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「ある」日の地霊殿

やっと東方で二番目に好きなさとりのお話が書けました。

やっとだぜ。


それではお楽しみくださいませ。

それは、特に何の変哲も無い朝であった。

別に巫女や魔女がまた襲撃してきたわけでも(むしろ今は客として迎え入れる程度には仲がよい)鬼が地霊殿の外壁を酔っ払ってぶっ壊したわけでも(後日修復させた)、ましてや特別なイベントがあるわけでもない。

だというのに。


「なんで、今日は誰も居ないのかしら・・・?」


人っ子一人・・・もとい、ペット一匹居なくなった地霊殿のエントランスで、地霊殿の主――古明地さとりはそう呟いた。






******


『ちとりちまえ おでけけしまる おくう』


「・・・とりあえず文字を教えましょう。ええそうしましょう」


あの後、さとりの執務室に置き手紙を発見して読んでみたのだが、書いたのが地獄烏のお空だからか、解読に10分を要した。

特に「ちとりちまえ」が難解だったが、そこを解読できたので改めて自分で解読した内容を書いてみると。


『さとりさまへ おでかけします おくう』


恐らく、こういうことだろう。


「・・・わざわざ置き手紙を残すこと、なのかしらね」


別にお空が一人で出かける分には置き手紙など不要だろう。

確かにお空は地霊殿の更に地下にある間欠泉センター―灼熱地獄跡―の管理をするという重要な仕事はあるが別に常時監視する必要のあるわけでもない施設である。事実、よくお空は色んなところに遊びに行っている。無断で。

となると、今回に限って置き手紙を残した理由とは。


「・・・十中八九、誰か、いや、ペット全員で出かけたから、でしょうね」


そうとしか考えられない。

ペットがいきなり全匹居なくなればさとりも普通に驚くし、そう言った方面でメンタル面が割りと弱いさとりならペットに嫌われたと嘆いて3日は部屋に篭る可能性も出てきてしまう。

だからせめて手紙は残していこうと気遣ってくれたのだろう。

いや、別に何か言ってくれれば良かったのではないか。

というか、会ってくれれば心を読めるので察せるのだが。


「何か、理由があるのかしら」


とりあえず反逆でも離反でもないと判断したが、かといって全匹居なくなる理由など思いつくわけも無く。


「・・・とりあえず、全部は無理だけど少しは掃除をしようかしら」


考えても無駄だと判断して、さとりは暇をつぶすために掃除をすることにした。

といってもこのだだっ広い地霊殿をさとり1人で掃除しきれないので、厨房とか執務室、自室だけにしよう、と決める。

そうと決めればとっとと行動あるのみ。

さとりは早速、掃除に取り掛かった。


―八時間後


「・・・いつになったら帰ってくるのかしら?」


執務室の机に突っ伏しながらさとりは1人泣き言を漏らした。

あれから掃除をし、洗濯をし、昼食をとりそれでも誰も帰ってこなかったので、残していたどうでもいいような仕事を全て終わらせ、それでもまだ誰も帰ってこない。

最初のうちは、自動発動する自分の「心を読む」力のせいで常に流れ込む心の声の喧騒が無くて静かだなぁと思っていたのだが。

流石に寂しい。というか静か過ぎて若干怖くなってきた。

メンタル面の弱さが露見しつつあるさとりは、些細な家鳴りにびくつくほど弱っていた。


「・・・やっぱり、嫌われた、のかなぁ・・・」


お空の置き手紙を読む限りは帰ってくるのであろうが、もしそうでなかったら。

例えば、ペット総出の大家出とか。


「・・・ダメダメ!想像しちゃだめ!」


今そんなこと想像したら確実に泣く。そう判っていたのですぐに思考をシャットアウト。

ここは楽観的にならなければ、と自分に必死に言い聞かせる。


「そうよきっと帰ってきますよだってお空の手紙にはおでかけするって書いてあったものおでかけなんて行って帰ってじゃなきゃおでかけじゃないものだから帰ってくるみんな帰ってきますああお願い帰ってきて」


ミッション失敗。悲観的な考えが、さとりを支配した!


