006 メリアスの街と冒険者ギルド
「へぇー、それでアラタは村から出て来たんだな」
メリアスの街へと続く道、そこを通る四人組がいた。直剣を背負ったザハルにメイスを背負ったスターク、それにローブを纏い杖を持つシーラ。それに阿良太の四人だった。
「両親も居なかったからな。その村にいる意味もなかったしな」
阿良太はハザル達と共にメリアスの街に向かっていた。その道中、阿良太はハザル達の質問攻めにあっていた。どこの出身なのか、なぜあんなに強いのか、どうしてメリアスの街へ行きたいのか、等々。
「でも、私たちと会わなかった時はどうしたんですか?」
「………気の向くまま、行き当たりばったりで動いたかなぁ?」
阿良太自身ハザル達に異世界から転生してきた、とも言えないので適当な嘘をついていた。俗世間と離れた山間の集落に住んでいて、そこから出てきたと。ハザル達は訝しそうな表情をしていたが、冒険者のことも知らない、と言うのを聞いてなんとなくだが納得した表情を浮かべていた。
「なんというか…………アンタらしいな」
阿良太の言葉にスタークは呆れる様に呟く。それでもなんとかなりそうだ、と三人は苦笑しながら思った。
「おっ!見えて来たぜ。あれだ」
「…………あれか」
ハザルが指さした方向を阿良太は見る。その方向の先、薄っすらとだが影が見え始める。その影は近づいていく程その物の大きさが見えてくる。大きな石の壁に覆われ、点々と配置された物見櫓に壁の上の兵士。通行用の鋼鉄製の様な門には多くの人々が並んでいる。
「そうだ、あれがオケアス王国領ラクラス伯爵伯地。その都市の1つ、メリアスの街だ」
近付いてきて人の多さがよく分かってきた。旅人、商人、冒険者、等々の様々な人々がメリアスの街に入る順番待ちをしていた。阿良太達もその列に並び順番を待った。
「ん?……おお!ハザルじゃないか!!」
「ん、おーウェリアス!!今日はお前の担当だったのか!」
門前で警備にあたっていた兵士の一人がハザルに声を掛けた。ハザルは声の掛けられた兵士と楽しそうに笑い合う。他の兵士達もそのやり取りを苦笑しながら見ている。
「どうだった?カリサハの村の依頼の方は?」
「なんとかな。ゴブリンとオークの混成部隊討伐の依頼だったが、オークの方にはオークメイジが居やがってよ。現地にたまたま居合わせた冒険者との共闘でどうにかなったが、俺達だけだったらヤバかったかな」
「へぇー、そいつは大変だったな」
「その後にも一波乱あったがな。帰る途中でクレイジーラビットの大群とご遭遇だ。それも二十匹程な」
スタークがハザル達の会話に割り込んで話す。ウェリアスは驚愕の表情を浮かべ、ハザル達の足を見る。
「………まさか、幽霊じゃぁない………よな?」
「当たり前だ。アイツが助けてくれてな」
ハザルが親指で指さす先には阿良太がいた。ウェリアス自体、ハザル達の面識のある者達との会話に弾んでいて阿良太に気が付かなかった。
「おっと、すまない。俺はウェリアス、このメリアスの街の警備部隊に所属している。ハザル達を助けてくれたみたいだな。友人として礼を言うよ。ありがとう」
「成り行きだよ。俺は阿良太、深城 阿良太という者だ。よろしく」
ウェリアスと阿良太は互いに握手を交わす。ウェリアスは握手を済ませるとハザル達の方を向いた。
「さて、お前らの番だな。ギルドカードの提示を」
「ほいほい………っと」
ハザル達はそれぞれのポーチから一枚のカードを取り出す。それをウェリアスが受け取ると、軽く確認した上でハザル達に返す。
「って、あんたのは?」
「俺はギルドにはまだ所属していないんだ。だから、ギルドカードは無いんだが………」
阿良太の言葉にウェリアスは、ハザル達が初めて阿良太と会った時と同じ様に驚愕を現す。
「なら、銀貨二枚の通行税を取らなければならんのだが…………」
通行税がいる、と言われて阿良太はどうしたものか、と思案する。阿良太自身この世界の通貨の価値もわからないし、何よりその貨幣を持っていない。
