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 ジェイクの家を訪ねたマイクだが、彼は最近引越しをしたらしく家は空き家になっていた。

「ジェイクが引っ越した先?」

楽団の女性は、うーんと考えた後、あぁと言って事務所から住所を書いたメモを渡してくれた。

マイクはお礼をいい、次の休日には彼を訊ねることにした。

人からは姿が見えない片翼の天使ミカエルもご同行だ。

その日はあまり、いい天候ではなかった。窓をたたく雨を見ながらバスに揺れ、マイクはジェイクに会った時、なんと言おうか迷っていた。

マイクの母親も一緒についてきていた。彼女は本当はジェイクに会うことが不安だった。

ジェイクとのレベルの差がマイクを傷つけていることは薄々感じていたからだ。

それに、今置かれているジェイクの状況は、マイクにもいずれ訪れる。

もしかすると、この旅が決定打になってしまうかもしれない。それは深く息子を悲しませるだろう。だが例えそうなったとしても、今のままではマイクは次へ進めない。

そうするうち、彼等はジェイクが住む街に着いた。相変わらずひどい雨だ。

随分遠くへ来た。二人は今夜泊まるホテルへと向かい、チェックインを済ますとその後ジェイクの家へ向かった。

ジェイクの母親は、快く二人を迎えてくれた。

「よく来たわね。マイク!活躍は聞いてるわ。会えてとても嬉しいわ。」

にっこりと笑う笑顔はほんとうに嬉しそうで、マイクはほっと安心した。

中に入るとジェイクがリビングから出迎えてくれた。

「やぁ。久しぶりだね、マイク」

声が少し枯れている。歌えない程ではないが、前のソプラノは出ないかもしれない。

ニッコリ笑うジェイク。だが、その顔は少し寂しそうだ。

「驚いただろう、この声。」

「少しね。元気そうでよかった。」

「はは。でもかなり落ち込んで食事も出来無い時期もあったんだよ。今はそうでもなくなったけど。」

「・・・ジェイク・・・僕、君の代わりなんて出来ないよ。」

泣きそうなマイクの顔を見てジェイクは頷いた。

彼は自分の部屋にマイクを通すと、ある一枚のCDをかけた。

ボーイソプラノの歌が流れる。その美しい歌声は世界を純白に変えていく。

片翼のミカエルは、こんなすごい歌声の持ち主もいるのかと驚いた。

体が勝手に身震いをする。

「誰が歌ってるの?」

ジェイクは少し伏せ目がちに視線を落すとマイクの問いに答えた。

「トレブルで活躍したロビン。」

「ロビン・・・。」

その名は聞いたことがある。ジェイクの数代前のソリストを勤めていた人物だ。

「僕も彼の名声の前にあがいていた時期があったんだよ。」

そう言うとジェイクは、遠い目をしてふふっと笑う。

「でも、本当はその悩みは違うって気が付いた。真似じゃだめだ。そうだな・・・そのうち君には君の歌の世界があることに気が付くはず。」

「僕の歌の世界・・・」

「漠然としててごめん。でも今言えるのは、マイク、君は素晴らしいソリストだよ。初めて君の歌を聞いた時、心が温かくなったんだ。まだまだ蕾だけど、いつか君の花を見せて欲しいと思ってる。」

