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僕はスケベじゃない!  作者: ポンタロー
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第九章

第九章


 ああ、ついにこの日がやってきた。やってきてしまった。MDGの開催日が。

 コココちゃんにいいところを見せようと思って参加を決意したのはいいけど、よく考えたら、女の子と戦うんだよなぁ。コココちゃん、今は僕が男だって知らないけど、僕は最終的に、自分が男だって告白するつもりだし、そしたらもちろん、僕はMDGで女の子と戦ってたってことになる。ああ、実は、僕の相手もメイドに女装した男ってことは……ないか。ないよな。

 MDGがバトルだと分かった時、当然コココちゃんは拒否反応を示したけど、そこを龍華さん、輝姫さん、邪鬼さんの三人が上手く説得して丸め込んだ。っていうか、あの人達、目が完全にドルマークになってたし。

 そんなわけで、僕は今、MDGが開催される帝東ドームに向かうため、テッペキさんの車に乗っている。他のみんなも乗せていくつもりだから、今は鉄女に向かっている最中だ。

「平子様、まだいじけているのですか? いい加減、腹を括ってはどうです?」

「別にいじけてなんかいませんよ」

「……フウ。どう見てもいじけているとしか思えませんが、そんなにマーベラスさんを戦わせたくなければ、四人でさっさと勝ちを決めてしまえばいいのです」

「そんなことは分かってますよ。もし、コココちゃんが戦うようなことになったら、僕は帝東ドーム丸ごとぶっ潰すつもりでいますから、そこのとこよろしく」

「平子様、さすがにそれは……」

「僕にできないとでも?」

「…………」

 そして、僕達の和やかな会話も終わり、鉄女が見えてきた。

 あ、もう四人とも正門の前で待ってる。

「おーっす、平子~」

 龍華さんが元気に手を振っている。うわ~。ピクニックにでも行くようなノリだ~。

 輝姫さん、邪鬼さんもにこやかな笑みを浮かべてはいるけど……。ははは、三人共~、目がドルマークになってますよ~。……ハア、まともなのはコココちゃんだけだな。


 というわけで、あっさりと何の問題もなく帝東ドームに到着。……したけど。

 デカ! 超デカ! 僕は野球をあんまり見ないし、プロレスやアイドルのコンサートにも興味ないから来たことなかったけど、ココ、超デカい! っていうか、こんなところでやるの?

「あの、テッペキさん。ほんとにここでやるんですか?」

「もちろんです。さあ、逝きますよ、戦場へ」

 そうカッコよく言って、すたすたと歩き出すテッペキさん。でも……あれ?

「あの、思ったよりお客さんいませんね?」

 こういったイベントのある日は、常に長蛇の列だと思っていた僕は、いささか拍子抜けしてテッペキさんに尋ねた。

「……何を言っているのです。もうみんな、入場しているのですよ」

 そ、そうなんだ。なんか、人でごった返してると思ってたから意外だな。


「おお、すげえ! ここが控え室か~」

 控え室のドアを開けた龍華さんが、目を輝かせてあちこち走り回っている。ここは帝東ドームの控え室。以外と言ったら失礼だけど、結構広くて綺麗だった。輝姫さんなんて本のネタになるとか言って、写メ撮りまくってるし。邪鬼さんは……ボーっと立ったまま、いつも通り何を考えてるか分からない。コココちゃんは……。

