表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/71

日常の終わりと専業冒険者 6

第八層。

これまでの法則を踏襲して雑魚にあの大鬼が登場する。

接近戦を許すと後衛の大鬼からも槍が飛んでくる。

基本、魔法によるヒットアンドアウェー戦が有効になってくるわけだ。

俺と兄貴もドロップ品の槍は使ってるけど、同じ武器を使ってる限りリーチや上背の差は埋めようがないな。

<サンダーボルト>はいわゆる範囲魔法的に使える。サンダーボルトで殲滅し、生き残ったヤツを<ファイアーボール>で片付ける。

まだ俺たちの魔力は誰も切れたことがない。でも魔力の残量が可視的に分からないというのは、魔法を主力にして戦うことを前提にするととても恐ろしい感じがするな。


「どう?」

俺の問いかけに、三人はうなずく。

第八層も、基本俺たちにとっては問題のないエリアといえそうだ。

いつものごとく、四つ角で三方から1パーティごとの敵に挟撃されるが、そもそもウチらは魔法が高火力だからな。危なげがない。

むしろ倒したあとドロップがあったときに拾うほうが大変だ。主にオークジェネラルの大剣が重い。

「あれ? そういえば沙織もシャーロットさんも普通にその大剣拾ってくるよね?」

見た感じ、別に二人ともマッチョになってきてるわけではない。

それはまあ俺も兄貴も一緒だ。とはいえ兄貴は空手とかやってたし俺も高校じゃ野球部に入らなかったけど中学出るまではずっと野球小僧だったわけで、貯金というか、下積みはあったわけで。

「うーん、あたしも自分であり得ないと思うけどさ。でもなんか、ダンジョン出ても身体の調子はいいよ?」

「私も基礎体力が底上げされているように感じます」

その件については俺も兄貴もまさに感じているわけだしな。

そもそも、頭でどうこう考えても槍やら刀やらは上達しない。

だとしたら、俺たちの身体能力は、ダンジョンで明らかに成長してるんだと思う以外、上手く説明できないな。

まあ俺たちは学校で部活とかやってないんで、純粋な比較対象がないんだよな。

体育の時間とかで走ってラップ取れば分かるのかも知れないけど。


そんなわけで第八層も危なげなく進んでボス部屋に到着する。


「オークジェネラル4大鬼が2、それに……ありゃなんだ?」

兄貴が驚く。

食人鬼(グール)? あるいはゾンビ……」

「きもーい! <サンダーボルト>!」

沙織は敵ボスの姿にはっきり嫌悪感を浮かべて瞬殺にかかる。

兄貴も<サンダーボルト>。俺は二人の魔法の発光が収まるのを待った。

「グールだろうな。動きが速い」

二人の魔法を素早く後退して避けたのを見て俺は判断した。

まあ正確なところなんて誰も知らないわけだが、少なくとも、ゾンビってあれほど素早いイメージはない。

「<ファイアボール>!」

俺はグールに自称135km/hの速球を投げる。

くそ! 野郎避けやがる。

「避ける方向を予測して攻めろ!」

兄貴の言葉を聞いて、俺はヤツの動きを先読みしてファイアボールを連射する。

三発撃ったらやっと一発かすった。

「ギャーーーー!」

思いっきり怒りの雄叫びを上げてきた。

まずい、シャーロットさんと沙織がビビって硬直してる。

グールはそのまま俺に向かって突進してくる。

くそ、炎の範囲魔法ってどんなだろう?

俺は一瞬考えたが、ヤツは俺にそんな隙を与える気がないらしい。

こきたない爪が生えた両腕を振りながら俺に飛びかかろうとするのをライオットシールドで防ぎ、俺は槍で突こうとする。

それを察したのかヤツは俺の盾をド突いてその反動で後方に一気に跳び下がる。

猿みたいな身のこなしだった。

そこに兄貴の<ファイアボール>が命中し、腹から右脇までを消し炭にされるグール。

俺も即<ファイアボール>の後追いをして、やっとヤツを倒すことが出来た。


「ドロップは角か。面倒な敵だな」

回収に向かった兄貴がつぶやく。

「……ビビった」

俺は自分の呼吸が速くなってるのに今更気づいた。心臓の音が耳のあたりで聞こえるように感じる。アドレナリンが出てるってヤツだろう。

やむなく俺はボス部屋に座り込み、収納からペットボトルのお茶を取り出して一気にラッパ飲みする。

視線で察してもう三本取り出し、全員に渡す。

アドレナリンが出るとなんでのどがからからになるんだろう?

