山の中で迷った話。
ん? ああ、お前出張行くのか?
車で山道通ってのとこ?
そっか。なら、気を付けろよ。
なにに、って? そうだなぁ・・・
前に出張したときさ、俺道に迷ったんだよ。
会社の車で出張して、山の中を通って、仕事が終わって、車を運転して帰ろうとした。
行きと同様、山の中を通ったんだけどさ――――
行きは明るかった道が、帰りは真っ暗なワケ。
街灯なんてなーんもなくてさ、マジで真っ暗。んで、めっちゃ静かなワケよ。
車のエンジン音と、道を走る音、エアコンの音くらいしかしなくてさ。
で、暗くて単調な道がずっと続く。
疲れてっと眠くなって来て、やべぇと思って、カーラジオをつけて眠気を覚まそうと思った。
そして、車を走らせてると、いつの間にか信号があるとこまで出てたんだ。
もうちょいで帰れる、ってそう思った。
けどさ・・・信号があって、歩道があって、真っ直ぐの道を曲がって、進んで――――
途中で、おかしいことに気が付いた。
なにが、って? そうだな。
道がさ、おんなじだったんだよ。ずっと進んで、信号があって、歩道があって、道を曲がって、進んでいるのに、同じ道にいる。
何度進んでも、同じ道に戻る。おかしいと思って、曲がる道を変えて別の方向へ向かっても、同じ信号の、同じ場所へ戻って来る。
単に道に迷ったワケじゃない。真っ暗な道で、延々と何時間も同じ場所に戻るんだ。
俺は段々パニックになってさ。路肩に車を止めて、『道に迷った、帰れない。どうすればいいんだ?』って、友達に連絡した。
すると、『山ん中で狸やら狐に化かされてんじゃね? がんばれ~』って、ふざけた返事。
けど、追い詰められた俺は、狸だか狐に化かされてんなら、眉唾だ。とか思って、眉に唾を付けてみたり、片手をひねった状態で両手の親指と小指をくっ付けて作る狐の小窓やら、うろ覚えの念仏を唱えてみたり、お守りを握り締めたりと、考え付いた大抵のことを試した。
で、また車を進めてみたけど、全然だめ。なにしても、同じ信号んとこに戻る。
もうこうなったら、ヤケだ! って、朝まで待つことにした。
まあ、ヤケんなったっつっても、怖いものは怖い。カーラジオをつけっぱで音量大きくしてさ、車ん中で夜明かししたワケ。
んで、うとうとしてるときにラジオの放送が終わって、ザーってノイズ音がしたときにはビビって飛び起きたぜ。んで、必死んなってまだ番組放送中のラジオ局探したわ。
明るい声を探してザッピングしながら、怖い思いをして朝まで車ん中で過ごして――――
ラジオにはめっちゃ助けられたぜ。ん? それでどうなったかって? 俺はここにいるだろ。
まあ、聞け。
実はな、延々と続いていた同じ道ってのが・・・山ん中にある自動車教習所で、俺は知らん間にそこに迷い込んで、ずっと教習所のコースをぐるぐる回ってたんだ。
あっ、おまっ、笑うなこのヤローっ!? 俺はあれ、めっちゃ怖かったんだってのっ!!
アホな笑い話? 時間を無駄にした?
そうかよ、んじゃあ、この後の本当のオチ話してやんね。せいぜい迷わねーよう気ぃ付けろよな!
あの、俺が迷い込んだ自動車教習所って――――何年も前に移転して、もうやってなかったんだよなぁ。
だから、電気が通ってなくて、信号がつくはずがない……らしい。夜中は赤青黄って変わっていたはずなのに、朝んなって気付いたら、信号はついてなかったし。
そもそも、普段は門が閉まっていて、車が入れるはずもない……って、ことになっているようだ。
なのに、偶に車が迷い込むことがあるらしい。
自動車教習所を出たあの後、通り掛かった地元のお巡りさんが笑いながら話してたんだよなぁ。
「大分難儀したようですね。ただ、あそこは夜中にぐるぐると迷うだけで、燃料代以外には特になにも害はないから大丈夫ですよ。多分」
って言ってたけどさ・・・
狐か狸か、それとも、別のナニかがあの自動車教習所跡にいるのかもしれない。
とりあえず、お巡りさんが言っていた、『害は無い』って言葉を信じたい。
多分って、付けられたのがマジ気になってるけど――――あれから、特に変わったことはない。
それに、
「ラジオ、つけててよかったですね」
って言われたのが、すっごく気になってる。
どういう意味なのかは、聞けなかった。
あの夜、ラジオをつけてなかったら・・・?
このまま、なにもなけりゃいいと思う。
読んでくださり、ありがとうございました。
おまけ。
そう言や、ばーちゃんが昔言ってたな。
祭りんとき、太鼓やなにやらで賑やかなお囃子を奏でるのは……神さまをお迎えするためというのもあるけど、悪いものが近くに寄って来ないようにするためでもあるって。
・・・ラジオありがとう!