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 ここは天界。

その名も無き天使は片翼だった。

彼の事は呼びにくいので適当だがミカエルと名づけよう。

この片翼のミカエルはよく仕事をサボった。

ある日、彼はとうとう彼の上位に位置する天使からお小言をもらってしまった。

「まったく君ときたら、役目をすっぽかしてばかりいるじゃないか!」

「僕の役目は、天界の御堂の床を掃除することです。しかし、上部を掃除する仲間が、埃を下に落すんです。僕が掃除したっていつもその埃で汚れてしまう。だから僕は敢えてしないんです。」

「埃が下に落ちるのは仕方ない。ほら言うだろう、掃除は上からやれって。順序良くやれば、床だって綺麗になる。大体なぁ、掃除にはふかーーーい理由があるんだ。降り注ぐ天の光をステンドグラスで輝かせるのに、上部に埃があったら曇るだろ。そして床は、自分の姿を間逆に映し常に己と向き合っている為に綺麗にするんだ。さぁ、掃除を終らせてこい。」

彼はしぶしぶ、床の掃除を始めた。だが、彼は納得していなかった。

床の掃除をしながらこう呟くのだった。

「翼さえあれば、僕はこんな掃除だけじゃなく人々にあがめられるような仕事だってできるのに。」

腹ただし気に床にあったバケツを蹴飛ばした。

バケツは勢い良く飛び、回廊のステンドグラスを割ってしまった。

彼の上位に位置する天使はカンカンに怒った。

「あーっ、もう!掃除一つろくに出来ないのか!もういい!下界で反省して来い!」

彼は天のゲートから勢い良く外に落とされた。

「ちょちょちょ!!!あわわわわーーーー!!!!」

その様子をゲートキーパーはゲートから無言で見ていた。彼は片翼で飛べないが落とされても多少は大丈夫なのは分っている。

上位に位置する天使はゲートキーパーに、何かあったら報告するようにと言って天界へ戻ってしまった。

「やれやれ。厄介な仕事を言いつけられちまったなぁ。」

ゲートキーパーは巻きタバコをふかしながら呟いた。

そんな彼の横に金色の髪の天使がふわりと現れた。

「あっれ、あんたは・・・」

金色の髪の天使は花の様にふふっと笑うと人差し指を立ててしぃっと言った。

「わざわざ来るとは。どういう風の吹きまわしなんです?」

「んー。単なる興味心かな?この事は、みんなに内緒ね。」

美しく、しかし、いたずらっぽく笑うと彼は羽を広げ下界へと飛び立った。


 片翼のミカエルが降り立ったというか、落ちたのはある田舎の草むらだった。

なだらかな丘には辺り一面に花が咲き誇り風に揺られてその香りをふもとの村まで運んでいく。

彼はゴロリと仰向けに寝そべると天を仰いだ。

何を反省するんだ。回廊のステンドグラスを割ったことか?それとも真面目に掃除しなかったことか。

「どっちにしろ、お怒りが解けない限り、天には帰してもらいえないだろうなぁ」

飛べない天使は自力では天へ帰れない。

目を瞑って風を感じた。心地よさにウトウトしかける。

どこからとも無く、音が聞こえた。高域の音だ。鳥のような楽器のような・・・

いや。違うな。これは人の子の声だ。

あぁ、賛美歌か。なんて透き通る美しい歌声なんだ。

片翼のミカエルは、じっとその歌に聞き惚れた。不覚にも涙が落ちる。

「!!」

何故だろう?無垢な魂のささやきが美しかったのだな。

単純に心に何も浮かばなくても、ほろりとくる瞬間がある。

いつまでも聞いていたい歌声だった。

遠くで子供を呼ぶ母親の声がした。

「マイクー。どこなの?」

「ママ!」

歌声が止み、小さな男の子は立ち上がって母親の元へ駆け出した。

片翼のミカエルは起き上がって走り去っていく男の子を目で追っていた。

「もっと聞きたいなら、あの子の後を付いて行けばいいか。」

行く宛もないし、どうせ僕の姿は人間には見えない。

むっくりと立ち上がり、当然飛べない天使は歩いて親子の後を歩いていった。


親子が来たのは、とある会場だった。同じくらいの男の子ばかりが集まっている。

何かのオーデションなのだろうか?

親子は受付を済ますと、貰った紙に目を通していた。

どの親子も緊張しており、空気がピンと張り詰めている。

数名ずつ順番に呼ばれ、会場から出てきた子の中には泣き出す子もいた。

そのうち、マイクの番が来た。母親は外で待っている。

片翼のミカエルも一緒に会場内へ入った。

奥には長テーブルがあり、数名の大人が椅子に腰掛けていた。

「はい、じゃぁ。順に名前を呼ぶから、前に出て歌ってね。」

そうか、これは歌のオーデションなのか。

どの子も美しい声で歌った。

へぇ上手いもんだな。片翼のミカエルは顎に手をやって感心しながら見ている。

そのうち、マイクの番がやってきた。

お!とうとうきた!意外にも早く聞ける瞬間に出会えてワクワクする。

マイクは前に出た。だけど緊張でガチガチだ。

名前をいう声すら、うわずっている。

おや!?片翼のミカエルは眉をしかめた。これじゃぁ、ちょっと・・・。

彼はマイクに近づき、そっとその背中を押し、耳元でささやいた。

“さっきの草原で歌ったとおりに・・・”

その声はマイクには聞こない。だが何か届いたのか、彼はすっーと深呼吸すると高らかに歌いはじめた。

彼の歌声に大聖堂が見えた気がした。キラキラ輝く光を感じる。

審査をする大人達は、その歌声に耳を澄まし聞き入った。

辺りを包み込む美しい歌声は、聞いている者の心に何かを残していった。


数日後、マイクはあるボーイソプラノ楽団に入団していた。

片翼のミカエルは歌を聞く時間が増えて満足げだ。

ある晴れた朝だった。片翼のミカエルはベンチに腰掛けていた。

そこに金髪のビジネスマン風の男が隣に座る。

ビジネスマンの男は、彼に声をかけてきた。

「マイクをこの世界のパートナーに選んだんだね。」

「!?あんた・・・僕の事見えるの?」

「当然。独り言に聞こえた?」

この声、この顔、そしてこのオーラ。

「・・・。もしかして。大天使様?」

「変装したけど、分っちゃったかー」

大天使は、花の様な美しい笑顔で伊達メガネを外した。

「あのー。お仕事はいいんですか?」

「あぁ、会社に遅れちゃうね。」

「そっちじゃなくて・・・」

と言いながら、片翼のミカエルは空を指す。

「大丈夫でしょ。ガブちゃんがなんとかしてくれるよ。」

「ガブちゃん・・・」

ガブリエル様も大変だ。天界でキリキリ仕事をしている様が目に浮かぶ。

「それより、背中見せてよ。」

そう言って彼は片翼のミカエルの後ろに回りこむ。

「ふ~ん。なるほど。」

大天使は、片翼の背中を見つめて何かしきりに感心していた。

「大天使さま??」

「あぁ。ありがとう。じゃあ、僕は、そろそろ会社へ行くから。」

「えっ!?天界へ連れて帰ってくれないんですか?」

「天界?天界へ帰りたいのなら大丈夫!君はやれば出来るよ!」

「そうは言っても、片翼じゃぁ・・・」

そういう彼に大天使はふふっと笑って手を振った。

「迎えは来ないと思うから、がんばってね」

そう言うと彼は人混みに消えていった。

「・・・」

片翼の天使ミカエルは固まってしまうのだった。



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