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世界冒険者協会 9

さて、そんなわけで7月である。

俺たちは、世界冒険者協会主催、日本冒険者協会開催の「冒険者育成キャンプ」の結団式にやってきた。会場は、冒険者協会銀座支部である。

定員40名。

ほかに各国支部から幹部クラスが帯同している。

それに、各国最低一人は、日本語の通訳が可能な人材を用意してもらっている。

いわゆるG8と呼ばれる先進国からの参加でほぼ占められている。

参加費用は一人ひと月100万円で、これには交通費などは含まれない。

ただ、各国の冒険者協会が補助金などを出しているようで、金銭的トラブルや不満の声は上がっていない。

我が日本からも5人が参加している。

ウチとしては密かに、俺たちのパーティに残ってもらえないか期待していたんだが……。

蓋を開けてみると、全員、ウチ以外の国内個人ダンジョンからの肝いりだった。

まあウチとしては、可能な限り国内ダンジョンとは仲良くしておきたい。

いろんな意味で、将来上得意になってくれるわけだしな。


アメリカのメンバーに見知った顔がある。

ジョシュア・ブラス氏とジェイだ。ジェイは俺の顔を見ると肉食獣のような表情で笑う。

アメリカ人の大柄な美少女がすごんで笑うとこんなに怖いんだな。

って、あんたらなぜに?


ジェイとジョシュさんは、もうある程度使える人たちだ。

だから本来、こんな形で来なくても十分なはずなのに。

と思ったが、彼ら曰く「観光」なのだそうだ。

「政治的な意図もあるかも知れませんよ?」

シャーロットさんは勘ぐっている。

アメリカからの参加は五人。そのうち2人をブラス家が取る。

残りはモンタナのジャクソン家2人。カリフォルニア本部から1人。

モンタナは代表であるウィルさんと、通訳らしき日系人女性だ。

カリフォルニアの1人は、全米協会の幹部らしい。

残り30人枠も各国5人で埋めてきている。

ドイツ、イタリア、フランス、イギリス、カナダ、そしてロシアだ。

みんな、身体でけえ。


総務省からお役人さんが来て簡単な挨拶をしたり、冒険者協会幹部が挨拶をしたり、まあおきまりのスピーチを聞き終わると、いよいよ、二台のバスに分乗して全員を奥多摩に連れて行く。


ブートキャンプに参加するメンツは、基本、ダンジョン上のワンルーム使用だ。

基本、ということは例外も居る。

ブラス兄妹だ。

彼らは、ダンジョン棟の南に完成した複合施設棟の最上階の一室をブラスコ社が押さえているのを知っている。

そこに、メイドやらを引き入れて、今回のキャンプに参加するようだ。

ちなみに複合施設棟の一階はショウルームになっていて、俺たちのダンジョン装備を作ってくれた全ての企業のピーアールに提供されている。

そして、今回のキャンプに参加するメンバーは、これらの自費注文が許可されている。

意外なことに、1000万円に近いト○タのSUVは10台も注文があった。

買うのは良いけど、収納もなしにどうやって使うんだと思ったけど、彼らはどうやら街乗りに使うらしい。中二病だな。


ユニフォームには、左の肩に世界冒険者協会の紋章と、それぞれの国旗が縫い付けられる。

左胸には、それぞれの名前がアルファベットで縫い付けられるらしい。

ミ○ノの担当者が大量発注に喜んでいた。

60人が1人3着ずつ購入するからな。

ちなみにこのユニフォーム。

ウチの社員には制服として提供している。部署によっては背広しか着なかったりするけど、福利厚生としてだ。もちろん、ウチのオヤジや沙織んちのご両親も持っているし、時々着てる。


