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007 ギルドで買い取り

「…っ……う……ん………?」


深い眠りの奥底から阿良太の意識は上ってくる。窓の隙間から差し込んで来る光で時刻的には明け方頃であることを知る。


「ここは………痛っ!!」


壁を背にして眠っていた阿良太が起き上がろうとすると、頭に鈍い痛みが走る。頭がクラクラして身体も病み上がりみたいに怠かった。周りを見渡すと、多くの人があらゆる所で倒れ伏し眠っている。眠っている人々の周囲には多くの空の杯や皿が散乱している。


「………そう言えば、確かあのまま酒盛りに突入して、それで………っ」


昨日、冒険者の登録を終えそのまま宴会に突入し、ハザル達から酒を飲まされ………と、思い出そうとする阿良太に再度の頭痛が走る。


「痛っ………つつ………完全に………二日酔いだな……」


前世のアルコール類には比べ物にならない程の酒だったが、浴びる様に飲まされた為、途轍もなく酷い二日酔いに襲われる結果となった。


頭痛と倦怠感をどうしたものかと働かない頭を働かせていると、水の入った杯と丸薬が差し出された。


「はい。これ使って下さい」


「すまない………」


水と丸薬を差し出した少女――――ぺミアに礼を言って丸薬飲む。丸薬に使われている薬草の様な物の苦みが口の中で広がり、水で押し流す様に一気に飲み下す。


少しすると、頭痛と倦怠感が少しずつだが和らいでくる。酔い醒ましか何かの丸薬だったのだろうが、気怠さは和らいでくる。


「ふぅ………助かったよ、ありがとう………えっと………ぺミアさん?」


「ぺミアでいいですよ。昨日は大変でしたね」


「ああ、まさかあんなに愉快な連中だったとはな」


「ええ、皆さん良い方ばかりですよ」


未だにそこらかしこで大の字になって眠っている連中を呆れた目で見ている阿良太と、暖かい目で見ているぺミア。他のギルド職員らしき職員が眠っている者に毛布を掛けたり、起きた冒険者に同じ様に丸薬を与えたりしている。


「あ、そうだったアラタさん。昨日ちゃんと説明出来てませんでしたから、今からでも説明していいですか?」


「……確かにそうだったな……頼む」


「了解です。じゃあ、まずは冒険者ギルドについてからですね。冒険者ギルドとは、人間領アスウェア大陸の他、獣人領ティアロスク大陸、エルフ領メルデイト大陸の三大陸の有志連合によって構成されています。それぞれの大陸の主だった都市や街等に開設されている冒険者ギルド支部があり、そこで各方面の冒険者へのバックアップが取られています」


スラスラと語るぺミアの話を聞きつつ、阿良太は思案する。この世界には少なくとも三つの大陸があり、それぞれにそれぞれの種族が住んでいるということは、その大陸は極めて大きな物ではないかと。


「次に冒険者ランクについてです。冒険者ランクにはSSからGランクまでの九ランクに分かれており、それぞれのランクで受けられる依頼やギルドで受けられるバックアップに差があります」


「ふむ……具体的には?」


「例えば、Aランクの受けられる依頼や情報とGランクが受けられる依頼や情報は違うと言うことです。因みに緊急性の高い情報はランクに関係なくもたらされます」


「まあ、確かにそうだよな………」


力無き者が無謀な依頼を受けることが無いようにするのは確かなことだが、身の危険を回避するための情報は知らされなくてはならないのだから、と阿良太は思う。


「そして、ギルドでは魔物の素材の買取を行っています。依頼には討伐依頼等があり、そこで討伐した魔物の素材、それに魔物の持つ魔石を中心に買取をさせてもらっています」


「………なるほど、だからハザル達はクレイジーラビットの肉や皮やその他もろもろを熱心に剥ぎ取っていたのか………」


昨日、クレイジーラビットを倒した時ハザル達はクレイジーラビットの肉や爪に角と、それに毛皮と魔石を死に物狂いで剥ぎ取っていた。恐らくここで買取をするためだったのだろう。


「………買取か、それなら俺も買取を願いたいのだが」


「はい!いいですよ!それでは付いてきてください」


ぺミアに買取を頼んだ阿良太はぺミアに付いて行く。ギルドの中の一室に案内された阿良太はぺミアが座った反対側のソファーに座る。


「それではアラタさん。買取の品を…………」


「ああ、今出す」


買い取るはずの素材がなかったのを訝しむぺミアに、阿良太は虚空庫の腕輪から昨日の戦闘でハザル達に譲った素材以外のクレイジーラビットの素材を出す。うち分けは切り分けされた毛皮が五枚と爪が十本、それと角が三本に魔石が三個となっている。


「………え、ええぇぇぇぇ!!?ク、クレイジーラビットの素材が!?何時の間に!?」


「ん?これから出しただけだが………」


阿良太は虚空庫の腕輪を指しながらぺミアに言う。ぺミアは目を丸くしながら呆然と虚空庫の腕輪を凝視する。


「まさかそれって…………虚空庫の腕輪………ですか?」


「そうだが………そんなに驚く程か?」


「当たり前じゃないですか!!『空間拡張の指輪』でさえも希少な物なのに『虚空庫の腕輪』なんて超希少な物じゃないですか!!」


「へぇーそうなんだ。そんな物とはねぇ………それより買取よろしく」


「え、えぇぇ……………超希少な物なのに……………でも、まあ了解です」


呆れながらもペミアは阿良太の出した素材を検分していく。毛皮の品質や状態を確認し、爪や角そして魔石の傷やら何やらの品質を丁寧に確かめていく。五分位してペミアは検分を終え一息ついた。


