大冒険者時代 5
ヤマギシの冒険者不足について話を戻す。
まず、俺たちのパーティも現在、兄貴、俺、沙織、シャーロットさん、ケイティの五人組だ。
もうこれで良いという気はするし、もう1人加えて6人にしたいという気もする。
ゲームと違って別に6人が最高人数というわけではないけど、例えばSUVに乗るにもちょうど良い人数だったりする。
マニー達も同じだ。もしこの5人をそれぞれユニットリーダーにしてそれぞれにあと5人ずつ部下が付けられれば、11-15層に1チームずつ、といった運用が出来るし、更に後進が育てば、3チームくらいでローテーションが出来る。
それに、ほかのダンジョンへの人材派遣も可能になるだろう。
ちなみに、マニー達とよく話しているのは、11層から15層までの階段を下りた地点に、常駐のキャンプを張れないかという話だ。
俺がいない間も、SUVを置いたり武器を在庫して、攻略拠点を作れないか? というアイデアだ。
ただまあ、これなんかも人手不足で実現は難しそうだ。
ほかにも、戦闘に加わらない荷物運びのポーターを育成したらどうかとか言うアイデアもある。
ただまあ、ポーターを育成するなら、その人材を冒険者に育てた方が良いだろうと言う事になるんだよな。
「ところで、兄貴たちの仕事はもう良いのか?」
「うん?」
「そろそろ30層から下に行かない?」
俺が聞くと、兄貴はシャーロットさんと見つめ合って、うなずいた。
「……そうだな。お前も俺たちもそろそろ時間に余裕出来そうだし、いってみようか」
兄貴が見回すと、沙織もケイティも同意のうなずきを返した。
本当に久々の新階層攻略になるな。
楽しみだ。
翌日。
俺たちは朝食を食べながら、オヤジ達に新層の攻略を始める事を告げた。
「お前達に改めて言わなくても分かってるとは思うけど、充分注意していけよ」
オヤジやおじさん達はそう言って送り出してくれた。
31層に進出した俺たちの第一印象は、
「これまた面倒そうな……」
だった。
地下水脈による自然洞、という雰囲気のダンジョンだ。所々に坑道的な石組みの横坑はあるが、基本的に自然が生み出した天然の洞窟のようだった。
俺たちはライトボールを飛ばして全体の様子を探る。
「なんか、苔が光ってるよね」
沙織の言うとおり、このマップの採光は、この苔の光によるもののようだった。
苔を少し採取してみる。岩から剥がすと光は消えるが、
「これ、魔力を送り込むと光るな」
試しに魔力を与えるイメージで送り込むと、俺の手の上で苔は再び光るようになった。
全員で試している。
「ホントだ」
兄貴もやってみて、うなずいた。
正直、結構な光量を提供してくれてはいるが、やはりこの階層はライトボールなしでは心許ないだろう。
俺たちは所々にある横坑を無視して自然道の道を直進し、やがて、川にあたった。
川に沿って河原のように両岸に洞窟は続いている。要するに十字路のようだったが、川が通せんぼをしてるような形になる。
兄貴が川に手を入れる。
「冷てえ。これはまずいな」
俺たちも全員でミズに手を突っ込んで確認する。
確かにこの冷たさは覚えがある。山奥にある沢の水の温度だ。浸かってると心臓が止まる事もあるほど人体には有害な温度だ。
今回は川を安全に渡れる道具や装備もないので、とりあえず川に沿って迂回する。
「前方に気配があるよ」
沙織が警戒する。いよいよ、敵とご対面だ。
「なんだありゃ!」
兄貴が槍を構えて見上げる。
「や……ば」
3メートル以上の鎌首をあげてこちらをにらみつける蛇。もしくは龍。
兄貴が全く動けなくなっている。
「<リザレクション>!」
俺はとっさに兄貴に魔法をかける。<レジスト>を超えてきた状態異常……なんだろう?
「<フレイムインフェルノ>!」
シャーロットさんと沙織が時間差で焼きにかかる。
シャーッ!
声、というより、空気が激しくはき出されるポンプのような音を立て、蛇は一気に俺たち……というより兄貴をタゲに取って襲いかかってくる。
俺はとっさに槍に炎属性を与えてヤツの頭めがけて投擲する。
直線的に兄貴に向かってきたヤツの頭にカウンターで入った槍は、ヤツの眉間から上を吹っ飛ばして殺したようだ。
そのまま、キラキラと黄金色の魔素に変わって消えていく。
ドロップは魔石と鱗付きの皮。
収納したあと槍を回収し、兄貴に駆け寄る。
「大丈夫か?」
「……ああ。あれは<石化>だと思う」
「てことは?」
「バジリスク……デスか?」
ケイティの問いに兄貴はうなずいた。
バジリスクは、国によっては鳥と蛇を掛け合わせたような容姿で描かれる事もあるが、一般的には龍、もしくは蛇の姿を取る事が多いモンスターだ。
そしてもっとも大きな特徴は、瞳を直視すると石化する。食らうと一撃死する牙の毒。
「いきなり強敵だな」
俺の言葉にみんなうなずく。
「<フレイムインフェルノ>2発に耐えたね」
沙織が言う。そうだ。あいつはシャーロットさんと沙織の2発を受けながら、兄貴に噛みつこうと躍りかかってきた。
「魔法耐性が高いのかも知れません。一度帰って、素材を調べても良いかもしれませんね」
シャーロットさんの言葉で、俺たちは一度引き返す事にした。
兄貴とシャーロットさんは素材の調査に。
俺と沙織、ケイティは、横田に相談に行く事にする。
川を、軍隊はどうやって渡るんだろうか?