「えう。コココ、こんなところ初めて来たです」

「うん。僕もだ」

「……コココ達、これから戦うですよね?」

「うん。でも大丈夫。僕や他のみんなが頑張って、コココちゃんが戦う前に勝ちを決めちゃうから」

「えう! ありがとです! 信じてます、平子ちゃん!」

 コココちゃんの嬉しそうな笑顔が、僕の心を満たしていく。よし、頑張るぞ。

「皆さん、テンション高めなところ申し訳ないのですが、先に本部に申告しなくてはならないので、決勝戦の対戦順を決めてしまいましょう」

 あ、そうだ。え~と、互いのチームの先鋒、次鋒、中堅、副将、大将が戦って先に三勝すれば勝ちか。……って。

「決勝?」

「ええ。参加チームが二チームだけですので。緒戦が決勝ということになりますね」

 ……そりゃそうか。いくら賞金が良くても、殺し合いとか言ってる大会じゃな。

「え~と、皆さん、それでは早速……「失礼しま~す」」

 水をさされた。入り口のドアから、スタッフの人が小さい箱を持って入ってくる。

「これ、打破選手のファンって人からの差し入れです」

「マジで!」

 龍華さんが、驚きの声を上げて箱を受け取り、開ける。

「うお! メスドのドーナツじゃんか! ラッキー!」

「龍華、試合前なのですから、過度の飲食は控え……」

 輝姫さんがそう言ったけど、無駄だった。

 すでに龍華さんは、口いっぱいに砂糖を付けながら、ドーナツに齧り付いている。

「え? 何?」

「……何でもありませんわ」

 輝姫さんは、若干呆れ気味にそう言った。

「え~、では龍華さんは食べたままでいいので、これから戦う順番を決めたいと思います。まずは先鋒ですが……」

「はい! はい! あたいが行く! あたいが行く!」

 龍華さんが、ドーナツを持ちながら手を上げる。そうだな、コココちゃんは絶対出したくないし、僕も女の子と戦うのは嫌だから、ここは龍華さんに任せるか。

「え~、それでは、先鋒は龍華さんということで。異論のある人は……」

 プルル、プルル……。そこで僕のスマホが着信を伝えた。相手は……知らない番号だ。ちょっと出るのが怖いけど……出てみるか。

「ちょっと、すみません」

 そう言って、僕は控え室を出た。

「はい、もしもし。どちらさまで『妹を先鋒にしなさい。さもないと、えらいことになるわよ!』」

 スマホ越しの大声が、僕の耳を強襲する。突然、何言い出すんだこの人。あれ? でもこの声、どこかで聞いたような……。

「妹? すいません、僕には誰のことだかさっぱり……ていうか、アンタ誰?」

『貫子よ! 貫子! 邪鬼の生涯の伴侶と書いて貫子よ!』

 いや、書かないでしょ。

「貫子さんていうと、あの変態シスコン馬鹿の天乃貫子さんですか?」

『誰が変態シスコン馬鹿よ! 私はただ、妹をこの世で一番愛し、そしていつか妹と一線を踏み越えたいと願っているただのいいお姉ちゃんよ!』

 それを変態シスコン馬鹿と言うのでは? とは、言わない。

「はいはい、分かりました。でも、何で邪鬼さんを先鋒にしたいんですか? というより、何で今、MDGの戦う順番を話してるって分かったんです?」

 それ以前に、どこで僕の番号を入手したのかも気になる。

『フフフ。いいわ、答えてあげる。一言で言えば……そう、愛ゆえに』

「失礼します」

 僕はスマホを切った。

 が、またもすぐさま着信音が響く。めんどくさい人だなぁ。

「はい、もしもし」

『ひどいじゃない! ちゃんと答えたのに切るなんて』

 全然ちゃんと答えてないよ。

『もう、仕方ないから本当のことを言うわ。妹を先鋒にしてほしいのは、私もMDGに出場していて先鋒で出るから。あなた達がMDGの戦う順番について話しているのが分かったのは、妹の服に盗聴器を仕込んであるから。そして、あなたの番号を私が知っているのは、私が妹のスマホを常にチェックしているからよ!』

「と、盗聴器って……、今、あなたは邪鬼と一緒に暮らしてないのにどうやって……」

『フフフ、あなたが邪鬼ちゃんをバイトさせてるおかげね』

 こ、この人、今さらっとえらいことぶっちゃけたよ! っていうか、ウチの店に来たってこと!

「じゃあ、スマホのチェックも……」

『そう。邪鬼ちゃんが仕事している間にこっそりとね』

 あ、開いた口が塞がらない。

『で、どうなの! 妹を先鋒にするの! するわよね! しないとアンタが男だってバラすわよ!』

「な! 何でそれを……」

『フフン。答える義務なんてないわ。で、どうするのよ? 変態のレッテル貼られてみる?』

「クッ。わ、分かりましたよ」

『そう、ならいいわ。じゃあ、よろしく……ブツッ』

 ……電話が切れた。でも、なんで貫子さん、僕が男だって知ってるんだろう? 邪鬼さんが言いふらすとは思えないし(邪鬼さんの口が堅いからとかではなく、バラしてバイトをクビになりたくはないだろうという打算的な理由で)……。

