『最強』に必要なもの
今回はシリアス成分が多めになっていますよ。
あと9/9のチルノの日記念なのでチルノが主体になってる・・・はずです。
チルノの日午後25時だから遅刻じゃないし(笑)
ともかくどうぞ!
「ぐわーーーーー!!」
なんとも可愛らしい声でありながら、しかし変な叫び声が上空から聞こえて、緑の髪を左側でサイドテールにしている少女――大妖精、通称大ちゃんは上を向く。
その視界に写ったのは、自分に向かって降ってくる青いカタマリ。
「・・・って、えぇーーーーー!?」
もちろん、驚いて咄嗟に動けなかった大妖精は避け損ね――
ドッシャーン
そんな音と共に、青いカタマリと激突した。
******
「・・・むぅ、うん?」
「あ、目が覚めた?」
目を少しずつ開けていく途中で誰かから声をかけられる。
まだ少し閉じかけの目を声がした方に向けると、そこには自分よりも濃い緑色の髪から触覚を生やしたボーイッシュな少女――リグル・ナイトバグが居た。
彼女はこちらを向きながらも、右手で扇子のようなものを反対側に向けて揺らしている。もう一人眠っているのだろうか。
そこまで思考が回るようになって、大妖精は自分に何が起きたのかようやく理解した。
「――あっ、私、確かなんか青いものが降って来たのよけられなくて・・・」
「それなら、ほら」
と、リグルが左手で彼女が扇いでいた何かを指差す。
そこで眠っていたのは、大妖精の友人であり自身より力の強い氷の妖精、チルノ。
彼女を指差されて、一瞬きょとんとしたが、すぐに把握する。
「・・・チルノちゃんが降ってきたのね」
「みたいだね。私は、地べたで目を回してる二人を見つけて、すぐにこの木の下まで運んだだけだよ」
「そうなんだ、ありがとう」
まずはお礼を言って、それからチルノの様子を見る。
急に空から降ってくるという謎な状況から、自分に直撃したという割には、見る限り怪我の一つもない。うなされているどころか、くかー、と鼻ちょうちん作って快眠しているほどだ。
とりあえず、腹がたったので頭を一発どつく。
「あいたぁ!?」
大妖精の拳骨が思いのほか効いたのか、チルノは一発で目を覚ます。
「いててて・・・何事さ!」
殴られた部分を押さえ涙目になりながらも、あたりをきょろきょろと見回すチルノ。すぐにリグルと大妖精の姿を発見し、「おはよう!」と言ってから
「なんか頭痛いんだけど、なんで?」
と言ってきたので
「知らないよ~」
「さぁ」
二人は適当にはぐらかしておいた。
それよりも、大妖精は聞きたい事があるので、未だに頭を押さえて「なんなんだろーなー?」とか呟いているチルノに話しかける。
「チルノちゃんチルノちゃん。さっきなんで空から降ってきたの?」
いきなり質問されて最初は頭にハテナを浮かべていたが――
「・・・・・あぁーー!!ちっくしょー!メイドめー!次会ったら勝つ!」
すぐに怒り出し、全て話してくれたので、状況は全部飲み込めた。
恐らく、上空で紅魔館のメイドと遭遇、勝負を挑んでものの見事に完敗したのだろう。
撃墜されたチルノは浮遊力を失って落下し、たまたま大妖精と激突。
細かいところが違うかもしれないが、大体これであっているだろう。
「てかなんで紅魔館のメイドと・・・」
「出会いがしらに「あら、自称最強の弱い妖精」とか言ってきたから!」
「あー・・・」
納得する二人。
チルノは妖精の中では強すぎる程の力を持っている。妖力で言えば大妖精のゆうに五倍はあるかもしれない。
その力を自覚しているためか、チルノは自分のことを「最強」と言ってはばからない。
ただし、あくまで妖精にとって、なのでもっと妖力の凄い存在は居るし、妖力以外は一般妖精と同等かちょい上程度なので、戦闘慣れしているものからしても軽くあしらわれてしまうのだ。
