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日常の終わりと専業冒険者 1

7月に入ってからの俺の生活は、まあ穏やかなものになっていった。

平日は高校に通い、休日は兄貴と沙織の三人パーティでダンジョンに潜った。

壊れた店舗の改修が始まり、店内の棚やレジなんかで、再利用ができそうなものが運び出され、仮設されたプレハブに置かれている。


CCNテレビが全世界から集めてくれた義援金は、金額が大きいけど非課税ということになったらしい。その辺は、災害認定が受けられなかったウチの事情を汲んでくれたようだ。

その金を元手にオヤジは法人化して、『浸食の口(ゲート)』を包む形になる建物と、新しく建て直すコンビニの運営を行うことにした。


俺が高校に戻った日は大騒ぎになったけど、そんな喧噪も徐々に収まった。

高校に通っているアイドルとかもこんな感じなんだろうか?

まあ俺はガラじゃないけどな。

むしろ沙織のほうは結構大変らしい。あいつはまあそれなりにかわいい系の美人だし、もともと学校じゃ人気があったからな。

ただ、俺にも沙織にも未だに「一緒にダンジョン連れてってくれ」と物好き達が押し寄せてくる。

そりゃまあリアルRPGだって思えばわくわくしてくるのは分かるけど、さすがに俺には彼らの命の保証までできないんで、全部断ってる。

最初のウチは「<収納>使って見せてよ!」

などという連中に得意げに収納を手品のように見せていたんだが、そろそろ俺自身が飽きてきて、そういうのもやらなくなってきた。




ダンジョン攻略の進捗はというと、兄貴と俺と沙織のパーティは、アメリカ大使がやってきた週の週末に、いよいよ三層に進むことにした。


「ゴブリンだな」

「長剣持ってるね」

兄貴と沙織の言葉に俺はうなずく。

どうやら、第三層は、二層のボスだったゴブリン――ゴブリンソルジャーとでもいうのか、あの長剣を持っていたヤツが雑魚敵として沸くらしい。

無論、ボロいナイフを持ったゴブリンも沸くので、正直ソロで潜るとやっかいさがちょっと増している。

俺も兄貴もバットで一撃で倒していけはするけど、もし三方から三体ずつで包囲されると、最大で9体とかを同時に相手をしなければならない可能性があるわけだ。


ちなみに、あれから兄貴も交えて魔法の練習や新魔法を探す作業をやっている。

兄貴も<ファイアボール>が使えるようになったし、<ヒール>も三人とも使えるようになった。ヒールは、どうやら外傷に効果があるらしい。まだ俺たちはそれ以上のけがをしてないのでどこまで使えるか疑問だが、まあ、回復系魔法なんて使わないに越したことはないよな。


三層も、これまでと同じように自然の洞穴っぽい外観のダンジョンだ。

まあそれにしては岩肌が不自然に切りそろえられているし、天井の高さも数メートル……俺や兄貴の身長から推定すると3メートルくらいはあるので、意図的に作られてることは間違いないだろうな。


「右から3、正面から3」

俺の気配を読む能力は、三層に降りてから何となく成長している気がする。

はっきりと危険度が上がったせいか、それとも、俺たちの分からないところにレベルみたいなものがあって、それが成長してるのか。

正面を兄貴が、右を沙織が担当し、俺は十字路の左と後方を警戒する。

やっぱ来たな。左からも三体が急速に接近してくる。

「左から来る。俺も出るよ」

戦闘中の二人に言い残し、俺も左を討ちにいく。

正直、兄貴も沙織も二層ボスを楽勝で倒せるんで、その劣化版のこの層の敵パーティに不安はない。

俺が受け持ちの三体を<金属バット+8>で屠って戻ると、兄貴達からドロップの石やナイフを渡される。

「どうする? 気配読んでどんどん先に進んじゃおうか?」

「……そうだな。まあこの階は問題ないだろう」

俺と兄貴の会話に沙織もうなずいて同意する。


そんなわけでボス部屋に到着。入ってみる。

「ゴブリン6体か。ナイフ持ちが3、剣持ちが2……あれはなんだ?」

兄貴が言う。

「なんか、杖持ってるね?……ゴブリンメイジ?」

沙織が正解だった。

雑魚がワラワラと俺たちに突進するなか、一体だけ残った杖持ちが、その杖の上に火の玉を浮かばせつつある。

「沙織! あいつを<サンダーボルト>で片付けて!」

俺の言葉に応えて

「<サンダーボルト>!」

沙織が唱える。

その間に俺と兄貴でゴブリンとゴブリンソルジャーを片付けていく。


「ふう。焦った」

ゴブリンメイジが<ファイアーボール>を作り始めたのには驚いた。

沙織の<サンダーボルト>は相変わらずオーバーキルだったけど、その跡にはちゃんとドロップの石と杖があったんで、良しとしなければ。

三人で手分けしてドロップを集め、俺が収納する。

ちなみに、杖はインベントリの表示で<杖>、ただの杖だった。


ボス戦が終わると下層への階段が現れる。元々あるのか、それともボスを倒すと現れるのかは分からない。

「これって、この下の層だと雑魚にメイジが加わってくる流れかなあ?」

「……あり得るな。なんか対策しないと。あの火の球は食らいたくないな」

兄貴のいうとおりだ。まだ俺たちは敵からの魔法攻撃を食らっていないんでなにも分からないが、もし「現実」の炎の特徴を魔法の火も持っているなら、身体は無事でも髪の毛や服に引火したら最悪だ。