「うあー」


だんだん、と机を殴って気を紛らわさせる。

最もそう上手くいくわけもなく、ただ手が痛くなるだけだったのだが。


「・・・・・」


だんだん机を殴ることも虚しくなって殴るのをやめる。

やめた途端、つん、と鼻の奥が熱くなって、じわり、と目頭に涙が浮かぶ。


「だーーーー!!」


あかん、さとりが壊れた。

誰かがその光景を見ていたら確実にそう言うだろう。

とりあえずさとりは机を殴る作業を再開していた。そうでもしなければ確実に涙がちょちょぎれるのは確実だった。


その時。


「だめだよおねーちゃん、机に罪はないよ!」


ぴたっ、とさとりの動きが止まる。

暫し硬直し、ぎぎぎ、と音を立てるようなスピードで声のした方向を向くと。


「あ、でも罪があるから叩いてたのかな?だったら机、お前の罪数えろ~」


ころころと笑いながら半ば危険な台詞を机に向かって言っている、こいしがそこにいた。


「・・・こい、し?」


「そうだよおねーちゃん。それ以外に見えたら眼科行った方がいいよ~」


その、何の変哲も無い、ただの会話が。

さとりの心の堰を、崩壊させた。


「・・・こいしぃぃぃぃぃ」


「わっ、ちょっ、おねーちゃん!?」


ぴえええええ、とまるで子供が泣くようにさとりが泣き出し、こいしが驚く。

そのまま放っておくわけにもいかないのでこいしはさとりの頭を撫でてなだめる。

その光景はどっちが姉か判らないものであった。



「・・・ごめん。おねーちゃん取り乱した」


「あはは、気にしないでよ~」

30分後、ようやっと落ち着いたさとりは顔を真っ赤に染めながらこいしに謝った。

実の妹に30分もの間頭を撫でられ抱きしめられ「どうどう」と慰められたらこうもなるだろう。


「でも、どうどう、はどうなのよ」


「お?おねーちゃんそれ「どうどう」と「どうなのよ」でかけてるの?」


「かけてないわよ!」


最もこいしは気にしていないようで、いつも通りの能天気な対応を返してくるので、さとりもいつも通り突っ込み返す。

突っ込み返して、はたと気付く。

こんな、なんと言うこともないことが、どれだけ重要なものであるのかを。


「あ、そうだおねーちゃん」


1人勝手に感心しているさとりに、突然こいしが声をかける。


「え?あ、どうしたの?」


「ちょっとついてきてー」


そう言うと、こいしは問答無用でさとりの手首を掴み立たせる。


「え?」


「れっつごー!」


「え、ちょ、ええぇぇぇ!?」


そのまま、こいしはさとりを連れて、もとい引きずって執務室を出た。



「とうちゃーく!あれ、おねーちゃん元気ない?」


「ぜぇ、ぜぇ・・・今までこいしがおねーちゃんにしてきたこと、思い出して御覧なさい」


「? 何かしたっけ?」


「く、こんなところで無意識が・・・」


がっくりと肩を落とすさとりを余所に、こいしは目の前の大きな扉の取っ手に手をかける。

がっくりと肩を落としながらもさとりはこの部屋が大食堂のものだと言うのは理解していた。

だけど、何故こいしがここに連れてきたのかまでは、判らなかったので。


「みんなー!おねーちゃん連れてきたよー!」


「ちょ、こいし様ちょっと早いですよ!?」


「うにゅー、くらっかーよーい!!」


――ぱん、ぱーん!


突如鳴り響いた音と、自分に降りかかる紙や糸に、さとりはぽかんとするしかなかった。


「・・・はい?」


目を何度かぱちくりさせながら、それだけをさとりが呟いた瞬間。



「さとりさま、お誕生日おめでとーーーーーーー!!」



――どっがーん!!


「うわー!!」

「ちょ、誰さー!こんなに音大きくするバカが居るかー!」

「うにゅー、ばかっていうなー」

「予想はしていたけどやっぱお前かー!!」


「・・・えーと」


さとりは、自分をさし置いて目の前でお空と火車のお燐が喧嘩を始めたのを眺めながら、ただそれだけを呟いた。






「・・・成る程、そういうことだったのですか」


それから数分後。喧嘩を始めたお空とお燐に喧嘩をやめるよう忠告(物理)を終え、2人から全てのあらましを聞きだした。

とりあえず、ある意味全ての元凶は。


「まさかこいしだったとは・・・」


「えへへー」


舌を出しながら笑って誤魔化すこいし。

そう、今回の騒動は、こいしがある意味では元凶であった。

こいしが、今日はさとりの誕生日であるということを数日前に何匹かのペットに話したところ、それがお燐とお空に伝わり、彼女らが率先してさとりの誕生日を祝おうということになったらしい。

