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第一話『入学×身体測定』

 完全に不幸であった。


 別段必死にテスト勉強をする必要もなく、成績は常に上位クラス。県外に出るつもりもなかったので、地元の比較的偏差値の高い高校への進学は約束されているようなもの。『彼』はそう思っていた。


 しかし、世の中良い事ばかりではなかった。


 中学三年生の春に行われた、年に一度の身体測定。その際に行われる、ROD簡易適性検査。その検査で、彼は適正有と診断されてしまった。


 それからというもの、彼の家はお祭り騒ぎ。ROD能力者である両親は、絶対に息子を《国立ROD研究高校》、通称《ROD研》に入学させると躍起になっていた。息子の意見は無視して。

 

 普段から奇行が目立つ父はともかく、温和そうな母ですら「血を絶やしてはならぬ」といった、訳の分からない事を口走っていた。ROD能力者とはそういうものらしい。


 このようないきさつで彼はROD研に入学することが決定してしまったわけだが、その時、彼はまだ「なんとかなるだろう」と甘い考えを持っていた。今まで大して努力する事無く結果を手に入れてきた、彼の悪い癖だ。


 しかし、その甘い考えはすぐに消し飛ぶことになる。





――――――――――――





「――本当にここに入学したんだな、俺……」



 ROD研の校門前の桜並木で立ちつくし、校舎を見上げる『彼』こと『飛桐(とびきり) (かける)』は、先週入学式を終えたにも関わらず、未だにいまいち実感がわかないといった表情で呟いた。


 息子の進学先を勝手に決めるなんて、いくらなんでも横暴だろうとか、やっぱりあの時もう少し声を大にして、自分の意見を押し通しておけばよかったかなとか、そんな愚痴や後悔が頭の中を駆け巡るが、それも一瞬の事。春の日差しの暖かさによる眠気には勝てず、結局はいつもの「なんとかなるだろう」で決着を付けた。


 考え事が一つ消えると、今度は別の事が気にかかる。今まで考えないようにしていたが、目につく生徒の多く――とはいえ半数未満――が素っ頓狂な格好をしている。入学式の時ですらこの有様だったので、式の最中に変な声が出そうになったのは記憶に新しい。


 RODの適性があるのだからそんなものか。自分も明日から右手に包帯くらいは巻いた方が良いのだろうか。などと考えながら、翔は玄関に向かって歩き出した。



「あ、翔くん!」



 と、後方から聞き覚えのある声がしたので、翔は足を止め振り返る。同じくROD研の制服を着た、髪の長い少女が翔に向かって手を振り駆け寄ってきた。翔同様、ハイセンスな着こなしや装飾はしていないので、周囲から浮いているように感じる。



「よう、瑠那(るな)。そういえばお前もROD研に入学したんだっけ」


「『そういえば』って、昨日電話で話したでしょ? また同じ学校だし、明日は一緒に登校しようねって。それなのに翔くんってば、連絡もなしにさっさと行っちゃうんだから……」


「悪い、聞いてなかったわ。というか通話相手がお前だって事も知らずに適当に相槌打ってた」


「ひどい!? ていうか翔くん、誰かもわからない相手からの電話に出るの?!!」



 翔に弄ばれている彼女は『星野(ほしの) 瑠那(るな)』。翔の家の隣に住む幼馴染だ。

 

 幼稚園、小学校、中学校と、翔と同じ所に通っており、昔から親しくしていたが、このように、基本的に翔から雑な扱いを受ける事が多い。



「それにしてもよかったぁ。私昔から頭悪くて成績良くなかったから、もう翔くんと同じ学校に行けないと思ってた」


「それは俺も同じだ。なのに、まさか高校までお前と同じになるなんて……何なの? ストーカーなの? 帰ったら部屋に盗聴器とか仕掛けられてないか調べた方がいいかな、俺」


「さっきから何なの!? 翔くんは私の事が嫌いなのかな?!!」


「いや、別にそういうわけじゃないけど……」


「もう……とにかく、明日からは一緒に学校行こうね。約束だよ?」


「わかったわかった。その代わり、朝はちゃんと起きろよ。モーニングコールなんかしてやらんからな」



 翔がうんざりした様子で溜息を吐くと同時に、学校のチャイムが鳴る。それにワンテンポ遅れて、瑠那がハッとした表情になった。



「そうだよ! 今日は朝からRODの本格的な適性検査を含む身体測定があるって……! ほら、早く行かないと! 入学早々遅刻はマズいよ!」


「ん? んー……なんとかなるだろ」


「ならないよ! ほら、行くよ!」



瑠那が翔の手を掴み、校舎に向かって力強い足取りで歩き出す。この時は二人とも、まさかあのような事になるとは思ってもいなかった。





――――――――――――





 それから、翔と瑠那の二人は何とか遅刻ギリギリまでに教室に入り、朝のHRを受ける事ができた。ちなみにROD研では各学年、A~Dまでのクラスがあり、二人とも同じB組だった。