「髪の毛を護る装備が必要だな。最低でも帽子とか。あと、<アンチ・マジック>的な魔法ってないのか?」

「うーん、要研究ね」

俺は兄貴と沙織の言葉にうなずいた。とりあえずいっぺん戻ることにしよう。


「とりあえず、困ったときはアマゾンだな」

兄貴はネットの通販サイトを検索する。

ヘルメット、と入力して検索すると、バイク用のヘルメットを中心に、良さそうなものがいくつか出てくる。

「あ、これ良さそう」

俺が指さしたのは、ジェットヘルと呼ばれる、フルフェイスのあごの部分がない商品だ。

「うーん」

兄貴は不満そうだ。

「バイク用のヘルメットは重いぞ? それに材質がプラスチックとかあるんで、炎にはどうだろう?」

「あたしはこれ気に入った」

沙織が指したのはハーフキャップと呼ばれる昔ながらのヘルメットだ。革製の耳当てとゴーグルがセットになってるらしい。

そんなところにシャーロットさんがやってきた。


「軍用がいいと思う」

シャーロットさんは俺たちの話を聞くと即座にいった。

「<ファイアボール>対策だったら、バイク用はダメね。頭とヘルメットの間の緩衝材が解けたり引火したりしたら大惨事よ?」

たしかに。それはあまり想像したくないな。

「消防用のヘルメットもあるから、その辺のノウハウはメーカーにもあると思う。理想はオーダーメイドだけど、やっぱり軍用の既製品とかがあればそれがいいと思う」

運用実績があるから安心。とシャーロットさんは言う。まあそうなんだろうな。

「それと、米軍の軍服には耐火服があるわよ?」

引火事故の危険があったり、過去に火にまつわる死傷者を出したジャンルの制服は難燃繊維を用いた軍服が採用されているらしい。例えば戦車部隊とか。

結局、機能性を追求すると軍服になっちゃうんだろうな。

「お金はともかく、装備一式って手に入るんですかね?」

兄貴がシャーロットさんに尋ねる。

「大使に相談してみたら? あなたたちは貸しがあるようなもんだし、きっといいアイデアをくれると思うわ」

シャーロットさんがにやりと笑う。

「なんなら、私が聞いてみましょうか?」

まあほかにいいアイデアもない。俺たちは一抹の不安を抱えつつ、シャーロットさんにお願いしてみた。


「というわけでここが横田基地です」

翌日。シャーロットさん達の車で連れてこられたのは米軍横田基地。

『皆さんようこそ。私が当基地司令のジョナサン・ニールズ大佐です』

シャーロットさんの通訳で俺が紹介されたので握手をする。

兄貴、沙織と並んだ順に大佐は握手し俺たちを歓迎してくれた。

『駐日大使閣下よりホワイトハウスに連絡があり、当基地の備品の供与を《ダンジョン内での既製技術の効果判定》の名目で無償供与する判断が下されました』

おう、無料かあ、ありがたい……って、ホワイトハウス?

「あ、ありがとうございます。その、助かります」

『これから皆さんには一人ずつ担当者をお付けして採寸し、お帰りの際に一式の装備をお渡しします』

そうして大佐に担当者を紹介され、俺たちは採寸に向かう。


昼食を基地内の食堂でごちそうになり、帰りに、全文英文の書類に受け取りのサインをして、一人あたり段ボール四つという大荷物をもらった。

内訳は、ヘルメット、ヘルメットインナーキャップ(耐火性)、カーキ色のワイシャツ、ジャケット、ズボン、ウインドブレイカー、靴下。

ブーツ、ベルトに手袋までいただけた。

軍服のたぐいは、一人あたり三着も用意してもらえた。

それを全て俺の<収納>に納めると、シャーロットさんに、

「キョウジさん、私の分もお願いします」

といわれる。なんですと?

ていうか、ジャーナリストは政府に供与受けちゃダメじゃなかったの?

「大丈夫です。一応使用レポートの提出義務がありますのでそれと引き替えということになっています。まあ、自動車評論家が評価自動車を借りるようなものです」

と、シャーロットさんがちょっと黒い笑みを浮かべている。

俺たちと一緒に潜る気満々だな……、彼女。

まあいろいろお世話になっているし、シャーロットさんだけだったら何とかなるだろう。

撮影スタッフを常時引き連れてっていうのは勘弁して欲しいけどな。



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