Ⅳ
ミカエルは、左右が違う慣れない翼の飛行に苦しんでいた。
容赦なく降り注ぐ雨はバランスを狂わせ、視界を狭める。
金の翼は徐々に零れて全体の3分の1が消え、気を抜くと落っこちそうだ。
だが、そんな事より彼はジェシカが心配だった。早く彼女を見つけなければ・・・
「!!」
いた!赤い屋根の家がそうだ。恐怖の波動がここまで届く。
あまりの負の波動に体がバラバラになりそうだった。それだけ彼女が怯えているという事だ。
ミカエルは降り立つと急いで中に入った。部屋は水に浸かり家具が浮いていた。
ジェシカは?
見渡すと、屋根裏へ行く梯子が降りている。
そうか、屋根裏か。急いで登るとジェシカは隅で震えていた。
もしかすると、ここも危ないかもしれない。水はもうそこまで迫っている。
ミカエルの声は聞こえない。だが集中すれば潜在意識に語ることはできる。
“狭い屋根裏から、屋根の上に”
何度か繰り返すうちに届いたようだ。そう、ゆっくり出ておいで。
ジェシカは雨に打たれブルブル震えた。手はかじかみ、屋根に捕まっているのに必死だった。
「怖い。」
ジェシカは今にも泣きそうだ。
「誰か、助けて」
震える声が雨に消される。
“君は助かる”
ミカエルは励ました。確信はない。でも心を挫いてはすべて終わりだ。
「助けて・・・」
“助かる!”
「お父さん・・・お母さん・・・助けて」
“助かる!君は助かるから!・・・だから信じて・・・希望を信じて・・・”
「会いたい」
“会えるさ”
ミカエルは、両方の翼で彼女を抱きしめるように包み込んだ。
“会えるさ・・・絶対。”
ジェシカは唇が紫色に変わってきている。体温が奪われて、もう気力の勝負だ。
“知ってるか?ジェシカ・・・奇跡は諦めない人だけが起すことができるんだよ”
優しく微笑むミカエル。もちろん、ジェシカからは姿も声も聞こえない。
その時だった。爆音がし、チカチカと光が差した。どうやらようやくレスキューのヘリが来たようだ。
“ようやくか・・・”ミカエルはほっと、一息ついた。
その瞬間、気が緩んだのか、体がバランスを崩しミカエルは濁流の中に落ちてしまった。
金の翼はもうほとんど無くなり、羽ばたく事が出来ない。それどころか、流れが速すぎて溺れそうだ。
ミカエルは何か怪しいと感じだ。普段なら流れに逆らわずに身を委ねるとここまでは沈まない。
川底に水様性の魔物が潜んでいた。
ミカエルの手や足や翼を水の糸で絡めとる。
く・・・苦しい・・。
ミカエルは水中でもがいた。
「お前のような下っ端天使は私が食ってやる。」
魔物は、ミカエルが弱り沈んでくるのを待っている。
もう・・・だめなのかな・・・。
残っていた金の羽の一部が溶けてミカエルを包んだ。
ジェシカの顔が浮かんだ。
今の僕は数分前のジェシカだ。
「助けて」
その声に僕はなんと答えた?
そう、“助かる。”
ー・・・希望を・・・信じて・・・ー
だったよな。自分で言って忘れるなっての。
ミカエルは目を見開いた。気力を貯めると一気に縛を解く。
上へ・・・上へ!!
「逃がしはしないよ!」
魔物は、再び水の糸をミカエルへ巻きつけようとした。
水面が見え、片方の手が水上の空を切る。
その手をガシッと何者かに摑まれた。
そして勢いよくミカエルを水面の上へ引っ張り上げた。
「げほっ、げほっ」
「大丈夫か?片翼君!」
見上げると大天使が腕を掴んでくれていた。
「水中・・・げっほ。何か・・・いるみたいです・・・」
大天使は目を細めるとうむ、と頷いた。
その顔は今まで見たことがないくらい怖かった。
大天使は息を吸い込むと、
「はぁぁぁぁぁ!」
気合一発、水中にめがけ光弾をぶつける。
魔物は断末魔の声を残し光に浄化された。
雨は止んだ。
「水魔の仕業だったんですね。」
片翼に戻ったミカエルは呟いた。
「そのようだね。」
大天使は朝日を浴び一夜明けた街を見つめる。
「そういえば、どうして僕の状況がわかったんです?」
「あぁ。」
大天使は、花のようにふんわり笑った。
天界の雲の上では、ゲートキーパーは葉巻をふかしながら呟いた。
「間一髪に合ったか、俺に感謝しろよ。片翼。」
おわーっっ
終らなかった・・・。終わる終わる詐欺だよ!こりゃ・・・
次こそ、終わるハズ?
癒し系マイクの出番なかった・・・




