黒尾ダンジョン 4
11層から15層までは、彼女たちもRPG-7を使用する。
奥多摩でも推奨しているし、彼女たち黒尾ダンジョンでも、日本冒険者協会から調達することが出来るので、問題は無い。
問題はドロップ品だ。
「山岸さん、持ちきれんドロップ品はどうしたらよろしおすやろか?」
「えっと、普段はどうしてるんですか?」
ゴーレム達のインゴットは確かに重い。石や鉄、貴金属の塊だしな。
「普段は、持ちきれんはほかす事にしてます……」
なるほど。
「……じゃあ持ちきれない分は俺がもらってあとで精算しましょう」
本当はずるになるし良くないけどな。
俺は小声で沙織に「数チェックしといて」と小声で伝える。
収納に入れてしまうと、トータルの数は分かるけど別に持ち主が限定されるわけじゃないんで、後々面倒だ。
自動車のような大きなものや一つ一つに特徴があるモノは別勘定になるけど、ドロップ品とかはスタックされちゃうんだよな。
日付ごとにソートとかできたらいいのに。
魔石はその場で吸収してもらうことにして、彼女たちにはどんどん先に進んでもらう。
アンデット層も危なげなく<ターンアンデッド>が使えてるし、<レジスト>の掛かりにも問題は無い。
20層のドラゴンゾンビは、<ターンアンデッド>が使え、<レジスト><アンチマジック>のエンチャントが乗ってる状態で防毒マスクがあれば問題は無い。
俺たちがトライしたときにはエアボンベも持って行ったが、防毒フィルターで事足りるようだ。
<収納>の無いパーティの場合、ボンベは実際邪魔だからな。
俺たちを不安がらせること無く、水無瀬のパーティはふたつとも見事に独力で20層を超えた。
20層のテレポートで帰ると、俺たちは彼女たちの申請用紙に合格と認め、それぞれ指導者の欄に署名捺印した。
これで、冒険者協会から彼女たちも20層指導者として認定されるわけだ。
「ありがとうございます」
「……おおきに」
姉妹から感謝の言葉をもらう。
「そういえば皆さんはドロップ品はどうするんですか?」
俺が聞くと、水無瀬一行は
「極力持ち帰りたいんですが、よろしおすか?」
といった。
「かまいませんよ」
俺はうなずいた。
実は、ウチではここのところダンジョンから帰った冒険者に、<浸食の口>外のダンジョン棟内ですぐにドロップ品を処分できるようなシステムを構築している。
持ち帰ったドロップ品のその日の相場をオンラインで提供し、係員の検品後に買い取る仕組みになっている。
ヤマギシが管理する冒険者には、全員に給与振り込み銀行の口座を持ってもらっている。
その口座に、あらかじめ源泉徴収をした金額を振り込む。
当然、全員翌年には確定申告をしなくてはならないが、冒険者は経費が認められるので、その気になれば損益通算して給与所得のほうも節税が出来る。
本来はウチが年末調整などで全員の面倒を見たいところだが、潜れる階層によっては所得がすごいことになるのと、さすがにマンパワーが足りないこともあるので、個別にお願いしている。
中には税理士に丸投げしても平気なほど稼ぐ層が多いので、ヤマギシには出入りの税理士事務所さんが多数いる。
今のところ、ダンジョン内でもっとも価値があるのはゴーレムの落とすインゴットだ。
エレクトラムでおよそ半分が金、半分が銀。ゴールドゴーレムは純金が5kg。
そして、アダマンゴーレムでプラチナとロジウムの合金、などといったところで、基本は金属相場にリンクさせて引き取っている。
魔石については、先輩氏の開発した魔力測定器で一つ一つ調べ、取り出せる魔力に応じた値付けをしているそうだ。
その施設を交換所と呼んでいるけど、交換所には、魔力測定器が置かれて、魔石をひとつずつ乗せると自動で価格が付くようになっている。
今のところヤマギシでは、魔石を吸収する冒険者が多いけど、こうやって換金できれば、冒険者という稼業は全く悪くないんじゃないだろうか?
