サボり魔のお出かけ先は・・・
天啓のように降り注いできたネタを居ても立っても居られず(笑)
タイトル通り、あの人たちが主役の話です。
そろそろ過去に出してきた人の主軸話を新しく書こうかしら。
とりあえずお楽しみ下さい。
「こぉぉぉぉぉまぁぁぁぁぁちぃぃぃぃぃぃ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃすみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
昼下がり、三途の川に、少女2人の奇声が轟き渡った。
一方は怒鳴り声。もう一方は悲鳴。
そこからしても、後者のものが怒られているという状況は容易に推測できるだろう。
しかも、怒られている者の名前が小町――三途の川の渡し守、小野塚小町で、怒っているのが白黒つける裁判官――四季映姫・ヤマザナドゥであれば、一体小町が何をやらかしたのかは想像に難くない。
「今日という今日は許しません!!もう二度とサボれないようにしてあげます!」
「いやいやいやいやいや大丈夫ですもうサボりませんからあああ!!」
「過去に何回それを言ったと思ってるのですかあああああ!!」
「すみませんでしたーーーーー!!」
・・・もはやいうまでもないだろうが。
死神・小野塚小町はサボり魔である。
今日、通算5821回目のサボりが映姫にバレて、彼女の堪忍袋の尾が切れてしまったようだ。
その後8時間。小町は正座で映姫の説教を聞くはめになったのも、恒例行事である。
******
「はぁ・・・」
それから数日後、映姫は自分の執務室でため息を吐いていた。
その理由はもちろん。
「本当に小町のサボり癖はどうにかならないのでしょうかね・・・」
これである。
事実、映姫は過去に小町がサボってきた回数と同じくらい説教をしているし、時には停職処分に処したこともあった。
しかし、彼女のサボり癖は一切治ることは無かった。
それでも退職にならないのは、彼女の腕が確かであることが大きい。
それ以前に、映姫が小町のことを裏で守っているというのもあるのだが。
「あれでは小町の立場が危うくなってしまうのに・・・」
小町は本当に仕事が出来る死神である。
それ故に実は尊敬もされているし、時には妬まれることもある。
それでも、小町が仕事をせずにサボり続ければ、彼女を尊敬するもの達すら彼女に敵対する可能性が高まってしまう。
映姫が小町のサボりを怒るのは、実がそれが一番大きい理由である。
本当のところ、映姫は小町をとても大事に思っているのだから。
「はぁ・・・あ」
またため息を吐いたところで、ふと映姫は気付く。
現在時刻は大体午後2時。昼食も摂り終わり(映姫は早めに食べているので他の死神達と被ることは少ない)陽気も一番良い頃合。
また小町がサボるのではなかろうか。
「・・・見に行きますか」
やれやれ、と愚痴とため息を零しながら、映姫は椅子から立ち上がった。
******
「やっぱり・・・」
いざ小町が居るべき場所に来てみれば、小町はその場に居なかった。
正確には、映姫が来る方向とは間逆の方向に歩いていっているのだが。
ちなみに小町は映姫に気付いていない様子である。
映姫は小町を呼びとめようかと考えたが、小町がどこに向かっているのかちょっと気になってしまった。
「いい昼寝スポットでもあるのかしら」
そう考えて。
いつも彼女に振り回されているのだ、今日ぐらい少し逆襲してもいいだろう、と。
己の行動に白の正当性を突きつけて、映姫は小町を尾行し始めた。
「なんか・・・大分離れたわね」
小町を尾行し始めて30分。
小町はすぐに飛行したので、映姫も小町に気付かれないように空を飛んで追跡した。
とはいえ小町に気付かれないようにするため、速度は落とし距離も離している。
だからなのだろうか。
「いや~、まさか滅多に地獄を出ない閻魔の飛行を後ろから激写する事が出来ようとは、今日は運がいいですね~!」
