第三話
当作品『Dawn of Dusk』に関する全ての権利は、作者である汞談にあります。
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「このような場所を訪ねてくださるということは、貴方がカタラクト様で間違い無いのだな。」
"ホーム"の入口の奥に延びる深く長い階段へ差し掛かると、老人は男にそう尋ねた。
「ええ、その通りです。」
男は答えた。
自分の名を呼ばれた瞬間、男は一瞬だけ表情を曇らせたのだが、老人がそれに気付く由も無く、
「マスクは外さなくても宜しいのか?屋内でまで装着していては息苦しいだろう。」
と何気なしに言った。
マスクに隠れる男の表情は窺い知ることは出来ない。
しかし、男はほんのしばらくぎゅっと目を瞑ってから、やがてゆっくりとマスクを外して老人に向って微笑み掛けた。
「そろそろ依頼の詳細を説明していただけますか?」
「さぁ、どうぞ!中間者さんはこちらです!」
女が案内されたのは、階段を暫く下りた先の右側に広がるガラス張りの様な空間だった。
幾重もの層から成っていることは、その空間中に規則的に並ぶ半透明な淵の部分から判断することができる。
「これが精霊の道かぁ…」
女は呟いた。
「はい!…あれ?もしかして通るのは初めてですか?」
リーフの声からは、驚きと、そして嬉しさが滲み出ている。
「えぇ。最近はずっと屋外にいたから建物自体に入るのも久しぶりだし、そうなる前は…」
そこまで話すと、女はふっと言葉を切った。
そして、自分に向けられるリーフの視線に違和感を覚え、尋ねた。
「…私の顔に何か付いてる?」
リーフは目を輝かせながら
「いやぁ、何度見てもお綺麗だなぁと思って!」
と答えた。
「えっ…」
女が多少呆れているのに気づいたのか、リーフは慌てて言葉を繋げた。
「あ!実はボク、女性の中間者さんを見るのって初めてなんですよ!」
玄関口でのリーフの様子を思い出しながら、
「そうみたいね。」
と女は言った。
「ここに来る途中で馬型の中間者を見たわ。…あの人は男性なのね。」
「ジーキーさんですね!勿論男性です!」
そう言うとリーフは、興奮が抑え切れないといった様子で言葉を続けた。
「男性の中間者さんは、その洗練された力をそのまま具現化したみたいに猛々しくて勇ましい姿ですけど…それに対して女性は、透き通るような肌に大きな瞳…まるで美の化身といった感じですね!」
リーフは憧れの眼差しを女に向けている。
(中間者は皆そうだって教わったけど…)
内心そう思いながらも、女は黙ってリーフの言葉に耳を傾けていた。
「綺麗…と言えば、パートナーの方、あの人も女性ですよね?」
その言葉に、女は一瞬身を強張らせた。
リーフは得意げに言葉を続ける。
「重装備でぱっと見には分かり難いけど、ボクら精霊にはそういった情報が自然と伝わって来るので分かるんです。」
「あの人…」
リーフの言葉を遮る様にして、女は言った。
「性別のこと言われると、凄く気にするから…」
そして、リーフの顔を真っ直ぐに見つめ、
「決して口にしてはだめよ。」
と言った。
そのただならぬ様子に、リーフはごくりと唾を飲み込んでゆっくりと頷いた。
「じゃぁ、行きましょうか。」
互いに歩を止めてしまっていることに気付き、女が気を取り直してそう言うと、リーフは
「はいっ!」
と言って顔中に満面の笑みを浮かべた。
(本当の笑顔…長い間見てなかったな…)
女がそんなことを考えていると、精霊の道越しに カタラクトが先ほどの老人や何人かの人間と共に机上に地図のようなものを広げながら何やら討論しているのが見えた。
その様子を見て、女はそっと、そして切なげに深い溜息を吐いた。