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キックボードで、GO

作者: WAIai
掲載日:2026/10/23

初冬の寒さが厳しくなる頃、中村明人は目を覚ました。

「…うーん、今、何時?」

置き時計を寄せると、8時をまわっていた。

「まずい!! 起きなきゃ!!」

急いで顔を洗い、ヒゲを剃る。

それから着替えて、髪を整えると、冷蔵庫を覗く。

1人暮らしの大学生なので、小型の冷蔵庫だった。

「え…っと、チーズにパン。これだけでいいや!!」

後で学食をたくさん食べようと決め、パンにチーズを乗せる。

それから飲むヨーグルトをとりながら、やや急ぎがちに朝食を終える。

「ご馳走様でした」

手を合わせると、洗い物をし、部屋に戻る。

テキストをリュックにつめると、スマホをポケットに入れ、外へ出る。

「よし、飛んでいくか」

キックボードを引き寄せると、不思議なことに、宙に浮いた。

明人はそのまま足で進めていくと、どんどんと上昇していく。

「うわあ、寒っ!!」

雲に到達すると、柔らかさの中に水蒸気を感じ、身震いする。

太陽の光は電池がきれたように暗く、灰色の影が伸びていた。

「もっと厚着してくればよかった」

キックボードを操りながら、後悔すると、スマホが鳴った。

相手は恋人の花山麗だった。

動くのを止め、スマホを取り出すが、宙に浮いているのはそのままだった。

「もしもし?」

スマホに出ると、麗が言ってくる。

「ちょっと!! 早くしないと講義が始まるよ!!」

「うん、分かっている。だから今、魔法のキックボードに乗って空を飛び中」

「え…!! 大丈夫なの、見られても?」

魔法のキックボードを使えるのを知っているのは、麗とごく少数の人だった。

人間は何かないかぎり、空を見上げないので、ばれる心配はなかった。

ー空を見上げるとすれば、子どもか疲れた人だよな。

今は霧が出た朝みたいに風が冷たく、皆、俯きかぢだった。

「大丈夫。講義には間に合わせるから」

「本当? あたし、席をとって待ってるね」

「ありがとう、チュ」

スマホにキスすると、通じたらしく、麗が

「もう、馬鹿!!」

と言ってきた。

多分、顔が赤くなっているはずだと、ニヤニヤしながら、スマホをしまうと、キックボードを操る。

ーほうきじゃ古いから、今はキックボードだよな。

明人は現代の魔法使いで、他にも魔法が使えないことはないが、なるべく普通の人間として暮らしたかった。

だから急用じゃないかぎり、キックボードを使ったりすることはなかった。

「あ、見えてきた」

大学の門が見えてきて、明人はスピードをおとすと、宙から下へ向かっていく。

地面に到着すると、両足を地面につける。

「…ふう。ギリギリ間に合った!!」

よっしゃと手を上げると、キックボードを駐輪場に預けておく。

明人じゃないと魔法が効かないようになっているし、動かす自体できないようにしてあるので、手放しても安心だった。

「さて、中に入るか」

明人は急いで中に入ると、空調が効いていて、暖かった。

時計を気にすれば、あと10分である。

ー日本人は何で時間にうるさいんだろう?

不思議に思いつつも、麗が待っているので、部屋へ向かう。

明人が姿を現すと、皆、もう席についており、楽しそうに話したり、1人で何か書いていたりと、自由に過ごしていた。

「こっち、こっち!! 明人!!」

麗の声に、明人は安堵し、そちらへ向かう。

「ごめん。遅れて」

「いいよ。間に合ったんだから。誰かに会わなかった?」

「会っていないから、大丈夫」

リュックからテキストとノート、ペンケースを取り出すと、麗が心配そうに聞いてくる。

「朝食は?」

「食べた。チーズとパンのみ」

「もう!! それじゃあ、お腹がすくじゃないの!! ちょっと待って」

麗はバッグをあさると、微笑んで渡してくる。

「幸せのクッキー。明人が何を考えているか、知りたくて」

「買えたの? 不定期で数量限定なのに?」

「ふふ。あたしに不可能はないのよ」

麗は笑ってラッピングを取ろうとするが、明人が止める。

「今は駄目だ。クッキーを食べると、思ったこととが、分かるんだろう?」

「3分くらいいいじゃない。誰も気にしていないし」

「駄目なものは駄目。店長さんに迷惑をかけたくないし」

「もう、明人ったら、心配症なんだから。…しょうがない。じゃあ、これ」

次に麗が差し出してきたのは、ロールパンだった。

刻んだ卵が挟んであり、明人は喉を鳴らす。

「1個いる? …というか、1個、食べると、どんな人でもお腹いっぱいになるんだけどね」

実は麗も魔法が使えて、主に料理に関するものだった。

それも味は絶品で、明人は早速、手を差し出す。

「1個、ちょうだい」

「はい、どうぞ」

ラップを剥がし、パンを口に運ぶと、大きく一口、噛む。

生地はもちもちしており、中の卵がいい甘味と塩味をしていて、噛むごとにお腹にたまっていく。

「ありがとう、ご馳走様。げふ」

明人が礼を言うと、麗は嬉しそうに聞いてくる。

「どう? 味は?」

「麗の腕にかなうパンなんかないよ。世界中、宇宙中、探してもないよ」

そう言うと、明人はすかさず麗の頬にキスする。

つるりとしたすべらかな肌を感じ、明人と麗はにっこりと笑う。

「あ、教授が来た」

麗がバッグをしまっている傍らで、明人は膨れた腹を擦りつつ、教授を見る。

眼鏡をかけた教授の歳は、50くらい。

この教授の講義だけは、明人は楽しみにしているのだった。

「楽しみ!! 早く始まらないかな?」

教授によって、時間が速すぎるとか、遅ずきるとか、差があり、しかも内容を覚えているか、いないかも関係していた。

「教授の話、面白いもんね」

麗もにこりと笑うと、シャーペンを手に持つ。

「後でまたゆっくり話そうな?」

「うん」

2人は密かに手を繋ぐと、教授がマイクを持って話し始める。

皆、しんと口を閉じ、真剣に聞き始めたのだった。

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