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三話

 翌日から、リメリアはさっそく動き出した。決戦は七日後、時間はいくらあっても足りない。

 朝一番に、公爵領の腕の良い鋳物屋に泡立て器を発注した。勝負を見せつけるため、たくさんの招待状を出したし、彼らをゆうに収容できるだろう特設会場も手配済である。


「メリー、大学部の方でも配って来たぜ」

「ありがとう、ロルフ。持つべきものは便……親切な従兄ね!」

「おい、便利って言いかけたろ」


 リメリアとロルフは、校内のあちこちに勝負の日時を記したチラシを配って歩いていた。その道中、生徒達からは「リメリア様! 頑張ってくださいね!」と激励の言葉が幾度もかけられた。


「さすが、凄い人望だなリメリア嬢は」


 ロルフが口笛を吹く。


「ふふん、当然よ」


 リメリアは得意気に胸を張る。やはり、皆はステラ嬢など望んではいないのだ!


「ロルフこそ、お姫様たちが熱い視線を送っていてよ。手でも振って差し上げたら?」

「ばっ……別に、物珍しいだけだろ。大学部の制服だしな」


 うろたえるロルフに、リメリアはにやりとした。普段からかわれてばかりなので、弱った姿を見るのは気分が良い。


「悲しいわね。次期公爵が恋人の一人もいないうえ、従妹の使い走りなんて……」

「おい、手伝わねえぞ!?」


 やんややんやと騒ぎながら歩いていると、ふいに周囲が騒めき始めた。


「見て、アスラン殿下とステラ嬢よ」


 生徒達の注目の的の二人は、花の咲き乱れる庭園を横切っていく。ステラ嬢は、美人ではないが愛嬌のある丸顔に、満面の笑みを浮かべていた。


「あっ」


 何かに躓いたのか、ステラ嬢がよろけて殿下に抱きついた。


(無礼な女!)


 リメリアは憤怒した。

 しかし、殿下はステラ嬢を優しく受け止めた。そのときの表情たるや。蜂蜜をどろどろに煮詰めたように、甘い微笑みを浮かべていたのだ。



 

「何よ、あの女!」


 裏庭のあずまやで、リメリアは叫んだ。

 大声に驚いて、屋根にとまっていた鳥たちが、バサバサと飛び去って行く。


「まーまー、落ち着けよ」


 ロルフに窘められ、リメリアは「ぐぬぬ」と拳を握った。しかし腹立ちは治まらない。


「毎日、庭師が丹精している芝生なのよ? あんな風に転ぶはずないでしょ、わざとらしい!」

「まあ、男はわざとらしいくらいが好きだし」

「不潔よ!」 


 どか、と木の幹を殴りつけると、衝撃で毛虫が落ちてきた。


(そんな下らない理由で、好きになるなんてありえない)


 リメリアは思う。――犬猫を可愛いというのではあるまいし、愛とはもっと高潔な感情であるはずだ。

 ロルフは複雑な顔で、銀髪の上でくねる毛虫を避けてやった。


「なあ、メリー」

「何よ」

「なんでさ、そこまで殿下にこだわるんだ?」

「え?」

「この世に、良い男は殿下ひとりじゃないぜ。他の女を選んだ奴なんて、放っておけよ」


 従兄の言葉に、リメリアは目をパチクリさせる。


(あら。心配してくれてるの?)


 リメリアは気を良くし、「ほほほ」と高笑いした。


「何を言うの、ロルフ! 殿下って、とっても素敵じゃない。なんたって、王太子よ! 私は公爵令嬢なんだから、相手が公爵以下の爵位なんてゴメンなの」

「ほお」

「完璧な私につりあう夫じゃなきゃ嫌。もちろん美しい人でなきゃ駄目だし、一生を共にするなら気心の知れた方が……ちょっとロルフ、どこに行くのよ!」

「付き合ってらんね」

「何よ! 人の話は最後まで聞きなさいなっ」


 リメリアは拳を振り上げ、ロルフの背を追いかけた。


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