「・・・」
烏天狗、射命丸文に写真を撮られたのは。
なお、今日映姫はこんなことになるとは思っていなかったので「対策」はしていない。至って「普通」にしてきている。
なので。
「・・・フィルムを渡すか最下層地獄に落ちるか今すぐ決めなさい」
「あやややや、流石に見えるように撮ったのはまずかったでしょうか」
「まずいと思わないのならその頭は必要ありませんね撃ち抜いてあげましょう」
「あやややや!!ちょ、閻魔様急に本気の弾幕撃たないで下さい!危なうひゃあ!?」
映姫は実力行使に移るのであった。
「全く、最初からこうすればよかったのです」
「あやー・・・無念です」
文からカメラを取り上げフィルムを回収し終えた映姫は、今文と共に、ある家の裏に隠れている。
その家の中からは、小町ともう1人、別の女性の声が聞こえてくる。
「それにしても・・・何故小町はこんなところに来たのかしらね」
「ですよねぇ・・・よりにもよって風見幽香の家とは」
そう、今彼女らが居るのは、幻想郷で1,2を争う強さを誇った花を慈しむ大妖怪、風見幽香が育てるヒマワリ畑に来ている。
小町はあの後にここに立ち寄り、幽香の家に入っていった。
それから10数分、小町と幽香は未だに談笑を続けている。
出来ればその内容を聞きたいところだが、生憎何を話しているのかまでは聞こえてこなかった。
「ぐぅ、こんなときに犬並みの聴力があれば内容も判るのでしょうが・・・」
「そうですね、残念・・・って、私は何盗聴してるのでしょうか」
「そこはまあ、その場の勢いってやつですよ・・・っと、声が聞こえなくなりましたね」
暫し話していると、彼女らの話し声が聞こえなくなる。
それから、玄関の扉が開く音。
『それじゃ、お邪魔したね』
『気にしなくていいわ。いい暇つぶしになるし』
地を蹴る音。
どうやら小町は別のところに向かって飛んだ様だ。
「ただでさえサボりまくりなのに今から更にどこに行こうというのかしらねぇ・・・」
フフフ、と目から採光を消しつつ笑う映姫に文は思わずぞくぅ!と震える。
そのまま笑い続ける映姫に恐怖を感じながらいつ小町を追いかけ始めようか、と考えていた時だった。
「・・・で、あなたたちはさっきからずっとそこで何をしているのかしら?」
―ギクゥ!!
2人とも現実に引き戻される。
そのままぎぎぎ、と音を立てながら振り向くとそこには。
「ずっと話を聞いている輩が居るのは気付いていたけど・・・まさかブン屋に閻魔とは・・・とりあえず、お話を聞こうかしら?」
―自分の人生はここで終わった。
そう感じさせるような、美しく可愛らしい、でもそれ以上に恐怖を感じさせる笑みを浮かべた風見幽香が、立っていた。
******
「酷い目にあいました・・・」
「えぇ・・・」
幽香に捕まって1時間後。文と映姫は人里に来ていた。
あの後幽香の放つ超濃密な弾幕を避けきれずピチュった2人は、幽香に踏まれながら(流石に映姫は踏まれなかった。閻魔は踏めなかったようである)事情を話させられた。
全てを聞いた幽香は、
『そう・・・とりあえずあの死神なら、今人里に向かっているはずよ』
そう言って2人を解放した。
解放されて、脱兎の如く逃げ出した2人は命からがら人里まで来ることに成功した。
そして、今現在。絶賛小町捜索中である。
幽香からは人里に向かっている、としか聞いていないので小町の居場所についての検討は一切ついていない。
手がかりは一切無く、それでいて小町にばれる訳にはいかないので誰かに聞くことも出来ない2人がさ迷っていた時だった。
「あ!閻魔様、小町さん居ましたよ!!」
「本当ですか!?どこです!?」
「ほら、あそこですよ!」
文が指差した方向を向いてみると、確かに小町がそこに居た。
ただ。
「・・・なんか、男の人も居ますね」
「そう・・・ですねぇ・・・」
当の小町は、彼女の前に居る青年と話しているのだが。
青年は特に格好良いわけでもなく、優しげな表情を浮かべている以外は普通の人間であるように感じた。