さてはて、本当にどうしたものか、等と考えていると、ハザルが阿良太の手に二枚の銀貨を渡してきた。
「細やかなお礼だよ。俺達の命の恩人をこの街に入れない訳にもいかないだろう?」
「ハザル…………すまない、感謝する」
そう言って阿良太はウェリアスに銀貨二枚を払う。
「それじゃ、改めまして…………ようこそ、メリアスの街へ」
「んで、そこの酒屋の爺さんは気前が良くてな。多めで買うと、幾らかまけてくれる」
「あそこの武具屋の大将は性格に難はあるが、腕は一流だ。事実、俺らの武器もあそこで作ってもらったからな」
「あっ、あそこの屋台の串焼きは絶品なんですよ!!私のオススメは鉄角鹿の串焼きです!!」
メリアスの街に入った阿良太はハザル達に冒険者ギルドへの道案内を頼んでいた。阿良太はギルドへの案内を頼んだのだが、ハザル達は街の様々な所を案内して阿良太がギルドに着いたのは、メリアスの街に入ってから結構な時間が経ってからがった。
「………結局、この街の殆どの所を回ったな」
歩き疲れてグッタリとする阿良太。ハザル達は未だに元気なままだ。クレイジーラビットの群れに追い掛け回されていた筈のなのだが。
「悪かった、悪かったって……んで、ここが目的地だ」
阿良太の後方で頭を搔くハザル達が指差す。煉瓦や木組みの民家とは違っており、石造りのそれは一寸した要塞の様な風貌で、そこには『冒険者ギルド メリアス支部』と書かれた看板が掲げられていた。
「さ、中に入れよ。ここで冒険者への登録ができるぜ」
スタークに押され、阿良太は冒険者ギルドの門を潜った。中の造りは外見と同じく石造りの壁と天井、床は板張りでいくつもの汚れや染みが見て取れる。二階に上がれる様の階段とカウンター、それに酒樽にいくつかのテーブル。多くの人が酒盛りをしているあたり、酒場も兼ねているのだろう。
「あらぁ~、ハザル達じゃなぁ~い。おかえりなさぁ~い」
カウンターの向こう側一人の女性がハザル達に声を掛けて来た。褐色の肌に赤と白で彩られた服を纏い、長く整えられた金髪を携えた女性。
「フェミリアさん!ただいまです!!」
「はぁ~い、シーラちゃん、おかえりなさぁ~い。元気だったぁ?」
シーラがカウンター越しにフェミリアに抱き着く。フェミリアは優しい笑みを浮かべ、抱き着いてきたシーラの頭を撫でている。
「フェミリア嬢。カリサハ村の依頼は成功したぜ」
「あらぁ~お疲れ様ぁ~スターク。村長のサインはあるぅ~?」
「ああ、これがメリアス村の村長のサイン入り証明書だぜ」
ハザルが腰のポーチから丸めてあった一枚の紙を取り出す。それをフェミリアに渡すと、フェミリアはカウンターの下から球体上に水晶を取り出し、証明書を持っている手とは逆の手をその上に置く。
「『鑑定』 対象、メリアスの村村長サイン入り証明書」
フェミリアがそう呟くと水晶は光始め、やがて水晶の中に文字が浮かび上がる。そこにはメリアスの村の村長がサインしたということが事実であるという内容が記されていた。
「確かにメリアスの村の村長のサインが入っていることが確認できたわぁ~。これで依頼は達成ね~」
そう言ってフェミリアは一度カウンターの奥へと引っ込むと一袋を持ってきた。
「は~い、今回の依頼の報酬の金貨一枚と銀貨五枚よ~。分けやすい様に銀貨十五枚にしといたわぁ~」
「わー!ありがとーフェミリアさん!!」
「分けやすいのは助かる、ありがとうフェミリア嬢」
シーラが銀貨の入った袋を受け取ると、喜々とした表情で喜ぶ。スタークはシーラの喜びようを見て苦笑しながらフェミリアに礼を言う。
「うふふ……あらぁ~?そちらの方はだぁれ~?」
フェミリアがハザルの後ろに居た阿良太に気付いてハザルに問う。阿良太はハザルの前に出て、自己紹介する。
「俺は阿良太。深城 阿良太という者だ。ここで冒険者になれると聞いて来た」
「あらぁ~、初めまして、このメリアスの街の冒険者ギルドの受付をしているフェミリアよ~」
