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序章――奥多摩個人迷宮誕生5

食後。

とりあえず沙織と二人でもう一度ダンジョンに戻った。

第一層なら二人でも全く問題なく過ごせるからだった。


「恭ちゃん、このヘッドライトって明るいけど意外と不便ね」

沙織は兄貴が使ってたヘッドライトを借りて来た。

「だな。まあ俺は何となく敵の気配分かるんだけど、わかんないと不意打ち食らうかも知れないんだよな」

ヘッドライトは基本、自分の正面しか照らしてくれないのだ。

さっきまではCCNのスタッフの持っていた超強力な撮影用照明の照光器があったので、沙織は気にならなかったのだろう。

「ねえ、<ライトボール>的な魔法ってないの?」

「わかんない」

俺は、試しに俺の中に居るらしき誰かにそのイメージを伝えてみた。

とはいえ、返事があるわけもなかった。

「ちょっとやってみるか。<ライトボール>」

「わっ」

俺は、自分の頭上に漂う光球をイメージして、呪文(スペル)を唱えるようにいってみた。

すると、まあほぼイメージ通り、ソフトボール大の光の球が俺の頭の上にふわふわと浮かんだ。

「ねえ、どうやったの?」

「うーん、沙織の場合、俺の頭の上にお手本があるんだから、同じようなものが出したいって思いながら、<ライトボール>!っていってみるとか?」

「なるほど、やってみる。<ライトボール>!」

すると、見事に沙織の頭の上にも、俺のと似た球が浮かび上がった。

「やったー」

「おお、便利だなこれ」

俺たちは早速頭のライトを外した。長時間付けてるとそれなりに不快感もあるし、充電池とはいえ連続使用には不安があるのだ。

それに、このライトボール、意外と光量があるらしく、俺たちの周囲をだいたい5メートル近くは照らしてくれている。

何より、ヘッドライトで照らしたときに生まれる「死角」がないのがいい。


「じゃあ次は、<ファイアボール>よね?」

「関係ないけどさ、どうして俺らって魔法を英語で発想してるのかな?」

別に、<光の球よ>!でもいいんじゃないかって気がするんだが。

「えー?かっこわるいじゃん? イメージ的に」

即否定。

「オンカビラウンケンとか?」

「なんかかっこいいけど意味わかんないし」

確かに。

「じゃあとりあえず、<ファイアボール>やってみるか」

そろそろこの辺のコウモリがリポップする時間だろう。そこかしこから気配を感じるようになってきた。

「とりあえず、火の玉を連想する。んで、投げる……<ファイアボール>!」


ぼわ


俺は右手の平を上に上げて火の玉をイメージした。

すると、そこには硬球程度の大きさの火の玉が出現した。

それを、ちらりと見えたコウモリらしき影に向かって投げるイメージをしてみた。

ゲーセンのスピードガンゲームでは、俺の球速は135km/h程度だ。

今のファイアボールも、何となくそのくらいだったように思う。

コウモリは避けられなかったようだ。

一瞬で<ファイアボール>に焼かれてひらひらと落ちて消えた。

「オーバーキル?」

「そうね。今度はあたしがやってみる」

沙織は「<ファイアボール>!」と元気よく叫んで俺と同じ大きさの火の玉を作って、えい、と投げる。

だが、10メートルと飛ばずにぽとりと落ちた。

「想像通りの結果よね?」

「いやそこは成功をイメージしろよ!」

球技は苦手な沙織だった。


「よ、よし、別のにしよう」

その後いろいろ火の玉を打ち出す想像を沙織と作ろうとしたんだが、どうにもうまくいかないので、一旦<ファイアボール>の事は忘れて、別の魔法にチャレンジしてみることにした。