「なんで小町さんはあの男の人と話しているのでしょうかね?」
こっちが聞きたいわ、と口から出そうになった言葉を飲み込んで小町の監視に集中する。
いくら小町でも職務時間中に逢引はあるまい、というかそもそも小町に男が居ることすら知らなかった、と内心色々突っ込んでいるので全然集中できていないが。
そんな映姫をあざ笑うかのように。
――小町は、青年のものと思しき家に入っていったのだった。
瞬間、映姫の中で、何かに皹が入る音が聞こえた気がした。
不安には思っていたが、それでも信じていた小町に裏切られた。
そんな思いが、映姫の中で渦巻く。
知らないうちに、拳を握る力が強くなっていて。
映姫は、今日ほど小町に失望した日は無かったと感じていた。
一方、文は最初こそ「こ、これは!?大スクープの予感ですよ~!!」などと叫んでいたのだが、ふと「そういえば・・・」と呟いた後、映姫と同様に黙りこくっていた。
やがて、2人の間に会話が全く無くなって。
文は小声で「もしかして・・・」と言って、すくっと立ち上がった。
映姫はのろのろした動きで文を見上げる。
「すみませんが、私はお先に失礼します。ちょっと、確認したい事がありましてね」
そう言って、すぐに風の速さで飛び立った。
映姫は吹きつける風から顔を庇いながら、一つだけ、どうしても言いたかったことを、聞こえなくてもいいので文に言ってやった。
「誰もついてきてなんていってないのですが」
――反応なし。
本気でしょうもなく思い始めてきた映姫は、重い足を引き摺って地獄に戻ることにした。
そして。
何とか自分の執務室に戻ってきた映姫は、若干溜まりつつある仕事も何もかも放り出して机に突っ伏していた。
その胸の中に渦巻く負の感情を抑えるように。
普段の自分なら黒とする感情が暴走しないように。
ひたすら突っ伏していた。
その時。
コンコン。
「・・・四季様ー?入りますよー?」
ドアをノックして、小町が入ってきた。
「――――――ッ!?こ、小町!?」
「おぉう、どうしたんですか四季様、そんなに驚いて」
急に部屋に入ってきた小町に驚く映姫を余所に、小町はすたすたと映姫の机に近寄ってくる。
いつも通りの朗らかな笑顔を浮かべながら。
その笑顔が、憎らしかった。
自分がどれだけ辛い思いをしたか、全く知らない笑顔。
判っている、こんなものは八つ当たりだ。でも、そうだとしても。
映姫は、どうしても耐えられそうに無くて。
「――――急にどうしたのかしら?」
自分でも驚くほど、普通に聞こえる声を出す事が出来た。
でも、内心で渦巻く極寒の冷気は依然として止まず。
それが暴走しそうに――
「あー、急なんですけど。これ、良かったら受け取ってください」
――なったとき、映姫の机の上に、小さな箱が置かれた。
きょとんとする映姫に、小町が「空けてみてください」と言ったので、言われたとおり開けてみると。
――オレンジ色の花の細工がついた、小さなヘアピンが2個。
それらが箱の中に入っていた。
「・・・こ、れは?」
思わず小町を見上げる。小町はあはは、と苦笑しながら話し始めた。
「いや、いつもあたい四季様に迷惑かけてるなー、と思ったんで、ちょっと労いも兼ねて贈り物を、ですね。
いやぁ、色々聞いて回ったりして大変でした。というか、緑髪にオレンジの花のヘアピンってのもアレかもですけどね。
それに普段はその帽子を被っているわけですし」
一息入れて。
「なんで、良かったら休日にでもそれつけてください。
あ、もし気に喰わなかったらしまいこんでくれて構わないんで。それじゃ、仕事戻りますねー」
そこまで言って、小町は踵を返した。
小町が部屋を出て、それから暫くしても、映姫はぽかん、とし続けていたらしい。
そうしてやっと、今まで自分の中に渦巻いていた負の感情がきれいさっぱり無くなっているのに気が付いたのである。
******
「おや、これはこれは閻魔様。一昨日振りです」
「えぇ、一昨日振りですね」