 その後、暫定の担当教員(正式なクラス担任は各クラスの能力の傾向や比率を見てから決定され、翌日発表される)からの説明を受け、男子は第一体育館、女子は第二体育館で身体測定を行う事となった。



「えーと、次は……あの列か」



 身長、体重、視力、聴力、レントゲン――おおよそ全ての項目を埋めた翔が最後に目指したのはRODの測定の列だ。


 早く自分の能力が知りたくてうずうずしている生徒が多いらしく、他の測定に比べてえらく長い列が出来上がっている。


 今からこの長蛇の列に並ぶのかと、翔は一瞬眉をしかめるが、どうせやらなきゃいけないのだからと諦め、しぶしぶといった様子で列に並んだ。



「……それにしてもなかなか進まないな。何やってんだ?」



 翔は列から顔を出して測定の様子を覗き見る。ヘッドギアを付け、目を閉じた生徒に対して、白衣の職員が何か語り掛けていた。



「ふぅん……催眠誘導をして潜在意識を引き出してるってとこか。一人一人が長いわけだ」



 などと考えている内に測定が終わったらしく、モニターに結果が表示される。



『種別:魔術系B 能力系統:火炎術系C』



「《魔術》の《火炎術系》か。ポピュラーだな」



 他人の診断結果を見て、翔は一人呟く。



 RODは《種別》によって、大きく《魔術系》と《超能力系》に二分される。


 魔術系は発動のために、触媒となる呪文の詠唱や杖、魔法陣などが必要になるが、触媒そのものが妄想の補助になるため発動がしやすい。


 超能力系は念動力や瞬間移動といった直接的な発動となるため、触媒が必要ない。しかし、その分妄想を補うのが難しく、空想と現実の区別がついていないレベルのイタい人でなければ、強力な能力を使いこなすことはできない。また、魔術系に比べ、超能力系のRODが発現した例は少ないとの報告がある。


 そして《能力系統》。これはそのまま能力の系統で、検査の際に大雑把にどのような系統の能力かが表示される。しかし、具体的に何ができるのかは、本人にしかわからない。


 

 最後に、種別と能力系統の項目に表示されたアルファベット。これは能力の適性や強度をわかりやすく表したランクだ。上からS、A、B、C、D、E、Fといった具合にランク付けされる。一般的なROD能力者は、それぞれB~C程度であり、両方B以上なら優秀な部類とされている。



「次の方、どうぞ」


「お、俺か」



 物思いに耽っている内に翔の番が回ってきたらしく、職員に呼び出され、椅子に座る。


 職員が翔の頭に先程見た物と同じヘッドギアを付け、よくわからない機材をしばらく弄った後、翔に語り掛ける。



「それでは検査を開始します。目を閉じて、リラックスしてください。そして、自分の中の欲求、憧れを、心に強く思い浮かべてください」



 ヘッドギアの効果もあるのか、翔は思いの外すんなりとリラックスする事が出来た。しかし、職員の言う通りに進めようとするも、自分の欲求や憧れというものが漠然としすぎていて、うまくイメージできずにいた。


 いくら考えてもイメージできない。こういうのは考えすぎたらリラックス状態が解けてしまって駄目なんじゃないか? 微睡む意識の中に雑念が混ざり始める。時間にすればほんの一瞬の事だったのかもしれない。しかし、翔には数分の事のように感じられた。


 そして、翔は考える事をやめた。



(……なんとかなるだろう)





「――――はい、終了です。目を開けてください。結果が出ますよ」


「……ん? 終わったのか……」



 職員の声で翔が目を覚ます。いつの間にかヘッドギアは外されていた。


 寝ぼけ目でモニターに目をやる。今まで何だかんだで乗り切っていけたんだ。今回もそれなりの結果だろう。などと考えながら。



――しかし、現実は非常だった。





『種別:魔術系E 能力系統:飛翔術系F』





「……は?」




今までの根拠のない自信は、一瞬にして砕け散った。

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