「ていうか、それ以前に、何で貫子さん、邪鬼さんがMDGに出ること知ってたんだろう? ああ、それは盗聴器か」

「いいえ、それは私がお教えしました」

「おわ!」

 と、悩む僕にさらっと答えたのは、音もなくいつの間にか近くにいたテッペキさんだった。

「あの、テッペキさん、心臓に悪いんでもう少し登場の仕方考えてもらえます? っていうか え? 何で?」

「私と彼女は、心の友と書いて心友と呼び合う間柄ですから」

 い、いつの間に……。

「じゃあ、僕が男だって貫子さんにバラしたのも、テッペキさんなんですか?」

「いいえ。さすがにそれはありません。私も今の職が惜しいので」

 うん。それなら信じられるな。

「あの、テッペキさん。あなたは一応こちら側の人間なんですから、そういうのは……」

「いえ、私と貫子たんは、私が富持グループで働く以前からの付き合いなのです」

「ウソ! 何で!」

「私と貫子たんは、とある共通の事柄で意気投合し、二人で秘密組織を結成しました」

「……ほう」

 な、なんか、えらく壮大な話になってきたな。

「ち、ちなみにその秘密組織というのは……」

「『妹の、処女は、もらった同盟』。通称ISMイズムです」

 …………。

 誇らしげに言い放つテッペキさんに、僕はただただ沈黙する。。

「この同盟は、妹を愛してやまない者のみが入ることを許され、日々、どうやって妹を可愛がるか、どうやって妹を禁断の世界に引き込むか、どうやって倫理の壁をブチ壊すか、世俗を捨て妹を連れて逃げるならどこを選ぶべきか、などを語り合う組織なのです」

 …………。 

 潰れてしまえ、そんな同盟。

「今のところ、メンバーは私と貫子たんだけですが、いずれは世界進出も考えており……」

 一人で延々と語り続けるテッペキさん。よし、長くなりそうだから、ほっといて控え室に戻ろう。


「お待たせしてすみません。それじゃ早速戦う順番を決めるんですが、できれば先鋒は邪鬼さんにお願いしたいんです」

「我が? 何故ゆえに?」

「ブ~。そうだそうだ~! 一番はあたいにするべきだ~!」

「まあ落ち着いて。やはり勝負事は緒戦が大事です。となると、ここはメイドカフェラブリーオーナの切り込み隊長的な位置にいる邪鬼さんの出番かと」

「切り込み隊長? フフ、悪くない。引き受けた」

 よし、作戦成功。

「ブ~。あたいじゃ役不足だってのか~」

「龍華さん、落ち着いて。龍華さんは秘密兵器なんですから」

「秘密兵器? あたいが?」

「そうです。邪鬼さんが切り込み隊長なら、龍華さんは秘密兵器です。秘密兵器を最初に出す馬鹿はいません。ここ一番の大事なところをお願いします」

「へへ。そこまで言うなら仕方ねえ。先鋒は邪鬼に譲ってやるか」

 よし。またも作戦成功。いいぞ、僕。

「では、先鋒は邪鬼さんということで、次は次鋒を……」

 プルルプルル……。その時、またも僕のスマホが着信を知らせる。相手は……あ! また貫子さんだ。僕は、またかよ的な視線を送ってくるみんなに深々と頭を下げて、再び控え室を出た。ううっ、僕、何にも悪くないのに。

「何ですか貫子さん? 邪鬼さんならちゃんと先鋒に……」

『輝姫を次鋒になさい!』

 あれ? 貫子さんの声じゃないぞ。それにしても、いやに高圧的な口調だな。

「え~と、どちらさまですか?」

『あ、申し送れましたわ。私、今回のMDGにメイドカフェバッドホームカフェの次鋒として参戦している腐城子姫ふじょう しきと申します。以後、お見知りおきを』

「はあ。で、輝姫さんとはどういったご関係で?」

『そうですわね。強いて言えば、強敵と書いて友と読む間柄でしょうか』

「……そうですか。で、その友の輝姫さんをどうしてまた次鋒に?」

『そんなこと、あなたには関係ありません。とにかく、黙って麗条輝姫を次鋒になさい。これは命令です』

「むっ!」

 その態度に、さすがの僕もカチンとくる。命令される筋合いなんてないぞ。

「お断りします」

『あらそう。では、あなたの秘密を全国ネットで伝えても構いませんのね、富持助平君?』

 僕は、心臓を鷲摑みにされたような気分になった。

「ど、どうしてあなたまでそれを……」

『フフフ。答える義理はありませんわね。で、そちらの返答やいかに?』

「……分かりました。そちらの要求を呑みます」

『結構。ちなみに、驚かせたいので、私のことは輝姫には伏せておいてくださいね。それでは』

 そう言って、電話が切れた。貫子さんといい、さっきの腐城さんといい、何で僕が男だって知ってるんだ? まさか、やっぱりテッペキさんか? あんまり人を疑いたくないけど……。

