幸せなら
「幸せなら手を叩こう。さあ、彼を囲んで」
その声は燃える薪の上に居る、棒に縛り付けられた男に向けて発せられ、男は目隠しをされているせいで周りが見えていなかったが幸運か、生まれたままの姿をした男女が気が狂ったように囲みだしているのを見なくて済んだ。しかし、体が焼けることには代わりなかった。
「足を踏み鳴らし、神に乞うのだ。光が自分の身へと注がれるように」
その声は身ぶりをつけているかも判らない闇から発しているのに、それを聞いた人々はそれにしたがい、阿鼻叫喚とも似つかぬ声を腹の奥底から絞りだし、擦れる砂の音ばかりが耳に残りそうである。
男が気づいた頃には足が焦げており、流石に抵抗をしないわけにもいかず、微かに揺れるくらいの抵抗でもしてみることに価値があると思い試すがむなしく、刺すような痛みが炎が包んだところにした。
そして、歌に合わせて炎は勢いを増しながら男をくるんで呑み込み、痒みを纏った痛みを伴ってゆっくりと燃やされ続けられる。
ああ、無情。
そんな言葉が思い浮かび、焼け落ちた目隠しの後にはもっと似合う言葉が見つかった。
「幸せそうだ」