お燐はさとりに見つからないようにペットに指令を出しまくって準備をさせていた。

そして今日、さとりが寝ている間に誕生パーティの飾りを預けていた場所に全員で取りに行っていたのである。

ただ、思ったより量が多い、一部自分で作らなければならない、先に作れる料理の準備時間などでかなり時間がかかってしまい、つい30分ほど前に帰ってこれたそうだ。

だが、せっかく帰ってこれたのにさとりにばれてしまっては今までの努力が水の泡。

なので、さとりが唯一心を読むことの出来ないこいしが、さとりを惹きつけて残りのペットで飾りつけと残りの料理をすることにして。

そして、さっきに至る。


「いやー、正直どうやって時間稼ごうかなと思ってたけどどうにかなってよかったよー」


「・・・その時間の稼ぎ方は私としては嬉しくないんだけど・・・」


さとりが顔を少し朱に染めた時だった。


「あー・・・えっと、今回のことはあたいが全部指示したんで、責任は全部あたいにあります。だから処罰は全部あたいが」


「そんなことないよ!私もいっぱい頑張ったもん!お燐だけ怒られるのはヤダ!私も怒られる!」


「あのねぇ・・・」


お燐とお空が責任の取り合いでまた喧嘩を始めそうだったので、さとりは2人に笑みを浮かべながら話しかける。


「2人とも。どうして私のためを思ってこんなに頑張ってくれた2人を怒る事が出来るのかしら?

みんな、今回のことは私のことを思ってやってくれたのでしょう?なら、私は怒ることなんて出来ないわ。ううん、むしろ、お礼を言わなきゃ。

ありがとう、みんな。ありがとう、お燐、お空、こいし」


さとりの礼を受けて、多くのペットが照れる。

お燐も笑いながら頭をかき、お空は満面の笑みで「さとりさま、おめでとう!」と言う。

そしてこいしは。


「いいんだよ~。さて、それじゃパーティだパーティ!」


それだけ言って、一番に料理の山に向かっていく。

お燐とお空が「って、こいし様!?」と言いながら後を追う。

他のペットも彼女らの後に続いていくので、さとりも付いて行った。






「そういえば、こいし」


「ん~?どうしたのおねーちゃん?」


宴もたけなわ、盛り上がり最高潮の時に、さとりは料理を貪っているこいしに気になっていたことを聞いてみた。


「私の誕生日、どこで知ったの?」


そう。妖怪は基本的に長寿だ。

だから年齢にもあまりこだわりはないし、そんなわけだから誕生日なんてあってないようなものだ。

事実、さとりはついさっきまで忘れていた。話を聞く限り、こいしも忘れていたのだろう。

それが、何故今になってこんなことをしたのか。

どうしても、気になっていたのだ。


「あぁ、そのこと?」


ごくん、と口の中につめていた料理を飲み込むと、こいしは言葉を続けた。


「数日前に部屋で随分昔の日記見つけたんだ。そこにおねーちゃんの誕生日とか書いてあったんだよ」


「・・・それって、多分私たちが生まれて数年頃に書いたものよね」


「多分ねー」


まさかそんなものが現存しているとは。

さとりが素直に感心していると。


「で、誕生日を知ったからには祝わないとねー。今まで祝ってこなかった分も含めて!」


「あら、どうして?」




「だって、大好きなおねーちゃんのことだもん、やる気にもなるよ」




「・・・ふふっ、だったら」


ん?とこいしが首をこてんと傾ける。

さとりは、こいしに微笑みを向けて言った。



「今度は、貴女の誕生日を、祝わないとね」



こいしの顔が、今まで見てきた中で、最も輝いたように見えた。

その、何よりも美しく思える笑顔を、さとりは一生忘れることはないだろう。

そしていつか、この笑顔よりももっと素晴しい笑顔をさせてあげたいと、本気で思うのだった。

今回、ネタ自体は割と前に決まっていたのですが、書いている時間が余り取れず(;´・ω・)

ようやっと小説家できました。

つっても、最後の方の無理矢理な帳尻合わせからしてその場その場でやっているところは変わっていませんがwww


それではまた次回~

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