プロローグ
全ては一冊のノートから始まったと言われている。
日本の十四歳の少年が書き記した、妄想の丈を詰め込んだノート。所謂《中二病》だとか《黒歴史》だとか、そのように呼ばれる類のモノ。
ある日、少年はいつものように自室でノートを手に取り、妄想全開で魔術の呪文の詠唱を行っていた。特に好んで詠唱する炎の呪文。いつものキメポーズ。普通ならば何も起こらない。妄想の中の自分に酔い、余韻に浸るだけ。そのはずだった。
しかし、その時は普通ではなかった。
少年がポーズをとると同時に実際に炎が発生。少年の部屋は炎に包まれた。
幸い、自然の炎ではなかったためか、炎はすぐに消え、少年やその家族も無事ではあったが、この事件は世界を大きく震撼させた。
妄想の具現化――通称《ROD(Realization Of Delusion)》の存在が認められた瞬間である。
すぐさま世界各国がRODの研究に取り掛かり、そのメカニズムを解明。そして2XXX年……世界各地にROD能力者を育成する専門学校及び高等学校が設立。以来、家事や仕事など、日常生活のあらゆる場面でRODが応用されるケースが増加し、就職においてもROD能力者が優遇されるようになった。
世は、イタい人が社会的地位を手に入れる時代になったのである。