「<サンダーボルト>とかはどうだろう?」

「んー、やって見せてよ」

サンダーボルトは基本、自然現象そのままだ。

俺は落雷をイメージし、こちらを見つけたコウモリを狙った。

「<サンダーボルト>!」

ズーン、と、閃光に一瞬遅れて腹に響く轟音がダンジョンに反響した。

「……だから、オーバーキルよね?」

呆れたように沙織が言う。

「加減が難しいなこれは」

奥多摩は落雷が多い。テレビでしか見たことがないような都会っ子と違い、俺たちは結構身近にその脅威を目の当たりにしてる。

そのせいかは知らないが、俺の放った<サンダーボルト>は、実物の落雷並みの規模になってしまったようだ。

これは、このまんまだと同士討ち (フレンドリーファイア)の危険があるな。

「じゃあ次あたしね。<サンダーボルト>!……あれ?」

沙織はちょこんと首をかしげ、しばらく考えてからいった。

「エネルギー切れかな?」


魔力切れか。良くあるストーリーでは魔力切れを起こすと倒れたりする作品があるが、考えてみたら、俺たちは元々魔力なんて知らずに生きてきたまっとうな地球人だ。

だから魔力が欠乏したところで自覚がないのかも知れない。

「ああそうだ」

俺は<収納>からモンスターを倒したあとに残る魔石を取り出す。

「もしかしたらこれで補給できるかも。こうやって手の平にのせて」

俺は一つ沙織の手の平にのせ、もう一つ取り出し自分の手にも乗せる。

「それで、この石が『魔力』の元だって想像して、それを吸い取るようにイメージしてみて」

俺は沙織に実演してみせる。

石は、前回のように細かい粒子に変わって、俺の身体に吸い取られていく。

「分かった」

沙織も俺の真似をして、石を吸い取っていく。

「どう? 回復した感じがする?」

「全然分かんないや」

沙織は二十個くらい、そうやって石の魔力を吸い取ったあと、やっと<サンダーボルト>を成功させた。


「うーん、身体は疲れてないけど、なんか精神的に疲れた」

「戻るか?」

「うん。甘いものが食べたいかも」

とりあえず魔法の練習を打ち切って、俺たちは戻ることにした。




家に戻ると、オヤジと兄貴が並んで座って、難しい顔をしていた。

向かいに座ってる顔ぶれが変わっていたので、おそらく保険屋から、保険金の支払いを渋られているのだろう。

店舗の新築費と休業補償が出ないと、比較的マジにうちの家計はピンチを迎えるな。

自宅や店の土地は自前だし開業資金は何とか工面したけど、運転資金までは貯金では足りず、土地を担保に借り入れたらしい。

浸食(あれ)が災害だと認められないと、政府の災害給付も受けられないだろう。

廃業なら廃業でもいいんだけど、俺たち家族には借金だけ残ることになる。世知辛いな。

とりあえず、<収納>に入れっぱなしになってる店の商品からいくつか甘い菓子を見繕って沙織に渡して、今日のところは解散とした。


その日の晩。

シャーロットさん達が尋ねてきたので一緒に夕食をすることになった。

「皆さん、今日のニュースはすごい反響でした!」

シャーロットさん達は興奮気味だ。

「ご覧いただけましたか?」

「いえ、ついさっきまで保険屋さん相手にがんばってましたんで」

オヤジと兄貴ははっきりと疲労困憊していた。

シャーロットさんは期待に満ちた目で俺を見る。

「俺はあのあと沙織とダンジョンで魔法の練習を」

「今もおそらくウチの局でリピートしてるはずです」

そう言ってシャーロットさんは今のテレビを付けてチャンネルを押す。

ザーッというノイズ音が響き渡ってやっと俺がその事実に気がついた。

「あ、うちCCN契約してません」


「と、とにかく、すごい反響なんです!」

再起動したシャーロットさんが言う。

「米軍でも、あのゲートから通路あたりまでの映像しか持っていない上に、まだ公開する前だったんです。それをウチが独占で、内部やモンスターまで公開したんです。世界初の映像です!」

「そうだったんですか……」

今ひとつぴんと来ない俺。

「そんなことだったら、シャーロットさん達にギャラもらっときゃ良かったなあ」

オヤジが暗い顔でつぶやく。

「どうしたんですか?」

「いえね。今回のあれ、災害認定が出るか微妙なんですよ」

オヤジが説明する。

まず、基本的な人災、それに延焼や地震、落雷といった通常の災害であれば、損害保険はすんなり下りるし、あの状態の店舗であれば、修繕のための保険と休業中の補償が行われる。

ところが、あれは正体不明であるため、まずは災害として認定されることが必要なのだという。

だが、政府は未だにアレの正体すらつかめていない。

ウチの店内に発生した以外の国内の浸食の口は10ヶ所あるらしい。

うちのも含めて、個人の敷地にあるのが4ヶ所。あとは国立公園や国有林など、政府の所有する土地にあるそうだ。

さらには、うち以外の個人所有地でも、山の中など、人っ気のない場所にあるため、とりあえず警察はバリケード的なもので遠巻きにして監視をしているそうだ。

まあそんな状態なので、中に入って調査とかもしていない。

故に政府としても、アレを災害として認めるかどうかといった議論の段階以前の話なのだそうだ。うちとしては、もはや店舗として使用することが不可能な状態なだけに、被った損害は大きい。

フランチャイズの本部としては、まあ特例としていくらかの免除と引き替えに廃業と、店舗のデコレーション、要するに看板などの撤去費用の援助をするという。

半壊した店舗にいつまでも自社の看板が着いているのはブランドイメージに傷が付く、という判断らしいけど。

まあそんなわけで、うちとしては一家三人の稼ぎのたねが消えてしまう上に、ローンや担保融資を抱えて路頭に迷う、という状態なのだ。

「……なるほど」

シャーロットさんは途中からメモを取りながらその話を最後まで聞いてくれた。

「分かりました。どこまで出来るか分かりませんが、私にお任せください!」


翌日。

俺はとりあえず学校に行こうと一週間ぶりに制服に着替えて家を出ようとした。

兄貴も今日は大学に行くようだ。

すると、そこにシャーロットさんから電話がかかってきた。

「おい、アメリカ大使が来るらしい。お前に会いたいって」



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