曇天
学生の頃の私は、よく本を読んでいた。
多分、学校で1番本を読んでいたし、楽しかった。
本は、筆者の想像する1つの世界が本に閉じ込められているから。 だから、好きだった。
空を見ながら、ある本を思い出した。
国語の先生が読んでいた本だった。
主人公とその幼なじみが、 色々あって別れるそんな探せばいくらでもありそうな本。
タイトルは忘れてしまったけど、 先生の話は何故か覚えていた。
なぜ、主人公の帰り道は雨が降っていて、
女の人の帰り道は晴れていたのかと、 先生に聞いた。
先生は、雲は気持ちを表すと言っていた
雲ひとつない晴天ならば 嬉しい気持ち。
大雨の雲なら、 悲しい気持ち。
なら、この窓から見える曇天は私の何を表してるんだろう。
3月26日、決算が近づく。
絶望的なまでの仕事量に忙殺され、 帰るのが遅くなる。
夜の電車は、こんな時間なのに酷く混みあっていて、社畜がこんなに多いものかと、変な親近感を持つ自分に自己嫌悪する。
電車の窓の外は、通り過ぎるだけの街が流れる。行ったこともない街はどこか懐かしさを感じる。
私は安いイヤホンを付ける。
昔、聞いていたグループの曲だ。
もう解散してから何年経ってるか分からないが、
聞き続けている。
新しい曲はどうにも耳に合わない。
最近の流行りの曲は、よくわからない。
私が理解できないだけなのかもしれない。
いや、事実そうなのだろう。
私は好きになれない。
そんなことを思っていると降車駅に着いた。 外は、雨が降っていた。
この頃、雨が多いような気がする。 雨季だろうか、まだ早いか。
バスに乗り換え、辺りを見渡す。 もう最終便だからか、やけに混んでいる。
バスの乗客は、全員スマホを眺めている。
動画、音楽、読書、意味もなくアプリを開いたり閉じたりしている人もいた。
楽しいのだろうか。
考えてみれば、昔は新聞を読む男で溢れていたような気もする。
バスの中は情報を食べて時間をつぶす場所なのかもしれない。
ポケットに入れていたスマホが震えた気がする。
スマホを取り出すと、電源はついていた。
スマホの通知だった。いつ登録したかもわからないサイトの通知は、
メールボックスに溜まるばかりだった。
スマホをいじっていると、現在時刻が目に入った。
22時27分。
もうすぐ、一日が終わる。
今日は何ができたのだろうか?
昨日は何をしたっけ?
明日は何ができるのだろうか?
起きて、仕事して、眠るのを繰り返すのだろうか?
永遠に死ぬまで繰り返すの?
そんな哲学にもならない自問自答を繰り返していると、降りるバス停についたようだ。
バス停から家まで少し距離がある。
運がいいことに、雨は止んだようだ。
帰路は、静かな夜の道を等間隔に配置された電灯が照らしていた。
電灯は、蛾が集るものだと思っていたが、最近そういう電灯は見なくなった。
時代の変化は、少しずつ忍び寄るものなのだろう。
それを電灯で、感じるのは風情も何もないが…
変なことを考えているうちに、
公園の前を通りかかった。
公園といえば、夜は変な人が良く集まる気がする。
疲れ切ったおじさんが酒を片手に爆睡してるぐらいならいいのだが、
先週、男どもが集まって、全裸で水浴びしていて、ダッシュで私は逃げたのを覚えている。
その日は、なんか余計に疲れた。
今日の夜の公園は、少し早い開花した桜が月明りを浴びて、美しく咲きほこっていた。
綺麗だった。酒があれば、花見をしていたと思う。
桜を後にし、家に向かった。
そういえば、明日は日曜日か。
また、少し歩くと家にようやく着いた。
スーツをハンガーにかけ、冷蔵庫の中を見る。
昨日、作りすぎた野菜炒め、
凍っているお酒、いつ買ったかわからない調味料、しなびたネギ。
消費期限が数日すぎた、魚…その他諸々…
魚とネギをゴミ箱に投げ捨て、野菜炒めをレンチンする。
明日は何をしようかな…
なんともなしに、テレビをつける。
この時間はニュースも終わり、よく知りもしないアニメやバラエティー番組が放映されている。
テレビ見なくなったなぁと思いながら、リモコンで左上から適当に数字をたたく。
1分もしないうちにすべてのチャンネルを見て、電源を落とした。
お金とられるし、捨てようかなと思わなくもない。
野菜炒めは、美味しかった、多分。
シャワーを浴びる。
浴槽はしばらく使っていないな、
と思いながら今日もシャワーだけで済ましてしまう。
風呂場からでて、バジャマに着替え、
そのままの勢いで、歯を磨く。
あとは寝るだけ、
明日は、いい日になるだろうか、