それでも彼女は自分を「最強」と自称する。何故かは知らないが、深い理由があるわけでもないのは知っているので聞きはしない。
「ねぇねぇ大ちゃん、リグル!なんであたいが負けたのか判る!?」
ずい、と顔をこちらに寄せて質問をぶつけてきたので、二人はこの際だとチルノが負ける理由と思うものを羅列することにした。
「まぁ、まずは戦略だろうね。チルノ、基本的にごり押しだし」
「あと、ペース配分も問題かな?チルノちゃん、後半に疲れちゃうこと多いでしょ?」
「それに、チルノ避ける時だいぶ弾幕に近付くよね。グレイズ上手くないのにそれは自殺行為だよ」
「あとは・・・」
「「バカだからじゃない?」」
「う、うるさいうるさい!あたいバカじゃないもん!バカって言う方がバカなんだよバーカバーカ!」
極論、バカだから。とまとめたところでチルノ噴火。
小学生レベルの反論でリグルと大妖精に文句をたれる。
「それにあたいあのメイドに一回勝った事あるもん!」
「え、マジで!?」
ちなみに事実である。
ただし、咲夜がふとレミリアを見たときにレミリアがずっこけてスカートをぶわっと舞わせたのを見てしまい、意識がそっちに回ってしまったことでの被弾が理由なのだが。(その後咲夜は本気でチルノを十回ピチュらせた)
「そうだもん!メイドに一度も勝ったことない半霊剣士よりあたい強いもんねー!」
「ほぉう・・・」
ぞくぅ!!
全員の背筋に冷や汗が流れる。
そのまま、固まった首を無理矢理動かして声のした方向を向くと――
「私が、あなたより弱い、ですかぁ・・・ふふふ、それじゃあ、試してみましょうかぁ・・・?」
もの凄い恐怖を感じさせる笑みを浮かべながら、二刀流の剣を鞘から引き抜いている半霊剣士、魂魄妖夢が、そこに居た。
「なるほど・・・チルノが咲夜さんに、というか、色んな人に勝てない理由、ですか」
「はい・・・」
とりあえずチルノへの制裁を終わらせた(チルノは頭に剣を生やして眠っている)妖夢は、一体なんで妖夢<チルノな話になったのかリグルと大妖精に聞いていた。
全て聞いた妖夢はううむ、と顎に手を当てて考え込む。
やがて。
「まぁ、お二人がチルノにいったことがだいたいでしょうね。他のことはだいたいどれかに当てはまりますし」
「ですよねー」
「こらぁ!納得するなぁ!」
復活したチルノ(まだ頭から剣が生えている)が叫ぶがそれを無視し、妖夢は続ける。
「ただ、戦略を練って、戦い方を覚えて、知識をつめこんだとしても、咲夜さんには――いえ、この幻想郷の住人には勝てないでしょうね」
この妖夢の台詞に、チルノだけでなくリグルや大妖精も固まる。
「・・・どういうことよ」
チルノの、底冷えするような声。
それに動じることもなく、妖夢は言い放つ。
「私は、あなたに『信念』を感じませんから。『信念』もなく力を求める者は、いつまで経っても強くなれませんから」
「――――ッ!」
チルノが妖夢の襟を掴む。
大妖精が慌ててチルノを止めようとするが、リグルに止められる。
リグルの顔を見てみれば、彼女の瞳はチルノを見据えていた。
それをみて、大妖精は抵抗を辞め、同じようにチルノを見据える。
それ以外に、今の自分たちに出来ることはないのだから。
そんな大妖精たちに気付くこともなく、チルノは憤怒に染まった目で妖夢を睨む。
だが、妖夢は臆しない。
「怒って解決すると?」
「うるさい!あたいが誰にも勝てない?そんなことあるもんか!あたいは『最強』だぞ!!」
「――なんで『最強』にこだわるんです?」
妖夢のその一言で。
チルノは大きく目を見開き、襟を掴んでいた手から力を抜く。そのまま手を下ろす。
どうにか声を紡ごうと、理由を述べようと、必死に考えてる。
でも。
どうしても。
何故、『最強』にこだわるのか。『最強』を望むのか。
本気の答えが、出てこない。
どうして。