「違いますよ」

「のわ!」

 考え込んでいたところに、またもどこからか現れたテッペキさんが、僕の心を読んだかのように囁いた。

「テ、テッペキさん。お願いですから、普通に登場してください! 試合前に僕を殺す気ですか!」

「あなたがこれくらいで死ぬわけないでしょう。それより、随分と私をお疑いのようですが、私はあなたが男であることを、絶対に外部に漏らしてはいませんよ」

「……信用できませんね」

「王菜ちゃまに懸けて誓います」

「信じましょう」

「結構。それより、早く控え室に戻られた方がよろしいかと。皆さんがお待ちかねですよ」

「あ! そうだった」

 僕は慌てて控え室に戻った。

「遅えぞ、平子! 誰からだったんだ?」

「ええと、輝姫さんの……」

 いけない。言わないように言われてるんだ。

「ええと……、ま、間違い電話でした」

「な~んだ。で、次の次鋒なんだけど、今度こそあたいが行くぜ。いいだろ?」

「それなんですけど、次鋒は輝姫さんにお願いしたいんです」

「え~! 何でだよ~!」

 龍華さんが、拗ねた子供のように口を尖らせる。

「私? 別に構いませんけど」

「お願いします」

 よかった。何もツッコまれなくて。

「ブ~、ブ~。あたいだって戦いたいぞ~!」

「ご心配なく。龍華さんには次の中堅で行ってもらいま……」

 プルルプルル。

「「「「…………」」」」

 ……まただよ。僕はげんなりした顔でスマホを確認。……やっぱり貫子さんだ。

 みんなの視線がチクチク痛い。ぼ、僕のせいじゃないのに。僕は、白い目で見つめるみんなに無言で土下座して、三度控え室を出た。

「はい。こちら、いい加減この状況にイライラしてきて、ちょっと本気でキレ気味の富持平子ですけど」

 僕は苛立ちを隠そうともせずに言った。

『…………。お忙しいところ申し訳ない。某は、この度、貴殿のチームと手合わせすることになったメイドカフェバッドホームカフェの者だ。折り入って、貴殿にご相談がある』

 おや、今度は随分と礼儀正しい人だな。こういう人の頼みだと無碍にはできないや。

「何でしょう?」

『実は、そちらの中堅を打破龍華にしていただきたいのだ』

 なるほど。今度は龍華さんをご指名か。

「ということは、あなたがそちらのチームの中堅なんですね?」

『うむ』

「失礼ですが、龍華さんとはどういったご関係で?」

『…………』

 なるほど。言いたくないってわけね。

「嫌だと言ったら?」

『あまりこういったことを言いたくはないが、貴殿の秘密が世に広まることになる』

「へえ、僕の秘密って何ですか?」

『とぼける必要はない。某が貴殿という言葉を使っているところから察していただきたい』

 やれやれ、言う通りにしなきゃ、僕が男だとバラすってわけね。

 まあいいか。どっちみち中堅は龍華さんにいってもらうつもりだったし。

「分かりました。そちらの言う通りに」

『助かる』

「一ついいですか?」

『聞こう』

「何故、そちらのチームの皆さんは、僕の秘密を知ってるんです?」

『それは某の口からは言えん。が、一つヒントをやろう。こちらのチームの一人は、貴殿のことをとても良く知る者だ』

 だ、誰だ? さっぱり心当たりがないぞ。

『ちなみにその者はこちらの副将だ。これを聞いてどうするかは、貴殿の判断に任せる。それでは』

 そして、電話が切れ、僕は控え室に戻る。

「ハア。すみません、お待たせしました」

「どした、平子? そんなでかいため息吐いて」

「いや、何て言うか、僕って可哀想だなぁって、しみじみと思いまして」

「はあ? 何言ってんだ、急に?」

「いえ、気にしないでください。独り言です。ところで中堅なんですけど、できれば龍華さんにお願いしたいんですが」

「よっしゃあ! 任せときな!」

 拳を振り上げ、二つ返事でオーケーしてくれる龍華さん。

「で、残った僕が副将で、大将がコココちゃんってことで」

「ええ! やっぱりコココ、戦うですか!」

「大丈夫だよ。前の三人が勝ってくれれば、僕達は戦わずにすむから」

「ふえ~、よかったです~」

 僕の言葉を聞いたコココちゃんがホッと胸を撫で下ろす。

 そうさ。絶対にコココちゃんを戦わせたりはしないぞ。

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