よろしくね~、と手を振るフェミリア。優しそうな笑みは阿良太も笑みを浮かべる。
「それじゃぁ早速、冒険者登録しちゃいましょうか~」
フェミリアはカウンターの下から一枚のカードを取り出す。何かの金属で出来たそれは、ハザル達がメリアスの街に入る時にウェリアスに提示していたギルドカードと同じ物だった。
「じゃぁ~、名前と歳を教えてねぇ~」
フェミリアはカードと一本の羽根ペンを出してきた。インクすら付いていない羽根ペンで、ましてや金属のカードにどうやって記入するのだろうか?と、訝し気に羽根ペンを見ている阿良太にフェミリアはコロコロと笑う。
「その羽根ペンはマジックアイテムよ。インクなしで書き込む対象に普通では消えない文字を書き込むことができるのよぉ。それに普通では消せないけれど~羽根ペンの羽根で優しく撫でてあげれば消えるわ~」
コロコロと笑うフェミリアの話を聞き、それではと阿良太は新品のギルドカードに自身の名前と大体の年齢を記入する。その際、『深城 阿良太』と漢字で書いてしまったのに気付いたのは、フェミリアにカードを渡した後だった。
「ええと………アラタ・ミシロさんね。ええと、確か登録印は何処だったかしら?」
どうやら、自分の書いた文字でもよかったのだとホッとする阿良太。フェミリアはガサガサとカウンターのあちこちを探し始める。積まれた紙の束や他の物がガサゴソと動く中、ヒョイッと伸びた手が何かを摘み上げる。
「フェミリアさん、これでしょう?」
「あ~それそれ~。ありがと~ぺミアちゃ~ん」
認め印をフェミリアに渡したのはフェミリアと同じ服を着たぺミアと言う少女だった。十五、六程の少女はホントにもう、と言いたげな表情でフェミリアを見ている。
「私、言いましたよね?使った後は所定の位置にちゃんと戻して下さいって!!」
「ゴメンなさ~い、ぺミアちゃん。私が悪かったから~もう怒らないでねぇ~。カワイイお顔が台無しよぉ?」
「誰のせいですか!!誰の!!」
ガルルルルッ!!、と今にも噛みついてきそうなぺミアを上手く躱しているあたり、何時もの事なのだろうな、等と考えている阿良太だった。
「あーあ、まーた始まっちまったよ」
「………いいのか、放っておいて?」
「いいんだよ、フェミリア嬢のポヤポヤ癖をぺミアが注意するのは日常茶飯事のことだからな」
等とハザルとスタークが苦笑しながらフェミリアとぺミアのやり取りを見ている。他の冒険者達もそのやり取りを見てガヤガヤと騒ぐものの慌てたような雰囲気はなく、こちらもやはりまた何時ものかと見ている。
「フェミリアさん、それにぺミアさんも早く認め印押してあげなきゃ、アラタさんの冒険者登録が出来ませんよ~!!」
「あっ………そうだったわぁ~ゴメンなさいね~」
「あっ……すっ…すみませんっ!」
シーラの一声でフェミリアとぺミアがやり取りを止め、阿良太に謝罪する。阿良太はやっと終わったか、と溜息を着きフェミリアに認め印を押してくれと頼む。フェミリアはぺミアから受け取った印をギルドカードに押す。すると印を押された所が光り、剣と何かの花それを囲む様に配置された翼が描かれた模様がギルドカードに記されていた。
「はぁ~い、これで冒険者ギルドへの登録は完了したわぁ~。これであなたも冒険者の一員よ~」
フェミリアから差し出されたカードを受け取った阿良太はそれを眺める。こちらに来てどのように生きていくかの手段がなかったが、これで漸くその手段を手に入れた訳である。
「それじゃぁ…………新たに冒険者となったアラタ君に~…………かんぱ~い!!」
『かんぱああぁぁぁぁいっ!!!!』
いつの間にか飲み物の入った杯を持っていたハザル達やその他の冒険者達が、フェミリアの音頭で乾杯しあった。五月蠅いがとても暖かいギルドだなぁ、と思いながら阿良太は苦笑するのであった。
どうもです。『異世界はやっぱり大変だった。』を読んでいただきありがとうございました。誤字脱字の指摘やご意見ご感想などよろしくお願いいたします。