今度、また会おうと約束して親子はジェイクの家を後にした。

マイクは漠然と何かを掴みかけていた。


ホテルに戻った後、二人は食事をしに行った。

片翼のミカエルはホテルの部屋の窓から外を見ていた。さっきより雨足が強い。

「この雨量・・・ちょっとやばいんじゃない?」

かすかによぎる不安。何事もなければいいけど。

だが、深夜になるにつれ、さらに激しく雨が降った。

そうするうちに、街の中心を流れる川の水位があがり溢れ出さんばかりになった。

「ここはあの川が氾濫すると水につかる恐れがありますので、少し高台にある講堂へ非難願います。」

ホテル側の非難勧告に従い、講堂へ移動した。

街の人達もここへ集まっているようだ。

雨は止むことなく、人々を不安にさせた。

電灯がチカチカしたかと思うと停電になってしまった。

誰かが持ってきた蝋燭に灯りがつけられたが辺りを照らすのには充分とはいえない。

マイクと母親は抱き合うように寄り添って座った。

片翼のミカエルは、外の様子を見に行った。

外では何やら大人達が騒いでいた。

「ジェシカは、今、我々レスキューが探している。だからあなた方は中で・・・」

ジェシカの母親は泣き崩れていた。傍らで父親が彼女を支える。妹は不安げだ。

ジェシカはクラブ活動があったので、家族で行く祖母のお見舞いに同行できなかった。

思いの他、遅くなって帰って来た時には川沿いの家には行けない状態になっていた。

何故、あの子を置いて出掛けてしまったのだろう。

後悔が溢れてくる。なぜ、無理にでも連れて行かなかったのか・・・。

川は氾濫し、どんどん水位を上げていく。

ジェシカの家族は憔悴しきった様子で、講堂へ入ると隅へと座った。

近所の者が励ましにやってきたが抱き合うので精一杯だ。

片翼のミカエルは、マイクの隣へやってきた。

“今こそ、歌う時なんじゃないのか?”

マイクは、蝋燭の炎を眺めている。

マイクも考えていた。人々が不安な中、歌うのには少なからず勇気がいる。

こんな時に!と怒られるかもしれない。

静かにして!と睨まれるかも。

今は聞きたくない・・・。そう、拒絶されるのが怖かった。

でも、今までの舞台経験は少ないけど、確かに自分の歌で拍手をもらった。

だから・・・。きっと。  


あなたに・・・届けたい・・・


マイクは蝋燭の光に近寄ると、暗闇の方が多い講堂へ声をかけた。

「みなさん、今、とても心細いと思います。僕もこの暗闇が怖いです。僕はトレブルで歌を歌っています。なので、みなさんが、元気になるよう、歌を歌います。聴いてください。」

まだ幼顔の彼は、そういうと静かに歌いだした。


ーどうか 心が安らぎますようにー

ーどうか 明日に希望が持てますようにー

ーどうか、あなたの心にこの歌が届きますようにー

心が洗われるような歌声。

外は雨雲が垂れ込めているが、晴れた青空を思わせる透明感。

最初は物憂げに聴いていた講堂の人達に、静かに、だが確実に心を揺さぶっていく。


最初に届いた人物が立ち上がり、彼の歌声に合わせて低音のコーラスを合唱しはじめた。 

見るとジェイクだった。ジェイクは笑顔を向けてきた。マイクもニッコリと笑った。彼と一緒にまた歌えるなんて!


マイクは一生懸命だった。少しでも癒されるように祈りも入っていた。

誰かの心にあかりが灯る。 ひとつ・・・また、ひとつ・・・

その灯は、徐々に増えて小さな灯りは互いを照らし始めた。

希望という名の心の灯り。


合唱にまた一人加わってきた。

暗闇なので顔は解らないが、深いバリトンが二人の合唱を支えるように歌う。

三人の歌声は講堂に光を降り注ぎ、あたりを包んでいった。

その歌声に反応するように、片翼のミカエルは背中に違和感を覚えた。

翼が無いほうの背に、光る金の翼がはえている。

「えっ?」

ミカエルは両方の翼を広げすこし羽ばたかせた。

飛べる!

少し飛ぶと、金の方の羽は光が零れ落ちた。一時的な翼である証拠だ。

ミカエルは、外へ出ると迷わず力いっぱい羽ばたいた。

彼は生まれて初めて空を飛んだ。だが、行き先は天界ではなかった。

低い雨雲の下、彼はジェシカを探して飛んだ。



すみません。まだもう少し続きます^^;;;

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