003 目覚めは森の中
人々は立ち入ることない木々が生い茂る森の中、木漏れ日が差し込む木々の間に少しだけ広がる花畑。その中に光の粒子が集束していく。それは少しずつ人の形を成していく。そして、光が収まるとその中から現れる一人の青年。少年から大人になりつつある青年――――深城 阿良太は軽く唸りながら起き上がる。
「ッ……………ここは……………」
阿良太は起き上がりながら周囲を見渡す。周囲を覆い尽くす木々と自身の周りに咲く花々達。気候は暑くも寒くもなく木々の中には実を付けている物もある。木の実についての知識はそれほど持ち合わせていない阿良太ではあったが、それらの実の形状や色合いは阿良太が見た事も無い物で、ここが阿良太の知らない異世界であるということを告げている。
「異世界に来たってことか………」
頭を搔きながら自身の手を見る阿良太は呟く。いつも見慣れた筈の手が幾許か若返っていることを確認すると、傍に置かれている刀が目に入る。あの時、アロハの爺様に頼んで取り寄せてもらった刀。少しだけ刀を抜き刀身を見ると、蒼い海の波間の様な波が打っている刀身が顔を出す。
「ん……んーーっ」
立ち上がって身体の状態を確認する。軽く身体を動かしてみて、転生後の身体に異常がないか確認し出発の準備を整える。
服装はこちらの世界に合わせてくれた物だろう物が着せられている。青色の羽織に黒色の長ズボン、それに長めのブーツ。生地の触り心地や着心地は若干前世の物には及ばない物の悪い訳ではなく、活動にも支障は無さそうだ。
「よし、行くか」
寝ていた傍に刀以外の何も落ちていないことを確認し、阿良太は動き出す。どこへ向かうかはわからない。だが、まずはこの森を出ることが先決であると考えた阿良太は走り出した。軽く屈み、前方へ跳躍するように飛び出す。軽く跳んだだけなのに、結構な速度が出たことに阿良太は驚きを覚えながら、森を抜けるべく前進する。
「……身体が軽い。これも神様のお蔭か」
木々の合間を走り抜け、飛び出している岩を跳ね越え、己の身体能力を試しながら森の中を駆け抜ける。着ている服は阿良太の運動についてこれており、流石神が用意してくれただけの物だと感謝した。
「結構深い森だな……ん?」
そう呟きながら移動する阿良太はいきなり急停止する。辺りは木々が生い茂り、少ない隙間から木漏れ日が降り注いでいて、周囲は薄暗くなっている。阿良太が高速で移動する為、周囲の茂みや木々の葉が揺れ動いている。だが、その中に紛れる様に感じる気配と視線。その中に感じる無数の敵意。それらは、阿良太の周囲を取り囲むように現れる。
「……………何がいる?」
刀の鍔に指を掛けながら、周囲に気を張り巡らせる。周囲に何かの姿はない。だが、周囲に注意を払うと、微かに溶け込もうとしておかしくなっている箇所が見つかってくる。
(右前方の木の陰に2つ……左斜め前方の茂みに1つ……………大きいのは大体そんなものか……後は小さい物ばかり…それが疎らに散っているな)
気を巡らせ、感じ取った気配を冷静に分析する。初めて向けられる殺気だというのに冷静に対処できている自分に少し驚く阿良太。これも特典のお蔭かと思っていると、前方の茂みがガサリと動き、中から緑色の小人が現れる。
(ゴブリン…か?)
緑色の肌に所々が錆びている鎧と盾、それに刃こぼれしている剣を構えているゴブリンが出てくると同時に、周囲に潜んでいたゴブリン達もつられる様に出てくる。その手に握られている武器の状態からして、一番先に出てきた個体がリーダー格なのだろう。この中では一番装備がいい。
「…………オ、オ前……コノ先ニ何カ用ガアルノカ…………?」
先頭のリーダー格のゴブリンがそう阿良太に問いかけてくる。翻訳機能が機能している様子はなかったが、若干聞き取りづらい程でも人の言葉を話せる個体なのだろう。刀をいつでも抜ける様に手を掛けながら、阿良太は答える。
「この先に何かあるのか?」
「何故、オ前ノ質問ニ答エル必要ガアル?」
武器を向けたままリーダー格のゴブリンは吐き捨てる様に言った。周囲のゴブリン達は阿良太に向かい、各々の武器を向けたままだ。恐らく、何が何でもこの先に阿良太を行かせたくはないのであろう。
(大方、集落か何かがあるんだろうな……)
ゴブリン達がここから先へと阿良太を行かせない様にとしている理由を思い浮かべながら、阿良太は鍔にかけた手を下した。
「いや、用はない。俺はただこの森を抜けたいだけなんだ。敵対する意思もお前達の生活をも害する意思もない」
そう言うとゴブリン達は少しだけ殺気を緩める。それでも、各々の武器は阿良太に向けられたままだ。
「…………答エロ、ドウヤッテ森ニ入リコンダ?」
「………お前達が俺を先に行かせない理由を答えなかったのに、俺がそれに対する理由を答える意味があるのか?」
そうとしか答えようのない阿良太はそう答えた。ゴブリンは訝し気な表情を浮かべているが、その剣の切っ先は阿良太から外れ、リーダー格のゴブリンは自身の後方に切っ先を向ける。
「………………森ノ出口ハアッチダ…………サッサト出テイ―――――」
リーダーゴブリンがそう言おうとした時、先程より濃密な殺気と敵意が阿良太達の周囲を満たした。ゴブリン達よりも鋭く、獣の様に重いそれらはゴブリン達の周囲を取り囲む様に現れる。ゴブリン達もそれを感じ取ったのであろう、阿良太に向けていた武器を一斉に殺気の方へと向け直す。
そして数瞬後、ゴブリン達を囲むように現れた気配はゆっくりとその姿を現す。
どうもです。『異世界はやっぱり大変だった』作者、春夏秋冬です。読んで下さった方々、本当にありがとうございます。誤字脱字の報告やご意見ご感想などよろしくお願いします。




