第一話 孤独
この星で最も栄えてる街から、最も離れている平原に彼は一人で暮らしていた。
別に一人が好きなわけではない。むしろ独りは嫌いだ。なぜなら、誰からも気付かれず、愛されずに死ぬのは最も悲しい事だと彼は知っていたから。
だけど、この世に存在し始めた時から彼は忌み嫌われていた。
だから人から免れて、逃げて、避けて本当に何もない平原に、一人で、独りぼっちで生きてきた。
親なんて顔も知らない。存在するのかも疑わしい。
友人なんて出来たことない。見られただけで石を投げられたこともある。
普通じゃない奴が近くにいるんだ、石を投げられたって仕方ない。
しょうがないし、仕方のないことだと彼は草原の地平線の向こうに沈む夕日を見て無邪気な顔で笑う。
ただ、見ているのは辛かった。親とじゃれあう子どもを眺めるのは。
友達同士で遊んでいる所を羨ましく思いながら地面とにらめっこするのは。
だから、逃げた。自分で自分を嫌いになるのは嫌だったから。自分を否定するのだけは、何だかしてはいけない事だとと思ったから。
夕日が沈むのを見終えた彼は向く方向を変えて、家に向かって歩く。何もないといっても、人が暮らせない訳じゃない。
彼がいた場所から少し歩くと、小さな家屋があるのだ。彼が一人で建て、独りで生活をしている家だ。
さっきまで頬を赤く染めていた夕日が沈むと、彼の周りは雰囲気を変える。まるで彼の本当の気持ちを表すかのように真っ暗になる。
少し怖くなり、小走りになる彼。今日も悪くない日だったと、またまた下手な笑みを浮かべながら家の前まで着いた。
火照った体を冷ますためか、それとも誰もいない家に入るのを恐れているのか、中々ドアを開けて中に入ろうとしない。
ドアノブに手を掛けてちょっと、ほんのちょっとだけ誰かいるんじゃないか、おかえりと言ってくれるんじゃないかと期待する。
そんな期待に答えてくれるはずもないのに…。
「…ただいま」
毎日この小さな期待に裏切られながらも彼は欠かさずにこの言葉を言う。誰かが教えてくれたわけでもないのに、そこに誰かがいるわけでもないのに。
ドアを閉める背中は小さかった。元々大きな体でもないのに彼は猫背で、しかもこの雰囲気だ。いつもより狭く見えてしまっても仕方ない。
それに反して家の中はこの時だけ広く見えた。しかし、独り暮らしには広く感じるだけであって、実際にはベッドと本棚ぐらいしか置いていない。それぐらいしか置けないのだ。
ドアを閉めた後、彼は大好きなベッドにダイブする。昼間に干したのでふかふかであることを知っていたからだ。
ぐーっと伸びをして、部屋に火を灯す。なにか小さく発すると部屋の天井に吊るしてあるランプが、部屋を十分に照らす。
ベッドから起き上がり、干し肉を戸棚から一枚取り食べ始める。そんなにお腹が減っていなかったのか半分ぐらいで戸棚に戻し、ベッドで寝転び始めてしまった。
「ふわぁ~寝よ」
大きく口を開けて中で尖る牙を見せたかと思うと、口をモゴモゴさせて眠りについてしまった。
でも多分彼は気づいていないだろう。あともう少しした後にこの何もない平原にまで旅してくる変わった旅人がドアを叩く事を。何もなく、腹が減って死にそうなお客さんが来ることを。