横田の基地司令に事情を話す。
「米軍では川を渡るとき、どうしてるんですか?」
『時間ある時、橋カケます』
ケイティが訳してくれる。
『橋作る戦車、あります。重機ないとき工兵隊、浮き橋作りマス』
「浮き橋?」
『ポントゥーン・ブリッジ、いいマス。自衛隊にもあるでしょう』
俺たちは資料映像を見せてもらった。
あ、これはダメかも。米軍のは戦車の上の砲台を取り除いて、展開式の橋が乗っている。
自衛隊のはふそうの大型トラックの荷台に、油圧式らしい橋が載っている。
そして、ポントゥーン式のは、展開に工兵部隊がボートとかで作業している。
あれ?
「これで充分だよね」
俺はその作業に映っていたゴムボートを指さした。
空気で膨らませたゴムボートの後ろに、ヤ○ハのモーターエンジンが付いている。
一艘のボートに6人が乗っている。狭そうだけど、これで充分だ。
こういうゴムボートがある事はもちろん俺たちも知っている。
というか年中みている。
奥多摩にはラフティングという、こんなゴムボートに乗って川下りを楽しむレジャーがあるのだ。
良いアイデアをいただいた俺たちは、今日のお礼に31層の映像や、川の温度、バジリスクなどの情報を提供して帰ることにした。
「二級小型船舶操縦士免許が必要だな」
兄貴がネットで調べて言った。
「まあ公海上に出るわけでもないから、実際は免許はいらないけど」
要するに、免許を取りに行けば講習が受けられる。
その講習が魅力なのだ。
「マリンバイク・ライセンス欲しいデース」
ケイティも大はしゃぎだが、手続きにいこうとしたときに驚愕の事実が。
「ケイティ、住民票取らないとダメだ」
そんなこんなで、俺たちは船舶免許を合宿免許で取りに行き、ついでにシーズン真っ盛りの海でしこたま遊んできた。
その後モーターゴムボートを3台、そして海上バイクを人数分買って帰る事にした。
兄貴の先輩が、
「バジリスクのドロップ素材は、使えるかも知れん」
といってきた。
「確かにアンチマジック相当の実力のある素材だ」
いや、アンチマジック相当だったら、充分今の装備で間に合ってます、というと
「……かっこいいのに」
としょんぼりしてしまった。
蛇革の装備なんていやです。
「それにしても、<アンチマジック>持ちで石化と毒、となると、対策が必要だな」
恭二なんかアイデアはないか?
と聞かれるので。
「うーん。新しい魔法が必要なんだろうけどね。……蛇だったら寒さに弱いのかなあ?」
攻撃側は<フリーズ>とか<アイスピラー>とかかな?
まあどっちもイメージしやすい魔法だろう。
「石化って、アンチマジックかかったゴーグルとかどうなんだろう?」
「分からんな。とりあえず試してみるしかなさそうだな」
良くあるメタリック蒸着のバイザーをエレクトラム製にして、そこに俺たちが<アンチマジック>と<レジスト>をエンチャントして使ってみたら、という事にした。
幸い俺たちは全員<リザレクション>が使えるんで、全員がいっぺんに石化でも食らわない限り、全滅はしないだろうけどな。
ヘルメットを作っているア○イに相談すると、一週間もしないウチに、エレクトラム蒸着したバイザーが装着できるタイプの新製品を作ってくれた。
さすがにバイク用のヘルメットを作っているだけあって、バイザー装着にはノウハウが蓄積されている。
ちなみに、ゴムボートやマリンバイクについて、ヤ○ハに技術相談していたところ、開発部の人たちはノリノリで「ヤマギシカラー」モデルを作ってくれた。
「バイクもいかがですか?」
と聞かれたので、もうH○NDAのを買いました、といったら
「オフロードならうちだって負けてません! ほら、たまたまですけどカラーリングもヤマギシカラーと同じです!」
と、WR250Rを一人一台ずつ無償提供してもらえる事になってしまった。
まあヤマギシカラーのカラーリングについてはともかく、このバイクもSUVと同じようにウチの開発に参加してくれてる企業ステッカーでレーサーレプリカのようにデコレーションが施されて、ゴムボートやマリンバイクに並んで、冒険者ショップのショウルームに展示される事になるのだった。




