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一夜明けた講堂の人達はみな無事だったのを喜び合った。

マイクは昨夜、精一杯歌ったので疲れたようだ。今は母親の膝枕でぐっすり眠っている。

ジェイクはもう起きていて、マイクの寝顔を眺めていた。

「寝ている顔は天使そのものですね。」

一人の青年が母親に声をかけてきた。

母親とジェイクは青年の顔を見て驚いた。

「・・・ロ・ビンさん?」

ふふっと青年は嬉しそうに笑った。

「初めまして?になるのかな?」

ジェイクは頬を紅葉させながら興奮していた。

「うっそ!信じられない!夢みたいだ!」

「そんなに感激してもらうほどの者じゃないよ。それに偶然、旅先がここだったんだ。」

ロビンはくすくす笑っている。

ロビンはジェイクにとっては、大きな壁だったが憧れでもあった。

「あなたの歌はすばらしかった!ずっと、会いたかったんです。もう、僕は歌えなくなってしまったけど、あなたが目標だった。」

ロビンは、ジェイクを見つめながら言った。

「ジェイク・・・。君の事は聞いてる。退団したんだって。」

「この声じゃ・・・もう・・・。」

ジェイクは苦笑いをした。

ロビンはジェイクの肩に手を置くと話始めた。


「ソプラノが出なくなって、歌うことを諦めて、違う道に進むのも一つの選択肢だろう。また、作曲や作詞など別のアプローチだって音楽に関わっていける。人の生き方は様々だからね。」


そして深呼吸すると、ロビンは強い意志の瞳で彼を見つめた。


「だが、俺は、歌をやめない。歌い続ける。

たとえその音域が変わってしまっても、希望の光を人に与えられる事ができる。

そして、後に続く君達のような迷える子羊が、歌う事に希望を持てるようにー」


彼は、にっと口の端をつりあげて笑うと


「しっかり、見といて。俺の背中。

功績という壁だけじゃない。

歌うことに終わりはないと、ちゃんと道標を残していくから。

だから、いつまでも追って来きてよ。

そしていつか・・・昨日の夜みたいに・・・同じ舞台に立とう。」


「昨日の夜・・・」

昨夜、講堂の暗闇から響いた優しい癒しのバリトンを思い出した。

「あれは、あなただったんですね。」

いつの間にかマイクも起きていた。

「そうだよ。マイク。昨日の君はすごかった。ただただすごかったよ。

何度か、君の歌を聞きに行った事があるけど、君に足りないものは自信だと感じたよ。

昨夜のように前を見据えて胸をはればいい。

あとは、人に勇気を与え、励まし、疲れた心を癒す、そんな表現者になればいいだけのことだ。

そう、心のままにー」


心のままに・・・



あなたに届くかな?


もう一度、あの素晴らしい出来事は起こるかな?


マイクはいつかの草原に来ていた。もちろんその横にはマイクには見えないが片翼のミカエルもいる。

マイクは前を向くと静かに歌い始めた。

歌声は風にのり、天まで届きそうだ。

片翼のミカエルは、心が癒されていった。

目を閉じると光の粒が降りてくる。まるでシャワーを浴びているようだ。

ミカエルは溜息をついた。

ずっと聴いていた。何度も何度も救ってくれた歌声。

目を開けると、マイクと向き合っていた。

「!?」

見えてるハズは・・・ないんだけど・・・。

「もう、大丈夫だよ。」

マイクはにっこり笑った。

見え・・・てるの?

マイクは、両手の中に小さな白い柔らかい羽根を載せている。

ふぅ。

彼は静かに天に向かって羽根を吹いた。羽根は風にのり空へ舞い上がった。


そうか。もう天へ帰れってことか。

そうだよな。君にもらった金の羽。


今また再び僕の背にある。

ミカエルは、そっとマイクを抱きしめた後、天へと飛び立った。


さようなら、マイク。僕の小さな天使。


さようなら。僕の小さな羽根・・・。

マイクはいつまでも天を見上げていた。



おわり

読んでいただき、ありがとうございました。


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