「それにしても、見れば見るほどヤマギシはんのシステムは洗練されとりますなあ」
静流さんは、交換所でドロップ品を処分するウチの社員達を見ながら感心する。
「なあ山岸さん? もし、ウチとこにも経営で参加して欲しいいぅたら、どないですやろか?」
「そうですねえ。ウチはもうご存じの通り人手不足でえらいことになってるんですけど、その辺が何とかなれば、その辺も考えるゆとりが出てくるんじゃないですかね?」
実際問題、若手にしろ中途採用の中堅にしろ、就職・転職希望者は常に求人の3倍以上は来てもらえている。
ウチが今一番必要として、そして一番足りていない人材は、上級幹部クラスだ。
ブラスコや水無瀬のように、50年、70年といった歴史と伝統のある企業だったら、別の部署から優秀な幹部を派遣できるだろう。
でもウチは、ほんの3年前まで奥多摩でのんびり家族経営のコンビニをやっていた。
もはや地縁血縁のたぐいは浚い尽くしてしまったし、内部で育てようにも急拡大しすぎていて、全く追いついていないのだ。
安岡正篤という人が昔、「人が環境を作り、環境が人を育てる」というようなことをいったらしい。
この頃オヤジはやたらビジネスノウハウ本に凝っている。朝飯の時に年中こんなような言葉を引っ張ってくる。
その伝でいうと、未だにウチは、人も環境も手探りで、そして大急ぎで作ってる最中なんだろう。
よし、いい感じになって来たぞ、というときになると決まって事業が拡大してしまう。
それに耐え、よし、となるとまた、新しい課題や仕事や施設やらが降り積もってくる。
まあそんなわけでだ。
ウチは、奥多摩・忍野・西伊豆の人材どころか箱物さえまだ揃えられていない状況だから、この上京都まではとても面倒が見きれないのだ。
「どうですやろ? ウチとこではまず施設を作って、そのあとヤマギシはんで仕事を習わせてもらういぅんは?」
「なんかフランチャイズみたいですね」
「そうです! なんならいっそ共同経営、いぅ形でもよろしおすやろ?」
いや静流さん、顔近い近い。
「と……とにかく一応話はしますけど。俺は部署が違うんで何ともいえません。またそのあたりはいずれ」
そう言い残し、俺たちは解散させてもらった。
宿への帰り道。
「むう、あの姉妹は危険」
「押しが強いデス。今までなかったタイプなのデス」
などと沙織とケイティが話してる。
「たしかに手強い商売相手だな」
俺が言うと2人はため息をついた。
「あたしはいつか恭ちゃんが変なのに引っかからないか気が気じゃないよ……」
とまで言われた。解せん。
「せっかくですから、20層から下もトレーニングしていただけまへんやろか」
翌日、静流さんが俺たちの宿にやってきたそう聞いた。
スケジュールが空いているのでそれは可能ではあるけど、念のため契約関係をまとめている下原のおじさんに電話で確認を取ってみた。
『んー、ちょっと問題あるねえ』
電話の向こうでおじさんが言う。
要するに、契約は20層指導員まで。そこから先は当初からプランにないため、こっちとしても責任の取りようがない。
それに――
『約束にないことだから、お金ももらえないんだよね。やめといてくれる?』
とはっきり言われた。
「すいません。契約から外れる行為に当たるそうです」
電話を終えて姉妹達に伝える。
「あきませんか……」
「もしトレーニングで入るなら、11層からおさらいを繰り返した方がいいと思います。それに、ここも20層までは混んでますし、もし練習するなら、京都に戻られた方がいいんじゃないでしょうか?」
彼女たちには自由になるダンジョンがあるんだ。
すでに目標を達成している以上、伊豆にとどまるメリットはそれほど無いだろう。
「せっかく仲良うなれたんに、さみしおすなぁ」
あれ? そんなに親しくなったっけか? とは思うが、まあ静流さんのような人に本当に寂しそうな表情でいわれると、なかなか迫力があるな。
ただ、俺たちとしても医科大を指導する予定の慈景会から来ている教授達から、追加で<リザレクション>指導を請け負っている。
彼らはあと数日で20層を突破できそうな様子なので、その後はぴったり付いて鍛える必要がある。
ウチから来た10人が全員マスターして帰ったこともあって、士気は高いそうだ。
「そうですね。ほなうちらは帰ります。山岸さん、今回はおおきに」
少しは粘られるかな? と警戒してたが、彼女たちはあっさり納得して、京都に戻っていった。
さて、教授陣。
さすがに合宿とはいかない彼らは、週末に都内から通いでやってくる。
24日を過ぎると学校が夏期休暇に入るため、彼らにとってはそこからが勝負だ。
合宿に参加している准教授や助手の中には、3人ほど、すでに<リザレクション>をマスターしてる人がいるし、俺たちとがんばった10人の医師が、すでに奥多摩に帰って<リザレクション>の実地訓練に入ってることもあって、やる気も危機感も高いのだった。
急がば回れ、って訳で俺たちは彼らをきっちり20層達成まで育成したが、残念ながら20層指導員まで至る事は出来なかった。
ただ、5人中1人が<リザレクション>習得を達成したので、8月中には全員マスターすることが出来るだろうな。
不思議なんだが、6人チームとか10人チームとかでやっていて、1人が成功すると、その後連鎖するんだよな。
心の奥底で
「出来ないんじゃないか?」
といったネガティブイメージがあって、それが成功を阻害してたりするんだろうか?
まあ、そんなこんなで7月が終わり、俺たちの伊豆での任務も終わるのだった。