2日後、映姫は早速休みが入ったので気分転換もかねて人里の茶屋に来ていた。
そこには、2日前いきなり消えてから一切連絡を取り合っていなかった文が居たので、双方共に挨拶をする。
「・・・着けているのですね、ヘレニウムのヘアピン」
「えぇ。せっかくの貰い物ですしね」
そう言って、右の方の少し長い髪をとめているヘアピンにそっと触れる。
「・・・というか、この花、ヘレニウムっていうんですか?」
文が花の名前を具体的に言ってきたので聞いてみると、文は食べ終えた団子の串をちょいちょい振りながら、今日までの彼女の行動を自慢げに話してきた。
まず、小町が青年の家に入った後。
文はあの青年が確か髪飾りなどを作って売っていることを思い出した。
それだけなら小町が髪飾りを買いに来ただけ、と推測するのだが。
その前に幽香の元に訪れていたことを思い出し、何故幽香の元を訪れたのかを考えたそうだ。
そして、幽香の髪の色と映姫の髪の色が一緒だな、とふと思ったときに気付いた。
もしかして、小町は幽香を訪ねて、映姫に合う髪飾りを一緒に考えてもらったのではないのだろうか、と。
それから文は幽香の元に向かい、自身の推測を話したところ、8割正解であった。
残り2割は、小町は髪の色だけでなく、贈る花言葉も一緒に考えてもらっていたのだということ。
何回か彼女の元を訪ねて、小町は遂に数日前、一番合うであろう花を見つけたらしい。
あとはそれを人里の髪飾り作りの青年に注文、一昨日それを受け取り映姫に渡したのだという。
「いやー、これだけを確認するのにまさか幽香さんと5連戦をする羽目になろうとは・・・全身ガタガタですよ」
「それは災難でしたね・・・」
苦笑いを浮かべるしかなかった。
あの風見幽香と5連続弾幕ごっこは映姫の8時間耐久説教より厳しいかもしれないのだ。ご苦労なことである。
「まぁおかげで謎も解けましたし。結果オーライってやつですよ」
そして、文は串を皿に置き、次いで料金を置いて立ち上がる。
文が店を出る前に、映姫はまだ気になっていることを聞いてみることにした。
「文さん。その、ヘレニウムって花の花言葉は?」
何日も考えて選んでくれたこの花だ。
きっと、何か意味があるのでは無いだろうか。
そう思って聞いてみて、そしてそれは正解だった。
「あぁ、そういえば忘れてました。
ヘレニウムの花言葉は、『寛容な心』だそうですよ。
いつもサボって、でも自分のことを絶対に見捨てない寛容さ。
それを形にしたかったんじゃないんでしょうかね」
それでは、と言って文は飛んでいく。
それと行き違いのように。
「ありゃ、文は今いっちまったのかい・・・まぁいいや、団子団gうひゃああああ四季様あああ!?」
「・・・小町、お静かに」
「あ、はい」
どうやら行きつけらしいこの店にやってきた小町は、映姫を見て大層驚いたようだが、映姫が茶を啜りながら窘めると素直に従って、映姫の隣に腰掛ける。
びくびくしながら座っている小町に、映姫は声をかける。
「小町。今の時間は、まだ勤務時間中では?」
「あ、え、う、あー、そそそそのぉ・・・」
サボり確定のようだ。
これは説教をするしかあるまい。
普段ならそう考えたのだろうけれども。
「・・・今日だけは見逃しますよ。幸い、ここ数週間録に仕事ありませんし」
「ほっ・・・って、四季様、そのヘアピン・・・」
お咎め無しでやっと緊張の糸が解けた小町は、すぐに映姫の着けているヘアピンに気付いた。
そんな小町に、映姫は。
「せっかくの贈り物ですからね」
そう言って、小町に笑みを向けた。
その笑みに合わせて、ヘアピンの花細工がきらり、と光ったように見えた。
はいどうも先日振りです。
珍しく連続更新です。
今回は前回と違い、天啓のようにネタが閃いた後は全部考えてから書きました。
なので長くなりましたが個人的には満足いっています。
これで前話の方が面白かった、とか言われたらちょっとへこみますが(笑)
それではまた次回、お楽しみに。