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 乙女ゲーム、しかも悪役令嬢転生、まさか自分が。こんな事ってあるんですね、私の過去については割愛します。なかなか平凡……テンプレって感じなので。それより今です、私は今この人生をアレーリア・メイザリオとしてしっかり生きているんですから!


 私が前世やこの世界を思い出したのは7歳の頃でした。両親は高位貴族としてスタンダードな子供に興味のない、人を駒としかみないクソ……あらいやだ失礼、少し言葉が過ぎました。

 とりあえず周囲の使える駒としての教育、使えなかったらどうなるか、なんて圧力で私も兄さまもボロボロでした。

 私はまだいいですよ、なんせ年の功ってもんがあります、メンタルが違うんで! だからまあせっせとケアしましたとも、大切な兄ですもん。将来的に目の敵にされたくないなぁって下心もありましたけど、こんな! 美少年が! 傷付いてて世話をやかない人間がいますか? むりむり、無理です!


 てな訳で我が兄クロード・メイザリオと共に私は頑張って生きてきました。このゲーム、悲惨な目にあうキャラが多すぎるんで! 淋しさを拗らせた我が兄、とある行き違いからコンプレックスをかかえる王子さま、誘拐されたトラウマから前を向けない男の子、解決、してやりましたとも!

 これがただの令嬢なら無理だったでしょう。でもアレーリアなら可能なんです、なんたって悪役、そしてバトルありの乙女ゲームの中ボスですよ? ラスボスはそう、魔王なので人間としてはチートと言えるでしょう。チート令嬢が子供の頃から油断せず、驕らず、礼儀作法も完璧に!

 血の滲む努力でしたね……でも大切な祖国が魔王にボロボロにされるなんて嫌ですから。ヒロインだと選んだルートの人しか救えません。いえ、ヒロインが先に救ってくれるなら、なんて思ったことも、あったんです。



「はい、私がコーラルですが」

 家庭環境、厳しい教育、将来への不安。幼い頃の私が、心が挫けてヒロインの育つ村へと家出をして。ふわふわとやわらかいピンク色の髪……しか、分かりませんでした。

 戸口に立ってぽかんとあいた口は見えます。でも顔は濡れた布に覆われ見えません。薬草のにおいがぷんと鼻につきます。

 まだ、私と同じなので10歳の、そんな少女が、フェイスパック?

「あ……その、道に、迷って」

「それは……えっと、そうなんですか?」

 彼女、ヒロイン、コーラルはきょろきょろと周りを困ったように見ています。そりゃそうです、確かにこの村はさびれてぽつぽつとしか家はなく、人も少ないとはいえいきなり家に押しかけてこんな言い訳しか捻り出せない私も悪いのですが。

「顔……それは」

「ああ、これですか? 保湿です。肌にいいんですよ」

 そう言って布を剥がすと、ちょっと赤らんでいますが可愛らしい女の子、ヒロインの幼い顔が現れて。それが限界でした。


 彼女は転生者です。ほがらかで細かい事を気にしない、そんなヒロインコーラルが、10歳でフェイスパック。あり得ない、そんなキャラクターじゃない。

 私が必死に勉強し、兄を守ろうと、王子さまやみんな、守ろうと、人が死んでしまう未来を変えようと、それなのに彼女は!

 泣きながら家に帰って待っていたのは、さぼってはいけませんよなんて雑に言う家庭教師と、呑気にお帰りなさいませとおでかけだったと信じている侍女と。兄は私を抱きしめてくれましたが、それだけです。私が、私がやらないと。私が全部守らないといけません。仲間が欲しいなんて言わない。心がしっかりと定まったのはその日からでした。



 令嬢としての地位を確立し、人脈を作り、攻略対象の皆さまとの仲も深めて私がじきじきに訓練をしてさしあげました。これで魔王に負けるわけがありません。

「例の彼女、本当にアリィの予知した通りの事を言ったよ、一言一句そのまま。……呆れるな」

「レイ、仕方ないわ。彼女は恋愛がしたくて堪らないのよ、付き合っていられない」

 学園に聖女として入学したヒロイン、コーラルはゲームをなぞるばかり。図書館にかなりの頻度で現れるからカトルさま狙いかと思えば私のレイにまで声をかけるなんて、逆ハー狙いなのかしら。

 現実の世界でそんな事が可能だと本気で思っているのでしょうか? 私は王子であり、婚約者であるレイモンドと勉強はもちろん公務や魔王対策に忙しいと言うのに……。

 授業態度は真面目ですし、訓練も受けますがとこか上の空。なんというか、真面目……だけど、必死ではない。聖女として認定され、男爵令嬢として養女になった彼女はなんとか、形にはなっています。でも身にはついていませんね。元平民だし、と擁護したくとも朗らかさ、憎めない性格なんてヒロインの魅力をまったく持っておられないんですもの。できの悪い人形劇のよう、なんて噂するご令嬢を今日もたしなめたばかりです。陰口なんて、せっかくの品位が落ちてしまいますからね。

 まあヒロインも驚いた事でしょう。私が頑張っていたらその……つい周囲のご友人も影響されてしまいまして。高位貴族のみならず、そこそこの爵位の方でも洗練されてしまったんですよね。浮いてしまうのも仕方のないことかもしれません。

 これで台詞を選ぶだけで、容姿だけで。それだけで、恋愛を簡単に楽しめるなんて不届きな考えを、改めていただけるとよろしいんですがね?



「メイザリオ様、お聞きしたい事があります」

 まさか、人は少ないと言えど廊下でこんな声かけをされるだなんて。ヒロイン、コーラルを擁護しておられた方々も、これには眉を顰めておられます。扇で口元を隠し、私は彼女に目線を向けました。

 今まで彼女とは極力関わらず、距離をとり、自己紹介すらした事がありません。低位の彼女から私に声をかけるなど、考えられない事です。

「すみません、今までお声がかけられなかったので。確認したいだけなんです」

 それでも彼女は言葉を続けます。なんて事。友人のルナリア様が私の前に立ち、彼女を睨みます。それを気にもせず、ヒロインはこてんと小首を傾げました。

「アレーリア・メイザリオ。貴女はこのゲームをやらないんですね?」

 頭が、真っ白になります。こんな場所で、なにを。

「アレーリア様を呼び捨てにするなど無礼者! いくら学園といえど限度があります!」

 周囲からの白い目、ルナリア様の激怒、それなのに彼女はへらへらと、そう、今までの人形のような顔をやめて笑い出したのです。

「よかったぁ、なんか肌に合わなくて困ってたんですよね! もうシナリオが壊れてるなら僕も合わせなくていいや、うん怒られない、よし! 一応ごめんね花梨ちゃん!」


 私を含め、呆然と彼女を見るばかりでした。ヒロインが笑うのをやめ、ふうっと深く息をつくと、世界が変わりました。

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