更に大量発注で悲鳴を上げているのが、藤島さんたちだ。

一振り200万円以上の値を付けている長槍だが、1人で3本とか発注する者まで居た。

この一日で、100本以上のオーダーがあり、藤島さんたちは本気で、日本中の刀匠のスカウトを検討することになる。

刀匠も人それぞれで、俺たちがダンジョン由来のインゴットで刀匠に武器を作ってもらってることを苦々しく思っている人も居ると聞く。

美術刀を創っている人たちにとって、ある意味邪道だと思われてしまってるんだろうな。




夕方の歓迎会で、俺たちは驚く羽目になった。

「ゴブサター、シテイマース」

ブラス嬢が居た。

しかも、俺たちとおそろいのユニフォームまで着ている。

すでにネット通販で全世界に販売してるんで持ってるのは分かるんだけど、もうちゃんと紋章と国旗、名前まで刺繍されている。

カラーも俺たちとおそろいのブルーだ。

「ケイティちゃんー」

沙織は大喜びで抱きついてる。

「兄貴、聞いてたの?」

「あ、ああ。彼女は<リザレクション>持ちだからな。医学生の候補生を別口で鍛えることになってるからな」

なるほど。テキサスのほうのメディカルキャンプの流れなんだな。


世界冒険者協会では、軍隊に似たバッジを出している。

攻撃魔法の赤、治癒魔法の白、教員の黄色。

ほかに、キャンプ受講済みを現す青とか、攻略済みの階層を現すバッジがある。

そこに、医師免許を持っている事を示す黒地に白い蛇のバッジなどが加わったりする。


例えば俺たちは、赤、白、黄、青、30の数字が入ったバッジとなる。

冒険者という仕事が多様化したら、もっとバッジも種類が増えるんだろうな。

ちなみに、これらのバッジはエンチャント付きで、指で触るとライトボールの魔法で発光する偽造対策がされてる無駄に凝った仕様なのだ。

軍隊と違って、冒険者には資格手当もなければ階級もない。

全部自分の責任なんでこういう自己主張はどうかな? などと思うのは日本人だけで、やっぱり欧米人にはクラスタ分けってのは大事みたいだ。

もしかしたら、単なる中二心かも知れないけどね。


んで、バッジ。

医学生は医師免許を持っていないので、白地に黒の蛇になる。

そうしたバッジを付けている6人ほどの男女がブラス嬢と帯同してこっちに来てる。

みんな頭良さそうだなあ。

リザレクション覚えてくれるとありがたいな。


さて。

翌日、まず全体を10人ずつ4チームに分ける。

要するに2ヶ国で1チーム。

それで、俺たち4人がそれぞれ1チームを率いて第1層に入る。

顔写真入りの事前のチェックシートで確認しながら、現在の能力をABC判定する。

教えず出来ればA、教えて出来ればB、出来なければC。

そして、40人全員に、魔石による能力ブーストを教える。

そこで午前終了。

ダンジョンを出て三階に上がって、昼食タイムだ。

今回、調理師はウチのほうで手配している。国際色が豊かなため、食材などでもいろいろ苦労があると初日からぼやかれてしまった。

あと2人くらいなら調理師さん増やして良いですよ、とシェフの人に伝えておく。

宗教的禁忌とかあるんで、手間が大きいらしい。

午後。

魔石吸収を終えた生徒たちに、再度1人1人魔法を覚えさせる。

そして更に採点をする。


教える魔法は、まずライトボール。次にファイアボール、フレイムインフェルノ、サンダーボルトと進んでいく。

回避系のアンチマジック、レジスト。回復系のヒール、キュア。

これらを全員がB判定になるまで、何日かかってでも教え込むのだ。

そういえば、付き添いできている各国の幹部たちも、ブラス嬢の元で同様に修行している。

人数が多いんで大変そうだ。ただし、幹部は目的意識がしっかりしてるんで、集団行動に問題はなさそうだけど。

三日で、全メンバーがB判定になった。キュアに関しては、出来ても出来なくてもかまわない。

元々、魔法の認識には個人差があるからな。


次は、誘導者が1人に、各国の生徒と幹部でパーティを作り、それぞれ3層までトライする。

先生が足りないので、藤島さんに臨時講師を引き受けてもらう。


そんな風に、ひとつきかけて10層まで全員をクリアさせると、俺たちの出番は終わるのだった。あとは、各国それぞれ、10層までの熟練訓練となる。

ターンアンデッドは、アンデッドの出る層から教える。

マスターできたのは3割程度だが、これはいずれ冒険者を続けていけば、マスターできるんじゃないかな?




8月。

俺と兄貴と沙織は免許取得のため合宿免許へ出張となる。

俺の誕生日は8月3日。沙織が8月18日。

俺たちは昨年もいった沖縄の教習所にまたお世話になる。

兄貴は、年齢制限のあった大型免許を取得する。

オヤジとシャーロットさんは、残念ながら今回は、60人もの生徒を預かっているために同行できなかった。

「くそ、俺もいきたかった」

オヤジがぐずる。

とはいえ俺たちも、卒検が終わったらすぐに帰らなくてはならない。


残したブラス嬢やシャーロットさんには申し訳ないが、俺たちは沖縄の空の下で、やっと緊張から解放されている。

新人冒険者たちのブートキャンプは、正直俺たちにとってもきつかった。

去年と違いほとんどバカンスな兄貴と比べ、俺と沙織はMT免許の教習と大型自動二輪、大型特殊、牽引まで取るので、結構ハードな研修になる。

兄貴は順調にいけば一週間だが、俺たちはひとつき近くは優にかかる。


「今年は天気良くて良かったよねー」

沙織が真っ青な空を見上げて笑う。

「ウチのオヤジ来てないからかもな」

「本当に雨男なのかなあ?」

「知らんけどな」

俺たちは、同じ時間に教習と学科をこなしている。

上がり時間も一緒なので、開いた時間でいろいろ沖縄を満喫させてもらっている。


「なんか、申し訳ないねー」

沙織が言う。

とか言いながら、水着とか新調していたのを俺は知ってるんだが?


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