あんなに望んでいたものなのに。
あんなに必死だったはずなのに。
何故、妖夢の言った、たったの一言で、こうも揺るがされるのか。
どさり、と、地面に膝をつく。
顔が上げられない。どうしようにもない。
ただ、無気力感だけがチルノの中に、渦巻く。
その時。
「――これはあくまで自論ですが。『最強』になるには絶対必要なものがあると思うんです」
妖夢の声が、響く。
だがそこで妖夢の声が止まる。チルノは、その言葉の先に続くものを聞きたくて
「・・・必要な、もの?」
無意識のうちに、願望が言葉になっていた。
妖夢はそれを聞いて、微笑みながら答える。
「さっきも言いましたよ。『信念』です。もっと詳しく言えば、『何故最強になりたいのか』、『何故強くなりたいのか』です」
「『信念』なき力は暴力。それはただ破滅だけをもたらす、邪悪な力。そんなもの、すぐに淘汰される。誰にも認められない」
でも、と一度区切る。
「『信念』を果たすために得た力は、本当にその人の『力』になる。そして、その『力』こそが、『本当の最強』になるために必要なのではないか。私は、そう思うんです」
「・・・あたいは、『信念』なんて、判らないよ。バカだもん」
チルノが呟く。いつもからは想像もつかない、弱々しい呟き。
だから、妖夢はあえて逆に、少し強めに言う。
「言ったでしょう。『なんで強くなりたいのか』それこそが『信念』だ、と」
妖夢が全てを言い終わると同時、沈黙が周囲を包む。
大妖精もリグルも言葉を発さない。妖夢は目を瞑って黙っている。
そしてチルノは。
「・・・やっぱり、よく判んない」
そう言って、しかし、しっかりよその場にゆっくり立ち上がる。
「いくら考えても、なんでなのか判らないし、思いつきもしない」
「でも」
しっかりとその場に立ち、力強い目で妖夢を見据えて、言う。
「あたいは、強くなりたい。『信念』を、理解するために」
その言葉を聞いて、妖夢は目を瞑ったまま小さく笑う。
「・・・十分。今のあなたなら、きっと見つけられますよ」
それだけ言って、妖夢はくるりとチルノらに背中を向ける。
そのまま、何も言わずに立ち去ろうとする。
ただ、それは癪なので、チルノは。
「――いつか、あたいだけの『信念』が見つかったら、必ずあんたを倒す!」
大声で、妖夢に届くように叫んだ。
妖夢は特に反応しなかったけれども、確実に声が届いているということは、何故か判った。
「行っちゃったね」
妖夢が完全に立ち去ってから、大妖精が呟く。
「ま、そりゃそうでしょ。妖夢だって忙しいだろうし。――でチルノ。これからどうするの?」
リグルがそうチルノに尋ねる。
チルノは少しだけ考えるそぶりを見せて、しかしはっきり返す。
「とりあえず、『信念』探しながら強くなるかな。さーて、『信念』見つけるまでは『最強』はおあずけかなー!」
そのまま、うおー!とか叫びながら腕を振り回しつつ走り去っていくチルノを見て、大妖精とリグルはため息を零す。
「ま、そう簡単に大きく変わりはしないっか」
でも。
「今のチルノちゃんなら、きっと、『最強』になれるような気がするよ」
「奇遇だね、私もだよ」
意見が一致したので、二人は噴き出して笑った。
どうも書くのに時間がかかるなー、と、もやしです。
やっぱその場で思いついたのを書いていくと時間かかりますね。
今回のなんて書き始めたの午後10時ですよ、9日の。約3時間かかってる。
それでこのクオリティ。泣けるぜ。
今回は9/9チルノの日記念にチルノで書いてます。
でも冒頭は大ちゃん、後半は妖夢に全て持ってかれているような。
てか妖夢主体で話かけないのに何故こんな感じには活躍させられるのか。
教えてえr<ゲフンゲフン>偉い人!
ともかく、お読みくださってありがとうございました。
次回も気長にお待ちくださいませ。