可愛い恋人
ガチャリ。
カバンから取り出した鍵で扉を開ける。
時刻は20時40分。19時半には帰る予定だったが撮影が少し長引いてしまった。
同棲している恋人には遅くなる旨を連絡している。
「ただいまー」
リビングにはまだ明かりがついており、TVの音が聞こえている。
夜ご飯一緒に食べられたらいいな。
なんて思いながら靴を脱いでいると、
ガチャ。扉の開いた音がする。
ドサッ。
「・・・・・すき」
彼が後ろから俺を抱きしめながら言った。背中に温もりを感じる。
俺は靴を脱ぎ終えて彼の方に向き直った。
彼は頬を赤ながら視線をやや下の方に向けている。
「ふふ、俺も好きだよ」
「いつもは言ってくれないのにどうしたの?
かわいいね」
「うるさい、言いたくなったの」
「そっかー、毎日言ってくれてもいいんだよ?」
「気が向いたら言う」
「・・・・でも、ちゃんと好きだから。
あなたのこと」
彼は少し不安そうな目で俺を見ている。普段はそっけなくて、俺が好きだよと言うと、「知ってる」と目を背けてしまうのに。そんなところも可愛いと思っていただけれど。これは・・・
「・・・・なに、どうしたのほんとに。
かわいいね、可愛すぎる。
俺をどうにかしたいの?
俺も好きだよ、大好き。可愛い。大好き」
俺は強く彼を抱きしめる。彼は居心地が悪そうにモゾモゾしながらなんとか逃れようとしているが、そんなこと離してあげられない。
「わかったから、もういい」
痺れを切らした彼は少し強めに押して俺から離れた。
「んふふ、照れているのも可愛いね」
「よし、ご飯食べよう!今日も幸せだね〜」
俺が立ち上がると、彼も立ち上がった。
「今日はオムライス作った。朝食べたいって言ってたから」
「作ってくれてありがとう。オムライス嬉しい」
「まず手を洗ってきちゃうね。
ちょっと待ってて」
「わかった。準備しとく」
「あ、そうだ」
リビングに向かいかけた彼を引き留め、
腕を引っ張って彼の唇にキスをする。
「ただいま」
「!!!?」
「なんで・・・」
彼はさっきまでの不安そうな目ではなく、
驚きと嬉しさが混じった目している。彼の特徴の大きな目はいつもより見開かれている。
「帰ってきて早々に可愛い姿を
見せてくれたお礼」
「大丈夫、蓮が思っているよりずっと好きだよ。不安になったらすぐに言っていいんだからね。今みたいに。重いなんて思わないから」
俺は自分の言葉に、彼の不安が取り除けたらと、自分がちゃんと愛されていることを自覚できるようにと、想いを込めた。
「・・・・ありがとう」
「夜ご飯の準備してくる」
そう言って、蓮はパタパタと少し急ぐようにリビングに駆けていった。
そんな彼のふわふわの髪の隙間から見える耳はりんごのように真っ赤に染まっていた。