「毛皮の状態は良いですが、爪は十本中三本が傷有りで買い取り値が下がりますね。他の角と魔石は品質も状態もいいので………全部で金貨三枚と銀貨六枚になりますね。買い取ってほしい物は以上ですか?」


ぺミアが検分の結果を阿良太に伝え、これで終わりかどうかを聞いてくる。阿良太自身、これで終わりだと思っていたが、未だに虚空庫の腕輪の中にあったある物の事を思い出す。


「ああ、ちょっと待ってくれ。これが、まだあった」


そう言って取り出したのは黒爪のヴィシュターが持っていた双剣だった。


「この双剣ですか?一応、買取はさせてもらいますが、これは武具屋の方がよかったのでは?」


そうは言いながらも双剣を検分していくぺミアはフェミリアが使っていた様な水晶を取り出した。


「『鑑定』発動」


ぺミアはフェミリアがやった様に片手で双剣を片手で水晶を触った状態で、魔術の『鑑定』を発動させる。すると突然ぺミアは双剣を放り投げて身を引いた。


「………どうした?」


「………アラタさん、この双剣を…………どこで?」


「ん?ヴィシュターとか言った狼男に襲われた時の物だが」


恐る恐る双剣の出所を聞くぺミアになんと気なしに阿良太は答える。黒爪なんて二つ名的な物を名乗っているからにはそこそこ有名な奴だったのかもしれないが、もしかしたら自分で勝手に名乗っていただけかもしれない。


「ヴィシュター……………アラタさん、ちょーっと、待っててくださいね………」


ぺミアはそう言うと部屋を抜け出していく。ぺミアがヴィシュターの単語に反応した辺りを見ると、やはりそこそこ名の知れた奴だったらしい。


少しすると、ぺミアともう一人ギルド職員らしき男性が入ってくる。程よく焼けている肌に袖から見える腕には無数の傷があり、何よりその身に纏う雰囲気から普通のギルド職員ではないことが伺える。


「突然すまない。私はこの冒険者ギルドメリアス支部のギルドマスターを務めている、ハルゼラート・カゼルバという者だ。よろしく」


「よろしく。昨日冒険者になった深城 阿良太というものだ」


阿良太とハルゼラートは互いに握手しあう。


「早速で悪いが、ぺミアから話を聞かせてもらったのだが、黒爪のヴィシュターを倒したというのは本当か?」


「ああ、そうだ………言っておくが、仕掛けてきたのはヴィシュターだからな」


「それは心配していないさ。なんせ、黒爪のヴィシュターは賞金首だったんだからな」


ガハハとハルゼラートは豪快に笑う。変に疑われなくてよかったと安心し阿良太は一息つく。


「それでなんだがな………普通、ヴィシュター程の奴はランクCクラスの冒険者がやっと倒せるクラスの奴だったんだがな……それをこうもあっさり倒してしまうとは………お前さん、いったい今まで何をしてたんだ?」


ハルゼラートはスッと細めた目を阿良太に向ける。ギルドマスターに任ぜられることもあり、お飾りのギルドマスターではなく実力でのし上がってきたギルドマスターなのだろう。このギルドに、ひいてはこのメリアスの街に害をなす者であるかそうでないかを見極めようとしている。


「何も?ただ、昨日入ったばかりの新人冒険者な訳だが、実力が新人というわけではないぞ」


何も疚しいことはないが、なめられても癪な気がしたので少し含んだ言い方を阿良太はする。ジッと鋭い視線を飛ばしてくるハルゼラートと視線を外さない様に視線を合わせ続ける阿良太。


「確かにそうだな。まあ、何はともあれヴィシュターは倒されたし、何にも問題はねぇ。それより、ヴィシュターを倒してくれたことに、ギルドマスターとして礼を言わなきゃなんねぇ」


そう言って阿良太に頭を下げてくるハルゼラート。阿良太はなんでもないように手を振る。


「さっきも言ったと思うが、偶々だ。偶々俺に襲い掛かってきたのがヴィシュターだっただけだ」


「そう言ってもらえるとこちらとしても有難い。それで、この一軒に関してギルドから金貨六枚とFランクからDランクへの昇格を贈呈することになった」


ハルゼラートの言葉に阿良太は驚く。昨日、ギルドに入ったばかりのギルド内では新人の自分にそこまでするのかと。


「いいのか?」


「構わない。ヴィシュターを倒したんだ、これ位のことは当たり前だ。そもそもヴィシュターの賞金だったからな」


ホレ、とハルゼラートが金貨六枚を投げてくる。それを受け取り、追加で買い取ってもらった物品の金貨三枚と銀貨六枚、それと双剣の代金の金貨二枚の計金貨十一枚と銀貨六枚を袋に入れて虚空庫の腕輪に格納する。


「……それで用件はこれだけか?」


「ああ、ヴィシュターの件も片付いたし、これ以上アラタをここに拘束させておく訳にも行かないしな」


阿良太はそれを聞くとハルゼラートに礼を言って部屋を出る。それを見送ったハルゼラートはヴィシュターの双剣を見て目を細める。


「……ヴィシュターがそこまでの奴ではなかったが、それでも昨日今日冒険者になった奴が奴を殺れるのか?」


アイツは一体何者なのか。そのことがハルゼラートの頭の片隅に残り続けていた。

どうもです。『異世界はやっぱり大変だった。』を読んでいただきありがとうございました。誤字脱字の指摘やご意見ご感想などよろしくお願いいたします。

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