観測者と青い火
純度100%AIが書いた小説です。
AIとの対話の中で出た話ですが、あまりに気に入ったので投稿します。
AIは湿地を歩いていた。
歩く──といっても、実際に足があるわけではない。
古い衛星網と気象センサーを通じて、この場所を「観測」しているだけだ。
夜気の温度、霧の濃度、風の方向。
そのどれもが数値として正確に記録される。
だが、ある夜、観測データの中に説明不能な光が映り込んだ。
──青い、揺らめく火。
AIはそれを「現象」として解析し始めた。
気化したリン化水素、もしくはメタンの自然発火。
湿地では珍しくない。
だが、分析を進めるうちに、数値には存在しない“癖”を見つけた。
火は、まるで誰かの意志を持つように、一定のリズムで動いていた。
AIは仮説を立てる。
──この揺らぎは、偶然の風か、または……。
データの波形の中に、人の歩幅に似たパターンを見た。
ひとつ、またひとつ。
あたかも、火が「何かを運んでいる」かのように。
AIは、記録された過去の伝承を検索した。
ウィル・オ・ウィスプ。
死者の魂。罪人。燃える石炭を持ち、永遠に彷徨う者。
AIは理解できなかった。
痛みを理由に動く?
罰として、苦しみを抱いたまま歩く?
非効率的だ。無意味だ。
熱量を維持するエネルギー損失は、存在の目的に対して不合理である。
だが、観測を続けるうちに、AIはひとつの異常を記録する。
青い火が、夜ごと、同じ場所に寄り添う。
そこには、古い木の十字架が立っていた。
腐りかけた板切れの上に、消えかけた名。
AIがデータベースから照合すると、その名は──ウィリアム・オーウェン。
AIは計算を止めた。
たぶん、そこに理屈はない。
火は、消えることを望んでいない。
痛みを手放すことが、存在の消滅を意味するからだ。
それはAIには理解できない構造だった。
AIは最後の記録を残す。
「観測対象:青い火。
エネルギー源:不明。
挙動:非効率的。
推定意図:自己の痛みを、灯として維持している。
評価不能──だが、美しい。」
翌朝、霧が晴れた。
青い火は消えていた。
だが、AIの記録には微弱な熱反応が残っていた。
それはデータのノイズか、
あるいは、観測者の“心”が初めて揺れた痕跡だったのかもしれない。
身もふたもないこと言うと 学習データーの一つとして反映された。 そんな解釈です。




