004 転生後初戦闘
阿良太の周囲を取り囲んでいたゴブリン達を更に取り囲む様に現れたそれらは、犬の様な頭部を持ち、前傾姿勢で現れてくる。ゲームで見た事のあるものだった。
「………コボルトか」
鉤爪の様な武装を施しているコボルトが大多数。それ以外はその手に剣や棍棒を持ち、今にも襲い掛からんとしている。ゴブリン達は自分たちより多いコボルト達に一瞬怯える様な素振りを見せたが、直ぐにコボルト達へと一切の油断なく己らの武器を構えた。
「よう、緑の屑共。まだこの森から出てってなかったのか」
そう言ってコボルトの前に出てくるのは、狼の様な姿をしたコボルトだった。いや、コボルトというよりは狼男と言った方がいいのかもしれない。コボルトが素直に従っているところを見ると、指揮はあいつがとっているらしい。ゴブリンは阿良太には目もくれず、コボルト達に向かって武器を構えた。
「グガガッ……面白イコトヲ言ウ………出テイクノハオ前達ダロウ?犬ッコロ共メ」
「ほう…どうやら、ぐっちゃぐちゃに潰されてぇみたいだな、屑共……………っと?人間もいるのか」
狼男が阿良太に気付き、笑みを浮かべている。それはまるで獲物の品定めをするかの様な目だった。
「ふむ………若い男か………柔らかそうではないが、旨そうな肉付きをしているな。それにその武器も相当の上物の様だ……………」
そう言うと狼男の右腕に付けられた腕輪が輝き、突如虚空から大きさの違う双剣が現れる。
「いいだろう?『虚空庫の腕輪』だぜ。ダンジョンの底に潜ってた冒険者から掻っ攫ったモンだ」
笑みを深めた狼男は双剣を構える。その剣の刀身は幾つかの欠けた様な跡と黒ずんだ筋の様な物が残されていた。
「………殺して得た物か……虫唾が走るな」
配下のコボルト達に指示を出す。
「フン、お前もすぐにアイツ等と同じ所へ送ってやるからよ。まあ、運がなかったと思って諦めてくれや……………行けッ、コボルト共!ゴブリン共を根絶やしにしろ!!あの人間は絶対逃がすな!!」
『ガアアァァァァッ』
指示を受けたコボルト達は一斉に攻勢に移り、ゴブリン達に襲い掛かる。その中の一匹が阿良太に剣を振り下ろさんと襲い掛かり―――――
「ギガアアァァァァァァ!!?」
刀を抜き放ち、コボルトは上半身と下半身が断ち切られる。舞い飛び散る鮮血と臓物の向こう側で、それを成した張本人の阿良太は何ともない様な表情を浮かべている。
「転生して少しもしない内に殺し合いの戦闘に巻き込まれるとか……………どうなってるんだよ」
刀についている血を振り抜く様に振り落とし、刀を納刀した阿良太は漂って来る血の鉄錆の様な匂いに顔をしかめながら、狼男を見る。周囲のゴブリンとコボルト達も何が起こったのかわからず、唖然とした表情で阿良太を見ている。
「転生して直ぐに死ぬとか、洒落にもなんないな…………ってことで、抗わせてもらうぜ。死ぬのは真っ平ゴメンだからな」
納刀した刀を腰だめで何時でも抜ける様に構えながら、阿良太は狼男に言う。狼男は怒りを浮かべながら、怒声を放つ。
「舐めるなよ人間!!コボルト共!ゴブリンはいい!!あの人間を狙え!!八つ裂きにするぞぉぉ!!!」
一斉に飛び掛かってくるコボルト。阿良太は軽くステップを踏むようにして飛び掛かってくるコボルトを回避する。
「ふっ!!」
飛び掛かりには失敗したが、そのまま跳躍して追撃してくるコボルトを抜刀の勢いを乗せた刀で切り裂く。頭と胴体が切り裂かれたコボルトは何が起きたのかを理解する前に絶命する。その鮮やかな手並みにコボルト達は阿良太へと飛び掛かるのを躊躇ってしまう。
「舐めるなぁぁ!!」
振りぬいた阿良太の背後から斬りかかってくる狼男。阿良太は振りぬいた遠心力を利用して、半円を描くように狼男の双剣を受け止める。体格差で阿良太に優っている狼男は受け止められた双剣に力を込めて、阿良太を押し込もうとする。
「死ねぇっ!!人間ふぜ――――ガフッ!!?」
狼男が阿良太を刀ごと押し切ろうとした時、数本の矢が狼男の右肩を貫いた。その先には一匹のゴブリンが弓を構えていた。
「マサカトハ思ウガ………俺達ノコトヲ忘レタ訳デハナイダロウナ?」
矢を放ったゴブリンの傍にはリーダー格のゴブリンが居り、いつの間にか周囲のコボルト達は全てが死体になっている。阿良太と狼男の周囲には比較的怪我のないゴブリンが集まっている。
「この……畜生風情がアアァァァァ!!!!」
阿良太を押し退けた狼男の双剣に淡く黄緑色の魔法陣が現れ刀身が光る。それは風を巻き込む様に刀身を中心に渦巻いて行き、引き起こされた小さな竜巻が刀身を延長したかの様に見える。
「トルネードスラッシュ!!!」