あと、口の中に変な味が広がる。あれがアドレナリンの味なんだろうか。


緊張と興奮が去ると、いつも以上の疲労が襲いかかる。

「悪い、今日はここまででいいか?」

俺が三人に聞くと、三人ともうなずいてくれた。


リポップがない限り、帰り道は比較的スムーズだ。

だからいつも俺たちは帰り道で反省会をしている。

「恭ちゃん、最後のあれってなに?」

「……多分グールだな。やっかいかも知れない。ゲームとかだと、爪や牙に毒がある。麻痺や毒が一般的だと思う。正体は作品によってまちまちだな。角を落としたんであいつは鬼かと思う」

「動きが素早かったですね……」

シャーロットさんがいう。

「ファイアボールはともかく、サンダーボルトの二発を避けられたのはむかつくな」

「兄貴良くファイアボール当てたな」

「ああ、殺しきれなかったけどな」

「……」

あいつは俺に怒っていたから標的(タゲ)が俺に来てて良かったが、俺たち前衛を飛び越えて後衛のシャーロットさんや沙織に飛びかかられるとやっかいだ。

今までのパターンを踏襲するなら、第九層であいつは雑魚で出て、十層では1パーティあたり二体以上になる。つまり、同時に6体以上を相手にする可能性がある。

「……新しい魔法を、作ろうと思う」

俺はみんなに話す。

「ファイアボールは効果的だけど、当たらなければ意味ないからね。サンダーボルトが避けられてる以上、もっと効率的なゾーン魔法が必要だと思う」

「ゾーン魔法?」

沙織が首をかしげる。

「大きな魔法を使うとき、もし自分を中心に魔法を発動したら、周囲の仲間まで巻き込みそうじゃない? だったら、敵周辺に発動場所をイメージして、単体じゃなくて敵を全部巻き込む感じにエリアを作って魔法を発動する……って感じだな」

「ゲーム的に言ったら、全体魔法だな」

兄貴が補足する。


第一層入り口まで戻って、俺は全員にイメージを伝える。

「<フレイム・インフェルノ>なんてどうだろう?」

「インフェルノって?」

沙織に聞かれる。

「火炎地獄……とかであってる?」

「ええ」

英語なんで、シャーロットさんに聞くと、うなずいてくれた。

「まあとにかくやってみる。<フレイムインフェルノ>!」

俺は、いつも通路から敵が沸くあたり……というかライトボールで照らせるあたりである5メートル先当たりにゾーンを意識して、魔法を発動させてみた。


ボゥン


軽い衝撃音と共に俺が意識したあたりで四角いエリアに炎が上がり、その炎が天井あたりまでわき上がって消えた。

「……いいんじゃねえか?」

兄貴は言うと、早速俺を模倣して唱える。成功だ。

続いて、沙織、シャーロットさんも成功させる。

「感覚的にはサンダーボルトと同じくらいの魔力で出来るんでしょうか?」

シャーロットさんが感想を言うけど、正直わかんないんだよなあ。




この頃シャーロットさんが皆勤賞なのには理由がある。

その理由が、彼女のヘルメットに付いているアクションカメラだ。

アメリカ製の軍用品アクションカメラで、軍用品らしく高性能、高機能で耐衝撃、耐水没性能を誇る。

値段は公表されていない。というか販売してるのだろうか?

彼女はこれをCCN本社経由で入手し、それ以降ずっと撮影している。

その結果、奥多摩に待機するカメラクルーは不要になったので、俺たちといつも一緒にいられるようになったらしい。

ちなみに、CCNジャパンのキャスターはもう新人がシャーロットさんに変わって配属されている。

なんで知ってるかというと、さすがにシャーロットさんががんばってるのに「契約してないから」なんて言っていられず、オヤジがCCNを契約した。

今は彼女の収録した「シャーロット・オガワ・レポーティング」というコーナーで、ダンジョン内部のこと、戦闘のこと、敵の事などを録画中継しているらしい。


「米軍がいよいよカリフォルニアで現地調査を始めるわ」

CCNの情報でシャーロットさんが掴んだ。

「へえ、いよいよか」

もちろん米軍が一刻も早く内部調査に向かいたがっていたのは知っていたが、彼らがなかなか踏み出せなかったのには理由がある。

要するに、兵士達の運用に対する安全確認だった。

空気成分の分析で、呼吸が出来るレベルなのかどうか。浸食の口(ゲート)は安定して出入りできるのか? など、対策チームが設定したプロトコルをひとつずつクリアーし、その上で志願兵を中心にした選抜チームが集まって最終演習を行った後、やっとゲートをくぐることになったわけだ。


「米軍には魔法使える人増えてるの?」

シャーロットさんに聞いてみる。

「そうでもありません。ゲートから数キロも離れると、ほとんど魔力が吸収できないようです。ゲート前のガードがもっとも多くの魔力を体内に感じるそうです」

やっぱりダンジョンに潜るのが最も有効な「充電」方法なんだろうな。

「魔力と言えばキョウジさん、大佐が『サンプルのため石と敵の武器を譲って欲しい』と言ってました。協力費を弾むので、可能な限り多くの石が欲しい、とのことです」

「ああそうだ。藤島さんも大剣と敵の槍が欲しいっていってたぞ」

CCNの放送を見ていた兄貴が、俺たちの会話を聞いて振り返った。

「了解、ってかじゃあ今から行こうか?」


というわけで、藤島さんの庵を訪ねて大剣と槍を渡して、横田基地に向かう。

藤島さんはさすがに大剣と槍を見てビビっていた。

そりゃそうだよな。俺たちだって魔法があるから対峙することが出来るんだ。魔法なしでこんなものを持った敵が出てきたら、まっぴらごめんだ。


大佐のほうは今日は会議で不在だったが、担当の事務官の人が対応してくれた。

シャーロットさんが受取書類を確認してくれたので俺たちもサインして、石を500個、ドロップアイテムの武器を一通り、五個ずつほど置いて帰る。


後日、1500万円近く協力費が入金されて、びっくりした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