だろう。

 部屋に戻ると一通、手紙が机の上に置かれていた。

 銀杏のイラストで飾られたきれいな封筒。

 差出人は「藤野詩子」だった。

 ──詩子ちゃんだ。

 ──一年ぶり、だよね。

 すぐに封を切った。たった一枚だけ一筆書きの便箋が入っている


 ──清坂美里さま

 お久しぶりです。お元気ですか。

 このたびは、いらしてくださるそうでありがとうございます。

 ぜひ、楽屋にもいらしてください。

 お待ちしてます。


 木々が揺さぶられて葉が落ちた時、きっと幹は淋しく思うのだろう。

 来てほしくないというのが見え見えだ。

 言葉どおりに受け止めれば、感謝で一杯なのだろうけれども。

 ──前の詩子ちゃんだったらもっと、いっぱい書いてくれてたよね。

 決して文章が巧いわけではないけれど、以前の詩子ちゃんだったらもっと、学校のこととか、クラスのこととか、家族のこととかをたくさん綴ってくれたはずだった。なのに、用件と心のこもらないありがとうだけ。

 ──きっと詩子ちゃん、まだ私のことを許してないんだ。

 封筒にしまおうとしてびんせんをひっくり返した拍子に、銀色の文字がちらっと横切った。目に入るか入らないか、本当に小さく。本文よりも丸っこい文字だった。きっと封印する寸前に書き込んだのだろう。目に近づけてゆっくり読んだ。


 ──時辻さんという人、青大附属にいますか? 

 ──今度会った時、教えてください。


 三回読み返した。何度読んでもわからない。

 ──時辻さんってだれ?

 ──少なくとも二年にはいないけど。

 ──詩子ちゃんの知り合いなのかなあ。

 「立村」ではないのかと何度もみ返した。でもどうみても「時辻」としか読めなかった。別の関係で、詩子ちゃんには知り合いがいるのだろうか。

 

 「今度会った時、教えてください」とあるところみると、十月五日に美里と会って話をしたいという気持ちはあるのだろう。別の日に会いたいから電話をよこせってことかもしれない。どちらにせよ、落ち着かないので美里としては時間を作って会いたかった。顔を合わせて一対一で話をしないと、伝わるものも伝わらない。あのばか彼氏で泣きじゃくった後の美里としては、なんとか口ですべてを伝えたかった。

 ──詩子ちゃんに会おう。絶対に。

 ──私が、青大附属に行こうと思った理由をすべて話そう。

 ──これで詩子ちゃんとはこれっきりになるかもしれないけど、でも。


 こらえて知らん顔で楽屋を尋ねてゆくのだろう。立村くんだったらきっとそうするだろう。何事もなかったかのように友だちづきあいをしつづけるのだろう。立村くんのように。

 でも、明日から美里は立村くんを一切無視しつづける予定だった。

 立村くんのやり方を真っ正面から否定してやるつもりだった。

 後ろには貴史もついている。

 相手のやり方を別の友だちで真似るのだけは、絶対にいやだった。


 ──私は、あんたが間違ってるってこと、絶対に認めさせてやるんだから。立村くん。あんたが何も言わないから私が怒ってるってこと、わかってもらわないと、絶対に困るんだから。私だけじゃない、貴史だって絶対そうなんだって。


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