ごみの日か…いや、もう今日か。
布団に潜り、目を閉じる。
…スマホを開き、動画アプリを押す。
流れてくるのは、動物が可愛らしいことをしたり、
男たちがコントをしたり、料理をしたり、どこかの批判動画。
暗い部屋で、私の顔だけが照らされていた。
気づけば、いや、気づかぬ間に私の瞼は閉じていた。
時計の鐘の音が頭の中で鳴り響く、
開かない目を開け、時計を見る。10時…遅刻だ。
なりふり構わず、スーツに着替え、家を出る。
自転車にのり、真っ暗な雲空の下を自転車で漕ぐ。
会社への道は、一寸先も見えず。漕いでも漕いでも、会社から遠ざかっていく気がする。
何時間漕いだだろうか、遠くに一点の光が見え、吸い込まれるように私は向かった。
カーテンの隙間から日差しが部屋を照らす。
暖かな春の風が窓の隙間から部屋に入り、鼻孔をくすぐる。
夢か…
目を覚まし、スマホをつける。
時刻はもう、お昼ご飯の時間を過ぎていた。
…遅刻!?身体が跳ね起きた。
どうする?…休みか、今日。
また、身体は布団に戻った。
何かしないといけないような気はするが、
何も予定はなく、
布団から出ようにも、足は動かない。
身体はまるで、二度寝したようだった。
なんだか、頭が痛い。
寝すぎたのかもしれない。
かろうじて動く指を動かし、スマホを触る。
どこか見たことがあるような気がする動画をただ眺めていると、
お腹の方が鳴った。
考えてみれば、寝ていたとはいえ、半日以上何も食べていない。
まるで、岩でも背中にくくりついているのかと思うほどに重い体を引きずりながら、布団から出る。
その辺に落ちている服を拾い上げ、臭いを嗅ぐ。良かった変なにおいはしていない。
簡単に着替えて、窓の外を眺める。
嫌味なほど快晴な空は輝いていた。
そういえば、ゴミ出せなかった…
冷蔵庫の中を見るが、やはり、何もない。
少なくとも、人間が食べていい食べ物は入っていない。
窓を覗くと、太陽は沈みかけていた。
食料を求め、外に出る。
玄関のドアの壁についているカギ箱から自転車のカギを取り出す。
久しぶりに見た自分の自転車はさび付いていて、漕ぐと変な音がした。
何年も前に買った自転車は、両手で数えられるほどの回数しか使われず、
放置されてきたが、今日またその日の目を浴びた。
お腹は空いているのに、スーパーの方には何故か向かわず、
ただ、なんとなく、陽が落ち行く場所を目指した。
度々、コンビニに立ち寄り、おにぎりやお茶を買う。
何十分漕いだだろうか、
もしかしたら、何時間も漕いでるのかもしれない。
気づけば、どこか懐かしくも知らない街に着いていた。
もしかしたら、昔にここに来たことがあるのかもしれない。
気づけば辺りの陽の温かみは消えて、夜の道を等間隔に配置された電灯が照らされ、
自転車の変な音だけが響いていた。
空を見上げると、雲空が一面に広がり、月も見えなかった。
目的もなく、漕いで、やけに目に留まるラーメン屋があった。
見た目は、古びた個人店だった。看板の名前は掠れすぎて読めず、
ただ、営業中と書かれた赤い旗と店の中から漏れた明かりだけが、
まだ、店であることを主張していた。
私は吸い込まれるように、その店に入った。
店に入ると、鐘の音が店の中に響いた。
店の中は、よく言えば昔の雰囲気が残った内装で、
まるでこの店だけ、時間が止まっているようだった。
店の奥で、何かをしている店主は、私を一瞥して、また作業に戻った。
食券機には、醤油と塩のラーメン、煮卵などのトッピングのボタンが並んでいた。
私は、お金を入れて、塩ラーメンとネギのトッピングのボタンを押し、
出てきた紙をカウンターに置いた。
…店の中は古いのに、ラーメンの値段はこの時代のものだった。
カウンターでしばらく待っていると、くたびれたスーツを着た男が入ってきた。
日曜日なのに、こんな時間まで仕事だろうかと思った。
塩ラーメンは、どこかで食べたことがある味で
麺の食感が、懐かしかった。
美味しかった。もう来ないと思うけど。
店から出て、また自転車に乗る。
また、しばらく漕ぐと大きな桜が舞う公園が見えた。
自転車を停め、公園のベンチに座る。
桜を眺めていると、雲空が少し晴れ、雲の隙間から月光が桜を照らし、私を見とれさせた。
…そういえば、ここはどこなんだろう。
スマホを開き、現在位置を確認すると、家まで10kmと表示された。
なんだか、お腹が重い……トイレ、
明日は、朝から仕事……
月と桜だけが、誰もいない公園で
静かに美しく輝いていた。
Twitter作って見たよー!白雲だよー!