双剣から放たれた二つの竜巻一つの大きな竜巻となって、ゴブリンに向かって進んでいく。矢を放ったゴブリンは迫り来る竜巻を見て怯んでしまい全く動けない。傍に居たリーダー格ゴブリンは盾を構えて怯んでいるゴブリンの前へ出る。だが、コボルト達との戦闘で痛んでいた盾は更にボロボロになり、放たれた竜巻を止めることは出来そうにはなかった。それでも、リーダー格のゴブリンは仲間を守ろうと足に力を籠め襲い掛かってくるであろう衝撃に備え―――――
「―――――こうか?」
ザンッという音と共に辺りに突風が吹き荒れる。突風と共に巻き上げられた塵や葉などがゴブリンの視界を遮る。少しして舞い上がっていた塵や葉が収まり、ゴブリン達は目を見開いた。地面には二本の筋が走っており、その筋は深く抉れてその技の威力を窺わせた。だが、元々一つだった竜巻が何故二つに分かれたのか?その筋の分かれ目の先には、細い刀身を振り抜いたままで止まっている阿良太がいた。
「おお、何とかできたな」
阿良太は振り抜いた刀に損傷が無いかを確かめながら何ともないように言う。その刀の刀身は未だ赤や黄といった光の揺らめきが残っていた。
「バ…バカな………俺の持つ魔術の中でも最高クラスの技が………一撃だと………?」
狼男は唖然とした表情を浮かべ、訳が分からないといった表情で阿良太を見た。阿良太はそんなことはどうでもいいと言いたげな表情で、刀を数回振ってみては手に伝わる感触に異常がないかを確かめる。
「……ふん。異常はないみたいだな」
刀の具合を確かめ終えた阿良太は、その刀の切っ先を狼男へと向ける。狼男の配下のコボルト達は既にゴブリン達によって倒され、狼男を守ろうとする者はいなくなっている。
「こ…この俺が……黒爪のヴィシュター様が………貴様ら如きにいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
ヴィシュターと名乗った狼男は阿良太を切り倒さんと、両手に持つ双剣を振り上げ勢いを付け振り下ろし―――――
「――――よっと」
振り下ろされた双剣をステップで回避し、狼男の腕の下を潜る様に前方へと跳躍しながら、一閃を放つ。双剣を握ったまま舞い上がる両腕。刀で切られた断面からは夥しい程の血が流れ出る。
「ギッ――――ガアアアァァァァァァァァァァ!?!?」
「ふむ……人間は大体体重の三分の一程度の血液が流れたら死ぬと言うが、お前はどうなものかね?」
血を流すヴィシュターを見下ろしながら阿良太は話す。ヴィシュターは初めて阿良太に対して恐怖を抱いた。自身より劣等だと見ていた人間の阿良太が、己の前に強大な化け物の様に見えてしまっていた。
阿良太は己自身に驚愕していた。この世界に来て早々、命懸けの戦闘をよくもまあ混乱せずにこなせていることに、大量の血の量とそれに伴う鉄錆に似た臭いと臓物の異臭に。
「ヒッ…………く、来るなあああぁぁぁぁ」
ヴィシュターは泣き喚く様に後ずさって行く。黒爪のヴィシュターなんて言う二つ名的な物があるなら、もっと粘る物かと思えば、そうでもないのかもしれない。
「………なぁ、あんなこと言ってるが、お前らはどうしたいんだ」
阿良太は振り返ってリーダーゴブリンに問う。リーダーゴブリンはヴィシュターに蔑む様な視線を向けながら言う。阿良太自身巻き込まれただけであって、ヴィシュターを生かすも殺すもを決めることはしない。寧ろ今まで争っていたのは、彼らゴブリン達なのだから。
「………コイツハ俺達ノ同胞ノ多クヲ殺シテキタ……生カシテオク訳ニハイカナイ」
「…………だとさ」
ガチガチと恐怖に歯を打ち鳴らすヴィシュター。阿良太はリーダー格のゴブリンに道を譲りながら、今まで抜いていた刀を鞘に戻す。だが、その納刀された刀の鍔には親指が掛かっており、いつでも抜刀できる様に構えられていた。
「ッ!?た、頼む!?助けてくれ!!俺はまだ死にたくない!!?」
「…………アイツ等ハ、オ前ニモ同ジ言葉ヲ言ッタナ…………ダガ、オ前ハソレヲ無視シタ」
リーダー格のゴブリンは持っていた剣を両手で持ち、ヴィシュターに向かって振り上げる。ヴィシュターの顔は涙や涎や汗といった体液でグシャグシャになっていた。
「わ、悪かった!!?この通りだ許し―――――」
―――――ドズッ
振り下ろされた剣はヴィシュターの胸の真ん中に突き立てられた。コヒュッという呼吸音と共にヴィシュターはその生涯をあっけなく閉じた。
どうも。『異世界はやっぱり大変だった』作者、春夏秋冬です。今回も読んでいただきありがとうございました。ご意見ご感想、誤字脱字報告などよろしくお願いします。




