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カヘラズミチ

作者: ナカノシャン

夏のホラー2023

…って、これでエントリーできましたか?

カヘラズミチ


-月曜日-


某県の公立小学校に奇妙な噂が流れ出したのは長い梅雨も終わり、校庭に気の早い蝉が鳴き始めるという7月初旬の月曜日だった。

『カヘラズミチ』と言われる噂について4年2組の担任である川田が尋ねると、児童曰く『帰り道に突如現れて、そこに迷い込んだら帰れなくなる』というものであった。よくある『七不思議』の一環なのだろうが、夏休み前の児童たちは飛びついた。各クラスに少しずつ変化した異界道の噂が流れ、大小さまざまな探検隊、調査班が下校時に繰り出された。


-火曜日-


この日、欠席した児童11名がいい迷惑となった。11名は『カヘラズミチ』の題材とされた。川田のクラスには欠席がなかったが、朝の教室は騒がしいことこの上なかった。「4組のBくんは『カヘラズミチ』に迷い込んだのだ」といった体で無責任な話で盛り上がっていた。

…が、ここで気になる話を6年生の学年主任が耳にした。職員室に戻ってきた学年主任の原教諭は、ソワソワした様子で言う。

「どうも『モリ』に目をつけた子がいるみたいで…」

そばで聞いていた古参の教諭が蒼くなり、川田など新任の教諭などは首を傾げた。

『モリ』とは学区内のいわゆる神域である。山手の住宅街の先にある森林であり、神社いわゆる禁足地である。

「それってまずくないですか?」

と、教諭たちに危険な気配が走った、『モリ』が危険であることはこの街に住む者は知っている。数年前、住宅地造成の際も祟り話が発生したいわくつきの土地である。かつては里山の先にあった『モリ』が土地開発の波に乗って人目につき始めた。いまでは注連縄ひとつがかかっているだけである。神域だの禁足地と言っても児童たちにはわからない。これを噂に交えた者がいる。これは上手な説明が必要だった。『触らぬ神に祟りなし』なのだが『神』や『祟り』は児童たちには早すぎたし下手な説明で児童たちはますます盛り上がった。『『モリ』って知ってる?』

問題が発生したのは児童たちが下校したのちに発生した。

一本の電話が宿直の教諭に入ったため全教職員が呼び出された。

内容は『5年1組のAくんが昨夜から帰っていない』


-水曜日-


『息子が一昨日の晩から帰らないんです。』

5年1組のAくんが学校から帰宅していない。顔面蒼白のAくんの母親が言う。友人宅にもいない。もちろん祖父母、親戚宅にもいない。駅前の学習塾からの連絡で異常が発覚した。

『Aさんが来ておられないため、気になりましてご連絡いたしました。送迎の者もAさんがいないと気にしておったもので…』

とは学習塾受付のヤマダさんから聞いた話である。その日、Aくんは塾に姿を見せず、クラスメイトも見ていなかった。問題の『カヘラズミチ』探索に出ていたのかと児童に聞くと、これが曖昧で『いたような、いなかったような…』 といった具合である。ひとりでいる姿を見たと女子児童が2名いたが、目撃場所はそれぞれ別で疑わしいものだった。

午後、小学校に警察がやってきた。児童の動揺を考慮して警察官と悟られぬようにした私服の刑事が業者を装って会議室に集まった。

だが警察の見解は事件性は認められず、Aくんをただの家出人と捉えて捜索願の受理を渋った。ここで高度に低次元の目配せが学校警察間でなされ、まずは様子を見る。学校、自宅、駅前周辺の巡回を強化することで落ち着いた。

会議の終盤、原教諭の話した『カヘラズミチ』の話題と現状の関連については一笑に付されることになった。


-木曜日-


どこで聞いたのかマスコミが事件を嗅ぎつけた。慌てた学校側が報道を抑えようとしたが、報道陣が校門にカメラの砲列を据え、Aくん宅周辺にも報道記者の姿が見られた。

昨日まで捜査を渋った警察も一転、事件事故の両面から捜査を本格化させた。県警も乗り込み、300名の捜査員を投入した。付近の聞き込みの結果、Aくんの姿が駅前コンビニの防犯カメラに映っていたことから捜査範囲は学校、自宅、駅前に集中した。


-金曜日-


Tシャツにジーンズ姿の老人がやってきたのは、ホームルームが終わって1時限目に入ろうとした時間である。報道の者も気に留めなかった人物だったが、彼が『モリ』を管理している神社の神職だと知り、職員は顔を見合わせた。

この日も警察、地元の有志の捜索を続けたが進展は見られない。

老人は言う。

『『モリ』に迷い込んだかもしれん。ワシと母親と先生方から数名。陽の落ちる前に神社に入りましょう。身なりを整え、酒を多くと握り飯を用意するように…』


-金曜日夕刻-


『モリ』には古びた注連縄がかかっているだけで、別段なにかがあるわけではない。そこでTシャツ姿のままではあるが、老人が祝詞らしきものを発したため半信半疑であった教諭たちは畏まった。

どうやら自身の紹介と聞き取れなかったが出雲のナニナニ守と懇意であり、〇〇社とは近しい関係であるから問題あるまい。どうか『モリ』に立ち寄らせてはくれまいか?と言っているようである。すると場の雰囲気が瞬時に変わったことを皆が感じた。

『あとについてきなさい。大声をあげぬこと。気配を感じても決して振り返らないこと』

と言い、酒を撒きながらモリの中に入っていく。確かにここは神域だった。さっきまで鳴いていた蝉の声が遠く、ゆっくりと聴こえている。視界の隅に気配を感じる。老人は右に左にと酒を撒きながら声を発し、後に続く母親と教員はナニモノカに覗かれている恐怖に震えていた。


どれくらい歩いたのだろう。

開けた場所に出たかと思うと、そこには呆然と佇んでいるAくんがいた。母親がかけ寄り思い切り抱きしめるとAくんは何事がぶつぶつと話していた。何を言ったのか分からなかったが老人だけが蒼白となり、礼を述べて『モリ』を後にした。


-月曜日-


校庭の楠に蝉の大合唱が流れる7月の1週間が始まった。この日、学校あてに『保護者説明会』についての問い合わせが入ったが、学校側から何かアナウンスしたことはなく、何かの間違いではないか?と片付けられた。問い合わせに曰く『Aくんの失踪について』とのことだがAくんなる児童は学内に在籍していなかった。

不思議な話は一年後に発生する。この5年生が卒業する時、どうしても生徒がひとり足りないということに気づくのだが、書類の不備として片付けられることとなった。


最後まで読んでくれて、どうもありがとう。

直木賞で会おうぜ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 助けた筈なのに存在が消されているという怪異に至るまでの流れ(+伏線)を淡々と記述しているなか、子供の興味の集団心理というのが上手く書かれていて、残った謎(どうして噂が始まったのかとか、開発…
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